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台風12号の報道と政治 - 被害を拡大させた「平成の大合併」
台風12号の大雨によって起きた土砂崩れで、紀伊半島各地に多くの被害が出た問題について、マスコミは、自治体の避難勧告・指示の遅れを批判する報道を集中させている。今日(9/6)の朝日の社説もそうで、十津川村の行政が万全でなかったと糾弾している。十津川村は、未だ全村が孤立状態で、村内多数の集落と通信できず、被害状況の全容把握もままならない窮状だと言うのに。昨夜(9/5)のNHKのニュースも同じだ。自治体の避難対応の不具合に焦点を当てた。テレ朝の報ステも、田辺市伏菟野の山崩れの現場を映しながら、市当局の対応の拙さを指摘する内容になっていた。が、そこには他のマスコミ報道とは少し違う切り口があった。土砂崩れで家を押し流され、4人家族のうち母親と妻の2人を失った42歳の男性がインタビューを受け、「行政から避難の指示や勧告は出ていましたか」と問われるのだが、その男性は、一呼吸置いて、「行政の指示があっても、こんな山に囲まれたところに避難する場所なんてないですよ」と答えた。この場面は非常に印象的で、そして象徴的だった。このニュースの発信には、おそらく、レポーターの山川豊の心優しい個性がある。山川豊は、最初は、型どおりの「自治体批判」の材料を質問で撮ろうとしたのだ。しかし、男性の意外な回答に問題の本質があると察し、「行政批判」とは逆の意味のメッセージになる報道に再構成したのである。
 

この男性の言葉に真実がある。私は、NHKの天気予報の常套句の、「近くの川が氾濫しそうになったら素早く避難して下さい」という話に、いつもわだかまりを感じていた。何か、きちんと避難施設が整備された、都会に住む人間の常識感覚だけを対象にした官僚的な言語のように響いていたからである。私は、自分が生まれ育った環境を想像しながら、上の男性の言葉に真相を実感する。この台風が列島を襲撃して被害が出る直前、災害で孤立する恐れのある集落が全国に1万9千か所あるという内閣府調査の報道があった。こういう土砂崩れ災害が起きる僻地の集落は、どこも限界集落に近い過疎地で、30年前に建てた鉄筋校舎の小学校が、次々と統合され廃校になっている地域なのだ。山に囲まれた谷あいの小さな集落には、テレビ報道が言うような立派な「避難場所」など行政は整備も提供もしてはいない。そんな予算の余裕はないのだ。田辺市の話を聞きながら、私は咄嗟に思ったものだ。これは単なる天災ではなく、「平成の大合併」がもたらした人災ではないかと。電話取材に応じた田辺市の防災対策室の担当者は、雨量を基準にした措置だと市の全域に避難指示を出さねばならず、土砂災害については一つ一つの危険箇所で前兆情報を確認できなかったと言っている。マスコミ報道は、これを言い訳として批判的な論調で伝えるが、私は田辺広域合併のHPを確認して、自分の直感と推測が正しいことを確信した。

田辺市は、2005年に周辺の4町村を合併し、和歌山県内どころか、何と近畿地方で最大の広さを誇る市になっていたのだ。田辺市の歴史は、太平洋に面した海辺の町が、次々と後背の東隣の村々を併呑し、遂に奈良県と境を接するまでに版図を拡大させた歴史である。資料を見ると、合併前の旧田辺市の面積は136km2で、龍神村、中辺路町、大塔村、本宮町を合併し、面積は7.5倍の1026km2へと巨大化した。世界遺産の熊野古道沿いの内陸であり、古代の中辺路の巡礼道である。抱える領土は7.5倍と膨張したが、人口は1.2倍しか増えていない。早い話が、山間の4町村の行政が潰されただけにすぎない。行政の合併も企業と同じで、リストラとコスト削減のためにやる。元の4町村の役場は市の支所となり、職員は大幅に減らされたことだろう。これが、田辺市の防災担当者の証言の裏にある事実だ。小さな谷の一つ一つを十分監視できなかった。このことは、同じ土砂崩れの被害に遭った三重県紀宝町が、7432人の住民に避難指示を出せていたのと対照的である。紀宝町は小さな町で、面積わずか79km2。1万1724人が暮らす過疎の町だが、独立した行政体があり、住民を守る責任を果たした。小回りが利いた。そういうことなのだ。田辺市は管轄エリアが広すぎ、防災行政が隅々まで行き届かなかったのに違いない。マスコミ報道は、こうした問題の核心を衝こうとせず、責任を末端に押しつける。小泉純一郎の「三位一体改革」の影響は免責して。

もう一つ、マスコミ報道は言わないが、おそらく、人工林の間伐の問題がある。今、山間地で高齢化が進んで林業が廃れ、間伐を怠っているために、全国の森林が荒廃している事実が言われている。スギやヒノキを植林した斜面で、間伐の手入れが行われてないため、木が間引かれず、林床が暗くなって下草や潅木が育たず、地中の根の張りが弱くなり、保水力が失われ、大雨で土砂崩れを起こす危険性が高まっている。今回の被害の映像でも、山が崩れた現場はスギを植林した斜面で、崩落して剥き出しになった地面の上に、いかにも保水力が弱そうなひょろ長いスギが密集していた。マスコミ報道は、例えば、徳島県(仙谷由人)が林業で村おこしに取り組んでいる様子を特集で紹介するときは、間伐が災害に強い山林を作るのだと力説し、土砂崩れや洪水を防ぐ効果を声を大にして言うくせに、台風の被害を伝えるときは、間伐の遅滞と森林の荒廃が山崩れの原因になっている可能性に言及しない。前者は、仙谷由人の指図で農水省の官僚がテレビ局に取材させたものだ。後者は、地方の公共事業予算を削りたい国交省が、それをマスコミに口止めしているのである。逆に、今回は、「段波」だの「深層崩壊」だのという、新しい専門用語を持ち出して説明し、この大雨災害の異常性や不可抗力性を印象づける報道工作をやっている。これは、リストラで村の職員を減らし、土木予算を削り、林業を潰したことに原因追及が向かわないようにする巧妙な演出だ。

本当に「想定外の大雨」だったのか。ゲリラ豪雨はここ数年の常態的な現象で、地球温暖化によって列島を襲来する台風が大型化し、凶暴化し、過去にない大雨を各地に降らせることは十分に予想されていたことだった。ここにも、原発と同じ責任回避の官僚の口上と細工があるように思われる。よしんば、それが「深層崩壊」であったとしても、それを防ぐ対策は、やはり100年を見据えた平素からの山の手入れにあるはずで、災害に強い土地を養う環境林と治山の事業を政府が進めることが解決方向だろう。昨日(9/5)午後、政府は非常災害対策本部の第2回会議を開いたが、その後の平野達男の発言はマスコミ報道に登場していないし、野田佳彦のぶら下がり会見は開かれていない。つまり、被害の情報収集はしているものの、犠牲者100人に迫るこの大災害で、政府の指導部が何もメッセージを発していない。水も電気も止まり、孤立した集落でラジオを聞いている人々がいる。心細い思いで、じっと情報に耳を傾けている。十津川村だけでも4千人いる。そういう人々に、勇気づける言葉を発するのが首相ではないのか。自衛隊が救助に行くから、もう少しの辛抱だと、そう伝えて励ますのが指導者ではないのか。あるいは、政府に代わってそれを言い、救助やメッセージを政府に督促するのがマスコミの仕事ではないのか。昨日、引き継ぎのセレモニーをテレビに撮らせた新閣僚たちは、紀伊半島で何が起きたのか、何も知らないかの如くであり、進行中の惨事と悲劇に全く関心がない様子だった。

昨夜(9/5)、望外の財務相を射止めた安住淳は、嬉々とした表情で報ステのスタジオに生出演した。そして、官僚にレクチャーされたとおりに増税の必要を言い、特別会計(国債整理基金)を掘削する意思のないことを明言した。国民負担の要請をプロパガンダした。その前に、生放送の出演機会の冒頭に、せめて一言、「台風の被害に遭われた皆様に心よりお見舞い申し上げます」と挨拶ができないのか。なぜ、その礼辞を忘れるのか。念願の厚労相の大魚を釣り上げた小宮山洋子は、さらに満面の笑みを隠さず、支持率が落ちる前にとばかり、タバコ料金値上げを打ち上げてマスコミに流させた。100人近くが洪水で犠牲となった激甚災害で、9千人が取り残されて救援を待っている最中に、嬉しそうに得意気にタバコ税増税の話を披露する。小宮山洋子の頭の中には台風被害の意識はなく、完全にオミットされている。和歌山選出の衆院議員である岸本周平(民主)は、自身のTwitterで、「台風12号の被害状況の確認をして、午後のフライトで上京します」と堂々と書いている。被災者が救助を待つ中で、国会議員が地元を離れて東京に戻る。県民を救援することよりも、もっと大事な任務が永田町にあるのか。和歌山県選出の参院議員である世耕弘成も、Twitterで何もメッセージを送っていない。誰に1票入れてもらったのだ。誰のために働く仕事なのだ。こんなことは、「政治改革」以前はあり得なかったが、劣化と共に堕落して、日本の政治家はこのようになった。タレントとなり、芸人となり、政治官僚となった。

十津川村の村長の更谷慈禧は、那智勝浦町の寺本真一と同じく、きっと不眠不休だろう。それなのに、朝日の社説(9/6)は、避難勧告・指示を出さなかったから被害が出たのだと十津川村の村長を責任追及する。果たして、野尻地区で住宅2棟が流されて、3名が死亡、9名が行方不明になった事故は、村長の避難勧告・指示の不作為の責任によるものだと言えるだろうか。そう決めつけられるだろうか。川のすぐ上流の対岸で大きな土砂崩れが発生し、川の流れが住宅寄りに変わり、一瞬で2棟が濁流に押し流されたわけだが、果たして、あの野尻地区の2世帯の家族はどこへ避難すればよかったのか。この社説を書いた朝日の幹部は、現場へ足を運び、自分の目で地形を確認してみればいい。十津川村は、田辺市とは違うが田辺市と同じような事情がある。地図を見ても分かるが、奈良県最南端の十津川村も面積が広い。672km2。日本国内で(北方領土を除いて)もっとも大きな村だ。人口はわずか4039人。つまり、小さな集落が山間に点在していることを意味する。広い村で、少ない職員が乏しい財政で防災事業をするのは、本当に大変なことだろう。大雨が降り始めて、土砂崩れの危険箇所の確認もままならない状態で、無事を祈るしかなかったのではないか。今日(9/6)、平野達男はヘリで現地を視察しているようだが、今後、被災地に防災のための予算は十分付くだろうかと案じる。昔は、国会議員が長靴で乗り込み、大臣に東京から付き添いで来た官僚を掴まえてねじ込み、来年度予算をビシッと確保する風景があった。それが復旧復興の公共工事となり、現地の土建屋に落ち、地域振興の潤いの一滴となっていた。

そういう檜舞台での大勝負と言うか、国の予算を引っ張る活躍ができるからこそ、議員は選挙区住民から「先生」と呼ばれた。


 
by thessalonike5 | 2011-09-06 23:30 | その他 | Trackback | Comments(0)
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