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【北陸発】

砂地 一瞬でアリ地獄に 落とし穴転落死 1週間 

出村さん夫婦が転落した穴を調べる捜査員。穴には多量の砂がなだれ込んだ=8月28日、石川県かほく市大崎海岸で

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専門家が危険性警鐘

乾くと震動に弱い/湿れば圧力増

 石川県かほく市大崎海岸で八月二十七日夜、ともに二十三歳の金沢市湖陽一の会社員出村裕樹さんと妻里沙さんが落とし穴に転落、死亡した事故から一週間がたった。誕生日を迎える裕樹さんを驚かそうと、里沙さんが友人らと掘った。取り返しのつかない悲劇となったいたずらは、過去にもある。専門家は、一気に崩れて抜け出せなくなる砂の怖さにあらためて警鐘を鳴らす。(小椋由紀子)

 「周囲がどんどん崩れ、体を引っ張り出そうとしても無理だった」。ほぼ全身が砂に埋まった夫婦の救助に当たった消防隊員は振り返る。

 穴は約二・四メートル四方、深さ約二・五メートルで、青のビニールシートをかぶせ、砂で覆っていた。二人は頭から穴に倒れ込み、シートにかぶせてあった大量の砂が降りかかる。

 消防隊員十数人が素手で穴を掘り返し、約一時間後に救出したものの、病院で死亡が確認された。死因は、砂で口と鼻がふさがれたことや胸部圧迫による窒息死だった。

 落とし穴遊びはお笑い番組でもおなじみだが、現実には危険が潜む。

 金沢労働基準監督署や県によると、土木工事で崩れやすい砂地を掘る際、安全な勾配や深さが決められている。担当者は「垂直に深い穴を掘るのは困難。砂浜は押しつけられて硬いが、掘り起こしていると震動で崩れやすく、あり地獄のようになる」と説明する。

 実際、悲惨な砂の事故は各地で発生している。大阪市の小学生が二〇〇八年、河川敷に掘った穴で死亡した事故でも、軟らかい土砂が一気に崩れた。長野県の工場で〇三年に起きた事故では、砂の保管所に落ちて身動きできなくなった作業員の上に砂が落ちて埋まり、窒息死した。

 宇都宮市で〇八年、男子中学生が砂場に体を埋める遊びの最中に死亡した原因も同級生がかけた砂で、気管をふさぎ窒息した。家裁裁判官は「遊びの危険性に対する認識不足」を指摘した。

 国土技術政策総合研究所海岸研究室の諏訪義雄室長(44)は「砂の斜面は一粒一粒が落ちるかぎりぎりの状態で留まっている。湿っていると、表面張力で崖のように切り立った状態にもなるが、乾くと少しの揺れでもバランスを崩し、どさっと落ちる」と危険性を指摘。砂に足を埋めると少しの深さでも動けなくなることがあり「砂は摩擦力が大きい。湿っていれば重さの分、大きな力で押しつけられる。埋まる面積が多いほど抜け出すのは難しくなる」と注意を促す。

 

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