きょうの社説 2011年9月6日

◎台風12号猛威 避難発令は空振り恐れずに
 紀伊半島を中心に多数の犠牲者を出した台風12号は、極めて遅いスピードで移動する 「のろのろ台風」の脅威をまざまざとみせつけた。このような特異な台風への備えは果たして十分だったのか。被害を拡大させた要因を検証するとともに、北陸でも死角がないか、土砂災害の危険箇所を中心に対策を徹底してほしい。

 台風12号は太平洋高気圧と日本海に張り出した高気圧に進路を阻まれ、小走りから自 転車程度の速さで四国、中国地方を北上した。このため、台風周辺の暖かく湿った空気が紀伊半島付近へ大量に流れ込み、同じ地域に長時間にわたって猛烈な雨を降らせた。

 紀伊半島は日本有数の多雨地帯で、これまでも豪雨に見舞われてきた。今回は避難勧告 や拘束力がさらに強い避難指示の発令で自治体の対応が分かれたが、避難発令をせず、土砂災害で犠牲者を出した自治体からは「住民の自主判断に頼ってしまった」「過去の経験が役に立たなかった」と判断の甘さを認める発言も出ている。

 経験則に頼れば思い込みが生じ、今回のような台風には適切に対処できない。自治体は 災害リスクをどこまで認識していたかを含め、避難の在り方、情報の伝え方などを徹底的に検証してほしい。

 突発的な大地震と違い、台風は発生から進路、速度などがあらかじめ把握できる。時間 的な余裕がある分だけ、住民を避難させるか否かの判断は極めて重要である。

 災害では「自助」が重視されているが、住民の多くは自治体の判断を避難の目安にして いるのが実情だろう。川が増水したり、氾濫した後の避難はかえって危険性が増す可能性がある。自治体は空振りを恐れず、早い段階で避難の発令を出してほしい。

 国土の多くが山間地、中山間地である日本は土砂災害の危険と隣り合わせにある。そう した地域は過疎、高齢化が進み、潜在的な災害リスクは一段と高まっている。

 北陸でも土砂災害警戒区域などを指定し、それなりの対策を進めているが、住民の構成 や避難路の状況なども考慮に入れ、地域ごとにきめ細かく避難対策を考えておく必要がある。

◎首相の外国人献金 与野党問わず徹底調査を
 野田佳彦首相の資金管理団体が在日韓国人から政治献金を受けていた問題は、新政権発 足の祝賀ムードに冷や水を浴びせた。これがもし民主党代表選前に発覚していたら、投票結果に影響を及ぼしていた可能性があるだけに、見過ごせない問題だ。野田首相の事務所は現在、専門家を入れて調査中としているが、早急に首相自身が調査結果を公表し、説明責任を果たす必要がある。

 違法な外国人献金は最近、前原誠司元外相、菅直人前首相と立て続けに起きている。過 去10年でみると、民主党の現職国会議員としては、野田首相で7人目となり、国民は繰り返される「政治とカネ」の問題にうんざりしているだろう。自民党の福田康夫元首相もかつて北朝鮮系企業から選挙区支部を通じて献金を受けていた例があり、民主党だけに限った話ではない。国民の多くは今回の問題発覚も「氷山の一角」と疑っているのではないか。この機会に与野党問わず外国人からの献金がなかったか、過去にさかのぼって徹底調査し、ウミを出し切ってほしい。

 藤村修官房長官は会見で、外国人献金問題について、「(政治資金規正法の)何らかの 法改正は必要だと思う」と述べた。献金が日本名で行われた場合、分かりにくいのは確かであり、効果的な予防策も必要だ。国籍のチェックを義務付ける、通名での献金を禁じる、などの措置を与野党で考えてみてはどうか。

 政治資金規正法は外国人と知って寄付を受けた場合、公民権停止などの対象となる。前 原元外相は今年3月、在日韓国人からの献金問題で外相を辞任した。菅前首相も同じ問題で、震災発生当日まで辞任必至と見られていた。

 野田首相の場合、在日韓国人2人から31万円余りの個人献金を受けていた。献金した 1人は、在日本大韓民国民団の支部役員という。地方参政権を求める政治活動を行っている外国人団体の役員からの献金だけに問題の根は深い。既に公訴時効が成立しているとはいえ、首相が外国の影響を受けていると疑われるようなことが、つゆほどもあってはならない。