きょうのコラム「時鐘」 2011年9月6日

 長い間、「天災は忘れたころにやってくる」という戒めを聞かされてきた。もうお蔵入りだろう

大震災と津波の教訓を忘れるはずもないのに、台風12号の災害である。北陸は大きな被害は免れたようだが、油断は禁物であろう。「天災は忘れたころに…」は寺田寅彦の言葉とされる。寅彦は夏目漱石の弟子で、漱石の小説『吾輩(わがはい)は猫である』に登場する若き物理学徒「寒月さん」のモデルとされる

小説の寒月さんは前歯が一つ欠けていた。シイタケのかさをかみ切ろうとして欠けた、と言う。「じじい臭いね」と周囲に笑われ、猫からもバカにされる。面目ない話だが、弱り切った歯ならシイタケを相手にしても欠けることは実際にある

手入れを怠れば、歯はもろくなる。柔らかいと侮(あなど)ると、シイタケも手ごわい。寒月さんの抜けた歯も、天災に対する戒めである。防災意識が高まっていたはずなのに、何が欠けていたのだろうか。北陸にとってもよそ事ではない

まだ台風は来るだろうし、残暑だというのに、もう雪の季節の豪雪被害が気に掛かる。いつまでも忘れようのない多事多難な年である。