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ツキノワグマ被害多発 若いクマ増加・登山ブームも背景

2010年7月21日15時1分

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写真広島県内の山中を歩くツキノワグマ=2008年8月撮影、米田一彦さん提供

 山菜採りなどで山に入った人がツキノワグマに襲われる被害が増えている。朝日新聞のまとめでは5、6月だけでツキノワグマがいない北海道、沖縄を除く全国で1人が死亡、22人がけがをした。攻撃性の高い若い熊が増えているとみられ、登山ブームで中高年の入山者が増えていることも背景にある。専門家は熊が冬眠する11月ごろまで注意するよう呼びかけている。

 福島県喜多方市の山林で5月30日午後、前日から山菜採りに出かけ、行方不明になっていた同市の男性(当時70)が、仰向けに倒れて死亡しているのが見つかった。遺体にはツメで引っかかれたような跡があり、県警は熊に襲われたとみている。県内での熊による死者は2003年以来7年ぶりという。

 このほか5月30日には秋田県の山林で男性(同56)が山菜採り中に頭や右腕をかまれ1カ月のけが▽同22日に岩手県内の別々の場所で男性(同30)と女性(同62)が襲われて重軽傷――などの被害が報告されている。

 環境省は04年度以降、全国のツキノワグマの人身被害(けが、死亡)を集計。熊が多数出没した04年4月〜05年3月の109人と、06年4月〜07年3月の145人以外は年50人前後だ。朝日新聞のまとめでは、今年は5月に18人が死傷、6月は5人がけがをした。福島県警によると、今年の福島県内での熊の目撃情報は7月8日現在で74件という。09年1年間は119件だった。

 1992年から全国の被害事例を集めるNPO法人日本ツキノワグマ研究所(広島県)の米田(まいた)一彦理事長は「5月だけで被害が10人を超えるのは異例」と話す。被害増加の原因について「今年は攻撃性が高い若い熊が増えているのではないか」と指摘する。

 ツキノワグマは12月ごろに冬眠し、翌年2月ごろ出産するのが一般的だ。子熊は母熊から「野生化訓練」を受け、翌々年の春から夏に独り立ちする。米田さんによると、2〜3歳ぐらいの若い熊は生活拠点が定まらず広い範囲を移動する上、特にオスの熊は他のオスを過度に警戒するため攻撃的になり、人身被害につながりやすいという。

 森林総合研究所(茨城県)の大井徹・鳥獣生態研究室長は「04、06年の大量出没の時に熊が人里近辺に定着し、人との危険な遭遇が増えた可能性がある」と指摘する。

 独立行政法人の国立登山研修所(富山県)によると、全国の60歳以上の推計登山人口は06年に約3万4千人で、91年の約1.5倍になった。5、6月に死傷した23人の年齢構成も高齢層に集中しており、70代8人▽60代10人▽50代3人▽30代1人▽年齢非公開1人、だった。

 同研修所の専門職、東秀訓さんは「ハイキングや登山、山菜採りなどを楽しむ高齢者は熊の危険性を認識し、恐れを持って入山してほしい」。米田さんは「秋以降にドングリなどの不作が重なれば、さらに被害が増える可能性がある」と警鐘を鳴らしている。(小寺陽一郎)

     ◇

■遭遇してしまったら…

 ◆遠くにクマがいたとき

 静かにその場を立ち去る。大声や急な動きをしてはいけない。

 ◆近くにクマがいたとき

 ザックなどの持ち物を置き、気をそらしながら後退し攻撃をかわせることもある。クマは逃げる対象を追う傾向があり、背中を見せて逃げてはいけない。

 ◆至近距離で突然遭遇したとき

 両腕で顔や頭を覆ってダメージを最小限にとどめることが重要。積極的な反撃は推奨できない。

(環境省の「クマ類出没対応マニュアル」から)

     ◇

 〈ツキノワグマ〉 東北、中部地方を中心に本州と四国の一部に生息し、体長110〜150センチ、体重80〜120キロ。鋭いツメを使って木に登ったり穴を掘ったりし、時速40キロ以上で走る。植物中心の雑食性でドングリや果実、昆虫などを食べる。行動範囲は10〜100平方キロメートルと広い。

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