生まれて初めて聞いた日本語だった
凄い言葉だと思った
人間を10年しかやっていない奴から発せられた
この言葉に全身が震える思いがした
『こころとちからがよわいからまけた』
心と力が弱いから負けたと書いて良いのかがわからないから
『こころとからだがよわいからまけた』とする
私の中に無い文章だ
一つ一つの単語は知っているし良く遣う言葉
でも1センテンスになるともっと深くもっと広いと感じた
間違いなく私は息子の口をついたこの言葉に正直圧倒された
前々回初めての試合でスタミナが切れて手が出ず完敗し
前回自分より大きな相手に押し負けず
延長の末スタミナと気力で勝ち
勝った嬉しさと共に私からのプレッシャーとも戦っていた
龍大は(龍谷大学とは何の関係も有りません。坂本龍馬のりょうです)
勝った瞬間に『良かった~っ』と号泣した
次の試合で負けた時よりも勝った号泣の方が強烈だった
昨日の試合は緒戦に勝っても泣く事はなく
次もラッキーな勝利を収め
昼一番の準決勝に進んだ
きっと本人には少し自信があり入賞おめでとうという
道場の仲間の声に少なからず安心もしていただろう
そして準決勝相手に旗が5本揃う完敗
自分で自分の事を考えたのだろうと思う
大空の同時に午後一番の試合
私は大空に試合に席を取り向こうの畳の龍大を想いながら
無勝の次男を見つめていた
同時にスタートした試合
龍大の優劣はわからなかった
旗判定は少し向こうの畳が先だった
赤が5本の完敗ははっきりと見えた
大空は延長に入る
後1分半龍大を放置する
大空は初勝利!
龍大は大空に『良く頑張った!』と声を掛け肩を抱いていた
そして道場の一番端の窓際に立ち
ひとり肩を震わせて泣いていた
咽び泣いていた
タイミングを計りながら私は話しかけた
『龍大 何で負けた?』と
日頃から男は泣いてはいけないときつく躾けられているあいつが
涙を拭うこともせず恥じる事も照れる事もなく
涙を流し続けながら
私の目をしっかりと見て
言葉を発することもなく暫く涙を流し続け
ゆっくりと小さな声で
しかしはっきりとこう言った
『こころとちからがよわいからまけた』と
私は言葉を見つける事が出来ず
龍大の言葉を繰り返した
正直言葉の力に少したじろいでいた私は
短く『じゃあどうする』と聞いた
目を切らずゆっくりとあいつはこう言った
『次は絶対に勝つ!』と
私は龍大の坊主頭を抱きかかえ
自分のシャツで顔を全部拭った
腹の辺りで声を出して泣く息子を全力で抱きしめた
何も言わず
何も言わず
力いっぱい抱きしめた
生まれたから男なのではなく
生きて初めて男になるのだと思う
勝って負けて泣いて男になってゆくのだと思う
強くなければ優しいはずなんかない
そう信じて生きて来たが
絶対に間違えないと
一瞬で成長した小さな『男』を見て
そう思った
初めて3位に入賞し賞状を貰っていたけれど
1番以外は敗者なのだとこれからもあいつらに教えてゆこう
まーまーに満足するなとそこそこなんて糞くらえと
突き抜けたぶっちぎりのNO1になれと
世界で一番伝えたい男達に
良く頑張ったという言葉を飲み込み
なんでもやるなら1番しかあかんと!
命ある限り言い続けよう
世界で一番優しい男になる為に
世界で一番心の強い男にしよう
いつかずっと先にきっとこれを読むであろう
おまえら息子達に
あの瞬間も父はそう思っていたのだと書き残しておこう
『こころとちからがよわいからまけた』
おまえから貰ったこの言葉を
私も胸に刻んで勝つ為に頑張る!
おまえらに『強い』という事を教えられるように
後100倍
いや後10000倍頑張るからな!
07月26日
07月19日
07月01日