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2011年9月5日(月)付

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再生エネ法―送電線の接続を透明に

自然エネルギーの拡大をめざす再生可能エネルギー特別措置法が先の通常国会で成立した。風力、太陽光、バイオマス、地熱、小型の水力による電気を一定の期間、電力会社が固定価格で[記事全文]

法律家の養成―腰据え本題に取り組め

約2千人の司法修習生に国庫から給料を払い続けるか、打ち切るか。この1年余、混迷した問題は「一律支給をやめ、希望者には月二十数万円を無利子で貸与する」という当初の方針に落ち着くことになった。[記事全文]

再生エネ法―送電線の接続を透明に

 自然エネルギーの拡大をめざす再生可能エネルギー特別措置法が先の通常国会で成立した。

 風力、太陽光、バイオマス、地熱、小型の水力による電気を一定の期間、電力会社が固定価格で買い取る制度だ。

 欧州では、この制度で自然エネルギーを大幅に増やした。日本での成功の可否は、今後の運用にかかっている。

 法律は、買い取り価格について、参入者の適正な利潤を考慮して決めることを明記した。自然エネルギーの種類や方式によって違う値段になる。この点は評価したい。ビジネスが成り立つ価格にすることが必要だ。

 買い取り費用は電気料金に上乗せされる。法律に上げ幅の規定はないが、経済産業省は「1キロワット時0.5円を上限で運用する」といってきた。

 これはやめるべきだ。電気料金は、原油価格などによって、もっと大きく変動している。自然エネルギーを対象に料金転嫁に歯止めをかけすぎると、うまく導入が進まない。

 最大の問題は、送電線への接続だ。電力会社には自然エネルギーの電気を送電線につなぐ義務があるものの、「安定供給に支障がある場合」には接続しなくてもよいとされている。

 これでは、北海道や東北、九州で、多くの風力発電所の計画が「供給が不安定」という電力会社の判断で断念させられている現状と変わらない。

 すでに北海道電力は、風力の受け入れ可能量36万キロワットが満杯なので、新法施行後も当面は新たな受け入れはできないと表明している。

 風力は世界では自然エネルギーの柱で、中国、米国では4千万キロワットを超える。日本は約250万キロワットしかない。それでも電力各社が「もう満杯」というのなら展望は開けない。電力会社のいう受け入れ可能量を外部の人間がチェックして透明化する態勢が必要だ。

 何より送電線の広域運用が欠かせない。日本の送電網は、地域独占の電力会社ごとに分割され、隣接する会社同士でも基本的に電気を融通しない。

 これを改め、地域に偏在する自然エネルギー電力を東京や関西の大消費地に送るように送電網の運用を変えれば、供給に見合う需要が確保され、電力会社が「もう満杯」という事態は避けられる。

 日本の電力に占める自然エネルギーは1%だ。新法をテコに、原発の削減や電力体制の改革、蓄電池などの研究開発も進めながら、「自然エネルギー後進国」から早く脱却しよう。

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法律家の養成―腰据え本題に取り組め

 約2千人の司法修習生に国庫から給料を払い続けるか、打ち切るか。この1年余、混迷した問題は「一律支給をやめ、希望者には月二十数万円を無利子で貸与する」という当初の方針に落ち着くことになった。

 有識者や関係省庁の副大臣らでつくる政府の「法曹の養成に関するフォーラム」が取りまとめた。収入が低い人に対する返済猶予の措置も盛り込まれた。遠回りをしたが、妥当な結論に至ったことは歓迎したい。

 本当は昨年秋に貸与制に転換するはずだった。だが日本弁護士連合会が「金持ちしか法律家になれなくなる」と政党に働きかけ、先延ばしになっていた。

 今回、19人の委員のうち給費制を主張したのは日弁連推薦の1人だけだった。フォーラムが実施した調査によると、貸与されたお金の返済が始まる弁護士6年目の平均所得は1千万円を超すのに対し、返す額は月2万数千円だ。「税金の使い道はメリハリをつけて有意義に」という納税者の当然の思いが、議論に反映したといえよう。

 給費制の見直しは、法律家の増員や法科大学院、法テラスの設立など、司法改革の一環として決まった。行政に比べて小さすぎた司法の機能を拡大し、人々が法の下で平等、対等に生きる社会を築く。それが改革の背骨を貫く思想だった。

 その施策の一部を抜き出して曲げることは、全体の骨格を揺るがし「一部のエリートが担う小さな司法」への逆戻りを招きかねない。給費制問題を考えるうえで忘れてならない視点だ。

 日弁連はなお給費制維持の旗を降ろしていないが、いま司法界が精力を傾けて取り組むべきは、目の前にある本当に重要で困難な課題ではないか。

 弁護士や裁判をもっと利用しやすくするため、関連する予算や人員を充実させる。司法試験の合格率を高め、法曹志望者の減少に歯止めをかける。乱立した法科大学院を再編し、教育内容も時代により適したものに改める。法律家が活動する領域を社会の隅々に広げる――。

 財政事情は厳しいし、利害や思惑も絡む。だからこそ法曹界以外から多くのメンバーが入っているフォーラムの場で、この秋以降、議論を深め、合意の形成と社会の幅広い理解の獲得をめざさなければならない。

 気がかりなのは、かつてあった改革への熱気が最近の経済界から感じられないことだ。国際競争を勝ち抜くためにも司法インフラの充実は欠かせない。その事実をもう一度確認し、前向きな姿勢で臨んでもらいたい。

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