1.優先順位をつける……すべては実現できない

(1)ノートを用意する
(2)はじめようとすることを1ページの最初に書く。(例:「英語を勉強する」)
(3)(英語を勉強すると)どんないいことがあるかを、なるべくたくさん書きだして、リストにする。
(4)人生でやりたいことを、これもなるべくたくさん書きだして、リストにする。
(5)(3)と(4)のリストを見比べて、「英語を勉強する」が〈人生でやりたいことリスト〉の第何位に入るか、どれより上で、どれより下かを確認する。
 ランキングで該当する順位のところに、赤字で「英語を勉強する」を書き入れる。



2.時間を確保する……人生は有限である

(1)日頃のスケジュールを1週間分ノートに書き出す。

(2)1週間のスケジュールの中で「英語を勉強する」にあたって〈犠牲にするもの〉を決める。
〈人生でやりたいことリスト〉で、「英語を勉強する」よりも下位にランキングされたものが参考になるだろう。

(3)〈犠牲にするもの〉の時間を減らす、他に移すなどして、時間を確保し、空いたところに赤字で「英語を勉強する」を書き入れる。

※この作業をしておくことで「仕事が忙しいから」系の言い訳を封じて、加えて〈犠牲にするもの〉の重みでコミットメントを強固にする。



3.目標を決める……目標は具体化する

(1)達成目標:「英語を勉強」してどのような状態になりたいか〈達成目標〉を具体的に決める。

(2)行動目標:確保した時間をつかって具体的にどんな行動をするかを決める。

(i)自分の行動、
(ii)行動の期間と量(「毎日2ページ」「1週間10ページ」)、
できれば(iii)素材の具体名(教材名、コース名など)
を盛り込んで、具体的な目標にする

※目標を具体的にすることで(a)行動の進み具合が明確になり、(b)進み具合によって計画を補強したり修正したりが細かく行えるようになり、(c)また人を挫折に導きやすい、完璧にできた/全然できなかった、という「100か0か主義」に陥りにくくなる。



4.標的行動を設定する……雪だるま効果をねらう

(1)目標達成につながる標的行動

 必ず増やしたい、続けたい標的行動を設定する。

 毎日、ナントカという英語のテキストを勉強する、という場合は簡単である。
 「毎日、帰りにファミレスによって1時間勉強する」というのを標的行動にすればよい。


(2)「〜しない」目標には、替りになる行動を


 問題は「〜しない」という目標(たとえば「禁煙する」(タバコを吸わない)が目標)の場合だ。
 「〜しない」という目標は達成しずらい。人間は放っておいても何かをしてしまうものであるから。
 また「〜しない」目標は、一度でもしてしまうと「おしまい」になってしまいやすい。挫折を導きやすい「100か0か主義」の罠にはまりやすいのだ。

 さらに「〜しない」は我慢を続けることを意味する。
 行動が喜びを生む要素がないので、行動自身がやる気に生み出し、ポジティブ・フィードバックで自律的に楽しく続けられる〈習慣化のターンパイク〉に乗ることがない。

 そこで「〜しない」替りになる行動を増やすように考えたほうが取り組みやすい。

 具体的に言うと「禁煙する」(タバコを吸わない)ことを目標にする場合は、そのかわりとなる行動を設定するとよい。
 タバコを吸うことと両立しない(しにくい)行動が最適だ。たとえば、走りながらタバコを吸う人は少ないから、〈ジョギングする〉ことを標的行動に加える。
 「ジョギングなんて、やれても一日せいぜい30分だ。あとの起きてる時間は全部タバコを吸えるのだから無意味だ」と考える必要はない(それが「100か0か主義」の罠だ)。
 一日30分でもタバコを吸わない時間をつくることができるのであれば、全然OKだ。ポジティブな行動は〈部分点〉的発想で考えることができる。

※最初は小さな行動でも、ポジティブ・フィードバックが働けば、雪の積もった斜面を小さな雪の玉が転がりながら大きくなるように波及的に働いていく(スノーボール・エフェクトという)。これが「〜しない」こととの大きな違いである。
 今の「禁煙する」(タバコを吸わない)例で言えば、タバコの本数が減ることが、ジョギング中の呼吸の楽さにつながり、ジョギング自体の楽しさを下支えしていく。



5.行動を記録する……可視化はご褒美である  

 目標も、行う行動も、とことん具体化する理由は、行動を記録すること、そうして達成までどれだけ近づいたかを日々刻々と自分に伝えることである。「〜しない」ではなく「〜する」ことを標的行動にするのも、細かく記録できることが大きい。 

 行動は、数値で記録する。そしてグラフ化する。
 数ヶ月の期間なら、折れ線グラフでいい。

 長い期間なら、縦7×横52の小さなマス目を使う。
 縦1列が一週間分で、目標が達成できた日だけ、マス目を塗りつぶす。
 これで1年分の記録が一覧できる。小さくまとまるので数年分の記録の視覚化に使える。
 成果(達成度)がパターンとして一瞬でつかめる。

7*52


 データを後で改竄したい誘惑があるなら、紙に手書きが修正が効かない分、有利かもしれない。
 こちらの方がパソコンにデータを収納するより、他人の目に触れやすくなるので、合わせ技でパブリック・ポスティングにもなる利点はある。

 手軽さならパソコンやスマホで記録をとる。
 これもグラフ化してネットで晒すとパブリック・ポスティングになる。

パブリック・ポスティングは、他人に見えるように結果を表示することで、個人のパフォーマンスを増加させる技法をいう。バックアップの強化子(追加のご褒美)なしで効果があることが確かめられている。表示する結果は、これまでの成果のグラフだったり、現状のパフォーマンスだったり、これまでの最高点(記録更新した場合に書き換える)だったりする。



 「晒す」といったが、グラフ化は罰ではなく、自分へのご褒美である。

 パブリック・ポスティングが効果を発揮するのが、個人を批判する手段としてではなく(営業成績の右肩下がりのグラフを背景に、叱られてる営業マンという光景が目に浮かぶが、この場合はうまくいかない)、個人の努力を認めるためのものとなっている場合であるのと同様である。




6.計画を修正・補完する……自分に対する人格攻撃は無益である

 決めた通りの量がこなせなかったり、毎日続かなったりするのは想定内である。

 そんな時、くれぐれも「自分は意思が弱い」などという、自分に対する〈人格攻撃〉に陥らぬこと。
 自分を〈人格攻撃〉することは、他人に対して〈人格攻撃〉するのと同じくらいに、物事の進捗には役立たない。
 他人に対する〈人格攻撃〉を差し控えようという慎みのある人でも、自分に対する〈人格攻撃〉についてはとんと脇が甘かったりする。
 他人にするのと同じくらいに、自分を大事に扱うのが、メンタル・リテラシーのいろはのいである。

 では、どうするのか?
 神様やエライ人に頼るのでなく、データを取れ。
 計画の修正は、データに基づいて行え。

 我々は標的行動を設定したのだから、問題は、
(a)標的行動が起こらない(少ない)こととして生じているはずである。
(b)標的行動と両立しない対立行動が起こっている(多い)ことも観察されるかもしれない。

 ここでは、標的行動(時には対立行動)の直前と直後に何が起こっているかを観察する。

直前(行動はどんな状況で起こるか)標的(対立)行動直後(行動によってどんな結果が生じているか)
      


(1)まず〈直前の状況〉を変える

 まずはコントロールしやすいのは、「行動はどんな状況で起こるかの部分」つまり〈直前の状況〉の方である。
 計画修正はまず、この〈直前の状況〉を変えることを考える。
 どうも標的行動が起こりにくい(対立行動が起こりやすい)状況になっているなら、それを変えられないか考えること。

直前(行動はどんな状況で起こるか)標的行動直後(行動によってどんな結果が生じているか)
帰りの電車のなかで英語のテキストを開いて読む  


 帰りの電車がいつも満員なら、「英語のテキストを開いて読む」という行動は、どうしたって生じにくい。
 テキストを開く、時と場所を変えられないか? 電車に乗る前、あるいは乗った後、どこかのファミレスで1時間くらいの時間がとることができれば、「英語のテキストを開いて読む」という行動はずっと生じやすくなる。

 標的行動が生じるやすくなるかどうかは、やってみないと分からないことも多い。
 いくつかの〈直前の状況〉を試してみることが必要な場合もある。
 この場合でも、あちこちを一度にいじるのでなく、他は固定して〈直前の状況〉を変えて試すことで、計画修正が無軌道になることを防ぎ、効果のあるものを選びやすくなる。


(2)〈行動の結果〉を補完する

 〈直前の状況〉をいろいろ試しても、標的行動が増えない場合は、行動の後に生じるもの、すなわち〈行動の結果〉を変える。
 〈行動の結果〉は、より変えにくい。行動が同じなら、それに付随する結果も変わらないはずだから。
 したがって〈行動の結果〉を変えるためには、本来なら行動に付随しない結果を付け加えることになる。

 本来なら行動に付随しない結果とは何か?
 一番ベタなやつでいえば〈賞罰〉を出す。
 標的行動にはご褒美を、対立行動にはお仕置きを、付け加える。


※我々が、飽きっぽく気がそれやすく、未来の利益よりも目先の快楽をほとんど不合理なまでに高く評価してしまう(例:太ると分かっていても甘いものを食べてしまう)のは〈仕様〉である。
 「このケーキを食べないほうがいい。食べると、全然分からないくらい皮下脂肪が増え、全然分からないくらい健康を損ない、全然分からないくらい心臓疾患その他にかかる確率が増す」といっても、食べるのを止められる人はいないだろう。
 遠くの、現時点では分かりにくい利益ではなく、目先のはっきりした利益は効く。
 自分で決めた行動をやるのに自分にご褒美を出すなんて、自分を甘やかせるみたいに思う向きもあるだろう。
 だが計画を放り投げてしまうくらいなら、姑息でも人間の〈仕様〉に合わせた手を打つのは合理的である。恥ずべきものでは全くない。


 ただし〈賞罰〉を出す基準をゆるくしてしまうとグダグダになる。
 具体的に設定した標的行動(例:腹筋を40回やったら、テキストを4ページやり終えたら)があると、自分をごまかしにくくなる。

直前(行動はどんな状況で起こるか)標的行動直後(行動によってどんな結果が生じているか)
帰宅して着替えたら夕食の前に腹筋を40回疲れる+(ご褒美としての追加)お気入りのブログを読む


(3)リワード・キーパーを依頼する

 どうしてもグダグダになる場合は、最終手段、誰かにリワード・キーパー(賞罰の管理人)を頼む。
 リワード・キーパーが終始行動を監視する訳にはいかないから、毎週1回、行動の〈成果物〉を提示して、目標の90%以下の場合は、ペナルティを与える。

週間計画表
課題成果物時間(予定)時間(実際)ポイント
序論の第3節を書く4ページ分の原稿8時間 8point
実験装置の図を書く装置の図1時間 1point
データ分析をするグラフ2つ2時間 2point
来週の計画を立てる来週分の計画表30分 0.5point
合計   11.5point


 アメリカで学位論文を書いている(結構、ぐずぐず主義に悩まされたり、挫折する人がいるのだ)若い研究者のために開発されたプログラムでは、あるユダヤ人研究者の例だと、リワード・キーパーに5ドルの小切手を10枚預けておいて、毎週の〈成果物〉が90%以下の場合は、次の手紙を添付してアメリカ・ナチス党へ小切手が送るという約束が事前に結ばれた。

 「私はユダヤ人です。貴党の活動に陰ながら経緯を表しております。
 ささやかですが、活動資金の一部にお役立ていただければ幸甚です」

 この若き研究者は、何度か週間目標を達成できずに、何10ドルかをアメリカ・ナチス党に寄付する事になった(リワード・キーパーが契約を貫徹した。ここで手控えては、クダクダになってしまい、学位論文は完成しなかっただろう)。

 しかし何度しくじっても、それで終わりではない。
 若き研究者は行動を継続し、なんとか論文を書き上げた。それは高く評価されるものだった。
 




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