6月30日、和歌山県議会でまちの景観を守るためのある条例が可決されました。 それは周辺住民の要請があれば、県が“廃虚”と化した建物を撤去できるという全国初のもの。 空き家率が国内ワーストの和歌山県で条例ができた背景とは何なのでしょうか。 【和歌山県議会】 「賛成の諸君はご起立願います!起立全員。よって本案は原案通り可決されました!」 先月30日、和歌山県議会で可決された、「景観支障防止条例」。 周辺住民からの要請があれば、県が“廃墟”と化した建物を撤去できる全国初の条例です。 【仁坂吉伸知事】 「周りの人に大いに迷惑をかけているという建物に手をつけていく。行政が介入していく手段を作ったのは日本の法制上画期的なこと」 風光明媚な、和歌山市の和歌の浦地区。 かつて「万葉集」にも詠われた歴史のある街です。 しかし最近では、かつての姿が失われつつあるようです。
【ギモン隊】 「名勝にも指定されている和歌浦の海沿いには、このように一見建設中に見える建物があります。しかし壁は抜け落ち電線は錆びていて、まるで“廃墟”のようになってしまっています」 和歌の浦湾を臨む絶好のロケーションにある大きな建物。 その正体は、かつて賑わいを見せた名旅館。 廃業してから10年以上放置されたままとなっています。 【住民】 「元は立派なホテルだったんですけど、もう何十年も前のこと。寂れてしまっている」 廃業した旅館の所有者は、ギモン隊の取材に対して・・・ 【廃業した旅館の所有者】 「我々は、計画を立てて建物をどうするか考えていますが、社会情勢などいろいろな理由で進んでいない部分もあります」
まちには他にも廃業して手つかずのままの建物が… 実は和歌山県、空き屋率が全国で最悪(9.1%)なのです! 特にこの和歌浦は、“廃墟のまち”とも言われている地域。 新婚旅行の人気スポットとして最盛期には年間350万人もが訪れる一大観光地でした。 しかし高速道路などの交通網が発達すると、観光客は白浜などのリゾート地へと向かうようになり、40軒あった旅館も9軒に減ってしまいました。 【住民】 「辛いわね、これだけ景色のいいところにね」 「寂れてきているから灯りもないし、夜は廃墟の前通ったら不気味で怖いというか。なくなってくれたらどんだけ嬉しいことか」 【和歌浦旅館組合:中村和子さん】 「肝試しみたいに若者が中に入り込んでボヤ出したり、中でイタズラしたとかとても心配な状況が何度もありました」 県住民の切実な声を聞いて作られたのが今回の条例。 まず、“廃墟”にならないよう県は所有者に空き家をしっかり管理することを求めます。 さらに周辺住民の要請があれば空き家を撤去するよう勧告。 それに従わない場合には県が行政代執行で撤去できます。 その費用は全額、所有者の負担です。 しかし、条例によって“廃墟”が撤去されても、「一件落着!」とはならないようです。
【住民】 「お客が来てもらわんことには、潤わんからね、何事も」 「新しく生まれ変わるというか、開発してもらった方が和歌山県民として嬉しいですね」 【神戸大学大学院法学研究科 角松生史教授】 「今回の条例で撤去できるようになった訳ですけど、あくまで最後の手段。景観を考える上でも空き家をいきなり除却・撤去するのではなく、どんな風に価値を生かして再生し活用していけるのかを考えないと」 一方、空き家を有効活用した秘策も・・・ 漁港の街として知られる和歌山市の雑賀崎(さいかざき)地区。 ここで行われているのが、“空き家バンクプロジェクト”! プロジェクトのリーダーを務める建築士の宮下啓司さん。 宮下さんは7年前、空き家を蘇らせる方法はないかと考えました。
地元の雑賀崎にある100軒ほどの空き家のうち使えそうな物件を貸して欲しいと持ち主と交渉。 これまでの経験と人脈を生かして改修を行い、田舎暮らしを希望する人に格安で提供しています。 すでに10世帯の家族が移り住んで来ています。 【宮下啓司さん】 「放置しておくとどんどん廃屋になって傷んでいくので、人が住んでいれば家はリメイクして使えるものですから、建築士としてそういう使い方もあるよと始めた」 空き家バンクが扱った物件の中には、こんなオシャレな店に生まれ変わった場所も。 和風イタリアンレストラン「からびな」は築70年もの古民家を改装し3年前にオープン。古さと新しさが融合した雰囲気が人気を集めています。 【からびなのスタッフ】 「ボロボロって言葉も悪いんですけど、本当にどうしようもない状態を改装してこういう良い雰囲気にしてもらいました。古民家を使ってお店をしようというのは盛り上がってきてますので。今からお店をしようと思っている若い年代の人にきれいにしてお店ができるんだよって分かったらいいかなと」 宮下さんは新たに東日本大震災の被災者の受け入れようと廃業した旅館を改装しました。地域のコミュニティごと避難できるよう7部屋の和室と食堂などの共有スペースを設けています。 松田飛呂さん(31)は仙台市で被災してすぐ妻とともに和歌山市へ避難してきました。 1年間は県営住宅で暮らすことになった松田さん。 最近、県内での就職が決まり、空き家バンクを利用して永住することを考えています。 【松田飛呂さん】 「仙台は物件高いんです。そのイメージからするとこんな広い家がこんな安く借りられると思うと安くてもったいなく感じるんです。3人家族になるので新しくどういう風に築きあげていくのか、『なんとでもなる』というのが宮下さんの言葉だから」 【宮下啓司さん】 「やはり郷土を愛するって気持ちはありますから、よそからの方も住んでもらえたら、風光明媚で自然いっぱいなところだから楽しいねって街をつくりたいなって思います」 “廃墟”をどう排除するかではなく、どう再生させていくのか。 今、新たなまちづくりの在り方が問われています。