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食力自在

【食力自在】

ツブ貝

2009年05月31日

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水揚げ後、岸壁で重さを量って選別されるツブ貝=様似町

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エゾボラは刺し身以外にフライ、ともあえ、炊き込みご飯などに調理もできる=日高支庁様似町

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■ブランド化狙う日高

 日高支庁様似町の漁港。祖父の代から漁師を続ける住岡輝雄さん(63)が、水揚げしたばかりのツブ貝を1個ずつ丁寧にはかりで量る。その中でも大人の握り拳ほどの大型のツブ貝に思わずほおが緩んだ。400グラムを超える。ツブ貝の中でも最高級品のエゾボラで、主に刺し身用だ。

 ツブ貝といえば煮物か加工品が身近で、刺し身は高級品のイメージが強い。種類も数多くあるが、「ツブ貝」として総称されており、「○○のツブ」のようにブランド化も進んでいない。

   ◇   ◇

 ここに目をつけたのがエゾボラの産地の日高地方だ。日高支庁や地元の自治体、漁協、商工会などが06年に日高産ツブ地域ブランド化協議会を立ち上げ、エゾボラを「日高の真つぶ」として売り出し始めた。「アワビよりおいしいという人もいる」とPRして知名度を高める作戦で、3年間にわたり、飲食店の協力でツブ料理の限定メニューを出してもらい、フェスタや家庭料理コンテストなども行った。

 今後は「『真つぶ』ブランド化実行委員会(仮称)」などを立ち上げ、商標登録も視野に入れて活動を強化していくことにしている。日高支庁水産課の千葉伸一課長は「エゾボラを最高級ブランドに育てたい。知名度が上がれば、ほかのツブや様々な水産物の売り上げも上がる。いずれは日高コンブのように全国に通用するはずです」と意気込む。

 北海道を代表する味覚の一つでありながら、ツブ貝の消費者への浸透度はまだまだ低い。「なぜか日高で食べるツブの刺し身は、ほかと違ってうまい」「以前食べたツブは日高のものより軟らかかったが、さほどおいしくなかった」といった反応も多いという。日高中央漁協参事の川崎正春さんは「ほかではおそらくエゾボラモドキが出ているからではないか」と推測する。

 エゾボラは漁獲できるサイズ(重さ200グラム以上)になるまで10年はかかるといわれている。ツブ貝の中でも漁獲量が少なく、必然的に値段も高い。エゾボラの大サイズ(400グラム以上)がキロ当たり1500円前後なのに対し、やや似ているエゾボラモドキはその半額ほどだ。地元漁協女性部長の住岡操さん(62)は「エゾボラは殻にヒレ状の突起がある。味はかむほどに甘みが増すので、すぐわかるはずです」と説明する。

 大型のツブ貝は日高、十勝、釧路支庁管内の太平洋海域が主漁場。水深100〜150メートルの海底に、エサを入れたかごを沈めておく。後日、かごを引き揚げて大まかに選別し、小さなものは海に戻す。エゾボラはさらに水揚げ後に計量し、199グラム以下は施設で養生してから海に戻している。当初は漁師側から「そんなに細かくやるな」といった反発もあったが、川崎さんらが説き伏せた。

   ◇   ◇

 ツブ貝の最近10年間の平均漁獲量は全道で年間約6700トンで、このうち約3割に当たる約2千トンが日高産。ところが、平均売上高では全道が約27億1千万円なのに対し、日高が約12億5千万円と、半分近くを占めており、エゾボラが多く漁獲されていることを示している。

 住岡さんは最近、ツブ貝の大きさの変化が気になっている。「昔は1キロを超えるエゾボラがちょくちょく取れたが、最近は少ない」という。

 しかも、ホタテやアワビなどは養殖できるが、「ツブ貝は大きくなるのに時間がかかり、深い海底にいることもあって難しい」(道立網走水産試験場の栽培技術科長桑原康裕さん)。それだけに貴重だ。

 これからツブ貝が活発になる夏。住岡さんたちは700グラム、時には1キロを超えるエゾボラがかかることを期待している。
(池田敏行)

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●豆知識●
《ツブ貝》
 エゾボラ類とエゾバイ類の二つのグループがあり、北海道では50種類以上が生息している。その中でも「エゾボラ」(日高の真つぶ)は最大。刺し身やすしネタが主だが、フライ、カルパッチョ、ダイコンとの煮物、ともあえなどの調理法もある。次いで大きいのが「エゾボラモドキ」(Bツブ)。やはり刺し身とすしネタが主で、小型のものは加工品になる。「ヒメエゾボラ」(青ツブ)は小型で、串焼きなどでよく見かけるが、日高地方にはほとんどなく、道南で多く取れる。缶詰などで見かける「つぶ貝 味付け 北海道産」は原材料名として「アヤボラ」などと書かれている。日高では「毛つぶ」と呼ばれるが、フジツガイ科で、ツブ貝の仲間ではない。

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