ちまたの旬な話題から、日本の未来像を問うテーマまで。


元アイリーン

漂流する身体。
 この前アメリカの東海岸に被害をもたらしたアイツは、ハリケーン・アイリーンと呼んでいいのか、気象学に興味が無くはない人としては、The 熱帯低気圧 formerly known as ハリケーン・アイリーンと、どこぞのキモいアーティストの様に正確に呼ぶべきかは迷うところだが、まぁ犯罪者みたいな暴れモンだった事もあり、元Jリーガー練習生とか、元ヒスブルとかと呼称する日本社会の古くからの美習に倣って、あっさりと元アイリーンとでも呼ぶことにしよう。

 この元アイリーン、衛星写真とかで見ると、ハッキリと台風の目がある巨大な代物だったが、数値で戦闘力を計ると、上陸直前で952hpaという、そこそこしょぼい数字が出る。日本では、それ位だと「大型で強い」位の修辞が付けられるだろうが、1年に何回か普通に来るレベルで、余り騒がれそうにない。熱波に例えるなら、「熊谷で39度」位の話である。しかし、その熊谷39度が、暴れまくっての被害総額数千億というのだから、腑に落ちない。幾ら超久しぶりの元ハリケーンの上陸だからって、日本もそんなにガンガン対策している様に見えないのだが、なぜここまで差が出るのだろうか。

 ニュースを見ていて気付くのは、これは主に高潮の浸水被害だと言うことである。ロウアー・マンハッタンやスタテン島が浸水していたが、これは高潮によるものだった。日本の台風は、主に雨による洪水や、風による青森県あたりでの果物の落下によって被害をもたらすが、アメリカにおいては高潮の様だ。

ニューヨークにはオランダのゼーラント、日本の江東区の様な、悪名高い海抜ゼロメートル地帯が広がっているのだろうか。それで、ひたすらロウアー・マンハッタンの海抜を調べてみたが、どうも江東区に匹敵する様なものでは無、普通に海抜プラスの土地が広がっていた。

 では、凄い津波並みの高潮が襲ったのだろうか。正確な数字は今一つ分からなかったが、"Irene water level surge"とかで検索すると、幾つかの東海岸の地方紙サイトで4-8フィートの水面上昇があった、という記述が得られる。8フィート。入れごろ外しごろと言いながら、ちっとも入らないワンピンちょいのパットの距離である。PGAのトッププロでも8フィートは入るか半々だというスタッツを知ってからは、言い訳がうまくなった距離である。さて、ゴルフの愚痴はこの際どうでもいいのだが、8フィートの高潮は日本でも普通にあるレベルだ。そもそも、台風によって高潮が起きるのは、台風が低気圧であるからで、気圧というのは様は大気の重さによるプレッシャーだから、それが低ければ、その分押さえつけられなくなった海水面は上昇するというだけの話である。それに風向きによっては吹き寄せられた海水が加わる。また、遠浅では無いが、湾内は吹き寄せられた海水が逃げないので、相模湾は台風によって高潮になりやすい地形であり、ゼロメートル地帯を抱える事もあって、特段東京が高潮に強い地形という訳ではない。湾内で遠浅という二重苦となると、アメリカ南部みたいに悲惨な事になりやすいが、ここだけはプレート境界万歳で、地震はたまに凄いのが起きるけど、境界は深く落ち込んで遠浅では無いので、辛うじて毎夏被害を出すような事には至っていない。

 さて、天の時・地の利・人の和と戦場の知恵は言うが、天の要素たるハリケーンの大きさは日本によく来るレベルであり、地の要素としては高潮のレベル感や地形的得失を見る限り日本と米国東海岸はどうやらどっこいどっこいの様であるので、被害の差は海に近いところに住んでるとか、堤防がそもそも低いとか、そういう人の要素に起因しそうである。これは実際に実地で比較した事が無く、特に証拠がある訳では無いので、消去法ではそこなのかなという位の想像だと思って頂ければと思う。そこは随分とハリケーンから縁遠かったアメリカ東海岸と、毎夏の様に台風が来る日本の、海との距離感の違いなのだろうか。その距離感が、お台場とか芝浦とかのシーサイドに都市を造るにあたっても、十分な堤防高に結実しているのかもしれない。芝浦の船着き場付きタワーマンションが発売された時に、船舶の免許も持ってないのに、何となく気になって見に行ったが、船着き場のある運河の堤防高は8フィート(2.4m)どころか、15フィートは優に有ったと記憶する。それが、何故か原発になると、情けない限りの堤防高になってしまうのは実に不思議だ。
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