話題騒然  「在特会」の正体・続編

ネット右翼に対する宣戦布告

安田浩一 (ジャーナリスト)

G2 » Vol.7 » ネット右翼に対する宣戦布告 » 第7回 »
第7回

憎悪の源

大阪市内の焼肉屋で、私は岡本祐樹(20歳・元鮮魚店店員・注1)と会った。岡本は在特会大阪支部運営という、今も現役の幹部会員であり、やはり徳島事件で逮捕されている。

「友達の大半は金や女のことしか興味がない。みんな政治に無関心だ」と彼は嘆いた。そして焼けた肉を口に運びながら、彼はいかに学校教育が日教組主導でおこなわれてきたかということを訥々と私に訴えた。

そんな岡本が、戸惑いの表情を浮かべた一瞬があった。在特会によっておこなわれた大阪・鶴橋での街宣活動について私が聞いたときである。鶴橋は日本有数のコリアンタウンだ。在特会はそこで「朝鮮人を叩きだせ!」と例のごとく喚きながら、デモ行進した。そして岡本もそこに参加している。

「正直言うと……あれはキツかった」

岡本はうめくように漏らした。鶴橋には、彼の親戚が大勢、住んでいたからである。実は、彼の父方の祖父は韓国籍だった。その後、日本に帰化しているので岡本自身はずっと日本人として育ってきたが、いまでも在日の親戚は少なくないのだ。

「僕も『朝鮮人をブチ殺せ』みたいなことを叫んだ記憶があるけど、本音じゃないです」

どことなくヤンチャな雰囲気を漂わせている岡本だが、その時ばかりはやけに幼い表情で、しかも消え入りそうな声で話すのである。

当然ながら私は「なぜ?」とたたみかけて聞いた。係累に在日を抱え、あるいは自分自身が在日の血を受け継いでいながら、どうして在特会の活動に参加するのか。

だが彼の口からは「右翼に興味があった。そのなかでも在特会が入りやすかった」といった答えしか返ってこない。逃げるでもなく受け止めるわけでもなく、岡本は私の問いかけをさらりとかわした。それ以上重ねて聞くと、なにか彼が抱えている大事なものを壊してしまいそうな気がした。

私たちは言葉の接ぎ穂を失い、ぎくしゃくしたままに焼肉をつついた。そして、気まずい話から逃れるように近くのガールズバーへと繰り出し、ただひたすらエッチな話で盛り上がったのだった。

私に対してきちんと敬語を使い、楽しそうにグラスを口に運ぶ岡本を見ながら、彼の胸奥に巣くう「日本」を思った。彼が目指すべき「日本」はどんな形をしているのか。なぜ、そこまで彼をひきつけるのか。


注1 岡本祐樹
徳島事件で懲役8月(執行猶予3年)の判決を受けている。逮捕されるまでは大阪市内の鮮魚店で働いていた。将来の夢は「自分の店(居酒屋など)を持つこと」。好きな作家は隆慶一郎。それをもじって、ネット上では「慶次郎」のハンドルネームを使っていた。

コメントの投稿

  • *このマークは必須項目です。

Anonymous
Posts: 2
Comment
Re:
Reply #2 on : 2011/09/01 01:38:18
安田さんの記事はいつも興味深く読ませていただいてます。
在特会のような過激な団体に正面から切り込む勇気もすごいですが
、集団リンチまがいの明らかに異常と言える街宣を続ける彼らに対し、ただ「異常な集団」と吐き捨てるのではなく、彼らに偏見を持たず、深く理解を示したうえで、それでも「普通の人たちがなぜ過激化したのか?」と彼ら一人一人、個人の心情という根本的な動機に切り込む取材は素晴らしいと思います。

「彼らは右翼ではない」という安田さんのお考えはまさにその通り
だと思います。
自分も近い状態にあるからわかるのですが、ネットに依存し、ネットに過剰に書き込む人たちのほとんどは現実の生活では劣等感や不全感、イライラに悩まされてます。
それは普段の生活では人の前ではうまく話せない人や、怒ったり、笑ったりと自然な友人関係が気づけない人が多いからだと感じます。
それは何か大きな挫折を経験したり、いじめにあったとか、普段誰からも相手にされてないと感じていたりと様々な理由があると思います。

しかしいざ一対一で真剣に話を聞こうとすると、急に落ち着いた感じになり、物腰も柔らかくなります。彼らも普段の行動が過激で、明らかに合理的でないことをちゃんとわかってるように思えます。
それでも、「それでも自分が怒りをぶちまけるのは、当然の権利だ」という理屈で、自分の過激な行動を正当化しようとします。

そして自分自身にもそう言い聞かせて、ますます行動が過激になるのです。
私も近い状況に悩んでるからわかるのですが、私やこういう人たちは一度八つ当たりのようなことをして、他人に対して迷惑をかけても反省するのが普通の人より難しいのです。
それどころか自分の中でも「間違っているのでは」と考えたくないあまり、ますます人を罵倒したりと、行動が過激になります。
「俺は正しいことしてるんだ」と自分に言い聞かせるためです。
本当は「やめたほうが良いのでは?」とふと思うのです。良心の声が聞こえるのですが、途中でやめたら、今まで自分が間違っていた
と思い知らされることになるのが怖いからやめられないのです。
なぜ怖いのか? 誰かの前で失敗して恥をかいたのが心の傷になったとか、押さえつけられるような親子関係だった、友人関係だった
とかそいう経験をして、それを克服できないと、自然とそうなってしまうのです。間違いを認めるのがとてつもない屈辱で、100%相手に屈服することだと感じているのです

こういう人たちはネット右翼に限らず、日常的にキレやすい人
たち、私も含めてすべてに共通していますが、彼らが怒っているのは結局

「俺がこんなに怒っているのはお前たちのせいなんだぞ!」

と周りに言いたいからなのです。周りとは自分以外のすべてです。

「どうせお前ら俺の話なんか聞かないんだろ? 聞く気もないんだ ろ? 俺のことなんか気にもしてないんだろ?」

と「お前たち「周りの人達」が、いかに俺を冷酷に扱
っているか」を強調して、自分の不遇さを突きつけようとします。 子供が親に何か買ってもらえない時に駄々をこねるのと同じです。必死に地団太をふんで、泣き叫んでアピールしま
す。
彼ら自身は気づいていませんが、そういう心理が根底にあるから
こそ自分たちが「普通の一般市民で被害者である」を必要以上に強調したり、にも関わらず過激な活動で興奮しては人の気を引き、こっちが真剣に話を聞こうと向き直ると、途端に落ち着いて普通に話をはじめる。感情の大きな起伏を抑えられないのです。
人の気を引きたいし「周りの人達に自分のことで責任を感じて」ほしい。こういう人のほとんどは、自分が本当は何を望んでいるのか
理解してません。結局は

「俺の感じてる苦しさを何とかしてくれ、助けてくれ」

と本当は言いたいのです。

自分もですが、こういう人たちの根底では今まで自分を無視して手を差し伸べなかった「周り」に対する激しい怒りとそれをぶつけてやりたい衝動と、それでも「周り」の人達に見捨てられたくない。同情してほしい。という気持ちで常に葛藤しています。

結局何を助けてほしいのかといったら、
「褒めてほしい」ということではないでしょうか

「あなたは自分を確立して、知識があって、主張があってすごいね」とお世辞抜きで言って欲しいのではないでしょうか。
背伸びして専門用語を使って話し、自分の知識をひらけかしたりす
る人が多いのもこれが理由ではないでしょうか。
しかしそれは口だけで、実際には大して能力のない自分がいます。
周りの人に大して影響力を持っていないという意味で不全感があり、それどころか自分は恥ずかしい人間だと感じていたり、嫌われる人間だと劣等感を感じてる人すらいます。
彼らは「この国は素晴らしい、だからそれを支持してる自分もすばらしい」という感覚があり、そこに実存的に快感を感じているのです。
だから少しでもそこにケチをつける人間には過敏になって、「論破」しようと興奮し、過激な街宣になります。国≒自分を否定されたくないからです。でも過激になりすぎて見捨てられたくない感情もあり、だから「普通の市民で今までの右翼とは違う」と主張するし、話を聞いてくれる人にはすこし態度を和らげます。

いつの時代でも、どの国でも、誰でもこれに近い感情を少なからず持ってると思います。
世界的に見れば在特会もよくある過激な団体にすぎないのでしょう。
が、最近はますます過激にな風潮が広がり、攻撃的な人がこの日本で増えているように思います。
怖いのは彼らが結局今のままでは誰も話を聞いてくれないと絶望し
、「話を聞かない周りが悪い」と正当化し、取り返しのつかないことをしてしまうことです。
彼らと同じような左翼がかつてしたことが、再び起こるのではないのかと心配でなりません。

大変長文を失礼しました。安田さんの記事が自分にも考えさせられることが多く、つい長く書き込んでしまいました。

安田さんの次の記事にも期待しています。
盧剛
Posts: 2
Comment
いつも読まさせて頂いています。
Reply #1 on : 2011/08/29 22:05:08
『ブチ殺す』ではなく『ブチ殺せ』。『俺がブチ殺す』ではなく『(誰かが)ブチ殺せ』。街宣活動での興奮状態の中での一種のアジテーションと理解すれば良いのでしょうか?

それでも『ブチ殺せ』とまで言うのなら・・・それなりの覚悟を持って言って欲しいと思います。たとえそれが在特会の街宣の定型的スタイルであったとしても。
プロフィール
安田浩一
Koichi Yasuda
ジャーナリスト
1964年静岡県生まれ。週刊誌、月刊誌記者などを経て2001年よりフリーに。事件、労働問題などを中心に取材・執筆活動を続けている。著書に『ルポ 差別と貧困の外国人労働者』(光文社新書)、『外国人研修生殺人事件』(七つ森書館)ほか。Twitter ID: @yasudakoichi




↑ PAGE TOP