憎悪の源
大阪市内の焼肉屋で、私は岡本祐樹(20歳・元鮮魚店店員・注1)と会った。岡本は在特会大阪支部運営という、今も現役の幹部会員であり、やはり徳島事件で逮捕されている。
「友達の大半は金や女のことしか興味がない。みんな政治に無関心だ」と彼は嘆いた。そして焼けた肉を口に運びながら、彼はいかに学校教育が日教組主導でおこなわれてきたかということを訥々と私に訴えた。
そんな岡本が、戸惑いの表情を浮かべた一瞬があった。在特会によっておこなわれた大阪・鶴橋での街宣活動について私が聞いたときである。鶴橋は日本有数のコリアンタウンだ。在特会はそこで「朝鮮人を叩きだせ!」と例のごとく喚きながら、デモ行進した。そして岡本もそこに参加している。
「正直言うと……あれはキツかった」
岡本はうめくように漏らした。鶴橋には、彼の親戚が大勢、住んでいたからである。実は、彼の父方の祖父は韓国籍だった。その後、日本に帰化しているので岡本自身はずっと日本人として育ってきたが、いまでも在日の親戚は少なくないのだ。
「僕も『朝鮮人をブチ殺せ』みたいなことを叫んだ記憶があるけど、本音じゃないです」
どことなくヤンチャな雰囲気を漂わせている岡本だが、その時ばかりはやけに幼い表情で、しかも消え入りそうな声で話すのである。
当然ながら私は「なぜ?」とたたみかけて聞いた。係累に在日を抱え、あるいは自分自身が在日の血を受け継いでいながら、どうして在特会の活動に参加するのか。
だが彼の口からは「右翼に興味があった。そのなかでも在特会が入りやすかった」といった答えしか返ってこない。逃げるでもなく受け止めるわけでもなく、岡本は私の問いかけをさらりとかわした。それ以上重ねて聞くと、なにか彼が抱えている大事なものを壊してしまいそうな気がした。
私たちは言葉の接ぎ穂を失い、ぎくしゃくしたままに焼肉をつついた。そして、気まずい話から逃れるように近くのガールズバーへと繰り出し、ただひたすらエッチな話で盛り上がったのだった。
私に対してきちんと敬語を使い、楽しそうにグラスを口に運ぶ岡本を見ながら、彼の胸奥に巣くう「日本」を思った。彼が目指すべき「日本」はどんな形をしているのか。なぜ、そこまで彼をひきつけるのか。
注1 岡本祐樹
徳島事件で懲役8月(執行猶予3年)の判決を受けている。逮捕されるまでは大阪市内の鮮魚店で働いていた。将来の夢は「自分の店(居酒屋など)を持つこと」。好きな作家は隆慶一郎。それをもじって、ネット上では「慶次郎」のハンドルネームを使っていた。
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Reply #2 on : 2011/09/01 01:38:18
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Reply #1 on : 2011/08/29 22:05:08