かつては万葉集にも読まれた和歌山県の景勝地・和歌ノ浦。
ところが―
時代の流れには逆らえず、旅館が相次いで閉鎖。
建物の撤去には費用がかかるためそのまま放置され、多くの「廃墟」が生まれました。
そして一時は「廃墟マニア」と呼ばれる若者たちが毎晩のように集まり、不法侵入も相次ぎました。
(Q.不法侵入では?)
<「廃墟」マニアの男性>
「これは立派な不法侵入罪が適用されます。和歌山市内というのは、西日本では2番目に大きな規模を持つ『廃墟群』だと考えています」
周辺の住民は若者の騒音に悩まされ、時にはボヤ騒ぎまで起きたといいます。
<周辺住民>
「『キャー』といいながら行くもんやから、夜中の1時2時3時頃、ものすごい安眠妨害で困っている」
しかしこうした廃墟は、これまで簡単に撤去することはできませんでした。
<和歌の浦観光協会 藤田光彦事務局長>
「なかなか県や市は個人の建物や個人の所有物には協力しない、しにくい、できないという見解だった。それが大きな弊害だった」
そこで和歌山県が考えたのが…
<和歌山県 仁坂吉伸知事>
「和歌山だけでなく日本にとって、まったく新しい条例ができます。『廃墟片付け条例』と言っていましたが、あまりにも名前が悪いので、これからは『景観支障防止条例』という風に語ろうと思います」
来年1月から施行されるこの条例では、一定数以上の周辺住民から申請があれば、放置された建物に撤去命令などを出し、行政代執行で取り壊すことができます。
<和歌山県 仁坂吉伸知事>
「ボロボロで絶対住めないとわかっているのに、持ち主が触ろうとしない、命令も聞かないとなると、県の力でそこを取り片付けて更地にする」
「憤懣取材班」、和歌山市内の路地を歩いてみると…
<記者>
「あ、これはすごいですね、建物が崩れてきていますね。これは危ないんじゃないでしょうか。外壁も上からぶらさがっている状態で・・」
近所に住む人は─
(Q.これはどうですか?近くで見られて)
<隣の人>
「とってほしいけど、とってくれないのでしょうがない」
<近所の人>
「この裏やろ。危ないんやけど。どこに言うていったらいいかわからない」
この家は7年ほど前に住人が亡くなって以来、日に日に朽ちていて周辺住民は新しい条例に期待を寄せています。
(Q.来年から条例が施行ですが?)
<近くに住む人>
「それは聞きましたね。自治会がそういう方向になれば協力はしていきたい」
「憤懣取材班」、亡くなった持ち主の息子が和歌山市内にいると聞いて家を訪ねました。
<持ち主>
「あれは取り壊す段取りをしている。きのう銀行から(手続きが)完了したと連絡があった。もし景気がよかったら、買い手が見つかる前に先に解体業者に言ってつぶしてもらうんやけどね」
ようやく、近くにある建築会社が買い取って、駐車場にする話がまとまったといいます。
新しい条例では土地を売却したいが建物を取り壊す費用がない所有者にとって、県が強制的に取り壊すことで土地が売りやすくなり、県も売却益で撤去費用を回収できます。
県はこれにより、廃墟の撤去が進むと考えています。
ところで、和歌山県がこの条例を考えた背景には、県内に多数の廃墟を抱える現状がありました。
実は和歌山県、年々人口が減少していて、今年の1月にはついに100万人を割り込みました。
人口減少に伴い、1戸建ての空き屋が日本で最も多い都道府県となったのです。
地域活性化を図りたい県にとって、廃墟は頭の痛い問題です。
では、あの和歌ノ浦の旅館街は、今どうなっているのでしょうか。
<記者>
「あ、もう全く建物はないですね、なくなっています」
かつて若者たちが毎晩、騒いでいた場所は今は更地となっていました。
<記者>
「これは新しい建物ですね、老人ホームと書いてあります」
地元の努力もあって、その他の元旅館などは時代に合わせて老人ホームや高級マンションに生まれ変わっていました。
しかし─
まだ1棟だけ放置された旅館が残っていました。
柱など内部がむき出しになっていて、この海のある綺麗な景色にはあまりにもギャップがあります。
<観光客>
「気持ち悪いですよね」
<観光客>
「幽霊屋敷みたい。せっかくいいとこやのに…」
<子ども>
「なんか使ったらいいと思う。立て直すとか」
かつて、海岸美全国1位と言われた「和歌ノ浦」。
この廃旅館「岡徳楼」も、大正時代から多くの観光客で賑わっていましたが、1995年に閉鎖されて以降、手つかずのままとなっています。
<近くの旅館女将>
「『綺麗なとこだから来て下さい』と一生懸命、ご案内しているのに、来たらこんな大きな廃墟があるというのは来た方みなさん、がっかりする」
景観を乱すだけではなく、危険もあるといいます。
<付近旅館の人>
「ここが市の観光遊歩道なんですが、足場の一部、L字型のものがガンと落ちてきたこともあった。命にかかわるような大ごとになりかねない」
若者が中に入って騒いだり、火遊びをすることもあるといいます。
取材班は、現在の所有者である地元建材業者の社長に話を聞くことができました。
(Q.あの建物は今後どうする予定ですか?)
<所有者>
「ほっているのではない、計画はある。なかなか進まないだけ。このご時世厳しい時代なので」
当初は旅館として再生する計画でしたが、この不景気で計画が途中で頓挫してしまったといいます。
(Q.もし条例で付近の住民から同意があって撤去しなければならないとなった場合は?)
<所有者>
「そのままほっておく気はない。住民がどうこう言おうと、先にうちのほうで結論だします」
長引く不景気で、近隣に迷惑をかけているとわかっていても、簡単に取り壊すことができないのもまた現状です。
付近の住民と所有者が抱える問題。
新条例で、解決の方向へ進むのでしょうか。
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