黒ホスト

コミックス表紙裏ネタで、基本的にギャグです。少しでも楽しんで頂けますように・・・ｖ

（もしもセバスがホストで、坊ちゃんがマネージャーだったら）

ここはホストクラブ『ファントムハイヴ』。夜の街で、ナンバーワンの店だ。
既に本日の営業は終わり、従業員は皆、それぞれ帰宅した。
しかし、たった一人だけ、残っている従業員がいた。その名はセバスチャン。
彼は、この店ナンバーワンのホストだ。

セバスチャンは、店の最奥に位置する、マネージャーの部屋の扉をノックした。
『入れ』
中から聞こえた声を合図に、彼は扉を開ける。
「失礼します」
高級机の向こう側にいたマネージャー・シエルは、今月の売り上げ明細を見ており、セバスチャンに一瞥をくれただけで、その視線はすぐにまた明細票へと戻ってしまう。

自分には興味も示さない。
そんなシエルの姿に、セバスチャンはニヤリと口角を上げた。
一歩ずつ、シエルのいる机へと近づいてゆく。
「お帰りになられないのですか？」
「これのチェックが終わったら帰る」
話しかけても、シエルの目は、やはり紙切れから離れない。

「今月も上々でしょう？」
「そうだな」
歌うような調子の声とは反対に、シエルの声は無機質なものだった。
「お前はウチのナンバーワンなんだ。これからも、給料分はどんどん働いてもらうからな」
「ええ、心得ております」
ですが、と続ける。
「いい加減、こちらを向いて下さいませんか？」
言いながら、シエルの視線を独占していた紙切れを取り上げた。
「なっ、おい！」

取り上げられたものを取り返そうと、シエルは椅子から手を伸ばすが、紙切れはセバスチャンによって床に放られてしまった。
「今夜も頑張った私に、ご褒美を下さいませんか？」
「・・・っ、給料も貰っておいて、その上褒美まで要求するつもりか？」
自分のすぐ傍まで来たセバスチャンを見上げながら、シエルは歯噛みした。

「お金など、私は欲しくありませんよ」
欲しいのは、貴方だけ。

「やっ、やめッ！」
肩を引き寄せられ、顔を固定される。
「私に頑張って働いてほしいのでしょう？でしたら・・・ね？」
「あ・・・ッ、や、ン」
「そんなに良さような顔をされて・・・本当に、お可愛らしいマネージャーさんですね」
「やめ、やめろ・・・」
「こちらを向いて、目を閉じて・・・」
「・・・ッ」

「やめろって言ってるだろうがッ！！」

いい加減にしろこのエロ執事！と、シエルがセバスチャンの頭を思い切り叩いた。

「・・・さすがに痛いです、坊ちゃん」
「～～～ッ、お前が悪乗りするからだろう」
叩かれた頭をさすりながら、こちらを見るセバスチャン。シエルはその視線から逃げるように、ぷいとそっぽを向いた。

「大体、“変なことはしない”という約束だっただろう！？」
シエルは『シャーッ』と猫のように威嚇するが、セバスチャンには逆効果でしかなかった。先程まで悲しそうにこちらを見ていたクセに、コロッと態度を変え、目を輝かせている。
「あ、それ可愛いです」
「人の話を聞けッ！」
シエルの怒りもどこ吹く風、セバスチャンは、胸に手を当て、いつもの完璧な笑顔を浮かべた。
「変なことなど、何一つしていませんので」
約束は違えておりません、と続けるセバスチャンに、シエルは苦々しそうな表情を見せた。

事の起こりは十分前。
セバスチャンの『世間では、ホストクラブというものが存在するらしいです』という言葉から、その世界を体験してみようという話になったのだ。
気が向かないシエルに、セバスチャンは『変なことはしませんから、ね？』と囁きかけ、見事『ホストとマネージャーごっこ』をすることに成功したのだが・・・

「なのに、さっきのは何だ！？」
良からぬことをしようとしていたのは、明白じゃないか。

「・・・坊ちゃん」
「なんだ」
笑顔から一転、急に真面目な表情になったセバスチャンの呼びかけに、シエルはぶすっと答える。
「坊ちゃんは、私たちの愛の営みを、“変なこと”とお考えなのですか？」
「・・・は？」
真面目な語りに、シエルは虚を突かれたように目を丸くする。
「だってそうでしょう？私が貴方に触れたことを、“変なこと”と申されるのですから」
「や、それは・・・」
「私は悪魔ですが、愛する坊ちゃんに対して、邪な気持ちなど一切ないですのに」
「あ、あの」

おかしい。何故僕が責められているんだ？

「私はこんなにも坊ちゃんを愛しているのに、その気持ちはあまり伝わっていなかったのですね」
「ッ、セバスチャン！」

たまらず、シエルは声を上げた。

「・・・何でしょう？」
「そんなことないからな」

僕はお前の気持ちを、ちゃんと受け止めている。

「坊ちゃん・・・」
セバスチャンの顔に、嬉しさが広がる。
「悪かったな、“変なこと”扱いして・・・」
バツが悪そうなシエルに、セバスチャンはいいえ、と首を振った。
「もう良いのですよ。分って頂けて光栄です」
「・・・ん」
仲直り、とでもいうように、シエルは背伸びしてセバスチャンの首に腕を回した。

「では！」
「は？」
ヒョイ、とシエルを抱きかかえ、セバスチャンはソファーの方へと歩き出した。
「おい、どこに」
「坊ちゃんからお墨付きを頂きましたので、早速実行いたしましょう」
愛の営みを。

「い、嫌だーッ！！！」

END

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