政治【土・日曜日に書く】ワシントン支局長・佐々木類 世界に胆力示すとき2011.9.4 03:15

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【土・日曜日に書く】
ワシントン支局長・佐々木類 世界に胆力示すとき

2011.9.4 03:15

 ◆どじょう宰相

 自らをダサくて泥臭く、赤いべべを着た金魚になれない「どじょう」に例えた野田佳彦新首相。ネット上では似た風貌と帽子を面白おかしく被(かぶ)って場の雰囲気を瞬時に“逆転”させる芸能人の上島竜兵さんの一発芸から「くるりんぱ首相」と呼ばれ始めている。

 自虐ネタで有権者の親しみを引き出す手法で思い出すのは、衆院旧群馬3区で、福田赳夫、中曽根康弘両元首相と議席を争った小渕恵三元首相が自分を評した「ビルの谷間のラーメン屋」。他人からは、「凡人」(田中真紀子衆院議員)だの「冷めたピザ」(米紙ニューヨーク・タイムズ)だの、さんざんの言われようだった。

 だが、小渕氏は保守政治家としての矜持(きょうじ)を失わなかった。

 日米安保条約を具体化する周辺事態法、憲法調査会設置、国旗・国歌法、通信傍受法といった重要法案を次々と成立させ、とぼけながらも図太い面を持つ首相という意味で「真空総理」(中曽根元首相)の称号をもらった。

 極め付きは平成10年11月、中国の江沢民国家主席(当時)が来日した際のこと。江氏が共同文書に歴史謝罪を盛り込むよう要求したのを敢然と拒否、この外交姿勢に多くの日本人が拍手を送った。当時の外務省筋は「在京中国大使館が青ざめて江氏に対応の見直しを進言した」と証言している。

 片や、どじょう宰相。民主党代表選で世間の好意的な反応を引き出したと思った矢先、幹事長人事で小沢一郎元代表に近い「日教組のドン」輿石東参院議員会長を起用したことで、スタートから文字通り泥まみれとなった。

 ◆外交で泥にまみれるな

 幹事長人事でつまずいた野田新首相だが、もし、ご本人が保守政治家という自負心があるなら、外交で胆力を示してほしい。ただし泥にまみれてはいけない。国際社会でのそれは、首相の面子の問題ではなく国益に取り返しの付かない致命傷を与えるためだ。

 「『お前さんはね、鉄だか竹だかのカーテンやっているけど、軍事衛星で全部お見通しだ。核戦争になったらモスクワは一瞬にしてなくなるさ』ってね。ソ連の核基地を全部並べ立てたらブレジネフ書記長は驚いてたなぁ。日本の首相が米国大統領に聞けば、軍事情報の95%は教えてくれる。それが日米安全保障条約だ」

 昭和59年9月10日、静岡県函南町の富士箱根ランドで行われた自民党田中派「七日会」青年研修会で講演した際の田中角栄元首相の発言だ(「新潮45」平成22年7月号特別付録のCDから)。

 自民党総裁選を翌月に控え、だれもが“闇将軍”の言動を固唾をのんで見守っていた。だが、そんなの知ったことかと言わんばかりに田中氏は、昭和48年の日ソ首脳会談の内幕を紹介し、若い議員らにこう咆哮(ほうこう)した。

 「(役人の書いた)ペーパーを読む会談は外相にやらせておけばいいんだ。本当のことが言えないで首脳外交なんかできるか!」

 昨年11月、中国の胡錦濤国家主席との会談で紙に目を落とし、世界の失笑を買った菅直人前首相に聞かせたいセリフだ。田中氏は首脳会談で、顔に泥を塗ったブレジネフ氏から「北方領土問題は未解決」との言質をとった。

 ◆良い手本と悪い見本

 かつて田中六助元自民党幹事長が遺稿「保守本流の直言」で定義した保守政治家とは、派閥の系脈などではなく、その言行でこそ評価すべきものだとした。政治制度にあっては、議会制民主主義、経済だと市場主義、外交・安保では日米同盟の堅持だ。

 印象深いのは、平成16年秋、サンティアゴ(チリ)で靖国神社参拝をめぐり中国の胡錦濤国家主席相手に渡り合い、「二度と会いたくない」(外務省筋)と言わしめた小泉純一郎元首相だ。また、同盟国として当時はこれ以外に選択肢のなかったイラク戦争でのいち早い米国支持も記憶に新しい。

 3人の宰相に共通するのは、六助氏のいう保守政治家3条件の一つ、堅固な日米同盟を背景に共産圏首脳と渡り合ったことだ。東アジア共同体構想から米国をはずそうとした鳩山由紀夫元首相、市民運動家の菅直人前首相という2人の凡庸な首相がこの条件を満たさないのは言うまでもない。

 良い手本をまねるのか、悪い見本に手を染めるのか。

 かつて、米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)移設問題で、出来もしない国外・県外移設を口走って迷走し、ワシントン・ポスト紙から「ルーピー(愚か者)」と書かれたのは鳩山氏だった。

 どじょう(loach)が持つ別の意味に「愚か者」がある(オンライン英和辞書「英辞郎」)のはただの偶然か。政見演説でみせたように下腹に満身の力を込めた外交を期待する。(ささき るい)

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