きょうのコラム「時鐘」 2011年9月4日

 東北には、砺波平野の散居村とそっくりな光景が広がる地域がある。平泉の中尊寺で有名な岩手県水沢付近である

屋敷林に守られた農家が広い水田地帯に点在していて、北陸の人にはどこか懐かしい思いがする。水沢地方だけでなく、東北には防風林を備えた散居村ふうの農村が多く、特に仙台平野の太平洋岸の屋敷林は「居久根(いぐね)」と呼ばれている

その屋敷林が、先の震災では津波被害を小さくしたという。押し寄せるがれきをせき止め、民家の崩壊を防いだケースもあったという。震災地では「奇跡の松」と呼ばれる1本の松が有名だが、海岸線の防風林の力を改めて検証する動きもある

東北は、冬の北西の風が強い。以前、砺波で開かれた「全国散居村サミット」では、屋敷の西と北側にスギ、サワラ、ケヤキなどの強力な樹木を植え、東側には竹、南側にはヒバを植えるなど細かい伝統が紹介されたことがある

風土は人間を強くする。知恵も育てる。だが、それも限界があった。防風林では放射線を防げないのである。厳しい冬の北西の風が、放射線を太平洋に吹き飛ばすのが待たれるとは辛い話だ。