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野田佳彦の就任会見 - 増税・再稼働・TPP参加の断行
今日(9/3)の朝日新聞の1面に、「復興と原発 最優先」と見出しが打たれている。野田内閣の政策方針を一言で示したもので、これは、野田佳彦自身がずっと強調してきた姿勢でもあるが、ここにもダブルミーニングがあるのに気づく。つまり、「増税と再稼働 最優先」という意味だ。野田佳彦が言葉で言う「震災復興と原発事故収束が最優先」の意味は、「増税と再稼働を最優先にする」という意味なのである。実際のところ、昨日(9/3)の就任会見での原発再稼働への意欲と方針は驚かされる内容で、代表選時には議論されていなかった具体的日程が明言され、不意打ちを食らった脱原発派は蒼然となったに違いない。年末までに、おそらく女川と東通と泊だと思うが、定期点検中の原子炉の再稼働が確実で、脱原発派は徳俵にまで追い込まれる事態となった。もっとも、年末に再稼働するという日程は、代表選時に海江田万里の口からも出ていて、野田佳彦もそれと同じであり、経産官僚の計画を政治家がそのまま喋っていることが分かる。今、院内に再稼働を止める勢力はない。春に脱原発を唱えていた政治家たちは沈黙し、マスコミも反・脱原発で斉一された。結局、事故から半年経って、史上例のない放射能汚染を拡大させながら、日本は独や伊のように原発を放棄するのではなく、原発を維持推進する道を選択することとなった。


野田佳彦の就任会見は、メッセージがシンプルでくっきりしていて、聞いていて中身が非常に分かりやすい。震災と原発が最優先だと言った後、野田佳彦は三つの指針を続けて言っている。一つは、円高による産業空洞化の危機への対策、もう一つは再稼働のコミット、三つめが財政健全化である。つまり、法人税減税と再稼働と消費税増税、この三つをやると言っている。さらに、質疑でTPPをやるのかと記者に聞かれ、「早期に結論を得たい」と言い切っている。項目を箇条書きにすると、(1)法人税減税、(2)原発再稼働、(3)消費税増税、(4)TPP参加、この四つの政策をやるのだと就任会見で宣言した。米倉弘昌や財界首脳が破顔するのも無理はない。法人税減税について、マスコミはそれを注目して取り上げないが、8/9の3党合意の中で項目として明記されている部分がある。6月の時点で、3党はこれを見送っていたが、8/9の3党合意の中で「各党間で引き続き協議する」となり、第3次補正の際の復活が予定されていた。法人税率を5%引き下げると、当然ながら税収に穴が空き、何かの増税で補填しなくてはならない。6月の3党協議では、地球温暖化対策税(環境税)が案として顔を出していた。具体的には、ガソリン税などの税率を上げて、年間2兆円の税収を確保するもので、法人税減税分(5%)の1.5兆円とバランスする。現在のマスコミの表面には、法人税減税も環境税も出て来ないが、いずれ煩く騒ぎ始めるだろう。

今、マスコミ報道は消費税について、それを「税と社会保障の一体改革」の範疇で説明し、すなわち、民主党内の合意である「2010年代半ばまで」の増税という時間軸になっている。しかし、復興増税の財源から消費税が除外されたという結論が、3党合意の中で確認されているわけでは決してなく、社会保障とは別の名目で、すなわち復興財源の方で消費税が狙われる可能性は十分に残っている。と言うより、財務省と経団連はその魂胆だろう。現在、復興債の償還財源については、時限措置で所得税がターゲットという空気が支配的である。しかし、基幹税と言う以上に中身は固まっておらず、宮城県の村井嘉浩は執拗に消費税にしろと言い続けてきた。マスコミと官僚は、村井嘉浩をマスコットボーイにして消費税を復興財源にする宣伝工作に懸命で、消費税増税に消極的な岩手県の達曽拓也はテレビに出そうとしない。安住淳の就任会見などが典型的だが、このところ、被災地を助けるために国民が広く薄く負担するのは当然だとか、被災地の復興に負担で協力するのは国民も理解しているとか、そういう類の狡猾な口上で増税を正当化する論調がマスコミ報道で目立っている。被災地を出汁にした悪質な増税の説得手法だ。この論法の中の「広く薄く」のニュアンスに、復興増税に消費税が措定されている含意が漂っている。ここでわれわれは思い出すべきだが、震災以前は、マスコミも政治家も、消費税増税を合理化する根拠として少子高齢化を挙げていた。

現役世代が支える高齢者の医療費と年金がどうだとか、5人で1人を支えていたのが2人で1人を支えなきゃいけなくなったとか、若者世代がかわいそうだから、消費税増税に応じろという脅迫の手口だった。若者世代の負担能力を上げるのなら、非正規を廃止して所得を増やしてやればいいのだが、そういう分配論の解決方向にはせず、「税と社会保障の一体改革」を支持しろという話になっていた。このところ、少子高齢化のキャンペーンは後ろに下がり、被災地を助けろという理由立てが増税論の前面に出ている。今、話題になっている09年の税制改正法の附則104条は、財政再建と社会保障を眼目にしたもので、「税と社会保障の一体改革」の範疇のものだ。しかし、消費税増税については、別に社会保障だけを費目とするものではなく、そのように財務省を拘束する法的な根拠や規定はどこにもない。だからこそ、復興財源に消費税を当てろという主張が堂々と表に出て来るのである。今のところ、自民党も民主党も、政党は復興財源に消費税を当てる策に消極的だが、このことは、裏返せば、二つの政党とも、選挙までに何とか消費税増税を片づけたいという本音を表していると言える。解散総選挙になったとき、消費税増税の賛否が争点になるのを避けたいのだ。つまり、厄介な問題を選挙前に処理したいのであり、消費税増税を決めた後に選挙をやりたいという願望を持っている。2年後に選挙が控えている事情を考えると、消費税増税は決断と決定が早ければ早いほどいいという論理になる。

選挙が近づけば、政党は消費税増税を公約に掲げるのは難しくなる。政権を奪還したい野党はそうだし、支持率が低迷している与党もそうだ。選挙が近づき、消費税増税が争点になるとなれば、必ずそこで政官再編の動きが起こり、みんなの党のような増税反対党が集票して議席を伸ばす。民意は「増税に反対」の結果に出る。2006年の参院選も、2008年の衆院選も、2009年の参院選もそうだった。どれほどマスコミが増税を扇動するプロパガンダを捲き、世論調査で固めても、選挙では増税反対の民意の結果が出る。結局、菅直人も諦めざるを得なかった。選挙で消費税増税を決める方法はリスクがあり、政党は選挙前に談合で巧く決めようとするはずだ。ねじれ国会と3党協議は、そのための天佑の環境と機会であり、3党と官僚は必ず秋から年末の時期に勝負を仕掛けて来るだろう。経済状況は悪い方に向かっていて、来年、かなりの確率で世界金融危機の再現が予想される。リーマン破綻のようなクラッシュはなくても米国と欧州のリセッションは深まっていて、日本経済も深刻な影響を受けている。代表選で候補者が言っていたような、「経済の好転」を条件に待っていたら、いつまで経っても増税のタイミングは得られず、2013年のダブル選挙では増税は先送りになる。あるいは増税反対の政党が勝つ。消費税増税を打つためには、経済環境を条件にしない理由づけが必要で、「被災地支援」は国民を説得する絶好の口実なのだ。

非常に懸念されるのは、小沢派の動向だ。人事で半ば挙党態勢が実現され、小沢派に配慮した党内融和の状況となったため、政策面での対立軸を喪失するのではないかという不安がある。これまで、小沢派はマニフェスト死守で一貫してきて、消費税増税には反対の立場で主流派への抵抗を続けてきた。今後、輿石東が調停役になり、小沢派が増税容認に傾くのではないか。TPPに対しても妥協的になるのではないか。主流派に政策で取り込まれるのではないか。もともと、脱原発では小沢一郎は旗幟鮮明にせず、一部の議員がその姿勢を見せていただけだった。原発再稼働の阻止について、小沢派に期待を寄せることはできない。残る争点は増税とTPPだが、どうも悪い予感がする。もし、主流派と反主流派の対立が党内になくなり、「ノーサイド」となった暁には、党内は増税賛成で一本となり、3党合意順守で一本となり、再稼働賛成とTPP参加で一本に纏まることを意味する。野田佳彦の狙いはそこにあり、その果実を得るべく、小沢派が憎悪した仙谷由人と岡田克也を人事から除外した。来年9月、小沢一郎は代表選に立つが、代表選は国政選挙ではない。マニフェストを裏切ったところで、国民から審判の一票を受けるわけではない。あくまで代表選は党内の争いだ。心配していた「独ソ不可侵条約」が、これから靜かに締結されるのではないか。朝日新聞を含めて、マスコミが「党内融和」の大合唱となり、小沢叩きを一転して「撃ち方やめ」にしているのは、きっとそういう思惑からだろう。

「復興と原発 最優先」ダブルミーニングにはもう一つあり、これから、政治の現場とマスコミの報道で、津波の被災地や放射能汚染で苦しむ人々への注目が減り、関心が薄くなって行くという意味だ。きっとそうなると私は確信する。野田佳彦は逆の本音を言っているのである。「最優先に忘れていく」という意味だ。この半年間、ずっと東北と福島の被災地は政治と報道の主役だった。宮城と岩手には徐々に視線が向かなくなったが、福島には目が向けられていた。しかし、農産物の汚染の問題も、除染の問題も、子どもたちの健康の問題も、農家や漁師の経営の問題も、マスコミは報道しなくなった。マスコミと官僚は、菅政権の退場と共にこれらについて幕引きをするつもりなのだ。ベクレルやミリシーベルトの話題でテレビ報道を埋めたり、脱原発の論客に電波で喋らせるのは、もう打ち止めにするのだ。被災地の人々は、野田新内閣の誕生の報道をテレビで見ながら、そのことに薄々気づいている。これから自分たちが見捨てられていくこと、口先だけは「被災地、被災地」と言いながら、実は「被災地」は政治家の出汁で、口実で、自分たちの思惑で都合よく言っている枕詞だという真実を知っている。これまで、「被災地」は政局の出汁だった。これからは「被災地」は政策の出汁になる。消費税増税と国民負担を正当化するための梃子にされる。「復興と原発が最優先」と言いながら、これからマスコミは、増税とマニフェスト潰しばかりを政治報道のネタにするだろう。オーウェルの「ダブル・シンキング」の世界なのだ。

嘘なのだ。「戦争は平和である」の皮肉と本音の表現なのだ。



by thessalonike5 | 2011-09-03 23:30 | その他 | Trackback | Comments(0)
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