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2011年9月3日(土)付

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野田新内閣スタート―「合意の政治」への進化を

 野田新内閣が発足した。民主党の幹部人事と合わせた顔ぶれには、野田首相なりの配慮がくっきりとみえる。

 一つめは党内融和だ。小沢グループからも2閣僚を起用している。その結果もあって、政権全体の印象はかなり地味だ。非議員もいない。内閣の要の藤村修官房長官は多くの有権者にとって「Who?」だろう。

 首相は党代表選のときに「支持率はすぐ上がらない。だから解散はしない」と語っていた。その言葉を政権の布陣でも実証するかのようだ。解散風に右往左往する政治を改める一歩になるならば、いいことだ。

■政治改革の93年組

 二つめは世代交代だ。首相が戦後3番目の若さだし、閣僚には5人の40歳代を配した。菅、鳩山、小沢各氏による民主党のトロイカ体制を終わらせ、党を担う人材を育てる狙いも込められているのは明らかだ。

 そして、首相、外相、官房長官、党政調会長という政権中枢が、いずれも1993年の自民党政権崩壊の総選挙に、日本新党などから挑んで初当選した点も時代の変化を象徴する。金権腐敗を指弾された自民党政治の終焉(しゅうえん)を改めて見る思いだ。

 政治家としての力量不足を危ぶむ声もあろうが、経験を積むことで成長する期待も込めて、前向きに評価する。

 三つめは、東日本大震災からの復興と、原発事故対応については担当相を再任し、喫緊の課題で継続性を重視した点だ。

 さらに社会保障と税の一体改革を担う国家戦略相と厚生労働相には、これまで党と内閣で担当してきた政治家を充てた。一から勉強している余裕などないテーマだけに、妥当な人事と言えるだろう。

 この5年で、6人目の首相である。私たちは、この新内閣が懸案を処理していくためには、国会が忘れてしまった合意形成の技術を取り戻し、政策を遂行する能力を身につけるしかないと考える。

■なじまぬ「対決型」

 かつての55年体制では、野党第1党の社会党は過半数の候補者を立てず、実質的には政権奪取をめざしていなかった。

 そのぶん、政策で実績をあげることに存在意義を見いだそうとしていた。牛歩戦術や審議拒否といった派手な抵抗は、世論の関心を高め、与党に主張をのませるための策だった。

 それが2大政党による政権争奪選挙の時代になると、野党は倒閣にひた走り始めた。与野党間の政争が日常化し、こんな問題で対決するのかとあきれられる場面が増えた。

 そして衆参ねじれが、すべてを止めてしまう。

 しかし、イデオロギー対立はとうの昔に終わっている。グローバル化や出生率低下、高齢社会の制約から、動員できる政策の幅は狭まり、手段も限られている。原発新設の道は事実上閉ざされ、原発が減るのはどの党も認めざるを得ない。

 こんな現実を見据えれば、民主、自民両党の立ち位置に抜きがたい違いがあるようには見えない。折り合える課題はもっと多いはずだ。

 野田首相は、一体改革など三つのテーマについて、民自公3党の協議機関設置を提案した。自民党は応ずるべきだ。

 年金などの社会保障制度は、政権が交代してもくるくる変えられない。その財源の手当ても与野党共通の重要課題だ。だからこそ、与野党が協力して一体改革に取り組んだほうがいい。

 いまこそ、「対決の政治」を「合意の政治」へと進化させる好機なのだ。

■二重苦の国会で

 現状では、野党が反対すれば法案は通らないので、「合意の政治」の主役は実は野党だ。強引な丸のみを要求せず、わかりやすい修正案を繰り出して真摯(しんし)に妥協を探るなら、きっと野党の側が評価される。

 有権者の側も、政党に対する評価の尺度として、政策実現への貢献度をきちんと見極める必要がある。

 いま政治の対立軸は、2大政党の間よりも、むしろそれぞれの党の内側にある。

 たとえば、増税政策を巡っては、民主、自民両党ともに容認派と反対派を抱え込んでいる。これが、政権奪取だけで結束してきた民主党と、政権維持だけで一致してきた自民党という2大政党の悲しい現実だ。

 衆参ねじれと、政策ねじれという「二重苦の国会」に、新内閣は船出していく。

 ますます、解散・総選挙が視野に入ってこざるを得ない国会論戦で、与野党の合意を得られなければ、またしても短期間で沈んでいかざるを得ない。

 この政権の先行きを左右するのは、有権者に違いない。

 国会で飛び交うであろう「選挙目当て」の甘言の実現性を確かめ、その信用性を聞き分けるかどうかだ。

 政治を変えるのは結局のところ、有権者である。

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