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2007年3月 No.100 |
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金沢大学大学院 自然科学研究科 国際保健薬学研究室 教授 木村 和子 |
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木村和子(きむら・かずこ)先生プロフィ−ル 
東京大学大学院薬学系研究科修了後、1976年より1996年まで厚生省(現:厚生労働省)生活衛生局・薬務局、人事院に勤務。その間1983年には、人事院短期在外研究員として米国国立薬物乱用研究所等へ(半年)。1996年、WHO/HQ(本部)医薬品部へ出向。1999年医薬品機構、2000年金沢大学大学院国際保健薬学教授、現在に至る。2001年より国際厚生事業団医薬品部会委員、2005年〜2007年、WHO/WPRO(西太平洋地域事務局)西太平洋地域必須医薬品アクセス改善技術顧問グループ委員を歴任。2006年より日本製薬工業協会/カンボジアカウンターフィット薬プロジェクトに参画中。

ご意見の要旨
- 現在、カウンターフィット薬(偽造医薬品)は、ライフスタイル薬、抗HIV薬、抗がん剤、抗生物質、解熱鎮痛薬等、あらゆる薬に対して存在している。

- WHOはカウンターフィット薬の定義を「故意に、また詐欺の目的をもって内容や出所・起源に関して偽表示された医薬品」と定めている。従って正しい有効成分を含有するものもあれば、誤成分や無成分のものもある。

- カウンターフィット薬の存在は先進国では医薬品の1%未満、アジア・南米の一部、アフリカの多くの国では30%と言われている。また、発展途上国全体では10%〜30%、旧ソ連邦諸国では20%を超えているという。更に、米国の啓発機関から、カウンターフィット薬は、2010年迄に、現在の20倍以上になるという報告も出ている。

- WHOは、国際的な偽造医療品対策タスクフォース「IMPACT」を設立し、カウンターフィット薬の撲滅に本腰を入れ始めた。世界の国々でカウンターフィット薬に対する認識は急激に高まっており、例えば米国でも、カウンターフィット薬タスクフォースが設置され、医薬品卸に販売履歴の交付義務化などの対策が講じられている。

- カウンターフィット薬は、疾病の悪化という個人レベルの問題から、医療に対する信用の失墜という社会的問題、そして、組織犯罪やテロリズムの資金源という国際平和に関わる問題まで内包している。

- カウンターフィット薬対策としては、先進国・発展途上国それぞれの段階に応じて医薬品の普及システムを盤石にすることが重要である。それによって、カウンターフィット薬の入り込む隙が無くなり、真正品が患者さんに行き届くことになる。また、患者さんは日本国内で、薬局など確かなところから医薬品を購入することが偽造医薬品禍に遭わない最良の方法である。
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カウンターフィット薬 (偽造医薬品)とは
カウンターフィット薬には、ライフスタイル薬、抗HIV薬、抗がん剤、抗生物質、降圧薬、抗高脂血症薬、解熱鎮痛薬、抗マラリア薬等、何でもある。
WHOは1992年に、初めて偽造医薬品にフォーカスを当てた国際ワークショップを行い、カウンターフィット薬の定義を「故意に、また詐欺の目的をもって内容や出所・起源に関して偽表示された医薬品」と合意した。先発品に対する偽造医薬品もあれば、ジェネリックの偽造医薬品もある。正しい成分を含有しているものも、誤成分や無成分のものもある。有効成分含量が十分なものも不十分なものもある。要は、真の姿を偽装して譲渡されるのがカウンターフィット薬なのである。

世界に蔓延するカウンターフィット薬
医薬品の品質への懸念の歴史は医薬品の歴史と同じくらい古い。紀元前4世紀には不良医薬品の危険性に対する警告が出ており、1世紀のギリシャ時代の医師は、不良薬を自ら同定し、発見するよう助言している。
現在のカウンターフィット薬の蔓延状況は、WHOの報告によると、米国、EU、オーストラリア、日本、カナダ、ニュージーランドなどの先進国では、販売されている医薬品の1%未満であるが、アジアと南米の一部、アフリカの多くの国では30%を超え、発展途上国全体では10%〜30%、旧ソ連邦諸国では20%を超えている。また、本当の住所を隠したインターネット販売では50%以上が偽造医薬品であると見積もられている。この数字の根拠は当局からの報告、地域や医薬品の研究、医薬品セクターやNGOの報告やサーベイによるもので、正確な数値というよりも世界的なレベルの目安である。注1
金額ベースでは、世界の医薬品の総売上5,659億USドル(2005年)注2に対して、米国食品医薬品局は、カウンターフィット薬の売上を35億USドルと見積もっている。
アメリカの公益医薬品センター(CMPI)は、カウンターフィット薬の撲滅策が採られない限り、2010年迄に750億USドルに達すると予測している。注3

WHOの取り組み 「IMPACT」
WHOは、2006年2月に、国際的な偽造医療品対策タスクフォース「IMPACT」(International Medical Products Anti-Counterfeiting Taskforce)を設立した。議長はWHOの事務局長補で医療技術・医薬品部門を統括するHoward Zucker博士が勤めている。WHOの強いイニシアティブを示している。
「IMPACT」の目標は、国際共同ネットワークを構築し、カウンターフィット薬の製造、取引、販売をなくすことである。参加者は、国際機関、NGO、取締機関、医薬品工業協会等の国際団体、各国薬事規制当局など、カウンターフィット薬撲滅に取組む組織である。IMPACTは「総会」のほか「法令」、「施行」、「取締り」、「テクノロジー」、「コミュニケーション」の5つの作業部会から成る。
「法令部会」は模範的法令を作成する。「実施部会」は法施行の環境整備を図り、「取締部会」はインターポールも加わりカウンターフィット薬の取締強化策を練る。「テクノロジー部会」はカウンターフィット薬に対抗する技術情報を集め、特に発展途上国でも利用できるテクノロジーの同定を行う。「コミュニケーション部会」はカウンターフィット薬問題に対する世界的な認識の高揚とともに、蔓延実態データの収集・解析法を開発する。
これらの作業を部会毎に進めており、2007年秋の総会において各部会が検討状況を報告する予定である。これが発火点となって、国際的な動きが加速すると考えられる。

米国・ヨーロッパ・日本の動き
米国では、90年代にFDAが捜査したカウンターフィット薬事件は年間平均5件しかなかったが、21世紀になって急増し、2004年には58件に達した。米国は2003年にカウンターフィット薬タスクフォースを設置し、カウンターフィット薬に対抗する新技術やその他の対策の同定に努めている。
2006年12月からは、製造業者と公式に認可された処方せん薬卸売業者以外の卸売には、譲渡の相手方に販売履歴の交付を義務付けた。
ヨーロッパでもカウンターフィット薬に対する取り組みが進んでおり、2006年1月欧州評議会がカウンターフィット薬調査報告書を公表し、同年9月には、ヨーロッパ議会がカウンターフィット薬を緊急事態とするEC決議を採択した。
日本政府は、1995-1997にWHOカウンターフィット薬プロジェクトを支援したほか、(社)国際厚生事業団が、1993年以降不正医薬品対策事業としてカウンターフィット薬に取り組んでいる。更に2006年には、日本製薬工業協会がカンボジア政府と偽造医薬品プロジェクトを開始するなど、カウンターフィット薬に関しては積極的かつユニークな取組みを長年実施しており、国際的にも高く評価されている。
2005年のグレンイーグルズサミットで、日本は知的財産立国を目指す国家戦略に基づき、当時の小泉首相が模倣品・海賊版拡散防止条約を提唱した。これは偽造品全般を対象としているが、偽造医薬品対策にも影響を与えるものである。

カウンターフィット薬が及ぼす影響
カウンターフィット薬には、有効成分が含まれているものもあれば含まれていないものもある。別の物質が入っていることもある。十分量の有効成分が含まれなければ、当然、治療効果が得られないばかりか、症状を悪化させたり、甚だしい場合には死につながる。有害なジエチレングリコールが添加されたカウンターフィット咳止めシロップにより、世界各国で大勢の犠牲者が出ていることは周知である。
また、発展途上国で暫々出現する抗生物質のカウンターフィット薬は、含量不足であれば、耐性菌の出現を招く。現在、抗生物質の耐性菌は、世界中で問題になっているが、カウンターフィット抗生物質がこの問題に拍車をかけている可能性もある。
一方、有効成分が含まれておらず効き目の悪いカウンターフィット薬が蔓延すれば、医薬品への信頼が失われ、医療者や医療に対する信頼も失墜する。
カウンターフィット薬が出回れば、当然、本来売れるべき真正品の販売にも影響し、新薬の研究開発をも阻害することにもなりかねない。また、インターポールは、カウンターフィット薬の利益が組織犯罪やテロリズムの資金源になっていると警告している。

偽造医薬品禍に遭わないために
いくら良い医薬品が研究開発されても、医薬品が患者さんに渡る社会システム(医薬品普及システム)が未熟であれば、結局、必要としている患者さんに医薬品は届かない。また、医薬品普及システムの脆弱な部分からカウンターフィット薬が侵入し、患者さんの手に真正品に代わって届いてしまう。従って、医薬品普及システムを整備・強化することは、医薬品の開発と同様に大切なことである。
また、患者さんの立場からは、医師や薬剤師の指導のもとに、日本国内で薬局や医療機関など確かなところで医薬品を入手することが偽造医薬品禍に遭わない最良の防衛策である。

注1 |
World Health Organization, Counterfeit Medicines: an update on
estimates 15 November 2006 http://www.who.int |
注2 |
IMS MIDAS , MAT Dec 2005 |
注3 |
Center for Medicine in the Public Interest, The New Scientist Cites CMPI’s Counterfeit Drug Market Estimates |

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