内部被曝を考える上で外部被曝と根本的に異なる7つの重要な視点、ポイント。
ポイント① 外部被曝はガンマ線のみ。内部被曝では、強力なアルファ線、ベータ線が加わる。
ポイント② 外部被曝では、ガンマ線放射体のセシウム137などが主。内部被曝では、ベータ線放射体のストロンチウム90が加わる。
ポイント③ ガンマ線放射体のセシウム137検出は容易。ガンマ線を出さないストロンチウム90は検出が困難。
ポイント④ (重要)原発事故などでは、セシウム137とストロンチウム90はほぼ同量生成する。セシウムがあれば、必ずストロンチウムがある。
ポイント⑤ 透過力が強いガンマ線に比べて、アルファ線やベータ線は透過力は極めて弱く、線源に密着させない限り検出不能。
ポイント⑥ 外部被曝はガンマ線による広範囲な被曝。内部被曝は体内の局所からの継続的・集中的被曝。低線量でも被曝量はケタ違いに大。
ポイント⑦ 全身の被曝量を調べるホール・ボディ・カウンターでもわかるのはガンマ線だけ。アルファ線やベータ線は飛距離が極めて短く、体外からは検出できない。
これからの内部被曝の欄を読んで頂く際には、外部被曝との決定的な違いである上述7つのポイントを常に念頭に置いて頂きたい。
これまで被曝といえば外部被曝が主な問題とされてきた。外部被曝は、セシウム137などガンマ線放射核種によるガンマ線が主で、飛距離が極めて短いアルファ線やベータ線は計算に入れられていない。ガンマ線を出さないストロンチウム90はいわば無視されている。
ところが、内部被曝となると話は根本的に異なる。ガンマ線のほか、アルファ線、ベータ線も主役に躍り出るからである。そうなると、ストロンチウム90はとても無視できない存在となってくる。
ストロンチウム90はガンマ線を放出しないが故に、測定がむつかしい核種である。多くの放射性核種はガンマ線の放出体であり、放出するガンマ線のエネルギーの強さはそれぞれの核種によって特異的であることから、ガンマ線のエネルギーを測定することによって、含まれている核種を特定することができる。一般の放射線量計は、ガンマ線の強さで外部被曝での被曝量を測定している。例えば、エネルギーが0.662エレクトロンボルトのガンマ線が測定されれば、セシウム137があるといった具合だ。だがこのようなガンマ線だけの測定では、ガンマ線を出さないストロンチウム90は見落とされてしまう。
ストロンチウム90の検出がいかに難しいか紹介しておこう。半導体検出器があれば、セシウム137などガンマ線放射体は簡単に検出できる。しかしストロンチウム90はガンマ線を放出しない。では、どうするのか。
まず一般の化学分析と同じように、手間ヒマかかる化学的な方法で試料からストロンチウム90を分離する。これには10日ほどかかる。
この分離したストロンチウム90のベータ線の測定だが、これには数時間かかる。ところがその間に、ストロンチウム90はベータ線を放出する度にイットリウム90という物資にどんどん変化している。これでは2つが混ざってしまって正確な計測はできない。
いずれもベータ線の放射体で、ストロンチウム90では0.94メガエレクトロンボルトにエネルギーの山があり、イットリウム90で2.27メガエレクトロンボルトが山だ。これだとイットリウム90の山に隠れて、ストロンチウム90は見えにくい。
そこで逆転の発想を使う。生成されたイットリウム90の量を測定して元のストロンチウム90の量を推定するという方法である。イットリウム90が一定量出来るのを待つわけだが、これには2週間ほどかかる。
ストロンチウム90の計測は非常に大変なことがお判りであろう。新聞などではセシウム137の計測値は毎日発表されていても(これでも通常30~60分かかる)、ストロンチウム90の値はあまり見かけないのはこのためだ。
ただ、測定がむつかしくてもストロンチウム90の量は推定できる。核分裂では、ストロンチウム90はセシウム137とほぼ同じ量生成される。従って、発表にはセシウム137と同じ量のストロンチウム90が隠れていると考えるのである。
ただしストロンチウム90は、セシウム137のように華々しく周辺に放射線をまき散らす存在ではない。体内に入って、周辺1cm以内に存在する細胞を攻撃する。体内被曝で重要視される由縁である。むろんセシウム137もベータ線やアルファ線を出しており、体内に入るとガンマ線とともに周辺を攻撃する。
(多摩大学名誉教授 那野比古)