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[25893] 戦いの申し子(ネギま!×DBオリ主)3スレ目
Name: トッポ◆9bbc37c8 ID:0233eae3
Date: 2011/02/08 01:26
どうもトッポです。

例に習ってまた新しくスレを立てる事にしました。

いい加減にしろ!と、思われる方もいると思いますが、寛大な心で読んで下さると幸いです。




[25893] 終焉と、始まりと
Name: トッポ◆9bbc37c8 ID:0233eae3
Date: 2011/02/08 02:06




「これで全てが変わる。この俺の運命、カカロットの運命……そして!」
「…………」
「貴様の運命も!!」

今、一つの星の存亡を賭けてたった一人の男が強大にして絶大な力を持つ存在に最後の戦いを挑んでいた。

右手にありったけの力を集め、男は目の前の敵を睨み付ける。

対するその敵は指先に小さな光を宿すだけ。

椅子に座り、その堂々たる態度は玉座に佇む王そのもの。

宇宙の帝王、それが彼の者のもう一つの名である。

「これで、最後だぁぁぁぁぁっ!!」

男はありったけの力を集めた……渾身の、魂を込めた一撃を放った。

男の放った光は一筋の矢となって宇宙の帝王を討たんと突き進む。

しかし。

「はぁぁぁぁっ!」

王は愉快に叫ぶと指先の光を巨大化させ、男の放った光を呑み込んでしまう。

「な、何っ!?」

渾身の、文字通り全ての力を出し切っての一撃が全く通用していない事実に男が目を見開くと。

王は巨大化させた光の玉を手を前に倒す事でそれを操り。

「っ!!」

王の放った光の玉は周囲の部下諸とも捲き込み、男を包み込んでいく。

そして、極限にまで膨れ上がった玉は、そのまま星へとぶつかる。

呑み込まれ、星と共に消え行く男。

だが、その顔は絶望に染まってはいなかった。

何故なら、男の目には既に別の光景が映っていたからだ。

そう遠くない未来、自分の血を引いた者が全てを背負い、あの怪物――フリーザに挑む光景が。

「カカロットよぉぉぉっ!!」

光に呑み込まれながら、男は自分の息子の名を叫ぶのを最期に、故郷の星と共に宇宙の塵となった。

――EG737年。

この日を境に、全てが始まるのだった。


















――白い。

上も下も、右も左も、全てが白に統一された場所。

否、それは何もない空間。

世界という概念、生命という息吹き、死という孤独、その全てが存在しない。

白という闇、ただそれだけが支配する空間。

しかし。

「漸く始まったか」

真っ白に染まった世界に一つの異物が何の前触れもなく現れた。

「また……始まる。破壊という輪廻が、創造という因果が――」

それは人なのか、それとも幻なのか、何もない世界にある筈のない“ソレ”は呟きと共に上を見上げる。

「一体幾度繰り返せば、この悲劇の螺旋から抜け出せるのだろうか……」

悲しげに、儚げに、ソレは嘆きの言葉を漏らす。

「さぁ、続きを始めよう」

高らかに、ソレは宣言する。

大きく両手を広げるソレは、まるでオーケストラの指揮者の如く大らかに。

そして、その動作と共にソレの背後に一枚の巨大な扉が現れる。

そして二枚、三枚と数を増やし、扉はいつしかソレを囲み無数となり、白の空間を埋め尽くした。

「あり得る筈のない、交わる事のなかった物語を……それこそが」


















―我ら“カノム”の―























“悲願”なのだから






















「はぁ、明日が憂鬱だなぁ〜」
「何やネギ、お前明日の本選楽しみやないんかい?」
「そりゃそうだよ、明日は下手したら自分の生徒と戦わなくちゃならなくなるんだよ?」

大会の予選も終わり、トーナメント表を確認したネギ達は明日の本選に備えてエヴァンジェリンの別荘で修行しようと、未だに祭りで騒ぎ続けている学園を背後に師匠の自宅へ歩いていた。

小太郎や古菲、楓に高音も同様に修行するつもりなのか、ネギの隣で肩を並べて歩いている。

「まぁ、そう落ち込むなネギ坊主」
「そうアルヨ、幸いあのアーニャというネギ坊主の幼なじみはトーナメントの反対側だから、ネギ坊主と戦うには決勝という事に……」
「ちょ、古菲さん!」

そこまで言い掛けて、古菲はハッとなり口を閉ざすが。

「アーニャ……」

今まで忘れていたものが呼び覚まされ、酷く落ち込むネギ。

地面で項垂れるネギにどうすればいいか分からず、古菲は残りの三人に助けを求めるが。

こういう場合、どうすればいいか分からない二人は面倒事から回避しようと見て見ぬフリで誤魔化そうとしていた。

結局、あの後ネギとアーニャはマトモに会話する事など出来ず。

『良いわねネギ、決勝で必ずアンタをボコボコにしてやるんだから!』

とだけ告げ、さっさと予約していたホテルへ帰っていったのだ。

誤解したままの状態にネギはどうすればいいか分からず、ズルズルと現在まで至る。

「まぁ気にする事はないでござるよネギ坊主。アーニャ殿と和解するには大会で決勝に行けばいいだけでござるよ」
「それが出来れば苦労しませんよ〜」

見兼ねた楓がフォローするも、涙声混じりのネギの返し言葉に言い返せなくなる。

ネギ側の出場選手は高音、楓、更には真名と言った強者達の勢揃い。

しかもその内の殆どがネギの生徒であるため、ネギにとってはやりにくい事この上なかった。

しかも、アーニャ側の選手達も小太郎といった実力者もいる。

そう簡単には……。

「あ……」

そこまで思い出すと、ネギは小太郎の方へ向き直る。

小太郎の対戦相手、それはクウネル=サンダースと名乗る人物。

あの麻帆良超決戦の際には師匠であるエヴァンジェリンと肩を並べられる実力を有する謎の多い男。

最初からいきなり強敵と戦う事となった小太郎にネギは戸惑っていると。

「何やネギ、もしかして俺が負けると思ってるんか?」
「!」

いきなり図星を言われ、激しく動揺するネギ。

そんな彼に小太郎はやれやれと肩を竦める。

「……まぁ、お前が思ってる通り。運悪くかなりの強敵と初っぱなから当たるハメになったのは認める。せやけどな」
「?」
「俺は知っている。奴よりも遥かに強い化け物を」
「っ!!」

小太郎のその一言にネギ達の頭に一人の少年の姿を思い出す。

「俺が望む強さはまだまだ遥か彼方や、この程度で躓く訳にはいかん。絶対明日はアイツに勝って……ネギ!」
「っ!!」
「お前と決勝で戦う」

拳を突き出され、不敵に笑みを浮かべる小太郎にネギもこれまで悩んでいたものが吹き飛び、自然と笑える様になっていた。

「ようし! そうと決まれば早く戻って修行アル!」
「その時は拙者も真剣に当たらせて貰うでござるよ。手を抜いてしまっては失礼でござるからな」
「は、はい! 宜しくお願いします!!」

気合いも入り、意気込みも充分となったネギに一先ず安堵する一同。

ヤル気を取り戻したネギに高音がヤレヤレと軽く溜め息を漏らすと。

(そう言えば、何も決勝に限らず控え室とかで事情を説明すれば……)

そんな事が頭に浮かび、ネギに伝えるかどうか僅かに悩むが。

この空気を壊すかもしれないと、ネギは思い浮かんだ提案をそっと胸の奥へしまいこんだ。

そして、一向はそのままエヴァンジェリンの別荘へ足を踏み入れるが。
















「明日菜! しっかりして!」
「明日菜さん!」
「……え?」

ボロ雑巾となって横たわる明日菜に必死に治癒魔法を施す木乃香と、止血剤やら包帯等を別荘の城から持ち出してくるシルヴィや刹那の光景にネギ達は言葉を失った。

「やっぱりダメ! 内臓や内側のダメージを軽減させるのが精一杯や! もっと止血剤と綺麗な包帯と暖かいお湯を!」
「はい!」

血だらけとなり、身動き出来ないでいる明日菜。

全身から流れる血を止めようにも外傷だけではなく、内側の内臓に蓄積されたダメージも無視できない。

しかも、何故か魔法の効果が得られにくい事が木乃香達の焦りを一層加速させる。

しかし、数ヶ月に渡り別荘で医学の勉強をしてきた木乃香は外傷の対応をほぼ完璧にこなし、一番酷いとされる内臓の治癒へ専念する事にし、どうにか危機的状況を打破する事ができた。

やがて全ての治療を済ませた木乃香が、ネギ達が見ている事に気付かず数十分、額から流れる大粒の汗を拭い。

「これで、何とかなった筈や」
「お疲れ様です。お嬢様」
「せっちゃんもシルヴィさんも、本当にありがとうな」
「いえ、私は別に」

さっきまでとは違い、血の通った顔色の良い明日菜が寝息を立てているのを見て、漸くネギ達は我に返った。

「ちょ、ちょちょちょっ!!」
「な、何があったんですか木乃香さん!!」
「あ、ネギ君に皆、来てたんか」

酷く混乱して駆け寄ってくるネギ達に対し、重傷だった明日菜を助けられた事で落ち着きを取り戻した木乃香が笑顔で招き入れた。

「どうして明日菜がこんなにボロボロアルか!?」
「それは……」
「ソイツハオ前達ガ外ニイル間、ズットバージルト修行シテイタンダヨ」
「っ!?」

突然聞こえてきた第三者の声、ネギ達がその声の主の方へ振り返ると。

「感謝シロヨ、死ニカケダッタソイツを此処二連レテ来タノハ俺ナンダカラヨ」
「チャチャゼロさん!?」

手を頭の後ろで組んで、ヘラヘラと笑みを浮かべているチャチャゼロが佇んでいた。

「明日菜さんがバージルさんと修行って……一体どういう」
「ドウモコウモ、ソイツガ自分デ望ンダ事ダ。尤モ、半分強制ダガナ」

ネギの質問にケタケタと笑いながら答えるチャチャゼロ。

「よし、取り敢えずウチが出来る事は全部やった。暫く様子を見るからベッドのある部屋で休ませてやらんとな。せっちゃん、楓、手ぇ貸して」
「御意」
「し、承知した」
「わ、私も何か手伝うアルヨ!」
「それじゃ、く〜ふぇは飲み水と綺麗なタオル持ってきて、明日菜の看病に使いたいから」
「分かったアル!」

止血や応急措置の類いも終わり、一先ず一命を取り止めた明日菜を安静させる為、木乃香は刹那と楓に部屋へ移動する為の人手を借り、城の中へと戻っていく。

城の中へ消えていく木乃香達を後を置い、ネギは様々な疑問にチャチャゼロを問い詰めたくなるが、一先ず呑み込み木乃香達が向かった部屋へと足を進めた。

そして、その場に残されたのは小太郎と高音、チャチャゼロ……。

「そんで、アイツは今何しとるんや?」
「ア?」
「バージルや。何や姿が見えへんけど、まだ修行しとるんか?」

小太郎は辺りを見渡すが、バージルらしき人物の気配は感じられない。

小太郎の何となく発した質問に対し、チャチャゼロはどこか苦笑いに似た表現を浮かべ。

「アァ、アイツナラ……多分」


















雪山地帯。

エヴァンジェリンの別荘にて存在する修行場所の一つ。

ヒマラヤを模した高山で時には吹雪が猛威を奮う地帯だが。

「どうした? もう終わりか?」
「……ふ、相変わらずの化け物め」

無数の山々がたった二人の戦闘によって、全て破壊されていた。

辺りにあるのは山だったものの残骸。

幾つもある巨大な岩石の一つに、かの悪の大魔法使い、エヴァンジェリンは磔にされていた。

その体には幾つもの傷痕が刻まれ、その表情には疲労が色濃く表している。

だが、その目は不敵に笑い、自分をここまで追い詰めた張本人を射抜く。

彼女の視線の先には服だけが破けた少年が一人。

「こんなものか? 闇の福音」

その手に集めた光を、身動きの取れないエヴァンジェリンに向かって射ち放った。

















〜あとがき〜
今回は漸く物語の中枢に触れるような描写を入れてみました!

……在り来たりな展開ですみません。

駄作者である自分にはこれくらいしか浮かばんのです……。

それはさておき、今年4月に第二次スパロボZが発売されますね!

これは私の妄想ですが、実はリアル系男を主人公に選べばロスカラのライとなるのでは!? と、思っています。

選択肢次第で騎士団入りか軍入りか。

wktkが止まらん!



[25893] 失望と、目標と
Name: トッポ◆9bbc37c8 ID:fa759a0e
Date: 2011/02/24 19:10






エヴァンジェリンの別荘、高山エリア。

先刻までは巨大な山脈で覆われていた光景が、たった数十分で荒れ果てた荒野へと変わっていた。

辺りに転がるのは、先程まで山の一部だった岩石。

凄惨と化した大地に、一つの溝が出来上がっていた。

溝の長さは数キロにまで及び、その窪みは谷と見間違いそうな程に深い。

溝が出来たとされる地点には、バージルが左の掌を突きだしている。

そして、バージルの掌の先には満身創痍の姿となったエヴァンジェリンが、谷となった岩壁に叩き付けられていた。

「ぐ、がはっ……」

血を吐き出し、エヴァンジェリンは激しい痛みが全身を駆け巡る事で意識を覚醒させる。

危なかった。

バージルの掌に光が集まった瞬間、障壁を最大限に高めた事で何とか直撃を避ける事が出来たが。

(ただの衝撃波だけでこの様とはな……)

防御に殆どの魔力を使った為、エヴァンジェリンの体には再生させる程の余裕はなかった。

傷だらけとなった体、エヴァンジェリンは磔にされた状態から抜け出し、何とか谷となった大地から這い出ると。

「…………」
「ふ、何だ。もう来たのか」

目の前には既に、自分をここまで追い詰めた張本人であるバージルが佇んでいた。

「……早く立て、まさかこれで終わりじゃないだろ?」

エヴァンジェリンを見下ろす瞳、以前ならそれは全てを呑み込む黒い闇として相対する者全てを怯ませていた。

だが、今のバージルの瞳には僅かな曇りが見える、

その瞳を真っ正面から見据えたエヴァンジェリンは、フッと笑みを溢す。

「……クク、やはり流石の貴様も言葉による動揺は隠しきれないとみる」
「何?」
「意外と可愛い所あるじゃないか」
「……………」

エヴァンジェリンの挑発とも言える言葉に、無表情を貫いていたバージルの顔が僅かに歪む。

それが益々面白いのか、エヴァンジェリンは愉快そうに声を出しながら笑う。

「ククク、どうした? 何をそんなに動揺している? 貴様らしくない……なっ!!」

本来、得意分野ではない遅延呪文。

予め詠唱を完了していた魔法を待機させ、タイミングを見計らって発動させる高等魔法戦闘技術。

エヴァンジェリンはバージルの放った閃光を受ける際、この方法を使って魔法の発動を意図的に抑え。

その魔法を闇の魔法によって取り込み、肉体を最大限に強化させ。

最大の力を以て、バージルの横っ面に拳を叩き込む。

ドゴンッと大気が震える程の衝撃がバージルの顔を貫く。

しかし。

「……こんなものか?」
「っ!」

バージルの表情にはダメージを受けた様子も怯んだ様子も見られなかった。

そして、エヴァンジェリンの手首を掴み上げ。

「ズアッ!!」
「がっ!?」

返しの拳がエヴァンジェリンの腹部にめり込む。

衝撃が貫き、背中の服を破いていく。

意識を一気に失いかけるエヴァンジェリンに対し、バージルは更なる攻撃を加える。

「ヌンッ! ゼァッ!」
「……ぐっ、がっ」

一撃、二撃、掴んだ手首を離さず、バージルは残った片方の拳でエヴァンジェリンを殴り続けた。

人を殴り付ける鈍い炸裂音が、広大な荒野に響き渡る。

そして。

「ヌゥラァァァッ!!」

血塗れとなり、抵抗する意志すら無くしたエヴァンジェリンをバージルは無造作に投げ飛ばした。

二転、三転、何度も転がって漸くうつ伏せた状態で止まるが。

エヴァンジェリンは動く事はなかった。

真祖の吸血鬼である彼女からして、死んではいない筈。

「立て」

何の反応を示さないエヴァンジェリンに、バージルは苛立った声を上げる。

「散々俺に講釈を垂れたんだ。まさかこれで終わる訳ないだろうな?」
「…………」
「俺はまだ全力を出していないぞ? 幾らお前が不死だろうと俺が全力を出せば唯では済まないだろう?」
「…………」
「いい加減見せろよ。お前の全力を」

バージルはこれまで、自分に出来る限りの修行を取り組んできた。

筋力を上げる為のトレーニング、反射反応を鍛える為のトレーニング。

自ら生み出したイメージとの限界ギリギリの死闘。

幾度となく大怪我を負い、時には死に掛けた事もある修行を、バージルは進んで行ってきた。

極め付きは重力制御による力の制限。

鍛え、力を付ける度に感じる重みに今では心地よささえ覚える。

慢心しているつもりはない。

今相手にしているのは数百年の時を生きる大魔法使い。

その強さは自分が探しているナギ=スプリングフィールドと同レベルのものだろう。

自分よりも数百倍の時間を生きる彼女とでは、戦いの経験では覆せない程の開きがある。

今一方的なのは恐らく自分の方が力を出しているだからだろう。

同じエンジンを積んだマシンでも、エネルギーの使い方次第で変わる。

きっとエヴァンジェリンはまだまだ実力を隠しているに違いない。

バージルはエヴァンジェリンの反応を伺いつつ、拳を握り締めて次の攻撃に備える。

すると。

「………ククク、ククククク」
「?」
「ハーッハッハッハ!」

いきなり声を出して笑うエヴァンジェリンに、バージルは虚を突かれる。

何がそんなに可笑しいのか、笑い転げているエヴァンジェリンにバージルは困惑していると。

「お前、まさかまだ私に力が残されていると……本気で思っていたのか?」
「……何?」
「全力さ、今までの戦いの中で私は一切手を抜かなかった」

一瞬、バージルはエヴァンジェリンの言葉が理解出来なかった。

全力? あの程度で?

「……どういう意味だ」
「そのままの意味さ、私は手加減などしていない。今までの私が貴様の言う全力だ」

……信じられない。

エヴァンジェリンは何らかの目的があって今までやられていたのではなかったのか。

(じゃあ、俺は今まで俺より弱い奴を相手に好き勝手に殴り付けていたのか?)

エヴァンジェリンの表情からして嘘は言っていない事は理解出来る。

自分よりも弱い相手を殴り、蹂躙した。

しかも相手からではなく自分から仕掛けて。

何と惨め、何と無様。

バージルは自分がした行動に対し、怒りを覚えた時。

「失望したか? だが、貴様の言っている事は少々無理だと思うがな」
「何?」
「お前は自分が今どれ程強くなっているか分かっているのか?」
「知るか、イチイチ自分の強さを知る余裕等、俺にはない」

バージルはこれ迄、ジャック=ラカンを倒す為に力を付ける事に努力を惜しまなかった。

ターレスと戦った時もそうだ。

死に掛けてまでターレスを倒したのは、ラカンという最大の標的を倒す為に必要だったから。

バージルにとって、ターレスというのは宿敵と同時に自分が強くなる為の糧でしかない。

バージルの中ではラカンという男が最大にして最強の存在。

どれ程強くなっても満足する事のないバージルが、今の自分の強さについて理解出来ないでいるのはある意味では当然なのだろう。

しかし。

「ならはっきり言ってやる。貴様は強くなりすぎたんだよ。少なくともこの地球上でお前に敵う者は存在しない」
「っ!?」
「ククク、まさか本当に気付いていなかったとはな。喜べ化け物、貴様はこの地球で最強の生命体だ。無論、表裏問わずの掛け値なしの……な」

それだけの言葉を残し、エヴァンジェリンは力尽き、気絶した。

沈黙が静寂となり、冷たい風がバージルの髪を撫で上げる。

倒れ、気絶するエヴァンジェリンと、傷らしき傷も受けずに悠然と佇むバージル。

端から見れば紛れもなくバージルの完勝だが……。

「…………」

バージル本人は、酷く悔しそうにその顔を歪ませていた。






















静まり返る麻帆良学園の街並み。

今はまだ整理されておらず、瓦礫の山となっている立ち入り禁止区域で、バージルは廃ビルの屋上で座り込んでいた。

「……俺が、強くなりすぎた、か」

頭に浮かぶのはエヴァンジェリンから聞かされた自分の強さ。

自分は強くなりすぎた。

ターレスを無意識の内に打ち破ったあの日から、既にこの地球上で自分に勝る生命体は存在しなくなった。

表裏問わず、掛け値なしの最強。

普通、ここまでおだてられては誰だって舞い上がる。

しかし。

「……ふざけやがって」

バージルの表情には、嬉しさの色など微塵もなく、あるのは失望だった。

「もし……もし闇の福音の言う通り、俺が強くなりすぎたのだとしたら……」

エヴァンジェリンは闇の福音や不死の魔法使いと恐れられた存在。

そして自分が探している千の呪文の男、ナギもエヴァンジェリンと同等の力を持つとされている。

そんな最強格の片割れをあっさりと超えてしまった事実が、バージルに喪失感を味あわせている。

行き場のない虚しさと苛つきが、バージルの胸の奥でモヤとなって渦巻いていく。

と、その時だった。

「ここにいたのですか」
「……お前は」

ふと聞き慣れた声が聞こえ、振り返ると、シルヴィが佇んでいた。

バイオリンの入ったケースが片手に握られているのを見ると、簡単な身支度を済ませている事に気付く。

一体どこに行くのか、そんな疑問が過るが同時に答えが閃く。

「……奴の所へ戻るのか?」
「……はい、今のこの時間帯なら見回りもいないでしょうから」

奴、それは間違いなくフェイトの事だろう。

バージルはそれだけ聞くと、夜に浮かぶ月を見上げる。

「あ、あの!」
「?」
「バージルさん、私と一緒に来ませんか!?」
「…………」

沈黙。

シルヴィからの突然の誘い、普段のバージルならここで何処へと聞き返すが、この時は何も応えず、ただ欠けた月を見つめるだけだった。

「今回、貴方と一緒に学園祭を回って確信しました。貴方は間違いなく此方側の人間です!」
「…………」
「貴方の力を見た者は恐れ、危惧し、軈ては貴方を第二の脅威とみなすでしょう」

必死にバージルを勧誘するシルヴィ。

彼女の握り締められた手は震え、その表情は憤怒の色に染まっていた。

バージルは地球を救った英雄で、謂わば魔法世界に於けるナギと同格の存在。

だというのに、世間はその英雄に対して畏怖し、まるで化け物を見る目で蔑んでいた。

シルヴィはそれが我慢出来なかった。

「貴方が来てくれば、フェイト様もきっと喜びます! 他の皆にも私が必ず説得しますから!!」
「……いい加減にしろよ」
「っ!?」
「さっきからベラベラと、余計な事言いやがって」

静かな、だけど激怒に燃えるバージルの呟きにシルヴィは押し黙らせられる。

「奴に、フェイト=アーウェルンクス伝えろ。俺も魔法世界へ向かう。首を洗って待っていろとな」

それだけ伝えると、バージルからは口を開く事はなく、再び静寂が二人を包んだ。

「……分かりました。それでは失礼します」

シルヴィもそれだけ伝えると、少しだけ寂しそうな面持ちで暗闇の中へ溶ける様に姿を消した。

静かになり、再び夜風がバージルの髪を撫でる。

「……そうだ。俺には倒すべき敵がまだ残っていた」

フェイト=アーウェルンクス、そしてジャック=ラカン。

決着を付けるべき相手は共に魔法世界。

ならば。

「待っていやがれ、必ず俺がお前達をブッ倒す!」

それまで大人しく待っていろと、バージルは夜空に浮かぶ月を見上げ続けるのだった。















〜あとがき〜
バージル、次回から再び魔法世界に向かう準備を始めます。

その間、ネギ達の話に移ろうと思います。

……てか、本当に更新遅くてすみません。

PS
ネギま劇場公開! おめでとう!

PS2
先日発売されたネギま33巻を買って一言。

龍宮さんのファスナーになりたいハァハァ



[25893] 番外編リリカルなのはFORCE編
Name: トッポ◆9bbc37c8 ID:6c668878
Date: 2011/03/03 00:00






第9無人世界。

動植物が豊かに生息し、人が存在していない惑星。

その衛星軌道上にある収容施設が存在していた。

“グリューエン”軌道拘置所。

これまで時空管理局が逮捕してきた中でも、一際凶悪な犯罪者達が投獄されている場所。

その施設の警備は厳重に厳重を重ね、脱獄は一度も許さない鉄壁となっている。

警備を任されている魔導師達も何れも一流の実力者で、万一の事態に備えて随時施設の至るところで待機している。

そして、その施設で最も厳重とされている第一監房にその男はいた。

「はぁ〜……退屈だ」

深いため息と共に吐き出される憂鬱な言葉。

その男、ジェイル=スカリエッティはこの拘置所へ入れらて数年の間、退屈で退屈で仕方がなかった。

紫色の髪はボサボサと乱れ、髭もだらしなく伸びている。

金色の瞳には生気が感じられず、その表情は暗鬱に染まっていた。

ここに入れられてからの当初は、様々な人物が自分の下へ訪ねてきた。

自分の技術を欲する者、興味本位の者、そして自分が起こした事件でその捜査協力に事情調査に来た者。

少し五月蝿いとまで感じていたものが、時間が過ぎていく度に減っていき、今では自分の頭にある知識だけを狙った輩が時折訪れるだけとなった。

退屈。

ジェイル=スカリエッティ……無限の欲望にとって、退屈とは何にも勝る拷問だった。

「このまま朽ちていくのも……悪くはないか」

自分の中にある欲望が刺激される程の興味が無い今、スカリエッティにとって生きている意味などありはしなかった。

いっその事舌を噛みきって自決するか? 死んだら死んだで面白い体験が待っているかもしれない。

ふと、脳裏にそんな考えが浮かんだ瞬間。

「っ!?」

突如爆発音が響き渡り、激しい揺れが起こった。

その次に緊急事態を知らせるアラームが施設全土に鳴り響く。

何が起こったと、スカリエッティが揺れの拍子に倒れた体を起こし、無機質な自室を見渡すと。

「……ここか?」

扉側から幼い少年らしき声が聞こえ、何かと思った瞬間に強固にして頑強な扉が一瞬にして引き剥がされた。

「あれ? これ引き戸だったのか?」
「……君は」

剥がされた扉をキョトンとした表情で手に持つのは、予想通りの幼い少年だった。

その顔付きからしてまだ10になったばかりだろう。

一体何故この少年がこの場所に? しかも強固な扉を何の障害とも思わずあっさりと破って。

スカリエッティの頭に沸き上がる疑問、そして目の前の異様な存在に内に眠る欲望が燻り始めていた。

「なぁ、お前ジェイル=スカリエッティか?」
「……如何にも、私がスカリエッティだが?」
「お前に少し頼みたい事があるんだが」

頼みたい事。その言葉を聞いた瞬間スカリエッティの気持ちは僅かだが萎えた。

目の前の少年も、これまでの輩と同じ自分の能力目当てで訪れた者。

一応話は聞いて見るが、スカリエッティの気分は些か乗り気ではなかった。

すると、少年は懐から手紙を取り出し、手に持って語り出した。

「えーっと、“プレシア”の手紙によると……“艦を修理するには貴方の頭脳が必要、そこから出す代わりにその子に協力しなさい”だ」
「…………」

言葉が出なかった。

プレシア? プレシアってあの大魔導師の?

昔、自分が研究していた人造魔導師に興味を持っていた人物。

プロジェクトFという名称に変えて、自分の娘を生き返らせようとして結局はPT事件にて娘の亡骸と共に虚数空間へと落ちたとされる……あの?

スカリエッティは混乱する頭を何とか正常に戻し、目の前の少年に向き直った。

何故この子供がプレシアの名前を知っている?

仮に100歩……いや1万歩譲って生きていたとして、何故大魔導師と呼ばれているあのプレシア=テスタロッサがこの少年にここまで協力的なのか。

次々と浮かび上がる疑問にスカリエッティが言葉を選んでいると。

『ば、バージル様ぁっ! もう限界ですよぉっ!!』
『これ以上は流石に……』
『無理、デス』
「まだイケるだろ? 暦、焔、環、遠慮はいらないぞ」
『遠慮処か限界突破しそうですぅっ!!』
「良かったな、これでまた強くなれたぞ」
『ひーん!!』
『鬼っ!』
『鬼畜デス!』

突如、少年の前に三つのモニターが現れ、少年の部下らしき少女達が施設に滞在している魔導師相手に奮闘している姿が写されていた。

10人以上の高ランク魔導師相手にあそこまで戦える彼女らに感心する反面、助けを求めている彼女達を容赦なく切り捨てるバージルという少年に、スカリエッティは引いていた。

「こっちも忙しいんだ。切るぞ」
『うわーん! またデュナミス様に怒られるーっ!!』
『本当なら、この作戦はもっと先の筈なのに……』
『二人共、フェイト様を助けるまでの辛抱、頑張る』


半泣きの彼女達の通信を一方的に切った少年は、スカリエッティに向き直り。

「それで、どうするんだ?」
「………」

スカリエッティの中で、既に答えは出ていた。

この少年がプレシアとどういう経緯で知り合ったのか、何故この施設に侵入できたのか。

そんなもの、思考の海から吹き飛んでいた。

先程から圧倒されっぱなしなのだ。このスカリエッティが、目の前の少年ただ一人に。

スカリエッティはクックッと笑みを浮かべると。

「勿論、喜んで協力させて貰うとしよう」

もっとこの少年を知りたい。

自分の中にあるそんな欲望に従い、ジェイル=スカリエッティは心底愉しそうに笑い、少年の下へ歩み寄っていった。

この日、グリューエン軌道拘置所からジェイル=スカリエッティと彼が発明した戦闘機人四機が、何者かの手によって“強奪”されたという事件が、時空管理局の歴史に刻まれる事となった。

















そして、時は進み数ヶ月後。

とある次元世界、そこではLS級管理局艦船ヴェルフラムが凶悪指名手配グループ、“フッケバイン”の移動拠点を追っていた。

指揮を努めているのは特務六課の部隊長八神はやてと、六年前にミッドチルダで起こったJS事件に於て、聖王の揺りかごの撃墜と事件終息に大きく貢献した部隊が、凶悪な犯罪組織とされるフッケバインを追い詰めていた。

そして拠点制圧に向けて三名の突入隊が、フッケバインのメンバーと激しい戦闘を繰り広げられていた。

「ハッハァッ!! 面白ぇ、面白ぇぞ公務員ッ!!」
「はぁぁっ!!」
「ぜぇい!」
「たりゃぁっ!!」
「ヌンッ!」

剣激が交差する度に火花が散り、銃弾の炸裂音が響き渡る艦内。

一見互角に見える戦いだが、フッケバインの構成メンバーの三人は何かが気になるのか時折ある方角へ向けて視線を送っていた。

「ったく! 何でこんな時にお前等が来るんだよ!」
「何っ!?」
「我々は現在、ある客人を招いている。その客人の機嫌を損ねないよう、出来れば今からでも外へ場所を変えたいのだが?」
「何をいきなりっ!」
「これはお前達の為でもあるのだがな……」
「そんな事っ!」

突然聞かされる警告、突入隊のスバル、エリオ、フェイトはそんな言葉に惑わされないよう、再び剣を振り上げる。

フッケバインメンバーの一人、ヴェイロンの銃剣を弾いた赤髪の青年、エリオ=モンディアルがCWシリーズと呼ばれる切っ先……銃口を向ける。

直撃を受ければ唯では済まないと、本能で察知したヴェイロンは避けに転じ、横へ回避する。

当たらなかった魔力弾はそのまま突き進み、ある壁に直撃し、爆発する。

「「「っ!?」」

その光景を目の当たりにしたヴェイロン等は、驚愕に目を見開き、戦闘中にも関わらず、行動を停止させる。

「お、おい。確かあそこって……」
「あぁ、不味いぞ」
「彼がまだ食事中だとしたら……」

いきなり戦闘を中止し、穴の空いた壁へ視線を向けている三人。

しかも三人共、どこか怯え、焦った様子で見つめている。

一体あそこに何があるのか、突入隊の三人もヴェイロン達と同じ場所へ視線を向けると。

「こ、子供!?」

煙の中から現れたのは10歳位の幼い少年だった。

全身が黒と赤に統一された異様な服装を除けば、何処にでも居そうな普通の少年。

何故あんな少年がここに? 報告されていたフッケバインの構成メンバーにあんな子供はいなかった筈。

しかし。

「おい」
「「「っ!?」」」
「今の……どいつがやった?」

重く、それでいて底冷えするような殺気を放つ少年にエリオ達は一斉に構えた。

違う。この少年はただの子供ではない。

フェイトが他の二人より早くその事に気付くが。

既に、遅かった。

「折角、折角ステラから貰ったプリンが……粉々なんだが?」

手にした小皿の欠片らしき破片を握り締めた時。

「……そうか、お前等が原因か」

少年は武器を構えたスバル達が、先程からの揺れと今の爆発が原因と判断し。

「構えろ」
「っ!?」
「いいか、これは“挨拶”だ。断じて攻撃ではないから……死ぬなよ」
「なっ!?」
「でなければ、戦いがいがない/(殺しがいがない)」

少年が右手にエネルギーを収束させた瞬間。

フッケバインの移動拠点、飛空挺フッケバインから光が爆ぜた。










次元の海、様々な航空艦が行き交うとされるこの海で、崩壊した筈の“時の庭園”が浮遊していた。

誰かに気付かれる事なく、ひっそりと浮かぶ庭園。

そんな静寂が一人の男性の叫びによって破られる。

「あのバカ、またやりおったか!!」
「ど、どうしましょうデュナミス様ぁ〜」
「だから、だから私は彼が行くことに反対したのだ!!」

花が咲き乱れる庭園が見える通路で、全身にフードを纏い、素顔もマスクで隠した男性デュナミスが頭を抱えながら悶絶していた。

「あぁ、これでまた管理局の連中に色々バレる事となる。……あの男は自重という言葉は知らんのか!?」

ワナワナと震えるデュナミス、その横で涙目になっている暦がどうしようかと訴えて来ている。

「調はどうした!?」
「し、調なら先刻フッケバインの頭領のカレンさんを送りに……」
「あぁ全く、どうしてこう厄介事が次から次へと!!」
「いやはや、彼と一緒にいると退屈しませんな」

次から次へと起こる問題に頭を悩ませていると、一人の男性が三人の女性を連れてデュナミスの前へと現れた。

「笑い事ではないぞジェイル。これでは我々の計画がまた……」
「あら、私はそんなに大それた問題ではないと思うけど?」
「プレシア女氏……」

反対側から現れた黒い長髪を靡かせる女性、プレシアと呼ばれる女性の手には幼い金髪紅眼の少女がニコヤかに微笑んでいた。

「ねぇママ〜、バー君まだ帰らないの?」
「そうね。でもこれから新しく出来たお船で迎えに行くから」
「ホント!? ならアリシアお留守番してる〜っ!!」
「有り難うアリシア、帰ってきたら美味しいパイをご馳走するわね」
「やった〜」

無邪気な笑顔と共に庭園の奥へと走り去っていく少女。

そして、明らかにこの状況を面白がっている二人の科学者を尻目に、デュナミスは深いため息を溢し。

「はぁ、……やはりそれしか手はないか」
「そうなりますね」
「では、行きましょうか」
「新しい仲間と、そして」
「我らのリーダーを迎えに」
















〜あとがき〜

本編すっぽかして番外編を先に載せて、本当にすみません!

しかも突っ込み所満載だという。


どうしても妄想が止まらず、書きたいという衝動に抗えず、ついやってしまいました。

今回の番外編は長くなりそうで、二、三部に分けて掲載させる予定です。

では、次回からは本編ですので宜しくお願いします。

尚、今回は番外編ですので感想返信は次回に纏めてやろうと思います。

本当に申し訳ありません。


PS

今回のタイトルは別名《ぼくのかんがえたさいきょうち〜む》だったりww



[25893] 番外編リリカルなのはFORCE編 その2
Name: トッポ◆9bbc37c8 ID:3a66c253
Date: 2011/03/19 20:44






LS管理局艦船ヴォルフラム、最新鋭の設備が施された艦内のブリッジ。

特務六課を設立した八神はやて部隊長は、僅かばかりだが混乱していた。

管理、管理外に様々な事件を引き起こしてきた凶悪犯罪集団“フッケバイン”。

その本拠点である飛翔戦艇を発見し、確保する為に部隊を突入させたのは良かった。

フェイト=T=ハラオウンを筆頭にした制圧部隊、彼女達が飛翔戦艇に突入した数分後、眩いまでの閃光が奴等の本拠から溢れ出て、光が弾けたのだ。

次いで巻き起こる轟音と爆風、露になった飛翔戦艇の内部を目視した時、はやてはモニター越しから見えるその人物に目を見開いた。

「も、モニター拡大! あそこの部分を拡大して!」
「り、了解!」

部隊長からの指示に従い、指示された場所の映像を拡大させる。

そして映し出される映像に、八神はやては確信したと同時に驚愕した。

モニターに映し出される一人の少年、それはグリューエン軌道拘置所から第一級危険指定人物、ジェイル=スカリエッティ一味を強奪したメンバーの一人だったのだから……。















「う、くぅぅぅ……」
「あ、ぐ……」
「く……」

腕から流れる血を抑えながら、フェイトは立ち上る煙りに向かって睨み付けていた。

突如として現れた異様な雰囲気を纏った少年、外見とは裏腹におぞましく感じる殺気と共に放たれた閃光に、フェイトは避けるので精一杯だった。

腕、足、脇腹、幾つもの場所から流れる血で人体に影響に作用されるのは言うに及ばず。

フェイトは意識を保つ事すらままならずにいた。

「エリオ……スバル」

フェイトは同じ制圧部隊にして嘗ての教え子達の名を呼ぶが、返事は返って来なかった。

軈て煙が晴れ、周囲が露になっていくと。

「っ!?」

目の前の光景にフェイトは絶句した。

片腕、片足を失い倒れ伏すエリオ。

その傍らには先程の黒い少年が悠然と佇み。

「うぉぉぉぉっ!!」

嘗ての教え子のスバルが、少年に向かって拳を振り上げていた。

振り抜かれたスバルの拳が少年の額に叩き込まれる。

手加減などしていられない、全力にして全開の一撃。

手応えあり、スバルはそう確信するが。

「…………ふん」
「っ!?」

少年、バージルは何のダメージも見れず、つまらなさそうに溜め息を溢すと。

スバルの両腕は切り裂かれ、切れた鉢巻きと共に地面に倒れた。

一瞬にして戦闘不能に陥った仲間、フェイトは動けない体に必死に鞭を打って立ち上がろうとするが、全く動けなかった。

すると。

『ち、ちょっとちょっとバージル君! 幾ら何でもやり過ぎよ!』
「……ステラか」
『幾ら侵入者を迎撃する為とは言え、私達の事も考慮してよね! 貴方ならこんな事しなくても一瞬でしょ!?』
「……プリン」
『はい?』
「お前から貰ったプリンが……砕けた」
『っ! と、兎に角気を付けてよね! 修復には結構疲れるんだから! 三人とも、ちゃんと見て上げてよね!』
「いやー」
「それは」
「無理だろ」

突然、嵐の様に聞こえてくる少女の声が聞こえてくると同時に、ヴェイロン、サイファー、ドゥビルの三人はステラからの難題な指示に困惑していた。

「さて、こうなっては我々には止められないが……」
「コイツ等どうするよ?」
「一応、まだ生きているみたいだが……」
「腹、減ったな」


バージルの足下に転がるスバルとエリオ、そして身動きが取れないでいるフェイト。

三人がそれぞれの死にかけている局員にどうしたものかと悩んでいると。

「「「っ!?!?」」」
「む?」

突如、ガクンと機体が傾くと同時にヴェイロン達が床へと倒れ伏した。

サイファーに至ってはリアクトまでほどかれ、軽い呼吸困難となっている。

機体も速度が落ち、高度も下がっていく。

そして未だ修復しきれていない壁から見える艦も、どうやらこちらと同じなのか速度、高度と共に落ちていくのが見える。

まるで周囲から氣が無くなっていくかのような感覚、初めて感じる感覚にバージルが若干戸惑っていると。

「お願い、そこを退いてくれ」
「ん?」

背後からの声に振り返ると、漆黒の鎧を身に纏った剣士が背中と腕に二人の少女を抱えながら歩み寄ってきた。

「お前は……確か」

目の前の少年、トーマにバージルは眉をひそめた。

バージルがフッケバインと合流し、途中で立ち寄った管理世界。

何だと思いフォルティスに聞いて見た所、何でも新しいファミリーが入ってくるとの事。

それがコイツかと確信したバージルだが、特に思う所はないので道を譲った。

「ありがとう」

が。

「おい」
「?」
「今、お前何かしたか?」

いきなり起こった各々の現象、戦闘続行が不能になったものがいれば心停止に陥った者もいる。

ここにいる全員が陥った異常事態に、バージルも含まれていた。

「さっきまであんなに腹が減っていたのに、あの衝撃以来全く空腹が感じられないのだが?」

バージルに起こった変化、それは空腹が感じられなくなった事。

他に比べて随分と軽い症状のバージルに、サイファーは聞こえない様に化け物めと呟く。

しかし。

「ごめん、今は何だか何も聞こえなくて目もあまり聞こえないんだ」

リアクト状態となったトーマは言葉も聞こえず、何かを見ることにも困難となっている。

それを知ったバージルはどうしたものかと思考を巡らすが。

「分かった。ならいい」

手でシッシと追い払う様な仕草を見せ、トーマをそのまま通す事にした。

別に攻撃を仕掛けてきた訳でもなく、また腹が減るから別段気にすることはないと判断したのだ。

そして、壁に穴を開けて離脱するトーマを尻目に、バージルも外へと出ると。

「アイツ等か、人の飯を邪魔したのは」

動きを取り戻しつつある艦を前に、バージルは初めて“戦闘体勢”の構えを取った。













「もーぅっ!! どうしてあの子はいっつもいっつも人の話を聞かないのよ!!」
「お、落ち着いて下さいステラ」
「“ゼロ因子適合者”の子も逃がしちゃうし、局の連中や皆を放置して自分だけ戦いにいくなんて!」
「ステラ、心配するのか怒るのかどちらかにして下さい」
「両方よ!!」

あれから目をステラが目を覚まし、飛翔戦艇も完全にその機能を回復した途端、ギャーギャーと騒ぐ彼女に参謀役のフォルティスは手を焼いていた。

客人として迎えていたバージルの戦闘介入、想定していた中でも色んな意味で不味い状況にステラもフォルティスも頭を悩ませていた。

殆ど八つ当たり気味で騒ぐステラに、フォルティスも程々困り果てていたその時。

「っ! ステラ、ちょっと失礼しますよ」
「ふぇ?」
「では完成したと? えぇ、はい。了解しました」

いきなり割り込んできた念話通信に耳を傾けるフォルティス。

二、三言葉を交わして頷くと通信が切れたのかフォルティスはステラに向き直る。

「……アイツ等から?」
「えぇ、どうやらあちらも此処に来るみたいですよ。……彼を迎えに」
「そう、……はぁ、これでまた忙しくなるわ」

ステラの憂鬱な溜め息に、フォルティスはそうですねと苦笑いを浮かべる事しか出来なかった。












「てめぇ、一体何をした!?」
「何って、少し力を出しただけだが?」

飛翔戦艇とヴォルフラムの間でバージルは紅の鉄槌を奮う少女を相手に、文字通り遊んでいた。

少女の奮う鉄槌は決して遅くはない。

並みの相手なら避ける事は敵わず、当たれば一撃必倒の威力を持ち合わせる。

正に必殺の一撃。

それを完全に見切った上で、バージルはのらりくらりと避け続けていた。

『アグレッサー2、回避を!!』
『応っ!!』
「?」

今まで打ち込んできたのが急に距離を開ける事にバージルが戸惑うと。

「おぉう?」

赤い少女が回避したその背後から、巨大な閃光がバージルを目掛けて迫ってきていた。

バージルは迫り来る閃光に驚きの声を漏らすが、その場の宙返りで難なく回避に成功する。

放たれた閃光の先へと視線を向けると、物々しい装備を身に付けた白い魔導師が、此方に銃口を突き付けて佇んでいた。

「アイツ、この距離での砲撃をあんな風に避けるなんて……」
「あの子、相当戦い慣れている。こういう戦いは何度も経験しているんだ」

AEC00X《フォートレス》を装備している高町なのはは、目の前で佇むバージルに戦慄を憶えていた。

先程から此方は全力全開でいるというのに、目の前の少年はそれを難なく避け続けている。

ヴィータの接近戦だって決して緩くはない筈なのに、この少年は息一つ乱す事はなかった。

離脱し始めているトーマも追わなければならないし、なのははどうすればいいか冷静を装った表情の裏で焦り始めていた。

対するバージルは。

「あー、何かダルくなってきたなぁ」

心底面倒臭そうに溜め息を漏らしていた。

食欲が無くなってからと言うものの、目の前の奴等に対する怒りも消え失せ、バージルは段々面倒臭くなっていた。

いまいちやる気が起きないまま、バージルはなのはとヴィータの攻撃を避け続け。

なのはと同様にどうしたものかと悩んでいた。

その時。

「お?」

海面がいきなり上昇し、頭上に巨大な氷の塊が飛翔戦艇フッケバインに狙いを定めていた。

「そこまでや」
「ん?」

声の方へ振り返ると、いつの間にか誘導されたのか、気が付けばバージルはヴォルフラムの甲板へと追い込まれ、四つの黒い翼を生やした魔導師と挟み込まれていた。

「妙な動きをすればこのヘイムダルをアンタ等の拠点へ落とす。武装を解いて投降しなさい」

はやての声が飛翔戦艇にまで届いたのか、飛空挺の速度が少し弱まったに見えた。

「それと君、君にはフッケバインと同様に第一級の危険指定がついとる。詳しい事情を聞かせてもらうで」
「…………」

威圧的な態度を示すはやてにバージルが若干の苛立ちを見せた。

瞬間。

『図に乗るのもいい加減になさいね、小娘』
「「「っ!?」」」

響き渡る声と共に、空から幾つもの雷撃が降り注いできた。

雷撃は氷塊を砕き、ヴォルフラムの外壁を削り取っていく。

何が起こったと、見上げるはやて達の目には。

「んな、馬鹿な」

嘗て自分達が死に物狂いで漸く破壊できた禁忌の遺産。

“聖王の揺りかご”が、自分達の上空に佇んでいた。

そして。

「やれやれ、バージル、貴方がいるから私の出番は無いと思ったのですが……」
「どうする? 君が殺るかい星光の殲滅者」
「さぁ、貴方こそ彼等を焼き払いたいのでは? “火”のアーウェルンクス」

いつの間にか自分達が挟み込まれていた事に気付き。

また離脱していたトーマの前にも。

「雷刃の襲撃者、ただいまさんじょー!」
「煩いよ⑨」
「⑨っていうなー! ボコるぞ“風”」
「な、何なんだよアンタ等!」

更には、ヴォルフラム内には。

「ふん塵芥共が、ぞろぞろと鬱陶しい。おい“水”、余は疲れた。帰るぞ」
「えぇ良いですよ。帰ったらデュナミスにチクりますから」
「ぬっ!?」
「それが嫌ならちゃんと参加して下さいヤミー」
「ヤミー言うな!! 余は闇統べる王だと何回言えば……」
「バージルの前で塵芥と言えば、そうしますよ」
「ぬ、ぬぅぅぅ……っ」

それぞれの場所にいきなり現れた何れも強力な力を持つ輩。

そんな彼等を前に八神はやてら特務六課は、更なる危機に追い込まれるのだった。
















〜あとがき〜
えー、本編の方が未だに纏まらず再び番外編を先に載せる事になりました。

しかもやりたい放題の色々フライング。


本っっっっ当に! 申し訳ありません!!

どうにかして次回には本編を載せたいと思いますので、何卒宜しくお願いいたします。

PS
私の中で調はメインヒロインに固定されました(キリッ



[25893] 行方(修正)
Name: トッポ◆9bbc37c8 ID:13bcbe92
Date: 2011/06/12 00:39





そして翌日、ネギ達はまほら武道会本選に出場する為、龍宮神社へと足を運んでいた。

「…………」

だが、ネギの控え室に向かう際の足取りは重かった。

明日菜が一命を取り止め、ホッと胸を撫で下ろした矢先、師匠のエヴァンジェリンがボロボロの姿となって帰って来た時は、それは驚いたものだ。

何があったのか聞いても、エヴァンジェリンは不敵に笑うだけで何も答えはしなかった。

いや、ネギは知っている。

師匠であるエヴァンジェリンをあそこまで追い詰める事の出来る人間など、彼以外あり得ない。

一体何故、どうしてあんな事を。

明日菜に続きエヴァンジェリン、二人の生徒に危害を加えたバージルに、ネギは流石に問い詰めずにはいられなかった。

しかしバージルの姿は別荘の何処にもなく、学園長から聞いた話だと既に彼はこの学園を去ったとの事。

(どうして……あの人は)

いつもそうだ。

エヴァンジェリン襲撃の時も、京都の時も、ヘルマンの時も。

如何なる時もその圧倒的暴力を以て、自分の道理を押し通していく。

相手の事など微塵も考えないで、ただ本能のままに。

ネギはバージルの生き方に疑問が浮かび、自分の中でモヤとなって渦巻いていた。

と、そんな時。

「ネギ、おいネギ!」
「――ハッ!?」
「何ボケーッとしてんねん、もうすぐ高音姉ちゃんの試合やで」
「あ、う、うん……」

隣の小太郎の呼び掛けに、漸く我に返れたネギ。

(そうだ。今僕は武道会に参加していたんだっけ)

今、自分は龍宮神社で建設された武道会の会場でこれから始まる高音の試合の応援に来ていたのだ。

舞台中央には実況役の朝倉が、隣には既に対戦相手と向かい合っている高音にエールを送る小太郎が。

その他にも、楓、古菲、真名もそれぞれがこれから始まる試合に注目していた。

すると。

「何やお前、もしかしてまだ別荘での事を気にしてるんか?」
「う、うん……」

自分の考えている事をあっさりと見抜かれ、少し落ち込むネギ。

対する小太郎は溜め息を溢し、やれやれと肩を竦めた。

「まぁ、お前は明日菜姉ちゃんやあのエヴァンジェリンの先生やからな、心配するなというのが無理な話やろうな」
「………」
「せやけど、二人とも無事やったんや。明日菜姉ちゃんも木乃香姉ちゃんのお陰で命拾いしたんやし、今はこれで良しとしとこうや」

小太郎の気遣いの言葉は正直嬉しい。

しかし、自分が教師で生徒を守る義務のある立場としては、素直にうんと頷く訳にはいかなかった。

確かに明日菜は一命を取り止め、木乃香の懸命な治療の下で順調に回復し、明日にでもなれば全快にもなるだろう。

だが、生徒が傷付いた事実には変わりはなく、ネギは一向に元気を見せる事はなかった。

ただ、せめて今回の武道会でそれなりに良い戦績を納めれば、明日菜やエヴァンジェリンに土産話として盛り上がるかもしれない。

「……そうだね、取り敢えず頑張るよ」
「……そっか」

少し疲れた様子で笑うネギに、小太郎は苦笑いで応える事しか出来なかった。















「さて、私の最初の相手はあの人ですが……一体何者でしょう?」

最初の試合、しかも結構な人前にも拘わらず、高音は落ち着いた様子で目の前の対戦相手を見据えていた。

相手は全身をフードに覆い、その正体をひた向きに隠している。

一体誰が、高音は目の前の相手の正体を一通り想像してみた。

(この学園の生徒でないならば、本土から来た人間か……今回の混乱に乗じて何かしら仕掛けようとする輩か)

この学園には雪広財閥の令嬢や近衛木乃香といった裏表、どちらにとっても重要な人物が揃っており、また技術面に於ても秀でているものが多くある為、今回の騒ぎに合わせて外の敵勢力がそれらを狙って動いてくる可能性も充分に考えられる。

高音は自分に考えられる最悪の事態を想定しながら、相手の動きを注意深く観察していた。

そして。

「始めっ!!」
「っ!!」

朝倉の試合開始の合図と同時に構えるが。

「め、愛衣!?」

フードを払い、その姿を露にした人物に高音は大きな脱力感に襲われた。

「……お久しぶりです。お姉様」
「ど、どうして貴女がここに?」

佐倉愛衣、その性格は外見同様おしとやかでこの様な舞台に進んで参加する娘ではなかった筈。

全く想定していなかった事態に高音は構えを解き、口はアングリと開いていた。

「だ、だって……だってお姉様が最近私に構って下さらないんですもの!!」
「はっ!?」
「前の騒ぎが終わってから、お姉様は修行ばかりで全然相手にしてくれないから!!」
「ち、ちょっ! 愛衣、貴女何を口走って……っ!?」

突然大声でカミングアウトをする愛衣、周囲の観客……特に男性客からは百合キター!やウハッ、ガチユリktkrなどと騒がれている。

周囲からのピンク色全開な歓声に、高音は勿論真名や他の選手達も若干気まずそうに頬を朱に染めている。

「あの龍宮隊長、ユリって何ですか?」
「日本の花の事やないのか?」
「……君達は知らなくてもいい事だよ」

妹の様に可愛がっていた愛衣の突然の激白に高音は酷く戸惑い、困惑していた。

高まっていた緊張感は四散して微塵も残らず、高音は深々と溜め息を漏らすが。

「……っ!」

ふと、視界に入ったものに高音はやはりまだ自分は未熟だと思い知らされた。

妹分の愛衣の手足には細かい傷が刻まれ、爪先の中には割れているモノもあった。

恐らくは修行していた最中に負ったものだろう。

そして、服で隠れているがその衣服の下にはもっと深く刻まれた傷跡もあるのだろう。

高音は嬉しかった。

自分がエヴァンジェリンの別荘で修行している一方で、愛衣は懸命に鍛練を続け、自分の可能性を模索していたのだ。

一人で足掻き、一人で戦っていたのだ。

それは、自分が憧れにしているあの人にとても良く似ていたから。

傷だらけの愛衣の姿が、高音には眩しく見えた。

だから。

「愛衣」
「は、はい」
「手加減はしませんよ」
「っ! は、はい!」

不敵に微笑む高音に対し、愛衣も笑顔で答え。

二人は同時に駆け出し、まほら武道会の開始を告げた。
















とある中東の国、嘗ては紛争や内紛で争いが絶えずにあった小国だが、今はまるで生まれ変わったかの様に変化を見せていた。

建物は崩れていて住める場所は限られているが、人々の顔は明るかった。

あの日、光の雪が降り注いでから、大地は潤い作物は豊富に実り、貧困に喘ぐ事はなく、何より銃声の音がピタリと鳴りやんだのだ。

紛争に駆り出されていた若い兵士達も、銃から鍬へ持ち物が代わり、故郷での復興作業に汗を流していた。

そんな人の息吹きが吹く町で、一人の女性が酒場らしき場所にいた。

スーツ姿の女性は短髪ながら白肌の美女で、店内にいる男性客は皆その女性に見惚れていた。

女性は誰かと待ち合わせをしているのか、仕切りに手首に巻かれた時計に視線を落とし、時折ポケットに入っているコンパクトミラーでメイクのチェックを行っている。

一体誰がこんな美人を待たせているのか、男性客は女性の一挙一動に注目していると。

「お前か、マクギネスとかいうのは」
「っ!?」

フードを身に纏った少年に声をかけられ、女性はガタリと席から立ち上がる。

「は、はい。あの、今回は“魔法協会(我々)”の呼び掛けに応えて下さり、有り難うございます」

女性の丁寧な対応、それも目の前の少年に対してという事実に、男性客達は呆然と眺めていた。

あの女性は格好から察するに、恐らくはどこぞの大手企業の幹部に違いない。

そんな彼女があそこまで下手に出させている少年は一体何者かと、男性客らは目を丸くしてその様子を眺めていた。

しかし。

「ご託はいい、さっさと用件を言え。俺は早く魔法世界に向かいたいんだ」

少年、バージルは丁寧な対応を図るマクギネスに対し、かなりの苛立ちを見せていた。


















魔法世界。

旧オスティア跡。

人は住めなくなり、獰猛な魔獣が住み着くその場所に、彼等はいた。

「何やら、デュナミスの奴が何かを企んでいるようじゃの」

ネギやバージルと同い年程度に見える少女、しかしその雰囲気は異様でまるで老婆にも思えるただならぬ風格を持つ。

組織内では彼女は墓所の主と呼ばれている。

そんな彼女の呟きに対し、背後が揺らめき一人の少女が姿を表す。

「妹の話によれば、どうやら彼の者が再びこの魔法世界にやって来るみたいポヨ」
「成る程、彼が来ることを見越しての行動か」
「果たして上手くいくポヨかね?」
「そう言う君はどうするつもりかな?」

フッと笑みを浮かべながら、少女は後ろの少女に振り向くと。

「旧世界でなければ新世界でも……ましてや魔界の住人でもない存在。興味がないと言えば嘘になるポヨね」
「では?」
「バージル=ラカン、地球を救ったとされる彼が、今後どんな動きを見せるか……見定める必要があるポヨ」

ネギの生徒であるザジ=レイニーディと瓜二つの少女が不敵な笑みを浮かべて佇んでいた。












世界は生まれ変わった。

破壊、そして再生で人々は一つになりつつあり。

この物語も次の段階へと移動しつつある。

交わるこのなかった物語、有り得なかった物語。

この戦いの先に待つのは−−











更なる破壊か?








無作為な再生か?









それとも……。














〜あとがき〜

今回で漸く第二部が終わりました!

ネギ達が戦うまほら武道会も書いたら次はいよいよ魔法世界編!

……長かった。



[25893] 思惑
Name: トッポ◆9bbc37c8 ID:f3460818
Date: 2011/03/31 11:21






「不吉じゃあ、この魔法世界に20年前の大戦以来の災いが降り掛かろうとしておる」

魔法世界、亜人達が多く住んでいるヘラス帝国首都。

多くの人々が闊歩する通りの路地裏で、一人の占いの老婆が水晶越しでそう呟くと。

それを皮切りに魔法世界全土が突如として株価が大暴落し、経済の大混乱へと陥った。

原因不明の株価の大暴落、人々が混乱する中でメガロメセンブリア元老議員の一部はその誰も知らない原因の対処に追われていて。

旧世界の魔法協会と情報の全てを掛け合わせ、漸くその原因たる男の所在を掴み、一人の女性を使いに出したのだ。

魔法世界が警戒する男の存在。

それは−−。













マクギネスは酷く緊張していた。

これから会う男は10歳の少年、魔法使いとしての資質は全く無いらしく、どう考えてもそんな深刻な事態には思えなかった。

それが仮にも英雄の息子だとしても。

幾ら嘗ての英雄が一人で一国の戦力を持っていたとしても、その子供までがそれと同等の力を持っているとは限らない。

かの千の呪文の男の息子、ネギ=スプリングフィールドは父親さながらの巨大な魔力と才能を受け継ぎ、麻帆良学園で立派な魔法使いになる為の修行を行っている。

だが、これから会う少年はそんな魔力も素質もなく、魔法界に於いて全くの無力だと思っていた。

そんな子供が世界を揺るがすなど、何かの間違いなのではと。

しかし。

「用件は何だ? こんな所にワザワザ呼び出しやがって……相応な理由があるんだろうな?」
「そ、それは……」

マクギネスはほんの数分前までそんな事を考えていた自分を殴り倒したくなった。

パッとみた外見では年相応の子供だが、眼光は刃の如く鋭く、フードから露になった素肌からは幾つもの傷跡を覗かせ、尋常ならざる覇気を身に纏うなど、少年とは思えぬ異様さを際立たせ。

少年、バージルの放つ威圧感が周囲の壁や床に亀裂を入れ、店を復興の合間の休みに利用していた客人達は、異様な雰囲気を放つバージルから距離を開けていた。

マクギネスは知らなかった。

目の前の少年が突如として現れた侵略者と激しい死闘を繰り広げ、そして打ち勝っていた事など。

年端もいかない子供が地球の命運を賭けて戦っていた事など。

彼女が魔法協会から伝えられていた指令は、あのジャック=ラカンの息子を魔法世界に来させないよう足止めをする事。

簡単な任務だと思われていたこの仕事が、下手をすれば殺されると悟ったマクギネスは、丁寧に且つ慎重にバージルとの話を進めようと試みる。

しかし、そんな彼女の慎重な対応にも拘わらず、バージルは怒りを募らせていた。

「で、用件は?」

先程から同じ言葉しか言っていない気がする。

バージルの頭は既に目の前のマクギネスとの対話ではなく、一刻も早く魔法世界で待つ宿敵との決着しかなかった。

ミシリ、と、何かが軋む音が聞こえる。

張り詰められた空気の中、マクギネスはゴクリと喉を鳴らし、話を切り出した。

「今回、私が此処に来たのは魔法協会から貴方にお伝えしなければならない事がありまして……」
「…………」
「先日、世界中を覆った巨大な根が原因で、新世界との“扉”が非常に不安定な状況が続いておりまして……」
「で?」
「現在、メガロメセンブリアの総力を以て扉の復興作業に勤しんでおりますので……どうか」

嘘だ。

本当は復興作業は既に終っており、扉も正常に作動している。

メガロメセンブリア……通称MM元老議員の多くは旧世界との楔を取り去り、バージル諸とも繋がりを断ち切ろうと画策している。

それが、バージルを足止めしようとするMMの本当の目的。

その準備が完了するまでバージルを足止めするのが、マクギネスの使命だが……。

「魔法世界に赴くのは自重してもらえ……」

瞬間、空気が重くなった。

「っ!?」

呼吸が苦しくなり、全身が鉛の重りを付けられた様に重い。

額からは汗が滲み出て、体の震えが止まらない。

今、自分は目の前の少年に命を掴まれている。

たかだか10歳の子供に命が弄ばれている。

マクギネスは下げた頭を動かさないまま、バージルの反応を待った。

殺される。

マクギネスが自分の死を確信したその時。

「た、大変だぁぁぁっ!!」
「復興作業に使われていた重機が暴走を起こしたぁぁっ!!」
「逃げろぉぉっ!!」
「なっ!?」


バージルの背後から迫り来る巨大なショベルカー。

危険地域に使われていた遠隔操作が故障し、この様な事態を引き起こしたのだ。

重機はその外郭からして10t以上の重さを有するだろう。

暴れながら突き進んでくる重機に人々は逃げ惑い、重機は一直線に此方に向かってくる。

しかし、バージルは逃げる動作はおろか、振り返る事もせず、ただその場に佇んでいる。

マクギネスがスーツの懐から杖を取り出すが、呪文を唱える間などある筈もなく。

重機は勢いを付けたままバージルに向かって突っ込んだ。

轟く轟音と共に舞い上がる砂塵。

人々は砂塵のせいで見えなくなった光景にそれぞれ凄惨となった状況を想像していく。

軈て煙りは晴れ、その光景が露になった時。

人々は、我が目を疑った。

ひしゃげたクレーンアーム。

砕けたキャタピラ。

深々とめり込んだ車体は火花を散らし、変わり果てた重機にその衝突の強さを思わせる。

が、しかし。

「あ、あ、あぁ……」

バージルは以前と変わらず、ただ座っていただけだった。

店には一切の傷は付いておらず、店内にいる客人達は無傷。

店内、店外、周囲の人々は傷一つ負わず、ただ座しているバージルに言葉を失っていた。

呆然となり、静まり返った空気。

その時、バージルは徐に席から立ち上がり、その場から立ち去ろうとしていた。

無言で立ち去るバージル。

「あ、あの!」

我に返ったマクギネスは去っていくバージルを呼び止めようと声を掛けるが。

「あ゛?」
「っ!?」

血走った目、ありありと見える殺気にマクギネスは言葉に詰まり、何も出来ずに佇み。

マクギネスは任務を果たせず、ただその場に立ち尽くす事しか出来なかった。

一方、バージルは。

「……無駄な時間を過ごした」

眉間に皺を寄せ、不機嫌を露にしていた。

「ワザワザ呼び出していきなり勝手な事を言いやがって……」

そもそも何故自分はこんな呼び出しに応じたのか?

別に空腹に飢えていた訳でもなければ扉の居場所が分からなくなった訳でもないのに……。

「……考えても仕方ないか」

バージルは手にしていたフードを羽織り、町から出ようとした。

すると。

「?」

ふと、身に纏うフードが何かに引っ張られている感覚に囚われ、振り向くと。

「あ、あの……」

そこには、バージルよりも二回りほど小さな女の子が、バージルのフードを震えながら握っていた。

「……何だ。お前は」

冷たく、感情の籠らないバージルの言葉が少女に突き刺さる。

すると少女はバージルから手を離すと、ポケットの中をまさぐってあるものを取り出した。

「こ、これ……」

それは、飴。

ちり紙に包まれた飴玉が汚れた少女の掌に乗せられ、バージルに向かって差し出されていた。

「……何のつもりだ?」

バージルは名も知らない少女に問い掛ける。

幾ら土地が豊かになったと言っても、まだまだ問題は山積み。

喩え小さな飴玉だろうと、この国の子供にとって中々手に入らない高級なお菓子なのだ。

尤も、バージルはそんな情勢など知る由もないが。

鋭い眼光で少女を射抜くバージル。

しかし、少女は差し出した手を引くことはなく、しどろもどろながらもバージルの問い掛けに応えた。

「お、お母さん達を……助けてくれたから」
「は?」

少女の言葉にバージルは一瞬呆けるが、さっきまでいた店から一人の女性が此方に向かって駆けてくるのが見える。

恐らくは、彼女が店長でこの少女の母親なのだろう。

バージルは少女の両手に乗せられた飴玉に視線を落とすと。

「……いるか、そんなもの」
「え?」
「そんなものじゃ、俺の腹は膨れねぇよ」

バージルは少女の飴玉に手を付けようとせず、それだけ言い残すと町から離れていった。















メガロメセンブリア、ゲートポート。

試験的に行われた転移魔法も無事に完了し、一先ず安心した時。

転移してきた人々がそれぞれ受け付けを済ませ、各々の場所へと戻ろうとする中。

一人の少女が受け付けを済ませると、都会で知られるメガロメセンブリア本国を出て、人気のない樹林へと入っていった。

既に時刻は夕刻を過ぎ、辺りは暗闇に支配されていく。

そんな時、少女の前に数人の人影が現れる。

樹木の間から照らされる夕日、それが人影の正体を露にしていく。

人影の正体は自分と同じ主フェイトの従者である焔、暦、環、栞の四人で。

「お帰り、調」
「……フェイト様は?」
「ここにいるよ」

彼女達が道を開けると、主であるフェイトがその姿を現した。

「ご苦労様、調さん。大変だったでしょ?」
「い、いえ。そんな事は……」

慕っているフェイトからの直々の労いに、調は畏まり深々と頭を下げる。

しかし。

「あのまま、学園に留まっても良かったのに」
「っ!」

フェイトのその呟きに、環達は調に注目する。

「……いえ、フェイト様、それには及びません。私はフェイト様の剣であり楯、その事実に変わりはありません」
「……そう」

調の偽りのない言葉。

真っ直ぐ戦士の目付きで見つめてくる調に、フェイトは調に詰め寄り、彼女の力を封じていた黒いペンダントの封印を解いた。

淡い輝きの光と共にその力を取り戻していく調。

髪の色、肌の色、全てが変わって最後には頭に彼女の一族の象徴である角が生えると。

調の力の全てが完了した事を告げる。

力を取り戻し、再びフェイトの傘下へと舞い戻る調。

「それじゃあ調さん、これからも宜しくね」
「ハイッ!」

フェイトの表情は相変わらずの無表情。

そんな彼の呼び掛けに調は真摯に応える。

そして、久しぶりに帰ってきた仲間に環達は笑みを浮かべていた。

しかし。

「……それでフェイト様。最後に一つ、ご報告が」
「……何だい?」
「彼、バージルさ……バージル=ラカンがここ魔法世界に戻ってくるそうです」
「「「っ!?!?」」」

調のその報告に、環達に衝撃が走る。

バージル=ラカン。

忘れもしない。

自分達にとって命の恩人、恩師と呼べる存在があの暴力の体現者に傷付けられたのだ。

彼女達の握り締められた手に力が込められる。

しかし、当の本人はと言うと。

「……そうか、彼が来るのか」

夕暮れの空を見上げ。

「あぁ、楽しみだなぁ……」

その口振りは、まるで遠くにいる恋人を待ちわびている様だった。













そして。

「うふふ、バージルはん早く来ないかなぁ」

二刀の刃を持つ神鳴流剣士が、その影で妖しく微笑んでいた。



















〜あとがき〜
あ、あれ?
ネギを書くつもりがいつの間にかバージルの話に……。

じ、次回こそは必ず!



[25893] 待ち構えるモノ
Name: トッポ◆9bbc37c8 ID:35a38910
Date: 2011/04/13 16:52





『勝者、高音=D=グッドマン選手!』

龍宮神社で実況者の朝倉の声が響き渡る。

まほら武道会の最初の第一試合、佐倉と高音の戦いは高音の勝利で終った。

勝負の決め手はエヴァンジェリンから教わった合気道柔術。

愛衣の猛攻も虚しく、その全てが高音に利用され、善戦するも敢えなく敗北となった。

仰向けになり、青空を見上げる愛衣。

衣服は破れ、所々に傷の付いた体。

「負け……ちゃった」

不思議と、悔しくはなかった。

寧ろ気分は晴れ晴れとしている。

自分なりに精一杯努力し、この試合でもやれるだけの事はやった。

全力を出したのに負けたのだ。

悔しむ事など何もない。

愛衣が満足そうに笑みを浮かべると。

「立てますか?」
「あ、お姉様……」

自分が姉と呼び慕っている高音が、此方に近付き手を差し伸べてきた。

愛衣はそれに抵抗する事なく高音の手を掴み、引かれると同時に立ち上がる。

「あ、はは……やっぱりお姉様には敵いませんでした。すみません、調子に乗っちゃって」

最初の時とはまるで別人の様にしおらしくなる愛衣。

項垂れ、シュンとなる彼女の頭にフワリと暖かい感触に包まれる。

「頑張りましたね」
「え?」
「誰かに頼る事もなく、一人でがむしゃらに……」
「お、お姉様?」

何かと思い顔を上げると、優しく微笑んでいる高音が自分の頭に手を乗せていた。

「有り難う愛衣、私は貴女が妹弟子である事を……私は、誇りに思います」
「っ!」

不意に、涙が溢れた。

あの日、麻帆良学園を侵略者が襲ってから師であるガンドルフィーニが倒れ、姉弟子である高音も闇の福音の下で修行し、自分だけが取り残されているかのようで。

切なくて、寂しくて……。

その気持ちを誤魔化すべく、馴れない近接戦闘の特訓までして。

自分の気持ちから逃げる様に夢中で強くなろうとした。

逃げる為に得た力。

しかし、それを高音は否定する事なく、誇りと言ってくれた。

愛衣は胸の奥から熱いものが込み上げ、涙が止まらなくなり。

高音の胸の中で泣きじゃくった。

そして、二人の健闘を讃える拍手の下で、第一試合の幕は降りた。













「高音さん……勝ったんだ」

観客の拍手が聞こえて来る一方で、ネギは次の自分の番に備えて選手控え室で待機していた。

第一試合の予想通りの結果にネギも負けられないと気合いを入れようとするが。

その表情は迷いのままにあった。

試合に集中しようと何度も振り払おうとするも、その度に脳裏により強烈なイメージとなって浮かび上がっていく。

生徒や友達が倒れる中、自分だけが生き残り、自分と同い年の少年が此方には目もくれず、ただ前だけを見つめている光景を。

その光景が頭に浮かび上がる度に、ネギは胸の奥が締め付けられる痛みに悶える。

「どうして?」

ふと口から漏れる疑問。

しかし、ネギ以外誰もいないこの控え室の中にはその疑問に答えられる者はいない。

そう思われた時。

「どうしたかなネギ坊主、元気ないネ」
「っ!」

不意に聞こえてきた声に振り返ると、今大会の主催者である超鈴音がにこやかな表情で声をかけてきた。

「もうすぐ君の出番ダガ、大丈夫カナ?」
「は、はい。大丈夫です」
「それは何ヨリ」

ネギの返事に問い詰める事なく、超はそれに頷いた。

「…………」

だが、途端に表情を曇らせるネギに超はヤレヤレと肩を竦め。

「彼が、バージル=ラカンの事がそんなに気になるカ?」
「っ!?」

ネギの気掛かりとなっている元凶をバッサリと言い当てた。

何故それを……ネギの問い掛けを無視し、超はやはりと目を細めると、ネギの隣に歩み寄る。

「なぁネギ坊主、この世に完全なる正義や悪など存在すると思うカネ?」
「え、え?」

突然の質問、正義と悪の定義という超らしからぬ問い掛けにネギは言葉を詰まらせる。

「先日の襲撃事件以来、私はある事実を知った。この世には完全なる正義はなくとも完璧なる悪が存在するという事を」

襲撃事件。

その単語を耳にした時、ネギの脳裏にはあの化け物達が浮かび上がった。

何かの為でもなければ誰かの為でもない。

己の欲望、ただそれだけを満たす為だけに他者を殺戮する者達。

悪と言う言葉だけでは到底足りない怪物。

彼等が正義ではないと言うのは誰の目にも明らか。

「でも、そうだとしたら……あの人も」

バージルも己の欲望を満たす為だけにその力を奮い、他者を傷付けた。

エヴァンジェリンと明日菜という、二人の生徒を。

自分の為に他者を傷付けるのが悪ならば、バージルもまた悪なのでは?

ネギの思考にバージル=悪という方程式が成り立とうとした時。

「確かに、端から見れば彼も充分悪の人間だろう。社会から外れ、調和を乱し、己の為だけにその力を奮うのだかラ……」
「…………」
「だが、それによって救われている者達がいるのも、また事実」
「っ!」

そうだ。

バージルは傷付けた者もいるだろうが、それ以上にその力で救った者も数多くいるのだ。

麻帆良学園に来る前もその後も、バージルは人を救っているのだ。

本人の意思に拘わらず、多くの命が彼によって救われているのだ。

では、正義とは一体何なのか?

悪を行う事が正義を成す事と同じ意味を示しているのか。

分からない。

幾ら天才と呼ばれているネギも、超の言わんとしている意味が分からずにいた。

「ハッハッハ、いやぁ済まないネギ坊主、試合前に混乱させる様な事を言っテ」

自分の質問に首を捻って唸っているネギに、超はバツが悪そうに謝り、話を切り上げようとするが。

「ただ、これは憶測ダガ……バージル=ラカン、彼は自分のやりたい事にただ従い、行動したのではないかな? あの千の呪文の男……ナギ=スプリングフィールドの様に」
「っ!?」
「いつも信念を貫ける者は力ある者だが、それを正義や悪と呼ぶのは他者ではないカナ?」

目を細くさせ、ネギを試すかの様に語る超。

ネギも心の奥底では超と似たような事を考えていた。

幼い頃、燃え盛る炎の中で悪魔の首を掴む父、千の呪文の男。

そして先日、襲撃事件の際に目の前に現れたバージル。

異なると思えていたこの二人だが、実は似ている部分があるのではないか、と。

理性がそう思っていても、心が違うと叫んでいたのかもしれない。

「ぼ、僕は……」

超の言葉に動揺するネギ、そんな彼に超はしまったと口を抑え、自分が今余計な事を口走ったと焦った。

「ま、まぁ兎に角今は試合に集中する事ネ。ネギ坊主の答えは大会が終ってからでも聞かせて貰うよ」

その言葉を最後に、超はイソイソと立ち去り、残されたネギは。

「…………」

未だに迷いを抱えたまま、自分の試合に赴くのだった。













「はぁ、思わず口を滑らせてしまたヨ。ネギ坊主には悪いことしたネ」

人気のない通路。

背後から聞こえてくる歓声を耳にしながら、超は柄にもなく口を滑らせた自分に嫌悪していた。

何故あんな事を言ったのか、自分でも分からない。

会場であるここ、龍宮神社から見える世界樹。

確りと地に根を張り、学園にその存在感を示す大木に超が頬を弛ませた。

その時。

「っ!?」

突如、自分の体がブレて視界がボヤけ、強烈な目眩と虚脱感に超は地に膝を付けた。

「クッ、またカ!?」

まるで自分がここからいなくなるような……“存在自体”が無くなる様な感覚。

暫く続いていた虚脱感に悩まされながらも、どうにか症状が収まって来たかと思った時。

「っ!?」

超は自分の手を見て言葉を失った。

見慣れた筈の自分の手、それが霞の様に薄くなっていたのだ。

自分の手を通して地面が見える。

言い知れぬ悪寒を感じながら、超は立ち上がり。

「ネギ坊主、やはり……出来れば早く答えを聞かせて貰えないだろうカ?」

今頃は第二試合が始まっているだろう舞台に目を向け。

「どうやら私には、もう時間が無いみたいダ」

超はこの先の未来で起こる出来事に、不安を感じていた。

















カラコルム山脈。

世界で二番目に標高が高いとされる山脈。

そこでは、薄いマントを羽織っただけのバージルが、荒れ狂う吹雪の中を黙々と歩いていた。

「…………」

黙々と自身の目的である魔法転移のある場所まで歩く。

マクギネスとの一件から、バージルは早く魔法世界に向かおうと、様々な場所へと赴いていたが。

どれもこれも扉を開く期間が過ぎ、次の扉が開くまで一週間から1ヶ月の足止めを喰らうという状況に出くわしていた。

だったら連続して転移魔法を起動させればと思ったが、扉を管理している専門家によれば、連続して稼働させるには未だに安定値に達しておらず、危険だと告げられた。

下手をすれば、向こうの楔が切れてしまう事もあり得ると言われ、バージルは不本意ながらこうして各地を転々と移動しながら修行の旅を続けていた。

「チ、やはりあの女の所へ寄るんじゃなかった」

今更ながら、気紛れでマクギネスと出会った自分に悪態をつくバージル。

だが、ここで愚痴を言っても仕方ない。

バージルは羽織ったマントを靡かせながら、次の目的地へと足を進めようとした。

その時。

「……いい加減出てきたらどうだ? さっきからこそこそと付きまといやがって」

苛立ちを露に、吹雪の中で呟くと。

雪は降り止み、辺りが月の灯りに照らされると。

「やれやれ、気配は完全に消したつもりなんだけどな」
「流石は獣、鼻は利くみたいだね」
「その野生的直感は称賛に値します」

三つの影がバージルを囲むように現れた。

何者だと、バージルが問い掛ける前に影はそれぞれ一歩歩みだし、その顔を月夜の下に晒した。

「ナンバー4(クウァルトゥム)、“火”のアーウェルンクスを拝命」
「ナンバー5(クウィントゥム)、“風”のアーウェルンクスを拝命」
「ナンバー6(セクストゥム)、“水”のアーウェルンクスを拝命」

月夜に照されて現れた三つの顔。

それはどれも、バージルが良く知る人物と同じ顔をしていた。

「我等が主の命の下」
「バージル=ラカン、貴様の命を」
「頂きます」

フェイト=アーウェルンクス。

宿敵の一人である奴と同じ顔をした者が三人も。

普通なら混乱し、動揺するものなのだが。

「……アイツ、四つ子だったのか」

バージルは何とも間の抜けた結論で納得するのだった。















〜あとがき〜
またまた更新が遅くなってしまい、申し訳ありません。

ネギの話しになると言っておきながら、結局はバージルの話しに……。

こんな駄作者ですが読んでくださり誠にありがとうございます。

では、また次回。



[25893] アーウェルンクスシリーズ
Name: トッポ◆9bbc37c8 ID:5fdb16cf
Date: 2011/04/18 02:21





「四つ子、ね」
「心外だな。僕達をあんな出来損ないと一緒にするなんて」
「何?」

カラコルム山脈。

世界で二番目に標高が高いとされる地域。

吹雪は止み、月光が照らす白銀の地に、四人の少年少女が影を落としていた。

「どういう意味だ?」

三人の男女、いずれもフェイト=アーウェルンクスと瓜二つの顔を持つ者達。

バージルは四つ子かと口にしたが、どうやら違うようだ。

バージルに四つ子と言われ、無表情だった彼等の顔が僅に曇る。

「どうもこうも、そのままの意味さ」
「彼は創造主から膨大な力を与えられながらその役目を真っ当できず……」
「おめおめと魔法世界に帰ってきたんだ。出来損ないと呼ぶに相応しい失態だ」

出来損ない。

その言葉を口にした4番目(クウァルトゥム)となのる少年の口元が吊り上がる。

5番目(クウィントゥム)や6番目(セクストゥム)と違い、どうやらこの少年は感情が豊かの様だ。

「…………」
「だから、そんな彼に代わり」
「私達がここに来たのです」
「バージル=ラカン、君を殺す為に」

ククッと、愉快に笑う4番目。

バージルを囲んだ彼等はそれだけ口にすると、それぞれ戦闘体勢の構えを取り。

バージルに向かって仕掛けようとした。

「……クク、ククク」
「?」
「そうか、奴が……どうやらすれ違いにならずに済んだみたいだな」

笑っている。

敵に囲まれていると言うのに、目の前の男は自分の危機的状況を理解出来ていないのか?

ナンバー6、セクストゥムはバージルという男が解らないでいた。

「フェイト=アーウェルンクス、ジャック=ラカン、俺の目的が無くなった今、お前達が最後の標的だ」

再び、バージルは口元を歪める。

まるで周囲を囲んでいる彼等が眼中に無いと言わんばかりに。

そして。

「残念ですが、貴方のその目的は達成される事はありません」
「何故なら、ここで死ぬからだ!」

バージルが見せた隙を狙って、アーウェルンクス等はそれぞれ宙を舞った。

「焔の蜂、108匹!!」

クウァルトゥムが放つ108匹もの蜂の軍勢。

焔を纏う蜂はバージルを標的に突き進み。

バージルのいた場所は爆炎と業火に包まれた。

山の傾斜に降り積もった雪は吹き飛び、抉られた岩盤が露になっていく。

舞い上がる煙の中、跳躍したバージルが姿を現す。

「今のは……魔法の矢じゃなかったな」

今のは恐らく、魔法の矢の上位に位置する攻撃呪文。

魔法世界にいた時は使える者はいても彼処まで使いこなせる輩はそうはいない。

バージルがそう考えた。

「一体奴は……」

その時。

「戦いの最中に余所見ですか?」
「っ!?」

背後からの声。

全く気配の無かった所からの声に振り向くと。

「随分と舐めてくれたものです……ねっ!」

バリバリと、眩い光を纏ったクウィントゥムがバージルの背後で佇み。

「ヌグッ!?」

その手の甲を、バージルの後頭部に叩きつけた。

「な、何だ今のは?」

クウィントゥムの魔法。

地面に着地し、頭を撫でるバージル。

気が抜けていたとはいえ、まさか背後を取られるとは。

その上初めて見る魔法にバージルは驚きが隠せなかった。

すると。

「うぉっ!?」

足下がやけに冷たいと、視線を下に向けると。

いつの間にか足下には池が出来て、更には氷付けとなり、バージルの動きを封じ込めていた。

一体何が起こったと、バージルは辺りを見渡すと。

「今日は、気温が大幅に下がり」
「っ!」
「所によっては猛吹雪が降られるでしょう」
「ヌッ!?」

女のアーウェルンクス、セクストゥムが自分の横に佇んでいた。

そして、彼女が手を上げると同時に、自分の周りにだけ猛吹雪が降り注ぐ。

幾ら肉体を鍛えても、気温の暑さ寒さを凌げる訳ではない。

「うぉぉっ!?」

今まで寒さを凌いでいたマントは先程の爆発で消し飛び、バージルは極寒の寒さに体を震わせていると。

「どうしたバージル=ラカン」
「この程度ですか?」
「っ!?」

頭上から感じる力の波動、ビリビリと震える大気に顔を上げると。

セクストゥム、クウァルトゥムの二人が手を合わせエネルギーを融合させていた。

クウァルトゥムの赤い光と、セクストゥムの青い光が交ざり合い。

白く輝く光の玉を生み出した。

またもや初めて目にする魔法にバージルの目は釘付けとなり。

「さぁ、喰らいなさい!」
「これが融合魔法……」
「「メドローアッ!!」」
「っ!!」

バージルは二人の放つ光に呑み込まれ。

光は弾け、カラコルムの山脈はその一角を消し飛ぶ事となった。














「……やったか?」
「いや、まだだ」

ガラガラと、音を立てて崩れる岩石。

立ち上る煙を前に、アーウェルンクス達は煙の奥へと睨み付けていた。

「相手は仮にもこの星を救った大英雄だ。今の程度では傷を付けられても討ち取れたとは考えにくい」
「ま、それはそうだろうね」
「…………」

軈て煙りは晴れ、彼等の前に砕けた山の大地が姿を現した。

傾斜だった山の姿は微塵もなく、残されたのは荒れた荒野だった。

その中央で、服は破れ、上半身が露になったバージルがいた。

「クッ、奴等は……一体」

クウァルトゥムが見せた焔の蜂。

背後に現れたクウィントゥムが纏っていた光。

セクストゥムが見せた自然を操る力。

どれも初めて見る魔法に、バージルは翻弄されていた。

「如何でしたか?」
「っ!」
「我々の力の程は」

耳に入ってきた声に顔を上げると、フェイトと同じ顔をした奴等が、肩を並べて歩み寄ってきた。

「どうしたのです? 貴方の力はこんなものではないと聞き及んでいたのですが?」
「…………」
「おいおいクウィントゥムよ。君、分かってて聞いているだろ?」

クウィントゥムの問い掛けに愉快に笑うクウァルトゥム。

「僕達が強くなりすぎて、オリジナルを超えちゃったって事になるんじゃないのか」
「オリジナル……だと?」
「私達はフェイト……テルティウムの部下、調が採取した貴方のデータを下に造られています」
「……何?」
「貴方のスピード、パワー、それらを解析、分析する事により貴方と同等の力を得られるよう、デュナミス様によって産み出された……」
「要するに、僕達は君の分身でもあるのさ」
「幾ら貴方でも、自分と同レベルの敵を三人相手にする事は出来ないでしょう」

故に、お前の敗けだ。

告げられるアーウェルンクス達の宣告。

しかし、バージルは……。

「それだけか?」
「……何?」
「言いたい事はそれだけかと聞いている」

不敵に、ふてぶてしく笑った。

危機的状況の筈なのに、前人未到の窮地の筈なのに……。

(何故、そうも笑っていられる?)

分からない。

セクストゥムはバージルという男が分からなかった。

「……いつまでその余裕が続くかな?」

先程の愉快そうな口振りからは一変。

激しい苛立ちを覚えたクウァルトゥムが、拳に炎を纏わせてバージルに向かって駆け。

クウァルトゥムに続いて他の二人も後に続く。

近付いてくるクウァルトゥム達に構えを見せるバージル。

しかし。

「眠りの霧」
「っ!?」

足下から吹き出る様に舞い上がる煙り。

煙りを吸うとバージルは激しい睡魔に襲われ、動きを鈍らせてしまう。

そして。

「フンッ!!」
「っ!?」

クウァルトゥムの拳がバージルの腹部にめり込んだ。

腹部に感じる衝撃と熱の痛み。

「どうだい鉄すら蒸散させる炎の拳の味は!?」

直撃を受けたバージルにクウァルトゥムは更なる連撃を叩き込む。

クウァルトゥムに続きクウィントゥム、そしてセクストゥム。

三人の三方向による同時に攻撃にバージルはひたすら受け続けていた。

そして。

「せぁぁぁっ!!」
「ぬぐっ!」

クウァルトゥムに蹴り飛ばされ、バージルは地面へと叩き付けられる。

仰向けになり、空を見上げるバージル。

すると、視界には雷を纏ったクウィントゥムが宙に佇み。

「轟き渡る雷の神槍」

自身と同様、迸る雷の槍を手に。

「燃え上がる炎の神剣」

バージルの背後のクウァルトゥムは炎の大剣を。

「震える水の神槌」

そして前方には水を圧縮させた水の鉄槌を振り上げるセクストゥムが。

それぞれ、バージルへと叩き込む。

山脈は、再び光に包まれた。













「……流石に」
「少し、疲れたな」

抉れた大地。

山脈の半分を吹き飛ばし、荒野と姿を変えた大地。

クウァルトゥム達は大量の魔力使用に僅だが疲れを見せていた。

「だが、流石にあれだけ叩き込めば……」
「軽口は叩けまい」

手応えあり。

そう確信した彼等だが。



――もう、おしまいか?――



「「「っ!?」」」

ゾクリと、言い様のない悪寒に囚われた彼等は、瞬時に振り向いた。

もくもくと立ち上る煙り、砂塵と混じり視界が利かないその奥から。

奴が、バージル=ラカンが姿を現した。

「どうした? 何をそんなに驚いている?」

あれだけの攻撃をしたのに、平然としているバージル。

以前の奴ならばこれでダメージを受けた筈。

「ち、このっ!!」
「しぶとい!」
「化け物めっ!」

予想以上の耐久力を誇るバージルに、再び仕掛けようとするが。

「っ!?」
「なっ!?」
「これは……っ!?」

一歩前に出た瞬間、突然足が震えだし、三人は地面に倒れ伏した。

ガクガクと震えが止まない足。

何がどうなっていると、三人がそれぞれ混乱していると。

「流石に眠気を纏いながらの“運動”はキツかったな」
「貴様、一体何をした!?」
「何って、ただ顎を掠めただけだが?」
「なっ!?」

あっけらかんに応えるバージルに対して、セクストゥムは驚愕した。

あれだけの乱撃の中、一方的にやられていたバージルが実は反撃していたと言うのか?

自分達に気付かれる事なく……いや、気付けない程速く自分の顎を撃ち抜いたと言うのか。

「しっかし、お前達には感謝しなきゃな」
「何?」
「お前達のお陰で、体が鈍らずに済みそうだからな」
「っ!?」

自分達はバージルにとって、準備運動の相手でしかない。

その事実にクウァルトゥムは憤慨し。

「ふざ……けるなぁっ!!」
「?」

バージルに向かって、炎の拳を放った。

しかし。

「っ!?」

素手で、しかも片手だけであっさりと受け止めたバージルに、クウァルトゥムは目を大きく見開かせた。

「ぼ、僕達は最強にして最高の力を手に入れた完璧な戦士の筈、なのに!」
「あのなぁ」
「っ!」
「俺の力を下に造ったと言っても、所詮は以前の俺だろ?」
「っ!?」

心底からの呆れ。

やれやれと肩を竦め、溜め息を吐き出すバージルにクウァルトゥムは衝撃を受ける。

「それにな、お前は完璧なんかじゃねぇ。とんだオセンチ野郎だ」
「な、何だと!?」
「確かにお前等は速い。だが、折角手に入れた超反射能力を全く使いこなせていないんだよ」
「なっ!?」
「本能のままに、獣の様に相手を反応するだけ」
「そんなことっ!!」

ギリギリと、捕まれた拳が離せない。

クウァルトゥムは悔し紛れに蹴りを放つが。

虚しく空を切るだけに終わり。

「だから動きが読まれる」
「っ!?」

背後に立つバージルに気付けなかった。

「さて、先日の女は俺を苛つかせるだけだったが……」

そう言うと、バージルは拳に力を入れて。

「お前等はどうだ?」

力を解放した。
















〜あとがき〜
祝!第二次スパロボZ発売おめでとう!!

今回のスパロボは色々ネタが豊富で面白かったです。

早く続編でないかなぁ〜?



PS

素朴な疑問ですが、サイヤ人がゲッター線を浴びたらどうなるんだろ?

皆さんはどうなると思います?



[25893] 恐怖の先に
Name: トッポ◆9bbc37c8 ID:44ba2e4d
Date: 2011/04/30 03:15




「第二試合の勝者は3−Aの子供先生、ネギ=スプリングフィールドに決まったぁぁ!!」

沸き上がる歓声。

武道会の第二試合も終わり、会場は更なる興奮に包まれていた。

ネギの対戦相手の豪徳寺薫は空を仰ぎ見る形で倒れ、気絶している。

会場が更なる盛り上がりを見せる中、ネギの表情は暗かった。

試合に勝ったにも拘わらず、ネギは喜びを見せずに選手控え室で沈黙をしていた。

他の選手は皆出掛けているのか、控え室は誰もいなく、部屋は静まり返っていた。

(分からない……)

ネギの頭の中を占めるのは、先程超と話した内容だった。

何が正しくて、何が間違いなのか?

誰が善で、誰が悪なのか?

バージルは一体どちらかなのか?

グルグルと思考は回るが、一向に答えは出ずにいた。

そして、幾巡目の思考が巡ったその時。

「おい」
「!」
「どうしたんやネギ、さっきからアホみたいに悩んで」
「こ、小太郎君?」

不意に聞こえてきた声に振り返ると、背後に小太郎が呆れた様子で佇んでいた。

「ど、どうして小太郎君が……」
「どうしてって、楓姉ちゃんの試合が終わったら俺の試合も近いからな、今の内に体を慣らしとくんや」

そう言うと、小太郎は控え室の中央を陣取り、体慣らしの準備運動を始めた。

体を動かし、戦いの準備を始める小太郎。

すると。

「それはそうと……何やさっきの戦いは?」
「え?」
「目の前に相手がいるにも拘わらず。ボーッとして……同情するつもりはないがあれじゃ相手が可哀想や」
「ご、ごめん……」
「俺に謝ったってしゃあないやろ」
「ごめん……」

俯き、ただごめんとしか喋らないネギ。

いつも以上に何かに悩んでいる好敵手に、小太郎は深々と溜め息を溢した。

「ったく、何悩んでいるかは知らんけど、あまり思い詰めるなよ。姉ちゃん達が心配するからな」
「……うん」

暗く、肩透かしの返事に小太郎も呆れて何も言えなくなり、自分の試合に集中しようと再び体を動かすと。

「……ねぇ、小太郎君」
「何やねん!」
「正義って……一体なんだろう」

ネギからの問い掛け、正義という問題に小太郎は動きを止め。

「はぁ?」

随分間の抜けた声を出した自分に驚いた。















世界で二番目の高さを誇るカラコルム山脈。

広大な山脈、斜面一体が雪で白く染められたこの地で、一際大きな爆発が巻き起こる。

爆散し、抉れた斜面が露になり、舞い上がる煙りの中から三つの影が飛び上がり、その姿を現す。

アーウェルンクスシリーズ。

バージルの宿敵の一人であるフェイトをベースに、バージルの力と速さを兼ね備えた彼等だが。

「く、くそっ!」
「こんな、こんな筈は!」

その表情は焦りと不安に染められ、額から滲み出る汗を拭き取る事もせず、三人は煙りの中から現れる人影を睨み付けていた。

「どうした? 一体何をそんなに焦っている?」

煙りから悠然と現れる男、バージル=ラカン。

嬉々とした表情で彼等に歩み寄るバージルに、クウァルトゥム達は戦慄を覚える。

「そっちから仕掛けて来たんだ。まさかこれで終わる訳じゃないだろう?」

ニヤリと、挑発的な笑みと共に投げ掛けられる言葉に、クウァルトゥムの顔は烈火の如く怒りに染まり。

「調子に乗るなよ、バージル=ラカン!」

両の拳に焔を纏わせ、バージルに向かって駆け出していく。

それに合わせて動き出すクウィントゥムとセクストゥム。

バージルは他の二人を度外視し、目の前のクウァルトゥムに向き直る。

「ぜぇぇぇい!」

幾百、幾千にも及ぶ拳の弾幕、それら全てに鉄をも蒸散させる炎を纏わせてバージルに叩き付けるが…。

「ふ、は、ヨッ」

バージルはそれら全てを見切り、わざと眼前スレスレで避けていた。

「この、このぉっ!!」

どんなに拳速を加速させても、バージルに届く事はない。

「おい、こんなものか?」
「黙れ、黙れぇぇぇっ!!」

つまらなさそうに呟くバージルに、クウァルトゥムは更に激昂し、拳を振り上げる。

隙だらけ、これならばカウンターを取れるのも容易い。

バージルがクウァルトゥムの一撃を横に避け、返しの拳を向けた時。

クウァルトゥムの口端は吊り上がり、悪戯に成功した子供の様に笑っていた。

そう、全ては演技。

バージルの挑発に乗り、隙を見せたのは背後に忍び寄るクウィントゥムとセクストゥムの為の伏線。

バージルが自分に向けて拳を放った瞬間、背後から痛烈な一撃を浴びせ、それに続いて連撃を叩き込む。

即興で出来た作戦だが、これに掛かった以上勝機は今しかない。

(やれ、クウィントゥム!)

“雷化”したクウィントゥムならバージルの物理攻撃も意味を成さない。

これで決まったと、クウァルトゥムが確信した瞬間。

「グァッ!」
「なっ!?」

振り返らずに放ったバージルの裏拳が、クウィントゥムの顔面に直撃。

鼻から血らしき液を流し、痛みに悶えるクウィントゥム。

クウァルトゥムは驚愕に目を見開いていると。

「おい」
「っ!?」
「いちいち動きを止めるな」
「ぐぁっ!」
「アグッ!」

ガシリと腕がバージルに掴まれ、振り向き様に投げ飛ばされ。

「きゃぁぁぁっ!?」

後ろに控えていたセクストゥムを巻き込み、三人は岩盤となった山の斜面へ叩き付けられる。

想像以上のダメージに膝は地面に付き、動きが取れない。

ふらつく足に力を入れ、必死に立ち上がろうとするが。

「何だ。もう終いか?」
「「「っ!?」」」

既に目の前にバージルが佇んでいた。

「早く立て、まさかこの程度で終りとは言わないよな?」
「くっ!」
「クソッ!」

バージルの言葉に逆上したクウァルトゥムが、再びバージルに殴り掛かる。

それに続きクウィントゥム、セクストゥムも加わり、バージルは三人同時に相手する事となる。

手数に於てはバージルの三倍、バージルの不利は覆せないものとなっている。

しかし。

「おらおらおら、もっと打ってこいよ」
「な、何故だ!」
「何故当たらない!?」

拳速、手数、どれもバージルを圧倒している筈なのに。

バージルは然程苦にする事なく、三人の同時攻撃を捌いていた。

両手両足、それぞれを器用に使い分け、三人の攻撃を受け流していた。

(何故だ。何故当たらない!?)
(本当に我々は、コイツの力を持っているのか!?)
(もし、もし我等が奴の力を持っているとして……それでこの有り様なら)

一体コイツは、どれ程までに強くなっているのだろうか?

報告にあった封印の封具は外されてはいない。

それでこの強さならば……。

(本物の、化け物か!?)

三人が目の前の怪物に感じたモノ。

それは動物、或いは生命ならば誰もが抱く感情。

“恐怖”

笑いながら攻撃を捌いていくバージルに、三人が恐怖という感情を抱き始めた。

その時。

「どうした?」
「っ!!」
「足下がお留守だぞ」
「がっ!!」

恐怖という感情に支配され、動きが若干鈍った彼等をバージルは見逃さなかった。

足を躓かせ、バランスを崩した瞬間、蹴り上げたバージルの蹴りがクウァルトゥムの顎をカチ上げる。

「クウァルトゥム!!」
「余所見をする暇があるのか?」
「っ!?」
「随分、舐められたものだな」

宙を舞うクウァルトゥムに気を取られた瞬間、クウィントゥムの懐にバージルの拳が潜り込み。

拳が、クウィントゥムの胸元に触れた瞬間。

「ヌンッ!」
「っ!?」

衝撃が、クウィントゥムを貫いた。

「クウィントゥム! クウァルトゥム!」

一瞬。

瞬きする間に二人のアーウェルンクスが地に伏し、戦闘不能へと追い込まれている。

「あ、あぁぁ……」

腰が抜け、その場に座り込むセクストゥム。

座った彼女の足元から液が零れ、乾いた岩肌を濡らす。

彼女は、失禁していた。

怖いのだ。

堪らなく、この男が、途轍もなく、果てしない程に。

(怖い……怖い!!)

本来なら感情など持つ筈のない彼女達だが、初めて味わう恐怖に戦意が失われていた。

今すぐにでも逃げ出したい。

セクストゥムの思考がこの恐怖から逃げ出したい事に頭が一杯になる。

しかし。

「逃げれると思っていたのか?」
「っ!?」

自分の考えている事に気付かれ、顔を上げると。

「お前等は俺を殺すつもりで仕掛けてきた。と、言うことは……」
「ひっ!?」

悦楽に、狂楽に、愉快に、心底楽しんだ表情で顔を歪ませて、見下ろしている――

「俺がお前等を殺しても、なぁんにも問題無いわけだよなぁ?」
「あぅっ!?」


怪物、バージルがいた。

バージルは徐にセクストゥムの頭を掴み上げ。

二人のいる場所へ投げ飛ばされる。

震える体に力を込めて起き上がると。

「っ!?」

右手にエネルギーを凝縮させたバージルが、此方に向けて今にも放とうと佇んでいた。

「構えろ」
「っ!」
「立ち上がって、これを防いでみろ」
「そ、そんな……!」
「でないと、そいつ等諸とも死ぬだけだ」
「っ!!」

突き付けられる死。

バージルの右手に集められるエネルギーは、恐らくはこの一帯を消し飛ばす威力を持っている。

それを防げなければ、他の二人と共に死ぬだけ。

避けられぬ死。

(死ぬ……私が、死ぬ?)

直面した死という現実に、不思議と体の震えは止まっていた。

「死にたく……ない」
「あぁ?」
「死にたく、ない!!」

轟、と、立ち上がると同時にセクストゥムの体から力の奔流が溢れ出す。

両手を差し出した彼女の前に巨大な魔力障壁が無数に展開され、バージルの前に立ちはだかる。

死んでたまるものか。

生まれたばかりで、まだ感情を持たない彼女だが、先程まで怯えていた顔とは一変し、一人の“人間”の顔をしていた。

死にたくない、それだけを思っているセクストゥムの目を見たバージルは。

「エクストリーム……ブラストォォォッ!!」

収束させたエネルギーの塊を、セクストゥムに向けて射ち放った。

光輝く翡翠の閃光。

降り注ぐ光の中、セクストゥムは見た。

(どう……して?)

光の向こう、自分を見たバージルが。

楽しそうに、無邪気な子供の様な笑顔を残し。

“楽しみだ”

そう、呟いたのを。

そして、光はカラコルムの山々を呑み込み。

世界第2位に輝いていた山脈は、地球上から消し去った。

















「何故俺はあんな事を……」

何処までも続く地平線、バージルは羽織ったマントを揺らしながら道路の端を歩いていた。

そんな彼の頭に浮かぶのは、先程の出来事。

何故あの時、さっさと殺さずにあんな事をしたのか。

それも、まるで試すかの様に。

幾ら考えても、答えは出ない。

ただ、覚悟を決めた時のセクストゥム……女のアーウェルンクスを見て思ったのだ。

また、戦ってみたいと。

更に腕を磨いて強くなったアイツ等と戦いたいと、そう思ってしまったのだ。

「……まぁいい。奴等の目的が俺ならば向こうでまた相手してやれば良いことだ」

今日まで感じていた苛立ちは、もう感じない。

バージルはスッキリとした面持ちで、次の扉のある地に向かって歩き出すのだった。


















〜あとがき〜

どうも、トッポです。

アーウェルンクスシリーズVSバージルは一先ず決着。

バージルは変わっていく自分に自身も戸惑いながらも魔法世界へと目指します。

そして次回からはまたネギまの話しに戻りますので、何卒ご容赦を。

因みに、アーウェルンクスシリーズの三人は一応生きてます。ハイ



[25893] 番外編第二次スパロボZ編
Name: トッポ◆9bbc37c8 ID:8ea9ffc1
Date: 2011/04/30 12:20





「……ここは?」

気が付くと、俺は見知らぬ天井を見上げていた。

フェイトと共に旧世界へ続く扉を潜った所迄は覚えている。

肌で感じる違和感からして、ここは魔法世界ではなさそうだが……。

バージルは体に掛けられた毛布を払い、ベッドから降りようとすると。

「あ、目を覚ましたんですね」
「誰だ、お前」

扉が開くと、目を瞑った車椅子の少女が、従者らしき女性に引かれて部屋へと入ってきた。

長い栗色の髪く、儚さを漂わせる少女。

「あ、ごめんなさい。私はナナリーっていいます」

ナナリーと名乗る少女、彼女の説明によって自分が新世界でも旧世界でもない、全く別の世界に飛ばされた事を知る事となった。

多元世界。

それがバージルの新たな戦いの舞台だった。











時空振動によって現れた二つの日本、その一つであるエリア11に新たな勢力が沸き上がる。

「我等は、黒の騎士団!!」

もう一つの日本、観光地熱海に鉄の城が立ち上がる。

「来い機械獣! お前達の好きにはさせない!」

歪んだ世界を破壊する為、ガンダムが世界に変革を誘発させる。

「俺が、ガンダムだ!」

次元の檻によって閉ざされた暗黒大陸では、一つのドリルが風穴を開ける。

「おうおうおうおう! デカイ耳かっぽじってよぉく聞きやがれ! 俺が天下無敵のグレン団、不撓不屈のあ、鬼リーダーのカミナ様とその弟分のシモンだ! 覚えておきな!!」
「あ、アニキ、俺はいいから……」

絡み合う運命、敵対する筈の彼らはやがて手を取り合い、世界を脅かす強大な敵に戦いを挑んでいく。

そんな中、月に潜む宇宙の監視者は。

「まさかぁ、奴が来たというのかぁ?」

また、暗黒大陸を支配する螺旋の王は。

「想像はしていたが、まさか本当にくるとはな……」

更に、宇宙を支配しようと画策する残虐非道の皇帝も。

「むう……」
「如何なさいました? ズール皇帝」
「地球掌握、急いだ方が良いのかも知れんな」

新たに現れた災害、次元獣を統べる王も。

「何故だ。何故奴の存在が俺の魂を震わせる!?」

永遠の時をさ迷う、無限獄へ堕ちた罪人すらも。

「フフ、まさかこんな存在に出会えるとはね」

バージル=ラカンという一人の新たな来訪者は、本人の意志とは無関係に世界に大きな波紋を引き起こしていく。













バージルがアッシュフォード学園に住み着いて数日が経過。

「ふ、はぁっ!」

広大な敷地を有する学園の庭で空を切る音が響き渡る。

アッシュフォード学園の理事長の孫娘、ミレイ生徒会長が保護したという少年、バージル。

拳が突き出す度に突風が起こり、周囲の木々を揺らす。

「ふー、こんなものか」

額から流れる汗を拭い、本日の鍛練の終わりを告げる。

「今日も頑張ってますね」
「……お前か」

耳に入ってきた聞き慣れた声、またかとやや呆れ気味に振り返ると、車椅子の少女のナナリーが従者の咲世子に押され、その顔に笑みを浮かべながら近寄ってきた。

「もう、ダメだよバージル君。年上の人には敬意を示さないと」
「知るかそんな事」
「もう、またそんな事言って……」

このやり取りも、もう幾度目だろうか。

バージルがこの世界に来た時、最初に見付けたのはナナリーだ。

アッシュフォード学園のクラブ棟に兄と共に住み、何かとバージルの世話をしようとする。

因みに、一人身で行き場所もないと言うバージルをこのクラブ棟に住ませてやりたいとミレイに掛け合ったのも彼女だ。

その際に彼女の兄からかなりの反対を受けたがナナリーは譲らず、今日までこの学園で過ごしてきた。

自分よりも年下のバージルをナナリーは弟の様に思う反面、バージルはそんなナナリーをやや鬱陶しく思えた。

「それより、今度は何の用だ」
「あ、はいこれ、ドリンクとタオルを持ってきたから……」

バージルはナナリーの手に持っていたドリンクとタオルを受け取り、消費した水分を補充した。

「バージル君はいつもいつも体を鍛えてますけど、一体何の為に鍛えているんですか?」

ドリンクを飲むバージルに投げ掛けたナナリーの何気ない問い掛け。

毎日毎日一日の半分以上を鍛練に占めるバージル。

そんなに鍛えてどうするのか、そんな疑問がつい口に出してしまった。

自分の事はあまり口にしようとしないバージル。

もしかしたら聞いてはいけない事だったのでは?

ナナリーはつい口を滑らせた事に、しまったと口を抑えた。

すると、バージルの口が開こうとした。

その時。

「おい、ここにも居たぞ!」
「「っ!?」」

突然聞こえてきた怒声に何事かと思い振り返ると、銃を手にした男性数名が押し入ってきた。

「我々は世界の変革を望む組織、WLFだ」
「この学園は我々が占拠した。貴様等はブリタニア・ユニオンの交渉の材料にする為の人質にさせて貰う」

WLFと名乗るテロリストは数十機のMSを駆り、アッシュフォード学園を占拠するのだった。












「クソッ! まさか奴等がこうも早く動き出すとは……っ!」
「ぜ、ゼロ、どうしましょう」

世界最大規模のテロ組織であるWLFの学園の占拠という放送がエリア11全土に流され、エリア11は混乱に包まれていた。

学園の生徒達全員を人質に取ったWLFは、生徒達の命を引き換えにブリタニア・ユニオンに対し身代金と軍の全解体を要求してきたのだ。

エリア11を治めるコーネリア総督が率いるブリタニア・ユニオン軍。

緊迫した空気がエリア11を包み込む中、シンジュクゲットーで待機していた黒の騎士団、その統率者である仮面の男ゼロは今回の事件に頭を悩ませていた。

いつでも出撃出来るように各自自分の機体に待機させているが、下手に動き出すのは危険と判断した為、未だに出撃が出来ずにいた。

(奴等がこの様な手段を辞さない連中だというのは理解していたし予想も出来ていた。しかしまさかこれ程までに動きが早いとは……)

仮面の為にその素顔は誰も知らないが、それでも彼の態度は誰が見ても焦っている様に感じる。

(本当なら今回の騒動が起こる前にWLFは潰したかったのに……くそ!)

自分の予測を上回る事態に、悔しさを噛み締めるゼロ。

『どうするゼロ、やっぱ俺とヒイロ……もしくはクロウとキリコが潜入するか?』
「いや、既に奴等は学園全てのゲートにMSを展開させている。下手な動きを見せれば……」
『ち、歯痒いぜ』

通信から聞こえてくる仲間達の苛立ちの声。

だが、誰よりも苛立ち、そして焦っているのはゼロ自身だった。

(だがどうする。既に学園は封鎖状態、フジの時とは違いゼロが出ても敵として討たれる。ルルーシュとして動いてもマスコミがいては迂闊に近づけない。マスコミを使っても……)

ゼロの頭に様々な打開策が浮かんでは消え、浮かんでは消えていく。

だが、そのどれもが事態の終息には至らない。

どうすればいい、いや、どうにかしなければ。

ゼロの思考が加速していく最中、コックピットの通信越しにマスコミの情報が流れてくる。

『あ、今テロリストの一人が人質一人を連れて出てきました』
「っ!?」
















学園の生徒達が閉じ込められたクラブハウス。

外はAEUや中華連邦のMS、更にはアクシオン財団が販売している機動兵器が学園内部を制圧。

武装したテロリストに囲まれた生徒達は恐怖に怯え、震えていた。

「ミ、ミレイちゃん」
「大丈夫。大丈夫だからね」
「沙滋、私……」
「どうしてこんな事に……」
「クソッ! 汚い真似しやがって……」
「ナナリー……っ!」

恐怖に震える者、卑劣な行いをテロリストに怒りを覚える者。

誰もがこの状況に不安を抱いていた時。

「おい、お前」
「は、はい」
「お前にはブリタニア・ユニオンに対しての最初の交渉材料になってもらう。来い!」

一人のテロリストがナナリーに向けて銃を突き付けた。

「わ、私ですか?」
「そうだ。早く来い」
「ま、待って下さい!」

足が不自由で身動きが取れないナナリーを無理矢理立たせようとするテロリスト。

強く握られた手首に痛みが走り、ナナリーが苦悶に顔を歪めた時、理事長の孫娘のミレイが割って入ってきた。

「この子はまだ子供です! 交渉の材料にするなら私を……」
「邪魔だ!」
「きゃっ!」
「ミレイちゃん!」
「会長!!」

しかし、テロリストはそれを遮り、ミレイを床に叩き付けた。

倒れ伏すミレイに駆け寄っていく生徒会の面々。

「ふん、我々の邪魔をするからだ」

再びナナリーに向き直り、手を伸ばそうとした時。

「ば、バージル?」

数日前に学園の敷地内で倒れていた少年、バージル=ラカンがナナリーの前に立っていた。

「……何だお前は?」
「…………」

銃を突き付け、威圧してくるテロリスト。

しかし、バージルは銃を突き付けられても動じる事はなかった。

「どけガキ、ガキが相手でも邪魔をするなら容赦はしないぞ」
「駄目だバージル、逃げるんだ!」

引き金に指を掛け、脅しではない事を告げるテロリスト。

スザクの声が響く中、バージルは不敵に笑い。

「やってみろよ」

静かに、テロリストに向かって言い放った。

「……そうか」

バージルの言葉に従い、テロリストは引き金に掛けた指を引き。

銃声が、クラブハウス内に響いた。

息を飲む音が聞こえる。

薬莢が落ちる音が聞こえる。

だが、悲鳴は聞こえてこなかった。

バージルが射たれた。

テロリストは間違いなく、バージルの額に向けて銃を放った。

だが、血は流れなかった。

「……何だ、お前は」

目の前の“ソレ”に対し、テロリストは震え。

対する“ソレ”はテロリストに向かって掌を向け。

「さぁ、何だろうな?」

バージルの掌から光が溢れた瞬間。

テロリストは、粉微塵に吹き飛んだ。
















『な、何だコイツ!?』
『ば、化け物だぁぁぁっ!!』
「ふはははははぁぁぁっ!!」

目を疑った。

学園を制圧していたテロリストが、事態の終息に軍を動かしていたコーネリアが。

ゼロを始めとした黒の騎士団が、そして世界中の人々が。

生身の人間が……それも小さな子供が、機動兵器を破壊し、蹂躙していくその光景に。

誰もが言葉を失っていた。

『この、化け物がぁぁっ!!』

テロリストの駆るイナクトが、ソニックブレイドを手にバージルに向けて斬りかかる。

しかし。

「大変だな、この世界の連中は……」
『っ!?』
「そんな鉄屑に乗らないとマトモに戦えないなんてな」

すれ違い様に起こった僅な会話、その直後にイナクトは真っ二つに切り裂かれ、爆散していく。

地を駆け、空を駆ける少年。

誰がこの事態を予測出来ただろうか。

瞬く間に機動兵器を破壊したバージルは、クラブハウス前に降り立つと、外に出ていたナナリーに近付き。

「バージル……君?」
「お前、俺に聞いたよな。何の為に鍛えるのかって……」
「え?」
「これが、その答えだ」

その言葉を残すと、バージルは全身に緑色の炎を纏って飛び上がり、空の向こうへと消えていった。

突然現れた少年、世界は彼の事をリトルデビルと呼び、恐れられる事になった。











混乱する世界は更に加速していく。

「まさか……本当に来るとはな」
「エルガン=ローディック、彼はこの世界に戦うと思うかい?」
「彼の意志は彼のものだ。それよりも君こそいいのか? 10年間想い続けてきたのだろう?」
「今は……まだその時ではないよ」






新たな来訪者を加えた多元世界。

破界の先にあるものは――
















〜あとがき〜
漸くスパロボZがクリア出来たので、その拍子で書いてしまいました!

次回からはまた本編を進めますので、よろしくお願いいたします!


PS
シオニーちゃんマジシオニーww



[25893] 番外編第二次スパロボZ編その2
Name: トッポ◆9bbc37c8 ID:24c843ea
Date: 2011/05/03 01:10




バージルがアッシュフォード学園から離れて数日。

世界は未だ混沌の中にあるというのに、バージルは空の散歩を楽しんでいた。

「こうして見ると、食料としての素材は結構あるんだな」

アッシュフォード学園から飛び出して、バージルが懸念していた事は食料。

何だかんだで世話になり、その上美味い飯を食わせて貰った事がある。

時々住んでいたクラブハウスにもピザが運ばれるなど、食べ物に関しては困らなかった。

何故かそのピザを食べる度にナナリーの兄から殺気を飛ばされた事があるが……。

それはそうと、食べ物で心配していたバージルだったが、それはすぐに解消された。

空からいきなり現れる獣、世間はそれを次元獣と呼ぶが、それを知らないバージルは食材の一つだと思い込み、次元獣が現れる度に喰らった。

味もそこそこで、サイズが大きい為にバージルは彼等を重宝するが。

ただ、この次元獣は時間が経過すればその姿を消してしまう為、口にする事は少ない。

しかも大物の場合、何やらバリアーの様な膜を張っている為、それなりの力で叩かないとダメージは与えられないのだ。

いつどこで巡り合うか分からない上、食べ方の難しい食材。

多元世界を脅かす災害を、バージルは希少な食材として捉えていた。

「この間見掛けた白い奴、きっと美味いんだろうなぁ……」

次元獣の中でも大きく、活きの良い牛の様なアイツ。

いつか食べてみたいと、バージルが思いを馳せていると。

「……腹、減ったな」

バージルのお腹からライノダモン級に似た鳴き声が響いた。

美味そうな食材を考えていた為、余計腹を減らしてしまうバージル。

「さて、今日も獣人でも喰いに行くか」

そう言ってバージルは急停止し、暗黒大陸のある方向に向き直る。

暗黒大陸と呼ばれる大陸に来て直後、バージルは突然巨大な顔に襲われた。

無論、容赦なく叩き潰したが、当時のバージルはまだ多元世界の事や食べ物など分からず、かなり腹を空かせていた。

何でもいいから何かを食べたい。

そんな時、巨大な顔から現れた毛むくじゃらのソレはバージルから見て食べ物に見えた。

喋ったり、人に近いものが感じたが、魔法世界にいた時に亜人が時々食べ物に見えていた為、それ程抵抗せずに食べられた。

毛が多い事や臭みがある等、癖はあるが味の方は意外とイケた。

他にも鳥、ワニ、カバと言った食材が巨大な顔という殻にランダムに乗っている為、バージルは巨大顔をお菓子袋の様に思えていた。

だが、困った事もある。

『おい、そこのお前!』
「んぁ?」

イヤホン声に呼ばれて振り返ると、AEUのMSイナクト数十機がバージルを追ってきた。

数多くのイナクト、バージルはまたかと肩を竦めると、高圧的な声の主が乗るイナクトがリニアの銃をバージルに突き付ける。

『俺はAEUのエース、パトリック=コーラサワーだ。てめぇには聞きたい事があるから着いてきて貰うぞ』
「……そういや、炭酸ジュースってのを飲んだ事ないな」

パトリックと名乗るパイロットの言葉に耳を傾ける事なく、バージルは次のご飯の献立を考えていた。

『おい貴様! 俺様の話を聞いているのか!?』
「……ごちゃごちゃ五月蝿いな」
『何ぃっ!?』
「何故俺がお前に従わなくてはならない?」

再三続く男からの言葉に苛立ったバージルは男の乗るイナクトに殺気をぶつける。

思い通りにならないバージルに男がトリガーの指に力を込め、リニアの銃弾を叩き込んだ。

『い、いきなり攻撃するのは命令違反では!?』
『何言ってやがる。上の方は此方に従わない場合強行手段も認めるって言ったんだ。命令違反なもんかよ』

ふん、と、コックピットでふんぞり返る男。

幾ら任務とは言え、生身の……それも子供にリニアライフルを直撃させるコーラサワーに、他の隊員に動揺が広がっていた、

その時。

「……おい」
『っ!?』
「随分と軽かったが……まさか攻撃のつもりか?」

煙の中から聞こえてくる声。

攻撃は確かに当たり、普通なら粉微塵に吹き飛ぶ筈。

なのに……。

「なら、今度は此方の番だな」

煙の中から見えた微笑の笑み。

その直後、自称AEUのエースが率いる舞台は、太平洋の上空で華々しく散った。

















「はぁ、これでまたDECの備蓄が減った」

小国リモネシア。

豊かに恵まれた自然の中で、リモネシアの外務大臣であるシオニー=レジスは苦悶の表情を浮かべながらお昼のランチを食べていた。

リモネシアは小さな国だがDECという希少な物質のお陰で国際的な立場に於いても相当な発言力を持っていた。

しかし、頼みの綱であるDECが減り続け、リモネシアは危機的立場に追われていた。

若くして国の代表という重責を背負う事になったシオニー。

祖国の平和と繁栄の為に奔走していたが責任と使命感、そして祖国への愛の重圧により大きなストレスを感じていた。

「やはり、リモネシアの繁栄の為にはプロジェクト・ウズメしか……」

シオニーの口から何らかの計画の名を出した。

その時。

「あぁ、駄目だ。流石に腹減った」
「へ?」

突然聞こえてきた声にシオニーは抱えていた頭から手を放して顔を上げると。

目の前に腹を抑えた子供が佇んでいた。

「え? え? な、何ですか貴方は?」
「あぁ?」

このレストランのテラスには自分以外誰もいなかった筈。

護衛のSPは外にいるが、誰もここに通すなと言い聞かせている。

子供は勿論蟻の一匹通す筈がない、しかしこの少年は現に目の前にいる。

背格好からしてまだ10歳前後の少年。

一体何者だと、シオニーが疑問に思った瞬間。

その疑問は解消された。

「ひっ!」

気だるそうな声と共に振り返る少年の顔を見た瞬間、シオニーの顔は恐怖に歪んだ。

リトルデビル。

先日アッシュフォード学園の事件でその姿を世界に晒した小さな悪魔。

人の身でありながら空を飛び、MSを砕き、破壊していく。

世界は彼を新たな異星からの侵略者と捉え、世界三大国家や国連もこの少年の動きを注意深くマークしている。

その悪魔と恐れられる少年が今、自分の目の前にいる。

シオニーは逃げ出そうとするが、腰が抜けてしまって動けずにいた。

ゆっくりと近付いてくる悪魔。

声を出そうにも恐怖ですくんで喉から声が出ない。

カチカチと歯が噛み合い、目から涙が溢れ出る。

恐怖で頭が混乱し、どうすればいいか分からなくなる。

そして、テーブル越しにまでバージルが近付いた瞬間。



ぐごぎゅるるるぅぅ……。


「ひっ! ………え?」

まるで次元獣の雄叫びの様な音にシオニーは怯えるが、すぐにそれが腹の音だと分かり恐る恐る向き直ると。

涎を垂れ流したバージルがシオニーの食べ掛けのパスタを見つめていた。
















「く、まさか三大国家軍が我々を潰しに来るとは……」

タクラマカン砂漠。

国際テロリストWLFの拠点の一つを潰すべく、国連に所属する特別国際救助隊“ZEXIS”が向かっていた。

WLFを撃破し、任務を終えたかに思えたが、三大国家軍の各陣営がZEXISを潰すべく大規模な軍事力を展開してきたのだ。

四方八方から降り注ぐ弾幕。

何とか抵抗しつつ反撃を繰り出すが、数の暴力に圧され、ZEXISは徐々に窮地へと落ちていった。

「く、これじゃあ逃げる事も出来やしねぇっ!」
「シモン! グレンラガンで一気に蹴散らして皆の突破口を開くぞ!」
「だ、駄目だよ兄貴! そんな事をしたら蜂の巣にされちゃうよ!」
「シモンの言う通りだ! 下手に動けば的にされるのがオチになる!」
「だからと言って……」
「このままじゃ……」

三大国家軍の攻撃は更に苛烈を極め、ZEXISのガンダム、スーパーロボット達を追い詰めていく。

「ゼロ、このままじゃ!」
「この状況を打破するには一瞬の好機が必要、だが……」

戦術予報士のスメラギも戦いの流れを読む天才ゼロも、この状況を打開する方法が見付けられずにいた。

「くっ、太陽炉を渡す訳にはっ!」
「俺は……ガンダムに」

既に危機的状況に陥ったZEXIS。

そこへ。

『此方はAEU所属、カティ=マネキン大佐だ。国際特別救助隊ZEXIS、抵抗を止め、直ちに投降せよ』

更なる軍の大部隊が投入され、ZEXISを圧倒的戦力差で押し潰そうとした。

その時。

「た、隊長!」
「どうしたハワード」
「さ、3時の方角より巨大なエネルギー反応が!」
「何っ!?」

突如、巨大なエネルギーの塊……緑色の閃光がブリタニア・ユニオン軍の背後から襲い掛かってきた。

閃光はタクラマカン砂漠を縦断し、三大国家軍の陣営を凪ぎ払っていく。

「ろ、ロイドさん! これは一体!?」
『ぼ、僕にも分からないよ』
「大佐、今の光は!?」
「分からん。だがこれは……」

たった一筋の閃光によって陣営をズタズタにされた三大国家軍。

閃光によって抉れた地面、射線上に展開していた部隊は消滅。

モニターに映し出されるLOSTの文字の数にカティ=マネキンは衝撃を受けた。

「まさか、ZEXISは戦略兵器まで所有していたと言うのか!?」

誰もが予想出来ずにいた事態。

三大国家軍もZEXISも混乱していた時。

「あ、葵!」
「どうしたの!?」
「3時の方角に生体反応、これは……子供!?」
「はぁっ!?」

何故こんな戦場に子供が?

この戦場にいる全員、敵味方問わずに動きが止まった時。

ソレは現れた。

「あ、アイツは!?」
「リトル……デビル」

太陽を背に、上空から現れた一つの人影。

見た目は10歳程度の子供だが、その内に隠された力は未知数。

生身で最先端の戦術兵器を破壊するという悪夢を見せ付けた男。

小さな男がZEXISと三大国家軍の前に降り立った。

「まさか、今のは奴が!?」

腕を組み、悠然と佇むバージル。

その表情は不機嫌そうに歪み、何やら苛立っているように見える。

「ち、何で俺がこんな事を……」
『す、すみません。か、帰ってきたらご飯をご馳走しますから……』
「大盛りだぞ」

左耳に取り付けられたインカムから聞こえる通信の声。

誰かに頼まれて戦う等、バージルにとって気に入らない事だが。

食料の提供という魅力的な条件を出されては下手に断る事は出来なかった。

あのリモネシアという国の食べ物は旨かったし、獣人も次元獣と呼ばれる獣も若干飽きてきたし。

「ま、いいか……ここには強そうな奴等がいそうだしな」

バージルはそう言うと、気を取り直して体に力を込め。

「さぁ、この世界の奴等がどんな強さを持っているのか……見せて貰おうか!!」

バージルが鍛えた力、その一部が解放された。















「どういうつもり? シオニー=レジス」
「カルロス=アクシオン=Jr……」

リモネシアの政務室。

国の代表格であるシオニーの仕事場に、飄々とした風格の青年が問い詰める様に彼女に詰め寄った。

「まさか君がリトルデビルをてなづけたのは驚いたけど、どうしてZEXISを助ける様な真似を? これじゃあ自作自演じゃないか」
「そ、それは……エルガン=ローディックに貸しを作れると思って……」
「まぁね。確かにそれは僕も考えたよ。けど、あの狸の事だ。もしかしたら僕達の考えはお見通しなのかもしれないよ?」
「そ、そんな事は……」

ない、とは言えなかった。

「まぁいいさ。君があの子をどうするのかは君次第さ。でも、決断するのなら早くしたほうがいいよ。そろそろ彼が計画を始めるから……」
「そんな事は分かっている!!」
「おお怖、なら僕はこれで失礼するよ」

ヒステリックに叫ぶ彼女を避けながら、カルロスは部屋を後にする。

残されたシオニーは窓から見える空を見上げ。

「私は……どうすれば」

決めた筈の自分の道に、迷いを感じ始めていた。














〜あとがき〜
と、言うわけでバージルinリモネシアルートへ。
シオニーちゃんを救うのはプレイヤーの貴方次第!?



[25893] 小太郎VSクウネル
Name: トッポ◆9bbc37c8 ID:e041101a
Date: 2011/05/08 12:05





「正義って……何を言ってるんやお前」

まほら武道会の控え室。

正義とは何か、いきなり問われるネギの質問に小太郎は戸惑い困惑する。

思わず聞き返すが、いつになく真剣な顔をするネギに小太郎は幾度目かの溜め息を漏らし。

「あんなネギ、仮にも誘拐の片棒を担いだ相手に正義は何かと聞くのは……お門違いやと思わへん?」
「…………」
「そんなにアイツが気になるんか?」
「っ!?」

小太郎が指摘するアイツ、それ十中八九バージルの事だろう。

図星を突かれた事に目を見開き、次に苦虫を噛み砕いた様な顔を晒すネギ。

「そんなにアイツが許せないんか? 自分の生徒をあんなにもズタボロにした事が……」

バージルは世界を救った。

見返りを求める事なく、ただ己の為だけに戦った男。

視点を変えてみれば、彼は英雄なのかもしれない。

だからこそ、ネギは許せないのかもしれない。

それだけの力を持っていながら、自分の為だけに奮うバージルに。

表情を険しくし、無言で拳を握り締めるネギ。

「まぁ、お前の言いたい事は分かる。あんだけすげぇ力を持っているのに自分の為だけに使っているのはちょいズルいわ」
「…………」
「けどなネギ、それはお前の親父さん……千の呪文の男も同じなんやないのか?」
「っ!?」

同じ?

バージルとナギが……同じ?

小太郎から言われた一言、それによりネギの脳裏にある光景が浮かび上がる。

六年前、故郷を襲った悪魔の群れ。

その時自分を助けてくれた父、その後ろ姿がバージルと重なった時。

ネギは、小太郎の胸ぐらを掴み上げていた。

ギリギリと、小太郎の胸ぐらを掴む手に力が入る。

「どうしたんやネギ? そないに興奮して」
「父さんは……僕のお父さんは!」
「あんな奴とは違う、か?」

自分の父である千の呪文の男は、偉大な魔法使い。

弱き者を助けて強き者を挫く、その姿はネギの憧れであり全てであった。

その憧れが、奴と被った。

嫌だった。

それはもう果てしない程に。

認めたくないしあり得ないと思った。

何より、父と奴の姿が一瞬被った事に疑問がなかった自分が一番嫌いになりそうだった。

息を荒くさせ、見開いた目で小太郎を睨み付けるネギ。

そんなネギを小太郎は冷めた目で見つめていた。

やがてネギは落ち着きを取り戻し、胸ぐらを掴んでいた手を離し、無言のまま背を向ける。

「なぁネギ、お前は正義とは何かと聞いてきたけどな、俺はそんなもん分かる訳ないと思うで?」
「…………」
「俺はこれまで生きていく為に色んなヤバい事をしてきた。木乃香姉ちゃんの時みたく人を拐ったり、人には言えない汚い事をぎょうさんしてきた」

自ら語る小太郎の身の上話。

ネギは口を挟む事なく小太郎の話に耳を傾けていた。

「世間様から見たら俺は悪そのものかも知れへん。手を血で汚して名も知らない誰かを傷付けて……許されへん事と言うのは分かってる。それが喩え生きる為だとしてもな」
「っ!?」
「俺は正義なんてものがこの世にあるかは知らへん、けれど一度決めた事は絶対にやり遂げようとする気持ちは……大事なんと違うか?」

背を向けたまま俯き、視線を合わせようとしないネギにそれだけを告げると、選手控え室に次の試合がまもなく始まるというアナウンスが流れ、小太郎は会場に向かう為に部屋を後にする。

「決めた事を、やり遂げる……」

残されたネギ、広々とした控え室に一人佇み、小太郎の言葉を反芻していた。














「来るとは思っていたが……」

麻帆良学園学園長室。

学園長である近右衛門の前には、一枚の手紙が置かれていた。

難しそうに眉を寄せて手元の手紙を見下ろし、どうするべきか頭を悩ます。

手紙の送り主は魔法世界の本国と呼ばれるメガロメセンブリアからである。

しかも、相手はそれを統一する元老院の一人。

魔法世界でもそれなりの発言力を持つ自分なら、ある程度の融通は通せる。

しかし、昨今の大規模な襲撃事件が起こった今、責任者である自分には以前の様な発言力は無い。

「まさか、ここまで動きが早いとは……一体何を企んでおる」

席から立ち上がり、窓から見える青空を見上げる近右衛門。

眼光は鋭く、ある一点を目指して射抜くその視線。

自分以外誰もいない部屋に張り詰めた空気が支配する中、机の上から手紙が落ちる。

メガロメセンブリアの元老院から送られた手紙の内容。

それは――。



『ネギ=スプリングフィールドを、魔法世界に招集する事を命ずる』

















「あぁっと! 何やら見えない壁に押し潰されているかの様に、小太郎選手が地面に膝を付いているぅっ!? これまでの試合といい一体何者なんだクウネル選手!!」

朝倉の実況が会場を熱く盛り上げる。

観客達の歓声が舞台を揺るがす中、小太郎は自分を見下ろすクウネルを睨み付ける。

「小太郎君、君には感謝しています」
「な、にをや!」
「貴方はネギ君の良き友人であり、彼に道を示そうとしている」

フードの奥から見えるにこやかな笑顔。

悪意の見えないその笑みが、小太郎を苛立たせる。

「ネギ君は父親とは違って些細な事で悩み、迷います。危なっかしくて……貴方の様な友人がいて、私も安心出来ます」

観客や朝倉からは聞こえない二人の会話。

「貴方はネギ君と決勝戦で戦いたいと望んでいるみたいですが……申し訳ありません。それは叶いません」
「っ!」
「今の貴方の実力では私には勝てません。残念ではありますがここまでです」
「…………」
「ですが、貴方の様なタイプは一度完膚なきまでに叩き潰されると、後に大きく飛躍すると……」
「楽しいか?」
「?」
「そうやって他人様を見下して、楽しいかと聞いとるんや!」

クウネルの操る重力の魔法。

通常の10倍以上の負荷の掛かる重力の中、その目に強い意志を宿した小太郎がカウントが10になる前に立ち上がり。

「うぉぉぉぉっ!!」

小太郎の雄叫びが轟くと、クウネルの重力によって形成された結界が崩壊される。

「まさか……気合いだけで弾き返したと?」

予想外の抵抗に驚くクウネル。

だが、それだけでは終わらない。

「っおぉおおぉ!!」

小太郎は咆哮と共に足場の板を踏み抜き、クウネルに向かって駆ける。

瞬動術、近接戦闘に於て必須と呼ばれる戦闘技術。

常人には目で追う事は敵わず、まるで姿を消したかの様な技。

だが。

「読めていますよ」

小太郎の動き、その全てを見切ったクウネルは小太郎の通り道に掌を置く。

小太郎の動きは読み易い。

感情的で直線的、子供故の単純さ、だからその次の行動も読む事が簡単にできる。

最初の時の様に、カウンターを当てておしまいにするかと思われた。

しかし。

「っ!?」

クウネルの掌打は小太郎に当たらず、代わりに自身の脇腹に衝撃が走った。

何が起こったと頭で考える前に、既に小太郎は自分の背後に回っていた。

(まさか、速さが増している!?)

自分の予想の上を行く小太郎に、クウネルは以前戦ったバージルを思い出す。

戦いの最中成長する者、その速度は違えどこの少年もあのバージルと同じタイプの戦士なのだと。

「アドバイス? 導く? 何も知らんアンタが勝手な事ほざくんやない!」
「っ!?」
「決めるのはアイツや! アホみたいに悩んで、つまらない事でグジグジして……けどそれがアイツなんや!」

音速を超えた攻撃の中から聞こえてくる小太郎の叫び。

舐めるな、バカにするなと、そんな叫びを乗せた打撃がクウネルの体に叩き込まれる。

「アンタの勝手な解釈で、アイツをまとめるんやない!」
「ぬっ!?」

四方からの分身、しかもそのどれもが実体と同じ密度を持ち合わせている。

小太郎がまだこの学園に来た頃は、まだそんな技術は持っていなかった筈。

(いつの間に……これ程の実力を!?)

加速する連打、一転して変わった展開に観客は大盛り上がりを見せる。

「そしてもう一つ、アンタは言ったよな。俺は一度ボロクソにやられた方がいいって」
「!」
「残念やったな、俺は既に三回もボロクソにやられとる!」

瞬間、クウネルの懐に潜り込んだ小太郎。

握り締めた拳に更に力を込め、クウネルの顎をカチ上げる。

相変わらず手応えはない。

しかし。

「三度目は麻帆良を襲撃してきた奴に……それはもうボロッボロにされたものや!」

四人の小太郎は飛び上がり、浮き上がったクウネルに追撃を仕掛ける。

上へ上へ、更に上へと連撃で昇る小太郎とクウネル。

「けど、それ以上に俺をボロクソにしたのはアイツ……バージル=ラカンや!」
小太郎が初めてバージルを見掛けたのは、西の総本山での事。

伝説の大鬼神を相手に単身で挑み、打ち勝ったその姿。

凄い、だがそれ以上に恐怖を覚えた。

バージルに抱いていた恐怖感、それは彼が目の前に現れた時により強いものとして刻まれた。

ヘルマンの襲撃事件、あの日初めてバージルを前にした時、小太郎は体ではなく心がズタボロにされた。

三回、その内の二回はバージルによって付けられた傷。

小太郎にとっては、三回目よりもその二回の方が苦痛だった。

だから、強くなろうとした。

あの恐怖から逃れる……いや、立ち向かう為にがむしゃらに体を鍛えた。

「俺が弱いのは認める。けど、それをとやかく言うのは野暮ってもんや!」

小太郎は分身体を黒い狗に変化させると、右拳にそれらを収束させ。

「アンタに言われんでも、強くなってみせるさかい!」

クウネルの腹部に、その一撃を叩き込んだ。

地上へ叩き付けられるクウネル。

舞い上がる煙で舞台が包まれ、小太郎は仕方なく視界が悪くなった所へ着地する。

手応えはやはり感じられない。

決定打を与えられない以上、このままではじり貧。

やはり判定勝ちを半ば諦めかけた時。

「……どうやら、私は貴方を過小評価していたようです」
「!」

声が変わった。

さっきまでは若い青年の声色だったのに、今のは自分と同じ位の子供の声に聞こえた。

「まさか!」

変わった声、そしてその声が自分の知っている人物と同じである事を悟ると、小太郎は驚愕で目を見開いた。

煙の中から現れる人影、それは自分に恐怖を植え付けた張本人。

「バージル……ラカン」

自分が今最も恐れる存在が目の前にいる事に、小太郎の足はガクガクと震える。

「今までの私の貴方に対する無礼……そのお詫びとして、今私の中で最も強い姿でお相手しましょう」

周囲が煙に囲まれる中、一歩ずつ歩いてくるクウネル。

逃げ出したい、降参したい。

小太郎の頭の中は恐怖から逃げ出したい感情でいっぱいになるが。

「へ、へへ……上等や、かかってこんかい!」

小太郎は逃げなかった。

震える足に力を込めて、小太郎は拳に力を入れて、バージルとなったクウネルに突っ込んだ。

瞬間、小太郎対クウネルの試合が終結した。














〜きょうのば〜じる〜

次の魔法世界と繋がる扉を目指して旅をしている時。
バージルはとある島で僅な休息を楽しんでいた。

「……少しは持つかな?」
「あ、アイツ……アンドリューサルクスを」
「食いやがった」

腹を擦りながら足元に転がる骨を蹴飛ばすバージル。

その様子を林から覗いていた学生達は新たな怪物に怯えるハメになった。












〜あとがき〜

えー、長らく待たせてしまい申し訳ありません。

次回から少し展開が早くなると思いますので、ご了承下さい。

PS
最後のおまけはエデンの檻とのプチクロスでしたww



[25893] 一回戦、終了
Name: トッポ◆9bbc37c8 ID:ba501a83
Date: 2011/05/15 02:34





「う、う……ん?」
「あ、気が付いた?」

誰かに呼ばれて瞼を開けると、視界に映ったのは天井だった。

「あれ? 俺は……確か」

小太郎はクラクラする頭を抑えながら何とか起き上がり、辺りを見渡した。

ベッドの隣に座る千鶴と夏美、他にもネギの生徒であるハルナや夕映、のどかや楓達が小太郎を囲んでいた。

鼻を突っつく薬品の臭い、身体中に巻かれた包帯、ここが医務室だと気付くと、同時に小太郎はある事実を悟る。

「そっか、俺……負けたんか」

小太郎の呟きに、周囲の顔色が僅に曇る。

「小太郎君は頑張ったわ。私、あんなにスゴイと思わなかったからビックリしちゃった」
「ほ、ホントホント! いやぁ私も驚いちゃった!」

落ち込む様に俯く小太郎に明るく声を掛ける夏美と千鶴。

怪我をし、疲れているであろう小太郎を優しく寝かせてやろうと、千鶴の手が小太郎の体に触れるが。

その手は、小太郎の手によって遮られた。

「小太郎君?」
「悪い千鶴姉ちゃん。俺ちょっと風を当たってくるわ」

千鶴の手を軽く払い、小太郎はベッドから降りるが。

「っ!?」

悲鳴すら上げられない激痛が、小太郎の全身を襲った。

膝を着き、痛みによって滲み出る汗が医務室の床を濡らしていく。

「ちょ、ちょっとダメよコタロー君! アンタ凄い怪我をしていたのよ!?」
「今は無理をしない方が宜しいかと」
「う、うんうん!」

膝を着き、ガクガクと震える小太郎に近くにいたハルナ達が駆け寄っていく。

体を掴み、刺激させないようにベッドへ連れていこうとするハルナ達だが。

「三人共、少し待って欲しいでござる」
「楓?」
「どうしたです?」

今まで静観していた楓によって中断される。

「折角でござる。ここは本人の意思を尊重し、外に連れていってやろうではござらんか?」
「え?」
「皆がそんな心配顔で囲っていては小太郎もゆっくり休めないでござろう? こやつの事は拙者が責任持って面倒見るでござるから……」

そう言うと楓は保護者である千鶴に向き直る。

「……分かったわ、小太郎君の事は任せるわ」
「ありがとうでござるよ」

ニンニンと楓は独自の笑顔を振り撒くと、小太郎を肩に抱えて医務室を後にする。

「それにしても、小太郎君どうして負けちゃったんだろう?」
「不思議よねぇ、途中までは小太郎君の独壇場だったのに、煙で見えなくなっちゃって……いつの間にか倒れてたんだもん」
「煙が会場を覆ったのは一瞬、その一瞬で何かが起こったのが妥当でしょう」

小太郎が医務室から退室した事で、何故彼が負けたのか検討するハルナ達。

和気藹々と試合の感想を話す彼女達だが、千鶴はその会話に参加する事はなかった。

(あの時、煙の切れ端から見えた一瞬……確かに彼がいた)

会場の誰もが煙で舞台の二人を確認出来ない中、千鶴は見た。

煙の切れ目、その奥から見えたバージルの姿を。

一瞬しか視界に入らなかったが、確かにあれはバージルだった。

だが、あれはバージルではない。

何となくで確証もないが、あれはバージルの姿をした誰か。

舞台で見たバージルが偽物だと気付いた最大の理由は空気。

本物とは明らかに違う身に纏う空気で、あのバージルが偽物だと分かった。

バージルが纏う空気。

それは誰にも、何者にも混ざらず、属さない孤高という空気。

孤独ではなく孤高、誰にも頼らず心を開かず、ただ己の為に動く。

保育園のバイトでも、イジメで一人孤独に砂場の隅っこで遊ぶ子供も見掛ける時もある。

そんな時は一緒に遊んだり、話を聞いたり、仲裁したりなど対処の仕方はあるが……。

彼にはその対処方法が当てはまらない。

自ら一人になろうとする彼に此方の常識は通用しないのだ。

ネギや小太郎と同じ年代だというのに、その有り様はここまで違うものなのか。

(バージル君、貴方は今どこで何をしているの?)

今はもうこの学園にはいない少年の事を思いながら、千鶴は医務室の窓から見える空を見上げていた。















会場のとある屋上。

気分を紛らす為、外の空気を吸いにきた小太郎。

屋根の瓦に座りながら会場を見下ろす小太郎の後ろには、楓の姿もあった。

「悪いな楓姉ちゃん。ここまで連れてきてくれて」
「なんのなんの、これくらいなんて事ないでござるよ」

小太郎の礼に楓はニコニコと笑顔で気にするなと応える。

そんな彼女に苦笑いを溢しながら小太郎は試合で盛り上がる会場を見つめ続けていた。

「……流石に千鶴姉ちゃん達には今の俺の顔を見て欲しくないからな、ホンマ助かったで」

グスリと、鼻を啜る音が聞こえる。

敗北するのは、頭の中で何となく分かっていた。

相手は東洋西洋の表裏問わずの最強の術者、未だ未熟で修行の身である自分に敵う相手ではないと、頭のどこかでそう思っていた。

それでも試合というルールの中での戦いならば何らかの勝機があると信じ、今日まで鍛練を欠かさずに来たが。

「……悔しいなぁ」

小さく、掠れる様な声で呟く小太郎。

負けた事に対しては勿論、何より幻影とはいえバージルという存在に対し心が折れ掛けてしまったという事実。

恐怖のあまり体が勝手に反応し、特攻紛いの攻撃を仕掛けたのがその証拠。

バージルという恐怖に負けた事が、小太郎にとって何よりも悔しかった。

「……小太郎よ」
「何や?」
「拙者は直接戦ってはいないから、そんな偉そうに言えないが……拙者は尊敬するでござるよ」
「……気遣いならいらんで」
「そんな無粋な意味ではござらんよ。拙者は純粋にそなたが凄いと思っているから、こんな事を口にするのでござるよ」

楓が口にする尊敬という言葉、今の小太郎には同情に聞こえるが、振り返って見た彼女の顔はそんなつもりは微塵も感じなかった。

いつも細い目は開き、真剣な眼差しで見つめてくる彼女の表情からは同情という色は見えて来なかった。

「小太郎は自分を弱いと思っているだろうが、それは違う」
「……今でも組み手では楓姉ちゃんには敵わないのにか?」
「そうではござらんよ、小太郎は強くなった。見た目の強さではなく心が」
「心?」
「さよう、幻影とはいえあの怪物バージルに戦いを挑んだのだからな」
「あれはただ自暴自棄の特攻、体が勝手に反応して突っ込んだだけや」
「それでも、でござる」
「?」
「どんなに頭で諦めても、心の何処かでは諦めてはいない。そんな小太郎の無意識の気持ちが、小太郎の体が動いたのでござるよ」
「俺の……体が?」

ふと、自分の手を見つめる。

頭ではもうダメだと諦めていた。

そして心も恐怖に怯え、折れ掛けていた。

だが、体は……何度も死線を潜り抜けて来たこの体だけは裏切らなかった。

「は、ははは……」

いつの間にか、小太郎の瞳からは幾つもの涙の粒が手を濡らしていた。

バージルという恐怖を心で乗り越える事が出来た。

喜びで涙を流す小太郎を楓は微笑みながら見守った。

(本当、大したものでござる)

小太郎の年代でバージルという恐怖を乗り越えた事は、今後彼に大きな力を与える。

(拙者は彼を思い出すだけで震えが止まらぬと言うのに……)

震える手を楓は握り締める事で誤魔化す。

(拙者も早く乗り越えねば……ネギ坊主、お主も早く答えを見つけるでござるよ)

小太郎と同じくらい気にかかる少年の事を思いながら、楓は空を仰ぎ見るのだった。













「切り捨てぇぇ、ごめぇぇぇぇん!!」
「うぉぉぉっ!?」
『おぉっと! ミスター武士道選手の会心の一撃が山下選手に直撃! 山下選手が戦闘不能により二回戦に出場する選手はこれで決まったぁぁっ! というか一体辻部長に何が起こったぁぁっ!?』

仮面を被った剣道部部長の辻選手が勝利した事により、大会は二回戦へと移行する。

会場は更なる盛り上がりを見せる中、教室の出し物担当を終えた長谷川千雨は一人どんよりとした表情で会場内を見渡していた。

「は、はは……本当に何でもありだなこの大会」

青ざめた表情でずり落ちた眼鏡を掛け直し、千雨は深いため息を溢す。

「分身だの氣だの、オカルトは大概にしろってんだ。……ま、見せ物としては中々だったが」

見せ物、その言葉を口にした瞬間、千雨の脳裏にあの光景が蘇る。

血の池に沈む教師といつもは教室でバカ騒ぎをしているクラスメイト達。

地獄の様なその光景を見下ろしながら見下ろす六人の悪魔達。

まるでどこかの三流映画の光景だが、それはまぎれもない現実。

過去に起こった事実として千雨の脳裏に刻み込まれている。

「……………」

目の前で起こった常識外れの戦い、そして遠退く意識の中で最後に見たのは、以前学園の地下から現れた少年。

瓦解した自分の常識に千雨は落ち着くのに数日の時間を有した。

一時は本気で転校を考えたが、交通等の問題によりそれも敵わない。

致し方なくこの学園に籍を置いているが、いずれはこの学園を出ていくつもりだ。

「……やっぱ、ついていけねぇよな」

クラスの皆には悪いが、これ以上この学園にいるのは色々危険だ。

今日の大会を見て、何の疑問もなく観戦している他生徒達に千雨はやはりこの学園には向かないと判断。

この後開かれる二回戦を見ずに会場を後にしようとした時。

「あれ? ネギ先生?」
「あ、千雨さん……」

ジュースの自動販売機で飲み物を買いに来たネギと鉢合わせ。

千雨は最も苦手とする存在と出くわしてしまった。


















〜きょうのば〜じる〜

とある海上の沖合い。

「一夏、今だ!」
「うぉぉぉっ!」

その上空にて、鎧を纏った複数の少女達と一人の少年が火花を散らしていた。

「シャルロット、ラウラ!」
「うん!」
「分かっている!」
「私達がいる事も……」
「忘れんじゃないわよ!」

赤、黄、青、黒、そして深紅の鎧を纏った少女達が男の援護をすべく、純白と青い翼を持った機械に攻撃を仕掛ける。

しかし、純白の機械はそれらを難なくと避けて、返しの羽根の弾幕を彼女らに浴びせる。

「「「きゃぁぁぁぁっ!!」」」
「ぐっ!」

降り注ぐ羽根の威力は凄まじく、彼女達の装甲を瞬く間に削り取っていく。

そしてその一枚が。

「お魚上手に焼けましt……」

とある島に被弾。

魚を取り、焼き、いざ食べようとした少年に“不運”にも直撃。

舞い上がる煙、ボロボロの体。

少年は灰となり地面に落ちた魚を見下ろすと。

「……野郎」

額に青筋を浮かべ、全身に緑色の炎を纏い。

その直後、島が光と共に消えると同時に少年少女達の断末魔が聞こえたとか。















〜あとがき〜
どうも第二次スパロボZ四週目をシオニー隊でプレイ中のトッポです。

今回は小太郎のターンでした。
ネギまでは数少ない男キャラで割りと好きなキャラクターなので、これからも少し優遇するかもしれません。


最後のおまけはアニメISのラストバトルシーン。
被弾した島にバージルがいたらという脳内設定のもと、プチクロスさせてみましたww




[25893] 相談
Name: トッポ◆9bbc37c8 ID:54e1d6f5
Date: 2011/05/29 03:34






麻帆良学園内、龍宮神社前。

一回戦の試合も終わり、二回戦の組合せを決める時間を利用した休憩時間。

帰ろうとした長谷川千雨は担任であるネギとバッタリ出くわし、現在は神社前にあるベンチでジュースを飲みながら談話していた。

ただし、談話といっても。

「あ、あの……」
「はい?」
「えと、ジュース……御馳走さまです」
「あ、いえ、気にしないで下さい」
「…………」
「…………」
(重っ! なにこの空気!?)

以下のように僅かな会話だけで終わるだけ。

しかも、どこぞの戦闘狂が愛用している重力制御並の空気の重さに千雨は息が詰まりそうだった。

「き、今日も良い天気ですね」
「そうですね」
「「…………」」

此方から話しかけても、このように上の空な返事ばかり返ってくる。

早くこの空気から逃げ出したい、千雨は飲み干したアルミ缶を握り潰し、ゴミを捨てると同時にこの場から逃げ出そうと考えた時。

「あの、千雨さん」
「は、はい?」
「一つ、聞いても良いですか?」

漸く向こうから話題を振られ、千雨はやれやれと肩を竦める。

担任で教師と言っても所詮はまだ10歳の子供、生徒である自分に相談するのはどうかと思うが一度位は仕方ないだろう。

「えぇ、別に構いませんよ」

適当にアドバイスして納得させれば、ここから離れられる切っ掛けも掴める。

千雨がネギの質問に耳を傾けると。

「……正義って、一体何なのでしょう?」
「…………は?」
「一体、何が正しくて何が悪いのか……それが分からなくなって」

呆然、千雨は真剣な顔で語るネギに唖然とした表情で見つめていた。

「力さえあれば、どんな事をしても認められるのでしょうか? 力の無い人はどんな事をされても認めるしかないのでしょうか?」
「いや、アンタ何言って……」
「彼は、バージルさんは暴力の化身みたいな人です。明日菜さんやマスター……エヴァンジェリンさんを傷付けて、それなのに、皆から認められて」
「いや、だから……」
「あの人は確かに凄いです。誰も敵わないと思った相手に一人で挑んで……戦って」
「でも、それでも許せないと思う自分がいて……余計何がなんだか分からなくなって」
「…………」

一人で黙々と語るネギ、自分の言葉に一切聞こうとしないネギに。

「あんたバカァ!?」
「はぅ!?」

千雨は遂に切れた。

「何正義って? バカじゃないの? ねぇ、あんたバカじゃないの?」
「痛、痛いですよ千雨さん!」

指先で何度も小突いてくる千雨に、ネギは涙目になりながら止めてと訴えた。

「お前が、泣くまで、小突くの、止めない!!」
「ふぇぇ〜っ!!」
「大体、この世の中で絶対に正しい事なんて、そんなのあるわけ無いだろうが」
「っ!?」
「世の中はな、自分の事しか考えていない奴が殆どなの! 中にはバカみたいな善人がいると思うけどそんなものは一握りしかいねぇんだよ! 自分がやりたい事をやって、その結果を見て大衆が善か悪かを決める。大抵そんなものなんだよ」
「そ、そんな……」
「今回の騒ぎなんて、その最たるものじゃねぇか」
「っ!」
「あのバージルって奴は私も数回しか見かけた事はない、けどアイツが誰かの為に動く人間だと思うか? 私は思わないね」
「…………」
「アイツがどういう人種かは知らねぇけど、少なくとも自分の欲求に素直な奴なのは確か、アイツはそんな自分の欲求に従った。それで生まれた結果が今なんだよ」

怒涛の千雨の言葉に呆然となるネギ、腰に手を当てて自分の知りたい事を当てずっぽうにだが的確に答えていく千雨にネギは黙って聞き入っていた。

「自分が正しいと思い込む輩なんて、大抵は狂信者や洗脳された人間の吐く妄言だ。だから神という曖昧な存在を信じてテロを引き起こす連中が出てくんだよ」

「そうだよ。大体あの化け物達が現れなければ私は今もネットアイドルとして活躍を……そもそも魔法って何なんだよ、そんなファンタジーは二次元だけの世界にして欲しいぜ」
「あ、あの……千雨さん?」

段々と声が小さくなり、最後は独り言の様に呟く千雨。

普段の彼女とは全くイメージが異なる事にネギが戸惑うと。

「そもそも! 何で教師であるアンタが正義なんて下らない話を吹っ掛けてくるんだよ!」
「は、はい! すみません!!」

振り返り様にツッコミを入れてくる千雨に、ネギはただ謝る事しか出来なかった。

「それにアンタ、あのバージルばかり認められて嫉妬するのは分かるけど、もっと周りを見たらどうなんだ」
「へ?」
「結果として奴がこの学園を救ったみたいになったけど、アンタだって頑張ってたじゃねぇか」
「ぼ、僕がですか?」
「生徒達の避難誘導、市民の安全確保、アンタ達が率先してやらなかったら被害は確実に増えてた」
「だ、だってそれは教師として……」
「そう、アンタはこの学園の一教師としてそれらを行った。他の教師達と一緒に……これは多分奴には出来ない事」
「あの人の……出来ない事」
「いいか、アンタはそんな“奴にも出来ない当たり前な事”をやってアタシ達を守ったんだ! これは覆せない事実!」
「守った? 僕が、皆を?」
「だ・か・ら、アンタはそんな正義とか善なんて下らない事で悩む必要なんか無いんだよ。もっと胸を張りな」
「は、はい!」

先程までの暗かったのは嘘のように、まるで憑き物が取れたネギは明るくなった表情に戻り。

「千雨さん、相談に乗ってくれてありがとうございます!!」

ペコリと頭を下げると、会場へと引き返していった。

「やれやれ、世話の焼ける先生だぜ」

苦笑いを浮かべ、呆れながらも千雨は人混みに消えるネギを見送り。

「……あんな偉そうな事を口にした以上、このまま帰るのは流石に格好付かないか」

千雨もまた、観客達の中へと消えていった。

「……やれやれ、どうやら小太郎君の言う通り、本当に私の出番は無いみたいですね」

少し離れた場所から一部始終を眺めていたアルビレオ=イマは少し寂しそうに呟いた。

「先程の彼に何か切っ掛けでもと、折角あれこれ考えていたのに……寂しいものですね」

フード越しでその表情は見えないが。

「ま、お陰で私も自分の目的に集中出来ますが……」

最後に見せた彼の口元は

「ネギ君、本当に良い友達に恵まれましたね」

嬉しそうに緩ませていた。
















「くっ、やはり奴には勝てんか!」

廃都オスティア、獰猛な魔獣達が蠢くダンジョンと化したこの地で、クゥアルトゥム達から聞かされた情報にデュナミスは頭を悩ませていた。

「バージル=ラカン、まさか奴があそこまで強くなっていたとは……化け物め!」

理不尽な迄の暴力、自分の予測を超えた勢いで強くなっていくバージルにデュナミスは苦し紛れの悪態をついていると。

「ま、それも仕方のない事だよ。彼は文字通り“存在”そのものが違うからね」
「っ!」

不意に背後から聞こえてきた声に振り返ると。

「……貴様か」

上下共に黒のスーツとそれに合わせた黒のコートを羽織い、黒のシルクハットを被った男性がステッキを片手に佇んでいた。

「彼は戦闘民族、戦いに於ては宇宙最強を誇る種族なのだから、当然の結果だね」

男はまるで道化師の様に愉快に笑い、タタンと軽快なステップを踏む。

「一体何しに来た。私を笑いに来たのか?」

ケタケタと笑う男にデュナミスは怒気の孕んだ口調で訪ねる。

「そう怒らないでよ。別に喧嘩をしに来た訳じゃないんだから」

タタンと、男はまたステップを踏む。

「用件がないなら失せろ。貴様と戯れ言を交わす暇はない」
「つれないね、折角彼等を起動させて上げたのに……」
「………」
「黄昏の姫巫女、彼女がいなければ本来なら未だ彼等は眠り続けていたんだ。少し位は恩を感じても良いんじゃないかな?」
「話はそれだけか?」

ギロリと睨んでくるデュナミスに対し、男は変わらず軽率な態度は崩さず。

「うぅん、そんな話をするだけでここまで来るわけないじゃん。今回は提案を出しに来ただけ」
「提案だと?」
「そ、今回彼にズタボロに負けた4と5と6番の子達を強化してあげよっかって話」
「っ!?」

男のその言葉にデュナミスは初めて動揺を見せた。

本来なら主の力を模した“鍵”が無ければ未だに墓所で眠り続けていたのに……。

それを完全に起動させるだけではなく、主が“設定”した最強を遥かに凌駕した力を与えたのはこの男。

この事実は完全なる世界に知る者は自分以外誰もいない。


「ただ、その為には核を一度消去しちゃうから、全く別の存在になっちゃうけどね」

男はニコニコと笑いながら簡潔に語る。

だが。

「断る」
「いいのかい? このままだとあの子達、また負けちゃうよ?」
「今回はまだ調整が不十分な点がある。それさえ治せば」
「勝てると?」
「……その為に私がいる」

自分の申し出に男はやれやれと肩を竦める。

「まぁ、君がそれで良いのなら別に構わないけどね。僕は所詮“観測者”、精々楽しませてもらうよこの物語をね」

男はそう言うと、シルクハットの中に入り姿を消した。

「……奴め、何を企んでいる」

道化師の様でマジシャン、掴み所のない男にデュナミスは舌打ちを漏らす。

「この間は騎士、その前は子供……一体どんな組織なのだ?」

男がいなくなった場所、デュナミスはただその一点を見つめると。

「一は全にして一……か」

「“カノム”、奴らの目的は一体」

その呟きは、誰もいない遺跡で数回に渡って反響するだけだった。

















〜きょうのば〜じる〜

とある街。

「僕のターン! スカイ・コアをツイン・ボルテックスで破壊! ワイズコアの効果で機皇帝スキエル∽を特殊召喚!!更にその効果でお前のレッドデーモンズドラゴンを吸収だ!」
「機皇帝スキエル∽!」
「しかもスキエルの攻撃力はジャックのレッドデーモンズドラゴンの攻撃力分アップしてる!」
「これじゃあバージルは!」
「ひゃーはっはっ! これでお前の青眼の白龍を凌駕したぁっ!絶望に沈めバージル!」


機皇帝スキエル∽の攻撃がバージルに襲い掛かる。

「罠発動、屑鉄のカカシ」
「あれは、遊星のカード!」
「ちぃ、命拾いしやがって」
「俺のターン、俺の引いたカードは……融合!」
「何! 融合だと!?」
「俺は場のブルーアイズ三体を融合させる。現れろ! 青眼の究極龍!」
「青眼の……」
「究極龍……」
「く、だがそれでも僕のスキエルの方が……」
「お前、何を勘違いしている?」
「何っ!?」
「まだ俺のメインフェイズは終了してねぇぜ!」
「っ!?」
「手札から魔法発動、手札断殺!」

手札断殺の発動によりお互い二枚カードを墓地に送り、デッキから二枚ドローする。

「俺は手札から青眼の光龍を特殊召喚!」
「何だと!?」

眩い光が街の暗雲を消し飛ばしていく。

光から現れる神々しい龍、その姿はまさに神の如し。

「青眼の光龍の効果発動! 墓地にいるドラゴン族一体に付き攻撃力を300ポイントアップさせる!」
「バージルの墓地にはドラゴン族は17体!」
「という事は!」
「「8100!!」」
「更に、巨大化発動!」
「や、止めろ。止めてくれぇぇぇぇっ!!」
「だが断る」
「うわぁぁぁぁぁっ!!!!」

青き龍の咆哮が轟いた時、街は閃光に包まれた。














〜後書き〜
えー、最近漸く別作品が完結した事で気が抜けた作者です。

最後のオマケは5D'sのプチクロスでしたww

殆ど台詞ばっかですみません。

PS
今更ですが、今週のネギまを読んで一言。

ネギパよりもフェイパの方が良いなと思うのは私だけ?



[25893] ウェールズ
Name: トッポ◆9bbc37c8 ID:d68b8e46
Date: 2011/06/12 01:10





霧が掛かった山々、イギリスのウェールズという地区。

その山奥に再びバージルが足を運んでいた。

「……ここか」

深い霧で録に視界が利かないにも関わらず、バージルは濃い霧の向こうへ視線を定めていた。

白い霧がバージルをまとわりつき、軈て包み込む。

鬱陶しそうに顔をしかめ、軽く舌打ちをするとバージルは右手を掲げ。

「フッ」

短く息を吐くと共に周囲に漂っていた霧は晴れ、辺りの景色を露にしていく。

霧に隠れた渓谷の人里、建物や家屋の数からして人口はおよそ数百人。

ここも世界樹の根の被害にあった場所なのか、人里の近くには巨大な穴が見えていた。

「ここに、転移装置が……」

バージルが学園から出て数日、その間世界中を旅して巡ったが。

その多くは調整につき起動不能、或いは既に起動し動けなくなったか等、尽くハズレを引き、バージルは苛立ちを募らせるばかり。

そこへ漸くまだ稼働しておらず、また安定している転移装置の情報を得る事が出来た。

それがここ、イギリスにあるウェールズという山奥。


ググゥゥゥゥゥ………。


「……取り敢えず、腹ごしらえをしよう。転移装置を探すのはそれからだ」

龍の唸り声と聞き間違えそうな空腹の鐘を鳴らしながら、バージルは人里へと足を進めた。

人里は赤レンガで造られた建物が多く見受けられ、街並みはどこか麻帆良学園に似ている。

「……腹、減ったな」

辺りを見渡して何処かに食べ物が無いか、場所を探す。

常人よりも遥かに遥かに発達した嗅覚を最大限に活用し、バージルは食べ物の匂いのする方向へ足を進める。

「ふんふん……近いな」

歩く度に食べ物、主に肉の匂いが強くなり同時に腹の鳴き声も強くなっていく。


そして匂いを辿り、次の曲がり角を曲がれば恐らくは匂いの出所に辿り着ける。

芳ばしい匂いからして恐らくは肉類。

腹に溜まる食べ物が食せると知り、バージルの足取りは自然と軽くなる。

そして角を曲がり、匂いの出所である飯屋を前にした時。

「あー、ちょっと君」
「!」

バージルの前に一人の大柄な老人が現れた。

魔法使いが羽織るフードで身を纏い、より荘厳で穏和な印象を受ける顔立ちと長く延びた髭。

いきなり目の前に現れた事で動揺しているだろうバージルに、老人は笑みを浮かべる。

「君がバージル=ラカン君だね、ワシはあの学校で校長を勤めている……」

なるべく刺激を与えないように話し掛ける。

が。

「取り敢えず、親子丼10人前」
「坊主、うちはカフェなんだが?」

バージルは老人を無視し、飯屋改めカフェのテラスの椅子に座り込んでいた。

「じゃあ腹に溜まる物で、20人前」
「いきなりアバウトだな!? しかも増えてるし!」

バージルのアバウト過ぎる注文に、店の店員は頭を掻きながら厨房の奥へ戻り調理を始める。

再び漂う食欲を誘う香り、バージルは早く食べたいと体を揺らしながら待ち構える。

「ふぉふぉ、まさかここまで見事に無視されるとは、余程腹が減っておったのじゃな」
「…………」
「安心しなさい。食べ終わるまで待っているから……」

いつの間にか相席に座る老人、その表情は先程と同じ人懐っこい笑みを浮かべている。

敵意も害意もない、そんな意志を伝えようとしているにも見える。

しかし。

「失せろ、目障りだ」

バージルはただ一言、静かに老人に伝えた。

「………」

覇気はないものの、バージルの冷たい視線から伝わる殺意に老人は押し黙る。

バージルもそれ以上語ることはなく、目の前の老人から視線を外し、黙々と料理が来るのを待った。

重苦しい空気、時間帯からしてまだお昼を過ぎたばかりだというのに、通行人の数は少ない。

皆、曲がり角から感じる空気に誰も近寄ろうとはしなかった。

トントンと、バージルの指でテーブルを叩く音が響くと。

「……残念だが、扉はまだ開かないよ」
「!」

扉、それは旧世界と新世界を繋ぐ橋。

自分の目的を言い当てられた事でバージルの眉が僅に動く。

「残念ながら此方の扉の調整もまだ未調整でな、完全に可動するまでまだ数日の時間を有するんじゃよ」
「…………」

またロスが生じる。

自分の目的が周囲の影響で遅れていく。

その事実がバージルを更に苛立たせる。

一度は収めていた殺気が再び滲みだし、テーブルや地面、周囲の建物に亀裂が入る。

ミシミシと悲鳴を上げる建築物、店の硝子にも皹が入り偶然その店にいた客は奇妙な現象に怯え、続々とその場を後にした。

バージルから放たれる殺気、老人は先程までの人懐っこい表情から目を細めて険しいものへと変えていく。

(近衛右門から聞いてはいたが、この年でここまで……)

目の前のバージルはネギと同年代の幼い少年。

まだ親に甘えたり、友達と遊びたりしたい筈なのに……。

(こうまで、修羅に堕ちれるものなのか――)

全身から滲み出る殺気と染み付いた血の臭い。

ネギ、そしてバージル。

どうして自分の知る子供はこうも血生臭い道を辿るのだろうか。

やりきれない思いが老人の中で募る中、バージルは更に殺気を強め。

「――お前もメガロなんちゃらの人間か?」

目の前の老人に明らかな怒気を含んだ声色で問い詰めた。

その問い掛けで我に返った老人は咳払いをすると……。

「――オホン、そう早とちりするでない。扉の調整はあくまで数日と言っただけじゃ」
「……どれくらいだ」
「そうさのう……ざっと一週間かの?」
「一週間……」

老人からの扉復旧までの日数を聞かされたバージルは思考を巡らせた。

一週間、それくらいの時間なら地球全土を廻るのに充分に可能。

昔と違って空も飛べる様になり、その気になれば日本まで一時間程度で辿りつけれるだろう。

だったら、未だ向かっていない国々……そこの可動している扉を見付けた方が良いのではないだろうか?

今までは修行や扉の正確な位置情報が分からない為、極力氣を使わないで移動していたが。

口振りからして魔法使い、或いはその関係者であるこの老人から扉について聞き出せばいい。

バージルが押し黙って数秒、一通りの方針を決めたバージルは老人に再び問い詰めようとするが。

「一週間の間に別の場所へ行こうとしても無駄じゃよ、他の転移装置は先日の巨大な根に破壊され、その殆どが機能していない。ここの装置は運良く無事だったのじゃが、それでも厳重な調整が幾度もされてきたのじゃ」
「…………」
「下手に動かずに一週間大人しくしていた方が賢明だと、ワシは思うがな」

自分が考えていた事を指摘され、更にはダメ出しをされる始末。

悉く自分の予定が狂わされ、バージルの苛立ちは募るばかり。

「まぁ、どれだけかかっても僅か一週間じゃ、旅の疲れを癒す意味でもここに滞在しても良いのではないかな?」

諭す様に語りかけてくる老人。

バージルが世界中を旅して巡った転移装置、そのどれもが先の神精樹の根の影響で破壊され、現在も修復や調整に人材を費やしている。

中にはテスト可動しているものもあったが、それは以前言った様に連続して可動できるものではない。

バージルは現地で得られた情報を元に他の転移装置を目指すが、作為的なものさえ感じるハズレっぷりに少々気が滅入っていた。

だからからか、バージルは意外にも老人の提案に素直に受けようとしていた。

「その様子じゃと、受けてくれるみたいじゃの」
「…………」

まるで自分の答えが分かっていた口振りにまた苛立ちが募る。

その意趣返しとバージルはここでの食料の請求を老人に押し付け。

結果、老人は請求された金額に目が飛び出る程に驚愕する事となった。
















街から少し離れた丘の上にある建造物。

古代西欧を思わせる建物内でバージルは老人の後ろを歩いていた。

「ここはメルディナ学園、魔法使いを育てる機関じゃ」
「………」
「そしてワシがここの学園の校長、皆はワシをお爺ちゃんと呼んでくれておる」

老人からの度々の紹介に耳を傾ける事なく、バージルはただ外から見える景色を眺めていた。

丘の上から作られただけにここから見える景色は絶景。

だがバージルの瞳にはそんな景色に何の反応を示さなかった。

二人の足音だけが響き、建物内で反芻していく。

すると。

「あ、校長先生!」
「おお、来てくれたか」

前方から聞こえてきた声、背丈の高い老人で見えないが声色からして若い女。

「紹介しよう、ここにいる間彼女が君の面倒を見ることになった……」

そう言って老人は前にいるであろう人物を紹介しようと道を開けると。

「っ! あ、あなたは!?」
「ん?」

金色の長髪に学生服を羽織った少女、それは以前バージルと出会った。

「何じゃ? お前達知り合いじゃったのか?」

ネカネ=スプリングフィールド。

ネギの姉である彼女が、驚愕に満ちた表情で立ち尽くしていた。


















〜きょうのば〜じる〜

(あぁそっか、私……死ぬんだ)

目の前に広がる闇、その端から見える鋭角な牙。

魔女と呼ばれるソレは顎を開かせ、今まさに獲物を喰らおうと一人の魔法少女に迫っていた。

これは刹那の合間に描かれる彼女達の独白。

(あっけ、ないわね)

事故で両親を亡くし、自分も死ぬ間際にまで追い詰められ。

藁にもすがる思いで“彼”と契約したのに……。

遠い親戚に厄介払いの様にあのマンションに入れられて。

友達もいなく、一人ぼっちで戦い続けて……漸く友達が出来たと思った矢先にコレか。

(これは、天罰なのかしら)

本当なら両親と共に死んでいた筈の……運命に逆らった者への天罰。

私は、多分心のどこかでそう思っていたのかもしれない。

でも、だからって……。

(死にたく……ない!)

少女が魔女に喰われるその刹那、彼女は一瞬強く願った。

そして、魔女の顎が閉ざされようとした。

その時。

「キュゥゥゥべぇくぅぅぅぅん!!」
「「「っ!!」」」

魔女の張った結界内で一つの怒声が轟いた。

そしてその怒声により全てが止まった。

「な、何今の!?」
「男の子の……声?」

響き渡る声により隠れていた二人と一匹は何事かと辺りを見渡す。

「ま、まさか……」
「キュゥべぇ?」
「ど、どうしたの?」

ドーナツの上で先程まで契約を迫っていた彼が、全身から汗を吹き出して踞り、そして震えていた。

感情というものを知らない彼等だが、一つだけ人間と共感できるものがあった。

それは、“恐怖”。

ガタガタと怯えている彼に二人はどうしたと近づくと。

「ほぉ、これが今回の魔女か……何処と無く鰻と似ているな」
「「「っ!?」」」

いつの間にか目の前には小さな少年が佇んでいた。

「き、君は……」
「な、何なの?」

背を向けている少年に少女達は問い掛けるが、少年は此方に振り向く事はない。

少年はただ眼前にいる魔女を見つめるだけ。

金髪の少女は腰を抜かし、ペタリと地面に座り込み。

また魔女は……。

「っ!!!!」

突然現れた少年に驚き、戸惑っていた。

すると、魔女は標的を少年に変えて再びその顎を開く。

少年を呑み込もうとする魔女に少女達は声を荒げるが。

「もうだめだ、おしまいだぁ」

キュゥべぇは現れた恐怖にどうにかなってしまいそうだった。

何故なら彼は――。

「さて、今回の魔女はどの程度なのか……この間の歯車みたいな奴よりも強いのか?」

希望も絶望も、等しく喰らう。

「まぁ、どっちでもいいか」

悪魔(デビル)なのだから。

さぁ、盛大に魔女狩りを

始めよう。














〜あとがき〜
お待たせしました!
今回はバージル主体に書いて見ました!
ネカネとバージル再び!
次回も宜しくお願いいたします。

PS
分かっているとは思いますが一応念の為に。
最後のプチクロスは本編とは無関係ですww



[25893] 心中
Name: トッポ◆9bbc37c8 ID:a4f70fdc
Date: 2011/06/22 10:34





まほら武道大会。

一回戦から繰り広げられる熾烈な戦い。

分身や遠当て、普段は目にすることはない超人達の戦いに会場は一気に盛り上り、尚且つその熱気は未だに冷める事はない。

そして始まった二回戦第一試合、その組み合わせはネギと――。

「ネギィィィィ!!」
「う、うわっはぁぁぁ!?」

頭上からネギの名前を叫びながら炎を纏った蹴りが舞台中央に突き刺さる。

爆発し、燃え上がる舞台、会場の観客席からは歓声が沸き上がる。

対戦相手からの蹴りを避けたネギは燃え盛る炎を見つめる。

炎を見つめるネギの表情は戸惑い、そして困惑していた。

そして、炎の中から現れるネギの対戦相手は……。

「ククク、漸くこの時が来たわねネギ」
「あ、アーニャ……」

ネギの幼馴染みであり同じ魔法学校を卒業した少女、アーニャだった。

炎の中から現れる微笑みの少女にネギは一歩後退さる。

「周りが女の子で囲まれ、腑抜けきったその根性を……叩きのめす時が!!」

少女の気合いと共に炎は激しさを増していく。

「あ、アーニャ、取り敢えず落ち着こう、兎に角一旦深呼吸を……」

主催者の超から告げられる対戦発表、出来れば戦いたくなかった相手の名前を耳にした時は正直一瞬逃げ出したかった。

何せ千雨と別れてからこっち、四六時中怒気の孕んだ視線で睨み付けていたのだから。

「落ち着く? 私は至って落ち着いているわよ?」
「いやぁ、そんな血走った目で言われても……」

目を見開き、血走ったその瞳に見つめられ、ネギはどうしても自分から仕掛ける事は出来なかった。

ある意味あのバージルと同レベルの怖さだ。

一体何故ここまで幼馴染みが激怒しているのか。

やはりここ最近の故郷への連絡を怠ったのが原因なのか?

何とかして幼馴染みの怒りを鎮めようと試行錯誤するネギだが――。

「アーニャ、フレイムバスタァァァ……」
「!」
「ナッコォォォ!!」

戦いから気を逸れていた為に迫り来る拳に気づかなかったネギ。

既の所を首を捻る事で回避し、再びアーニャと距離を開ける。

だが、アーニャの拳に纏っていた炎は髪に掠り、ネギの髪の毛の一部は焦げている。

追撃に備えて身構えるネギだが、意外にもアーニャからの攻撃は来なかった。

「あ、あれ?」

一体どうしたのだと、防御を解くと。

そこには殺気とどす黒い炎を纏ったアーニャが俯いていた。

「ふ、ふふふ……そう、やっぱりそうなのね?」
「あ、アーニャ?」

ブツブツと独り言を溢すアーニャ、異様な雰囲気を醸し出す彼女にネギを含め観客達は引き始めると。

「やっぱりアンタをたぶらかしていたのは乳だったのね!!」
「…………はい?」
「おかしいと思ったのよ、クソ馬鹿真面目なアンタが碌に連絡しないだなんて……さっきだってそう、何だか元気の無いアンタが心配で探してみたら、眼鏡を掛けた女とイチャイチャイチャイチャと……」
「ちょ、アーニャ?」
「そうよ、全ての元凶はアイツよ、乳が胸がπが乳(にゅう)が……ふふふ、あははははは!!」

恐っ!

ネギを始めとした多くの男性観客が思った一言。

狂った様に笑うアーニャ、それは全世界の貧乳少女達の怨念の叫び。

自分の貧相な胸元を見て何度悔しく、虚しい思いをしてきた事か。

バストアップを図ろうと必死に努力を続ける少女達。

だが、そんな彼女達を嘲笑うかの如く、持って生まれた乳で男達を墜としていく女豹達。

怨めしい、巨乳女が怨めしい。

乳に陥る男共が怨めしい。

いつしかアーニャの纏う炎から怨叉の声が聞こえる様になっていく。

そして。

「行くわよネギ、彼女達の力を借りてアンタの煩悩まみれの頭を貫く!」
「ち、ちょっ!」
「アーニャ、バーニングバースト……」

荒ぶる炎を纏いながら跳躍するアーニャ、その右足に炎を集約させて。

「キィィィィィック!!」
「いやぁぁぁぁぁっ!!」

舞台中央に突き刺し、再び舞台を炎で包み込む。

それを眺めていた楓達は。

「アーニャ殿やるでござるなぁ」
「隙は大きいが技のキレは中々だな」

などとのほほんと眺めているだけだった。

ただ、神社の屋根から眺めていた小太郎は、受難に苛まれるネギに両手を合わせて合掌していた。













「ふぅー……」

メルディナ学園、ネギの故郷から少し離れた人気のない丘の上。

足下に広がる絶景に目もくれず、バージルは相も変わらず修行に明け暮れていた。

ただエヴァンジェリンの別荘とは違い、満足に氣を放つ事が出来ず、ここに来てからのバージルの修行はもっぱら筋力だけの修行となっている。

とはいえ鍛えに鍛え、限界越えても尚痛め付けたバージルの肉体の強度はダイヤモンドを凌駕し、凶器の域に達している。

拳の一振りが強風を生み出し、ウェールズの山々に生い茂る木々を揺らしていく。

「……今日はこんな所か」

本気で修行できず、不満はあるものの、額から流れる汗を拭き取りながらバージルは本日の修行の終了を告げる。

汗だくとなったバージルは服を脱ぎ、上半身裸となって近くの滝へと足を進める。

ここは自然の恵みが豊富、空気は澄んでるし腹が減った時は野生の動物が縄張りに侵入してきた時に好きなだけ確保できる。

力を無意味に解放しなければ、体を癒すのには持ってこいの場所だ。

滝へと辿り着いたバージルは身に付けていた服を全て脱ぎ捨て、水中へと体を浸からせる。

熱した体を冷水が冷やしていく感覚に、バージルはホッと一息つかせる。

「……それにしても」
『心外だな』
『我々をあんな出来損ないと一緒にするなんて……』

気持ちが落ち着き、張りつめた緊張が解かれていくと、バージルはふと先日戦ったフェイトに良く似た三人の言葉を思い出していた。

奴等はフェイトの事を出来損ないと言い、そして自分達の事を生み出されたと口にしていた。

フェイトと酷似している氣の質、そして彼等の言動から考えると――。

「奴等は、誰かによって造られた?」

フェイトを含めた彼等は、何者かによって造られたと悟る。

「そう言えば、アイツ等は確か調がどうとかも言ってたな」

調が報告してきた情報を下に、自分と同等の力を与えられて生み出された。

自分の考えが間違いないものだと確信すると、バージルは青空を見上げ。

「……どうでもいいか」

だからどうしたと下らなそうに溜め息を溢す。

奴等が何者から造られようとそんなのは知った事じゃない。

喩え前回の戦いの情報が奴等を造った者に渡され、それを基に更に強くなって襲い掛かってきても、別にその時になってから戦えばいい。

寧ろ強くなって前より歯応えがあればそれはそれで大満足だ。

自分に近い敵と戦えればそれだけで得るものがある。

そうすれば……。

「奴を、ジャック=ラカンを」

水面から手を伸ばし、空に向かって拳を作る。

この世界に来て良かった。

エヴァンジェリンの別荘でかなり力が付いたし、何よりターレスという規格外の存在と戦う事が出来た。

ラカン以外に負けたという悔しい事実もあるが、総じてこの世界に来た事には意義も意味もあった。

あとは来る決着の日に備えて常に万全の状態であるよう気を付けるだけ。

フェイト=アーウェルンクスとジャック=ラカン、フルコースにしては味気も無ければ数も少ないが。

「ククク、あぁ、楽しみだ」

歓喜に歪んだ口元と共に無意識に力を解放するバージル。

バージルの拡散する力はウェールズの山全てを呑み込み、動物達を昏倒させていく。

水面から立ち上がり、徐に滝へと近付くと。

「シッ!」

下から上へと振り抜いた拳は重力によって流れる水の濁流を押し退け、滝を逆流させてしまう。

「あと、一週間……」

自身の拳を見下ろすバージルは笑い、来る日を楽しみにしていた。














魔法世界、廃都オスティア。

魔獣が蠢く廃れた街、その摩天楼の一角でバージルの標的の一人であるフェイトがいた。

何もせず、ただ椅子に座しているフェイトの背後に従者の調が姿を現す。

「フェイト様、ご報告がございます」
「何だい?」
「ハッ、メガロメセンブリアのゲートポートがあと数日で再び解放されると情報がありましたので……」
「そぅ、分かった」

フェイトは調からの報告に短絡的に返す、自身の役割を終えた調は部屋を後にしようとするが。

「……そうだね、だったら彼等を迎えに行ってあげようか」
「え?」
「いや、これは口実かな。本音を言えば彼と会いたいから……かな」

彼等、それは恐らくはフェイトの分身であるアーウェルンクスシリーズの事を指しているだろう。

だが、フェイトはそれは口実だと自ら否定し、調に自分の本心を口にする。

「いい加減彼を煙に巻くのは飽きてきた。次は……」

そこから先は口にせず、フェイトは目の前に拳を握り締め。

「……楽しみだよ、バージル君」

常に無表情なフェイトは口端を吊り上げていた。

ただ。

「……………」

フェイトが感情の色を表に出している中、調は唇を噛み締め。

「……バージル=ラカン」

自分達の宿敵の名を、口にしていた。












歓喜する獣、待ち構える人形。

相容れない彼等に挟まれ、乙女は何を思う?

















〜きょうのば〜じる〜

「どうして……どうして、アイツに勝てないの!?」

崩壊する大地、中に浮かぶビル群。

崩落したビルの残骸で、暁美ほむらは自身の無力さに涙を流し、震えていた。

目の先には憎い敵、超弩級の魔女“ワルプルギスの夜”

たった一人の友達を守る為に、何度も同じ時間を繰り返してきた。

誰も信用せず、誰にも頼らず、自分の心を押し殺してまで……。

だけど。

「私のしてきた事は……無駄だったの?」

どんなに繰り返しても、あの魔女が立ちはだかり、大切な人を奪っていった。

そして、自分のしてきた事もその一端を請け負ってきた事実に、ほむらは希望を見出だせずにいた。

「う、うぅぅぅ……」
『アハハハハ、ウフフフフ』

絶望に涙を流すほむら、それを歓喜するかの様に高々と笑う魔女。

彼女の左手の甲に嵌まった宝石が、黒く濁り始めた時。

「ほぅ、コイツがプルプルプルプリンか」
「!」

いつの間にか目の前には小さな少年が佇んでいた。

突然現れた少年、暁美ほむらは一番のイレギュラーな彼の出現に驚愕していた。

魔女に喰われそうになった巴マミを救った事から始まり、美樹さやかの契約阻止、佐倉杏子との奇妙な友人関係。

そして何より、自分達魔法少女と契約してきたインキュベーターの殲滅という名の補食。

どれもこれも自分の知らない出来事にほむらは終始戸惑っていた。

そんな彼が何故ここに?

いまだ混乱する頭を抑えながら体を抑えていると。

「ほむらちゃん!」
「大丈夫?」
「鹿目まどか、それに……」
「ったく、一人で突っ走りやがって」
「でも、間に合って良かった〜」
「どうして……」

自分を囲む彼女達に更に訳が分からないとほむらは困惑する。

『キャハハハハハ!!』

壊れた歯車の様に笑い続ける魔女、心の奥底から沸き上がる恐怖に彼女達が身をすくませると。

「さて、ここまで連れてきたんだ。これが終わったら……分かってるな?」
「うん」
「まどか?」
「ほむらちゃん、実は私彼と契約したんだ」
「!」

契約、忌まわしい言葉にほむらは目を見開くと。

「私、彼の……バージルの奥さんになるの」
「っ!!!!???」

まどかから告げられる契約内容にショックを受けるほむら。

ブハッと吹き出す彼女を尻目に、バージルはワルプルギスの夜に向かって空を駆け出した。

因みにバージルとの契約内容は“俺の為に飯を作り続けろ”である事をここに明記しておく。













〜あとがき〜
は、早くバージルメインのバトルを書きたい。

最後のプチクロスはバージル対ワルプルギスのつもりでしたww



[25893] その頃の麻帆良
Name: トッポ◆9bbc37c8 ID:645f0d1c
Date: 2011/06/29 14:44

「二回戦第一試合、終始押されていたネギ選手だが起死回生の一撃がアンナ選手にクリティカルヒーット! 準々決勝に駒を進めたぁ!!」

朝倉のアナウンスが会場で響く中、ネギはグッタリした様子で控え室に戻っていた。

再三襲い掛かるアーニャの猛攻、動きのキレもさることながら様々な武術を練り込んだ独自の体捌きに苦戦を強いらたれが。
最後は我を忘れて無闇に暴れまわる彼女にカウンターを入れて呆気なく終了した。

アーニャの一方的な暴走である意味自爆とも呼べる試合内容だったが、ネギは精神的にかなり疲弊した試合だったと自覚する。

「お疲れ様でござったネギ坊主、アーニャ殿は医務室で安静にしているでござる。怪我も大したものではござらんから、気にしなくても大丈夫でござろう」
「そ、そうですか。良かった〜」

かなり殺気立っていた為、あまり手加減出来なかった。

アーニャの容態、それだけが気掛かりだった為楓からの話にネギは胸を撫で下ろす。

「ネギ先生、君もさっきの試合で疲れただろう。彼女は医務室で眠っているだろうし、見舞いに行くのは少し休んでからでいいだろ」
「は、はい! そうします!」

龍宮からの言葉に素直に従い、ネギは体を解す為のストレッチを始める。

すると、次の試合の対戦者のアナウンスが流れる。

今回の第二試合は第一試合と違い、その直前まで相手を知らせないという変わったもの。

一体次は誰が戦うのか、ネギは固唾を飲むと。

『では、次の試合は……長瀬楓選手と龍宮真名選手、舞台前まで移動お願い致します』
「っ!」
「ほぅ、楓か」
「ふむ、腕が鳴るでござるな」

アナウンスから聞こえてきた対戦者達の名前、自分の教え子達が戦うと聞いてネギは僅に動揺するが。

「ふ、二人とも……」
「む?」
「んぅ?」
「が、頑張って下さい!」

両手を握り締め、頑張れとエールを送る担任に二人は顔を見合せ。

「ふふ、可愛い先生に応援されたんじゃ」
「負ける訳にはいかんでござるな」

二人共同じ笑顔を浮かべて、舞台へと足を進めるのだった。


控え室に残されたネギは一人拳を握り締め。

「みんな……みんな強くなろうとしている」

本来なら出場する筈だった古菲、しかし彼女は何か思う事があるのか、出場を辞退し、エヴァンジェリンの別荘で修行中。

高音も、そして妹弟子の愛衣も着実に力を着けていて。

友人であり好敵手の小太郎に至っては、魔法使いでは最強の一角のクウネルとかなりの激戦を繰り広げていた。

「……僕も、頑張らなきゃ!」

負けていられない、そう意気込みを見せるネギは次の試合に向けて気合いを入れるのだった。














「う……うん?」

エヴァンジェリンの別荘、外とは違い夜の時刻となっている。

月明かりの光が差し込むベッドの上で神楽坂明日菜は目を覚ました。

「あれ? 私……一体?」

いつの間にか眠っていたのか、気だるい体を起こして明日菜は辺りを見渡すと。

「ここ……エヴァちゃんの別荘?」

部屋の隅に置かれた観葉植物、そして見慣れた建物でエヴァンジェリンの別荘、それも本殿である事は分かる。

だが、その事実がより明日菜を混乱へ陥れる。

そこへ。

「あ、目が覚めたんやな」
「!」

聞き慣れた声が聞こえ扉の方へ視線を向けると。

「良かった〜、どうやら治療は無事成功したみたいやな」

お湯の入った小さな桶を手にした木乃香が安堵した表情で佇んでいた。

「木乃香?」
「どう? まだどっか痛い所ある?」

呆然となる明日菜を他所に、木乃香はベッドの側に置かれてある椅子に腰掛ける。

「あ、うん、大丈夫みたい。少し体がダルい感じがするけど……」
「そっか、多分寝過ぎて体が回復を通り越して疲れたみたいやね」
「寝過ぎてって……私、どれくらい眠ってたの?」
「う〜ん、五日くらいかなぁ?」
「五日も!?」

木乃香に言われて自分が一体どうなったか、明日菜は漸く思い出すことが出来た。

自分が意識を失う寸前、目の前に広がる緑色の閃光と懐かしく、悲しい記憶。

記憶の方はもうぼんやりとしか思い出せないが、緑色の閃光については今も鮮明に思い出せる。

「そっか……私、生かされたんだ」
「明日菜……」

バージルとの修行の最中、散々文句を垂れ流し、いざと言うときは自分は普通の女子中学生だと言い訳する日々。

そんな自分にキレたバージルが殺しに掛かってきた所までは覚えている。

バージルは殺すと言った以上、余程の事がない限り訂正はしない。

それはあのヘルマン襲撃の際に思い知らされている。

なのに生きている、それはつまり自分は“殺す価値すらない”という事に他ならない。

武術の達人、または戦いに身を置いて常に決死の覚悟を持ち合わせている者にとって、それは死に様すら奪われるこの上ない侮辱な行為。

その者達なら生き恥を晒したと憤慨し、嘆き、中には自ら命を断つ者もいる。

だが、明日菜は……。

「生きている……私、生きているんだ」

体を震わせて両手を握り、生きている事に喜びを見出だしていた。

バージルという恐怖から逃れ、明日菜は歓喜していた。

ボロボロと涙を落とす明日菜を木乃香は優しく抱き締める。

「木……乃香?」
「うん、明日菜は頑張った。怖いのに痛いのに……頑張ったね」

頭を撫でられ、木乃香の優しく暖かい腕に抱かれ。

「うっ、ひぐ……」

明日菜は暫くの間、木乃香の腕の中で泣き続けていた。













「明日菜、落ち着いた?」
「う、うん。ごめんね木乃香、ありがとう……」

あれから幾分か時間は過ぎ、どうにか泣き止んだ明日菜は恥ずかしそうに赤く腫れた目を擦る。

「気にせんでええんよ、ウチが望んでやった事だし、それに……」
「?」
「明日菜が無事で生きていて、本当に良かった」

自信がある訳じゃなかった。

明日菜が大怪我をして帰ってきた時は、正直焦ったし、戸惑いもした。

その戸惑いが僅な間で済んだのは、以前麻帆良を襲撃してきた時の惨状を目の当たりにしたのが大きい。

血を流し、地に倒れ伏しているバージルを前にして死を前にした人間に直面し、皮肉にも木乃香は命を預かる立場、それを僅ながら経験する事が出来た。

だから血塗れとなった明日菜を前にしても、焦りながら、しかし冷静になるように徹して治療に当たる事が可能となり。

刹那やシルヴィと手助けしてくれる者もいた為、明日菜の治療は何とか完了となった。

刹那からも命を取り止め命の保障は確保されたと言われたが、万が一の事を考慮し、木乃香は明日菜が目覚めるまで徹底して看病に身を費やした。

数日に渡る看病を一睡もせずに行った為、木乃香の目元の隈は更に深みを増している。

「木乃香」
「ん?」
「本当に、ありがとね」

それを見た明日菜は親友に対し自分なりの誠意、その全てを使って木乃香に感謝した。

そしてまた木乃香も。

「うん、どういたしまして」

明日菜の感謝に対し、満面の笑みで応えた。

「それより木乃香、アンタここんとこ全然寝ていないんだけど……大丈夫?」
「え、えへへ〜、実は明日菜が目を覚ましたのを見たら……何だか急に睡魔が」

そう言うや否や話の途中でガクリと俯く木乃香。

数ヶ月も別荘に籠って医療の知識を頭に詰め込み、重症だった明日菜を初めて治療し、更には数日間も看病し続けていたのだ。

倒れない方がどうかしている。

張りつめた糸がミチミチと千切れていく様な感覚、凄まじい睡魔と戦いながら尚起きようとしている木乃香に明日菜は呆れの溜め息を溢す。

「私ならもう大丈夫だから、アンタももう寝なさい」
「え? で、でも……」
「私も朝までは大人しくしているし、それに……」
「?」
「聞きたい事があるから」
「!」

真剣な面持ちの明日菜に木乃香は彼女が聞きたい事が瞬時に理解した。

故に木乃香は何も言わず、ただ静かに席から立ち上がり。

「じゃあウチは隣の部屋に入るから、何かあったらすぐ呼ぶんやよ?」
「うん、分かった」
「それと、一応念のために病院で精密検査も受けて貰えるようお爺ちゃんに連絡したから……」
「分かったって、アンタも早く寝るのよ」
「うん、じゃあ明日菜、お休み」
「おやすみなさい」

互いに就寝の挨拶を済ませ、木乃香は部屋を後にした。

残された明日菜は窓から見える満月を見上げる。

「どうしてアンタは、私を殺さなかったの?」

明日菜は疑問に思うのは一週間自分に修行を付けてくれたアイツ。

どんなに譲歩しても文句しか言わない自分に、アイツはかなり苛立っていた筈だ。

それはもう殺したい程に。

なのにアイツはそれをしなかった。

死にたい訳じゃない、自殺を志願している訳じゃない。

ただ“殺す価値”すらない自分が、酷く惨めに思えた。

明日菜は自分の体に巻かれた包帯をなぞり、先程まで笑みを浮かべていた顔に陰りを落としていた。




〜きょうのば〜じる〜

「どうした死神、もう終いかよ?」
「黒崎君!」
「が、く……そ」

グリムジョーとの戦いの直後、黒崎一護は囚われた井上を助けてネロやチャド達と一緒に虚夜宮を脱出する筈だった。

だけど、グリムジョーとの戦いを終始眺めていた十刃、ノイトラの襲撃により絶対絶命の窮地に立たされていた。

「はっ、どうやらもうこれ以上は無理だな。おいテスラ、コイツはお前にくれてやる。好きに殺せ」
「はっ!」

グリムジョーとの戦いを全て見ていた為、一護の手を知り尽くしたノイトラは疲弊した状態の一護を一方的に蹂躙。

満身創痍に追い詰められた一護はそれでも立ち上がろうと体に力を込める。

「黒崎君、逃げて!」
「黙ってろぺぇ〜っと、テメェはここで見てるんだ」
「っ!」
「テメェを助けに来たバカが、醜い肉片へ変わる様をな……」

ノイトラの捕縛から逃げようと必死にもがく井上だが、人間である彼女が虚の……それも十刃の一人であるノイトラの腕力から逃げ出す事は叶わない。

口も塞がれ、声も出せない井上はただひたすら助けてと祈るしか出来なかった。

好きな人が目の前で殺される。

(誰か、誰でもいいから……)

助けて!!

彼女の祈りが叫びに変わった時。

「中々楽しそうな事をしているな」
「「「っ!?」」」
「俺も混ぜてくれよ」

そいつは現れた。

何の前触れもなく、突然現れたのは子供。

霊圧も霊力も何も感じない子供。

「あぁん? 誰だお前?」

ノイトラの問いに応えず、少年はただノイトラの下へ歩み寄る。

「お、おいお前!」
「?」
「一体どこから現れたのかは知らねぇが、ここにいたら危険だ! 早く逃げろ!」
「…………」

一護の言葉にも耳を傾けず、少年は歩き続ける。

いきなり現れた謎の少年、だがノイトラはそんな事は関係無かった。

「チッ、面倒くせぇ」

軽く舌打ちを打ち、捕まえていた井上を離すと。

「じゃあな餓鬼」
「だ、ダメェェェッ!!」

ノイトラは手にした得物を振り下ろす。

井上の叫びにが辺りに響き渡った時。

「な………に?」

ノイトラは目の前の少年に驚愕していた。

今自分は全力で得物を振り下ろした。

それも死神である一護を何度も叩きのめした一撃でだ。

普通の人間なら粉微塵に砕かれる筈。

なのに……。

「おい」
「っ!?」
「こんなものが全力か?」

目の前の少年は、肩にノイトラの一撃を受けても微動だにせず、悠然と佇んでいた。

「このっ!!」

ノイトラは舌を突きだし、舌先に光を集約させる。

「っ! 不味い!」

虚閃を放とうとするノイトラに一護は反応するが。

それよりも早く少年は動いた。

右の拳に力を込め、ノイトラの顎を打ち抜く。

瞬間、ノイトラは飛翔し、天蓋を突き抜け。

虚夜宮の外へと場外。

いきなりの出来事に唖然となる一同。

その場の視線が少年に注がれる。

対して、その少年は……。

「……何だか今の奴、スプーンに見えたな」

どうでもいい感想を洩らしていた



[25893] その頃の麻帆良〜弐〜
Name: トッポ◆9bbc37c8 ID:fca15e5f
Date: 2011/07/02 12:02




「まほら武道会四回戦第二試合、両者は一歩も譲らず大激戦! 結果はWKO(ダブルノックダウン)! 白熱の試合は引き分けに終ったぁぁぁっ!!」

舞台上で共に膝を着く楓と真名、互いにボロボロとなり満身創痍になりながらもその表情は晴々としたものだった。

「ふっ、流石だな楓、伊達に甲賀の忍をやっていないな」
「コインだけで拙者を追い詰めた人間に言われても、嫌味にしか聞こえないでござるなぁ」
「そう言うな、私も先日の一件で自分を一から鍛え直す事にした。今回の試合はその成果を試す為に参加しただけなのだからな」
「そうでござったか、してその修行の成果は拙者で試せたでござるか?」
「上々だ。何せコインだけでお前を追い詰めたのだからな」
「……次は覚えているでござるよ」

真名は楓のリベンジ宣言に笑みを浮かべて応え、二人はフラフラになりながらも立ち上がり、舞台中央で握手を交わして互いに健闘を讃え合い、試合に幕を下ろした。

互いに全力を尽くした為、次の試合に出場は困難となり、二人は共に大会の辞退を申し込み、出場者の一人は確実に準決勝へ駒を進める事となる。

そして。

「さぁ! 麻帆良建設部の活躍により舞台は速やかに修復され、次の試合に移ろうと思います!」

ヨロヨロになりながらも舞台から退場する二人を見送った後、進行役も兼任する朝倉和美が次の試合をコールする。

空中に浮かび上がる対戦者のカード、二人の内一人は仮面を付けた剣士、剣道部部長辻改めミスター武士道。

一体何がどうしてああなったのか、剣道をこよなく愛して敬い、紳士的な優しさを持つ辻部長が、あんな変態仮面へと変わってしまったのだろうか?

「ふ、愚問だな。私はただ高みを目指したいのだよ。憎しみを越え愛を超越し修羅の道を突き進みその先にある……武の極みを!!」

誰も聞いてねーよ。

そんな観客達の冷静な突っ込みも聞かず、舞台に降り立つ変態仮面……もといミスター武士道は仁王立ちで対戦相手の到着を待つ。

モニターに映し出されている選手はミスター武士道のみ、もう一人の対戦相手にはただ“Unknown”と表示されるだけ。

一分、二分と時間だけが過ぎ姿を見せない相手に観客達がどよめきを見せ始める。

「一体誰が出てくるんだ!」「早くしてくれー!」等々野次が飛んでくる事態に朝倉は焦りを見せ始める。

と、その時。

「いやー済まないネ、準備に手間取ていたヨ」

聞こえてきた声に振り返ると、舞台へ繋がる通路から大会の主催者である超鈴音がパワードスーツを装着して姿を現していた。

「え、えっと……超? これは?」
「本当は選手の人数は偶数でピッタリ合わせるつもりだたガ、今回は奇数であった為に急遽私がリザーバーとして参加する事になたネ、何分まだ色々と未熟の故こうした遅延を引き起こした事を心より謝罪するヨ」

深々と頭を下げる麻帆良の頭脳、超鈴音の登場に会場は沈黙するが。

古菲と同じ中国武術研究会の一人で古菲と同レベルの実力を持つとされる超の登場、何より主催者である超の参戦という意外な展開に、会場は一気に歓声を上げて盛り上がる。

「という訳で、急遽私が相手になるが……宜しいかナ?」
「愚問だよ超鈴音、私はただ己の武を見せ付けるだけなのだから」

漸くの好敵手の登場に構えるミスター武士道。

超に促され、朝倉は二人から離れると。

「で、では! 第五試合……始め!」

第五試合の幕開けを告げる。

瞬間、ミスター武士道は手にした木刀を上段に構え。

「見せてやろう、これが幾年の月日を重ねて編み出した私の奥義だ!」

瞬間、ミスター武士道の全身は赤くなり、その気迫を膨れ上げる。

最早人外になりつつある辻に豪徳寺薫を始めとする同学年の武道家は、変わり果てた友人を遠巻きに見つめていた。

対する超はフッと笑みを浮かべ。

「済まないナ、此方は時間がない故」

背中に嵌め込まれた時計をそっと撫でり。

「ズルを、させて貰うヨ」

カチリと、歯車が止まる音が超だけに聞こえた。













「どうした古菲、中国四千年の歴史とやらはこんなものか!?」
「まだ……まだアルヨエヴァにゃん!!」

エヴァンジェリンの別荘、その修行場の一つである極寒地帯で、大規模な爆発が氷の大地を砕いていく。

足下で立ち上る煙を見下ろしていると、ボロボロの姿になった古菲が飛び出す。

満身創痍となっているにも関わらず、古菲はエヴァンジェリンに向かって拳を振り抜く。

「ふん、威勢はいいが勢いだけでは……」
「!」
「私には到底届かんぞ!」
「のわぁぁぁっ!!」

振り抜かれた拳にエヴァンジェリンの両手が絡みつく。

左手は手首に、右手は二の腕に、間接を固める事で力場を固定させ、相手の勢いを利用し、投げ付ける技。

百年もの間暇潰しで磨いてきた合気道柔術によって、達人の領域に達している古菲を難なく弄んでいる。

大地に向かって真っ逆さまに落ちていく古。

しかし。

「何の!」

体を回転させて体勢を整え、同時に氣で足場を練り上げ、再びエヴァンジェリンに向かって突き進む。

虚空瞬動、まだ荒削りだが高等戦術を会得しつつある古菲に、エヴァンジェリンは僅かだが目を見開く。

「ふ、流石は中国名門武道家の娘、呑み込みが早い……しかし!」
「なっ!?」
「甘いわぁっ!!」

虚空瞬動の移動途中、先読みして振り抜かれたエヴァンジェリンの蹴りが古菲の腹部に直撃。

口から血を吐き出し、古菲は今度こそ冷たい氷の大地に叩き付けられる。

舞い上がる白い煙、砕けた氷に凭れながらガクガクと震える腕を支えに古菲は何とか立ち上がろうとする。

「ク、グッ……」
「止めておけ、今の攻撃で腕や足、他にも骨が折れている箇所がある筈だ。今日はここまでにしとけ」

そんな彼女の前に闇の福音、エヴァンジェリンがマントを翻しながら降り立つ。

「まだ……やれるヨ」
「意気込みは結構だがお前は小僧(バージル)じゃないんだ。自分の限界くらい自分で見極めろ」

そう言ってエヴァンジェリンは懐から青い液体の入った小瓶を古菲に投げ渡す。

「こ……れは?」
「ポーションだ。奴に使っていたものよりも高価な代物だ。大事に有り難く飲め」
「…………」
「そして飲み終えたら木乃香の所へ行っていろ。アイツも大分治療関係が達者になったからな、そのポーションと合わせれば二日で完治するだろうよ」

それだけを言い残し、エヴァンジェリンは転移魔法陣に立ち、極寒地帯を後にした。

そして氷の大地から一転、エヴァンジェリンは自然に覆われた根城へと入り、近くにあったソファーに腰かける。

「ふぅ……疲れた」
「お疲れ様ですマスター」
「あぁ、すまんな」

疲れた様子で帰ってきた主に茶々丸は紅茶の入ったカップを差し出す。

気の利いた従者に礼を言い、エヴァンジェリンは紅茶を口にする。

熱すぎずかといって温くもない、紅茶として最も味が旨い温度で淹れる従者にエヴァンジェリンは舌を巻いた。

「美味いな、以前よりも味が出ている」
「有り難うございます」

エヴァンジェリンの評価に慎ましく受ける茶々丸。

紅茶を飲んで一息着いたエヴァンジェリン、飲み干して空になったカップを茶々丸へ手渡す。

すると。

「……マスター」
「ん? どうした茶々丸、急に改まって」

空になったカップを手渡し、もういいぞと下がらせるが、珍しく従わない茶々丸。

別に従わない事に対して怒ったりはしないが、いつもは従順過ぎる茶々丸が不思議に思えた。

何か戸惑っているにも見える茶々丸にエヴァンジェリンは首を傾げると。

「マスター、マスターは本当に……本当にお体は大丈夫なのでしょうか?」
「……へ?」

散々溜めといて口を開いて吐いた言葉は大丈夫ときた。

いや、従者として主の容態を心配するのは当然とは思うが、いかんせんいきなりでしかも普段は無表情な顔をした茶々丸が心底不安な表情で問い詰めてくるからエヴァンジェリンは驚きに目を丸くさせていた。

「はは、まさかお前にそんな心配をされるとはな、私は闇の福音の不死の魔法使い、エヴァンジェリン=A,K=マクダウェルだぞ?」
「ですが……」
「ん?」
「マスターは……マスターは以前の襲撃の際に大怪我を負いました! 奴等はマスターの不死の力を利用して何度も……何度も!」
「…………」
「マスターは他にも、バージル=ラカンとの戦闘で怪我をして、そして今度は古菲さんの修行で……私は、私はマスターが壊れてしまいそうで、それが嫌で……悔しくて!」

ギリッと、握り締めた茶々丸の拳から鈍い音が響く。

茶々丸は不安だった、主であるエヴァンジェリンが壊されそうで。

ターレスに、バージルに、言いように破壊され、蹂躙されていく姿に。

不老不死で傷は癒えても、心までもが破壊されそうで。

そして何よりも、そんな主に何もできないでいる自分が許せなくて……。

俯き、震える茶々丸。

そんな彼女にエヴァンジェリンはゆっくりと近付き。

「何を生意気な事を言ってる」
「アウッ!?」

背後から膝カックンをかました。

いきなりの事で内臓された高性能バランサーも作動せず、茶々丸は力なく床に座り込む。

更に。

「どうやら貴様は少々図に乗っているようだ。私自ら矯正してやろう」

どこから出したのか、その手にはネジ巻きが握られ。

「そらそらそらぁぁぁっ!!」
「あぁぁぁぁぁっ!? い、いいいけませんマスター! そんなに激しく魔力を込めて回されては!!」
「ここか、ここがええのかぁっ!?」
「ら、らめぇぇぇぇっ!!」

エヴァンジェリンの極上の魔力を込められ、ひたすらネジを巻かれて、暫くの間古城には茶々丸の艶が掛かった叫び声が木霊するのだった。











「全く、お前如きに心配されるようでは私も終わりだな」
「も、申し訳ありませんマスター……」

あれから数十分、漸く解放されても未だに項垂れている茶々丸にエヴァンジェリンは腕を組んで見下ろしている。

「ですが、やはり私は心配で……」
「くどいぞ、また回してやろうか?」
「……すみません」

エヴァンジェリンの睨みに項垂れる茶々丸、まるで子供の様に項垂れる従者にエヴァンジェリンはヤレヤレと肩を竦め。

「茶々丸、お前が言いたい事は分かる。幾ら不老不死でも蓄積されたダメージは簡単には取れん。だがな、これは私の意志。あの化け物と戦い、バージルを挑発し、ガキ共を鍛えているのも……全ては私の意志だ。そこにお前が言い挟む余地はない」
「……はい」
「だがな」
「?」
「……お前達がいるから、私はそう出来る」
「マスター?」
「わ、私が言いたいのはそれだけだ! 行くぞ茶々丸!」

顔を真っ赤にして自室に向かうエヴァンジェリン。

彼女は確かに無理をしていた。

だが、それは自分の後ろに信頼できる従者がいるからだ。

茶々丸がチャチャゼロが、そして彼女達の姉妹達が。

万全な状態でサポートしているからこそ、エヴァンジェリンは幾らでも無茶ができる。

茶々丸は先行く主の背中を見て。

「はい、マスター」

相変わらずの無表情、だけどどこか嬉しそうな色を滲ませ。

主の下へ掛けていくのだった。

















〜あとがき〜
今回はエヴァンジェリンと茶々丸、二人の絆の話を書いてみました。

次回は古菲と武道大会の方を書きたいと思います。

バージルの方はもう暫くお待ちください。



[25893] その頃の麻帆良〜参〜
Name: トッポ◆9bbc37c8 ID:47b5d1f9
Date: 2011/07/06 15:04





「切り捨てぇぇぇ、ごめぇぇぇぇぇん!!」

試合開始の合図と共に踏み出したミスター武士道。

吐き出した怒号の気合いと共に振り下ろされる木刀は、間違いなく超の肩へと狙いを定めた。

一般人でありながら達人並の速さで間合いを詰めるミスター武士道。

取った! ミスター武士道が初撃で相手を倒せると確信した時。

「すまんネ、少しズルをさせて貰うヨ」

腹部に重い、途徹もなく重い衝撃が全身に走り、ミスター武士道は力なく舞台の床へと倒れ込んだ。

「……あ、あれ?」

実況兼レフェリーを勤めていた朝倉、そして観戦していた観客達は沈黙に包まれていた。

何故先に仕掛けた筈のミスター武士道が倒れているのか、理解し難い光景に誰もが言葉を発せられずにいた。

「朝倉、いいのかナ? レフェリーがボーッとして」
「ハッ!?」

その超の一言で我に返った朝倉は、カウントを取ろうとミスター武士道の下へ駆け寄る。

しかし、顔や腕、腹、足といった数ヶ所に強打された痕が痛々しく浮き上がり、粉々に砕けた仮面のしたから白目となって気絶しているミスター武士道。

とてもカウント、ましてや試合を再開できる状態ではないと悟った朝倉は腕を交差し、突然の乱入者である超鈴音を勝者とした。














「う、つぅ……流石エヴァにゃん、容赦しないアルなぁ」

自分がいた砕かれた氷の大地から抜け出し、エヴァンジェリンから渡された治癒促進剤の飲み薬を飲み干した。

全身に広かっていた痛みも徐々に引いていき、全快とは言わないがそれでも自由に体を動かしても問題ない迄には回復。

これなら引き続き修行が可能ではないかと、古菲は全身に氣を練ろうとするが。

「つっ!」

氣を纏おうとした瞬間、全身に針が通った様な鋭い痛みに襲われ、古菲は痛みに耐えられず氷の地面に膝を付く。

古菲は元々は一般人であったが、武道の名門の一人娘であり格闘のセンスはずば抜けて高い。

肉体を限界にまで高め、氣の習得にまで差し掛かり、遂にはエヴァンジェリンとの組手によってその限界を一段階超える事ができた。

エヴァンジェリンの弟子にはなれなかったがその代わりに組手の相手をしてくれる事になり、古菲は表でネギ達が試合をしている間、解放状態のエヴァンジェリンと毎日組手に明け暮れた。

そのかいあって今はエヴァンジェリンの拳による本気の一撃、その数発分なら何とか耐えられるまでの耐久力と防御力が得られ、氣による大幅な戦闘能力の向上を獲得した。

しかし。

「ど、どうやら流石に無理をしすぎたみたいアルね」

それだけ無茶をすれば体に負担を掛けるの当然で、事実古菲の修行は己の寿命を削りながらのものに等しかった。

そうでもしないと、あの領域にはとても辿り着けないと思えたから。

「……だが、私は彼じゃないネ、体を壊したら元も子もないヨ」

そう言って立ち上がる彼女の顔には影などなく、年相応の女子中学生の笑顔があった。

「その分だと、今日の修行は終わりみたいだな」
「?」

取り敢えず体を癒す為にエヴァンジェリンの古城のある地帯へと移転する為、歩きだす古菲の背後から聞き慣れた声が聞こえた。

「あれ? 刹那じゃないか、どうかしたアルか?」

自分と同じくこの別荘で世話になっている桜咲刹那がその背中に翼を生やして氷の大地へ降り立った。

地面に着地すると同時に羽をしまう刹那に、古菲は問い掛ける。

「なに、明日菜さんが先程目が覚めたとお嬢様がお休みになられる前に聞いたものでな、一応お前に話しておこうかなと思ってな」
「明日菜が!? ほ、本当アルか!?」
「あぁ、本当だ。何なら見舞いに行くといい、但し静かにな」
「はぁ〜、良かったアル〜」

刹那からの報告にホッと胸を撫で下ろす古菲、彼女も木之香の手伝いに明日菜の治療をしていた為、その吉報で心配だった種が取れた事で古菲は安心感に包まれていた。

「お前も少し休んで来い、もう体は限界を越えているんだろ?」

刹那の心配そうな瞳に満身創痍となった姿が映る。

「今そうする所アルよ、エヴァにゃんのお城に戻ったらお風呂入ってご飯食べて歯を磨いて寝るヨ、そうすれば次の日には全回復ネ」
「そうか、ならば今度は私がこの場所を使わせて貰う」
「刹那も修行カ?」
「あぁ、言っておくが、エヴァンジェリン殿の許可なら取ってあるぞ」
「そうカ〜、ちょっとタイミングを誤ったカナ〜、もうちょい刹那が早く来れば刹那とも組手できたのに……残念ネ」
「そう言うな、お前が回復したらその時に相手をしてやる。それまでには私も万全にしておくさ」
「おぉ! 約束ヨ!」

そう言って古菲は刹那に手を振り、転移魔法陣へ入っていった。

古菲が消え、極寒地帯にいるのは刹那だけとなる。

「……さて、私も始めるか」

目を閉じて、集中力を高める刹那。

誰もいなく、時折流れる風が刹那の髪を撫で上げる。

静かな静寂の中、自身の呼吸すらも聞こえなくなり、心臓の鼓動、大気の流れ、それらの音が一致した瞬間。

「シっ!」

短く吐かれた息と共に愛刀夕凪を一瞬にして引き抜き。

砕かれた氷の大地、その一部が氷山となったソレを真っ二つに両断。

轟音と共に崩れ落ちる氷山を背に刹那は鍛えた氣を解放する。

彼女は何も木之香の側にただいただけではない。

空いた時間を狙って彼女もまたコツコツと鍛練を続けてきた。

未だに限界を越えれずにいるが、それでも少しずつ実力を付けていた。

(負ける訳には……いかないからな)

それは一体何に対しての宣言なのか、それは彼女にしか分からない。

だが、力を付けなければならないという事実は承知している。

木之香を守る為に、そしてその使命を護れずにいた自分を討ち倒す為に。

「はぁぁっ!!」

桜咲刹那は剣を振るう。















「超さん!」
「ん?」

選手の控え室に続く通路、自分の名を呼ぶ声に振り返ると担任のネギが駆け寄ってきた。

「ハァ、ハァ、ハァ……」
「どしたネギ坊主、そんなに急いで? 私に何か用カ?」

膝に手を着いて肩で息をするネギ、一体どうしたのかと訪ねると。

「ど、どうして貴方が?」
「それは私が主催者でありながら大会に出場した事カナ? それとも……」

一体どうして、ネギの疑問に超は背中を見せ。

「このカシオペア2号を使用している事カネ?」

パワースーツに埋め込まれた未知の力を秘めた懐中時計、カシオペアが静かに時間を刻んでいるのを見せ付けた。

「っ!」

カシオペア、その未知なる力の恩恵により超は世界樹が魔力を失う直前まで、ターレス一味の一人と互角に渡り合える事が出来た。

その脅威の力を秘めたカシオペア、だがネギはそのカシオペアの力の秘密に憶測だが気付き始めていた。

「……その様子だと、気付いているみたいネ、このカシオペアの力に」
「…………」
「私を卑怯と呼ぶかナ?」
「……いえ、この大会では飛び道具や刃物、呪文の詠唱を禁止とされていますが懐中時計の持ち込みは規制されてませんから」
「ほぅ?」

ネギからの意外な答えに超は目を丸くさせる。

カシオペアは謂わば禁じ手、その反則気味な能力により後ろ指を指される事を覚悟していた彼女にとって、ネギの返事は思ってもないモノだった。

「ただ、僕は知りたいんです。貴方の目的を……」
「私の目的?」
「今回の大会、それは沈んだ皆を楽しませるものだと超さんは言いました。確かにそれもあるでしょう、だけど、僕には他に目的があるとしか思えないんです」
「……その根拠は?」
「貴方自身がそうじゃないんですか?」

ネギのその言葉に超はフッと苦笑いを溢す。

それもそうだ。

ただ代わりとして出場するには最新型の強化服など必要ないし、カシオペアという反則な代物はこの大会自体を否定する様なモノ。

超は静かに笑い、軈てネギに向き直るとやりきれない顔をしたネギが拳を握り締めていた。

「ごめんなさい超さん、こんな……生徒を疑う様な事なんてしたくはなかったんですけど」
「構わないヨ。企んでいた事は事実だし、君にそんなつもりはない事は知っているヨ」
「…………」
「そうネ、今ここには誰もいないみたいだしネギ坊主に話すとするカナ」
「え?」
「私の目的、それは世界中の人間に魔法の存在を強制的に認識させる事ネ」
「っ!?」

超自身の口から聞かされる目的の全容に、ネギは大きく目を見開かせる。

魔法の秘匿、それは全魔法使いにとって暗黙にして絶対の掟。

魔法という超常の存在の公開、それも認識という形で達成させようとする超にネギは彼女の成そうとしている目的の大きさを瞬時に理解し、同時に驚愕していた。

しかし、だからこそ解せない。

地球はターレス襲撃という未曾有の危機に直面し、そしてそれを乗り越えた事で人々の心にある疑問を芽生えさせた。

この世界には自分達がまだ知らない何かがあるのではないかと。

復興もあり、少しずつだが世界の真実に近付いていこうとしている人々に対し、超の計画はただ混乱を加速させるだけなのではないだろうか?

混乱するネギに超は更に追い討ちを仕掛ける。

「ネギ坊主、一つ賭けをしよう」
「え?」
「次の試合、君の相手は私ダ」
「っ!?」
「君が勝てば私は計画を諦めよう、だが私が勝てば計画は直ちに遂行される。先日の襲撃事件で魔法先生達の殆どは動けないからネ、そうなったら誰も私の計画は止められないヨ」
「そ、そんな……」

強い決意の籠った超の口調、彼女の計画を聞かされ唯一それに対抗出来るのが自分しかいないという事実にネギは愕然し。

「ではなネギ坊主、頑張って足掻いてくれ」

超はそれだけ告げると、踵を返して通路を歩いていく。

通路の先に消えていく彼女の後ろ姿を見つめると。

「え?」

一瞬、ほんの一瞬だが、超鈴音の姿が“薄くなる”のを、ネギは見逃さなかった。














〜きょうのば〜じる〜

青天、どこまでも続く青空。

青に支配された空に一つの黒点が姿を現れる。

一つ、二つ、次々と現れる黒点は軈て空を覆う程の数へと増えていく。

「全く、次から次へと……」

黒に染まる空、白い騎士が飛翔する。

一つ、二つ、瞬く間に爆炎へと変えていく白い騎士は次の標的へと視線を変える。

この身に纏うのは世界最強の鎧、2000を越える黒点……ミサイルの撃墜はこの力を見せ付ける世界への証明。

騎士は剣の柄を握り締め、残りのミサイルへ飛翔する。

が。

「っ!!??」

遥か彼方から突如して飛来する緑色の巨大な閃光が白騎士が残したミサイル、その数1580発が一瞬にして消え去った。

何が起こった?

混乱する白騎士のセンサーに一つの生体反応が映される。

白騎士は反応する方角へ振り返ると。

「なん……だと?」

外見からしてまだ10歳程度の少年、弟よりも二回り以上小さな少年が緑色の炎を纏って白騎士の目の前で佇んでいた。

何だコイツは? 何なんだコイツは!?

言い知れない恐怖に駆られ、白騎士は少年に剣の切っ先を向ける。

それを目の前に少年は笑い。

「その程度のパワーで俺を倒せると思っていたのかぁ?」

両腕に力を込め、身に纏う炎を更に高める。

白騎士の戦乙女が、破壊の悪魔に単身挑む。

















〜あとがき〜
どうもトッポです。

今回のプチクロスはISの白騎士とバージルの回、次回はこの続きを書きたいと思います。

……はやくバージル絡みを書きたいなぁ。



[25893] その頃の麻帆良〜四〜
Name: トッポ◆9bbc37c8 ID:a03e75b0
Date: 2011/07/12 12:19





遂に始まったまほら武道会準決勝第一試合。

ここまで勝ち残ってきた強者達が集う戦い、この試合を除いて後は第二試合と決勝のみ。

大会も残す時間も僅かになり、会場の観客達の歓声も徐々に膨れ上がってきている。

そんな中。

「はぁっ!」
「残念、外れです」

準決勝第一試合の対戦者である高音の蹴りが、クウネルに向かって放たれる。

堂に入った蹴り、魔法使いである彼女の体術は戦闘指南者であるチャチャゼロから培ったもの。

嘗ての大魔法使い、エヴァンジェリンが前衛を任せるだけであってその戦い方やその教え方も並みではない。

ネギと共に鍛えられ、瞬動、虚空瞬動まで会得し、魔法もエヴァンジェリンによって運用、効率も格段に上達。

前衛と後衛、どちらもこなせる使い手へと成長する事となった。

チャチャゼロの体術は実践型だが、それでも並の相手にも負けはしない。

何せチャチャゼロは全身を砕かれてもバージルの足止めという役割を、見事に果たしているのだ。

教え子である高音もまだ未熟とは言え、それでも達人の域に足を踏み入れている。

しかし。

「隙ありですよ」

高音の相手とする人物は達人の中でも極めて上位の使い手、最強クラスの人間。

クウネルは高音の蹴りを体を軽く捻る事で回避、そのまま回転を加えて高音の脇腹に掌をおくと。

「っ!?」

ズドンと重い衝撃が外側と内側、その両方から襲われ、高音は弾かれる様にして舞台の上を転がっていく。

「く、かは……」

這いつくばり、口から流れる血が高音の眼下を紅く染めていく。

今までの試合では傷は付いても血を流す事は無かった為、観客達からどよめきの声が出ている。

「申し訳ありませんが高音さん、貴方も並みの使い手ではなくなってきている以上、私も全力でお相手させて頂きますよ」

朝倉のカウントが続く中クウネルの声がやたらハッキリと高音の耳へ入ってくる。

相変わらず嫌味に感じる口調だが、その言葉を口にするクウネルの表情は真剣そのもの。

迷っているネギにちょっかい……もとい道を示してやろうと考えていたクウネルだが、小太郎というネギの友人の一言で諦めた。

“俺のダチをテメェの物差しで計るな”

ここにいる誰よりも生きてきた彼にとって、小太郎の言葉は久しぶりに身に染みた。

現にネギは生徒の一人である長谷川千雨によって元気を取り戻している。

ならば自分は盟友との約束を果たすだけ。

そして対戦相手である高音も手加減するべきではない実力者、ならばクウネルは大会のルールにのっとり、全力で叩き潰す算段である。

対する高音は、カウントが5を過ぎた時に立ち上がり、朝倉に戦える意思を見せる。

「た、高音選手、出血が見られますが続行……できますか?」
「無論です」

オズオズと訊ねる質問に即答で答える高音。

口から血を流し、顔色も明らかに悪くなり、誰が見ても無事ではない高音の状態、しかし彼女に続ける意思がある以上それを止める事は出来ない。

舞台中央に戻り試合再開を合図する朝倉、そして。

「その意気は見事です。しかし……」
「っ!?」
「遅いです」

瞬間、背後に回り込まれ、クウネルから魔力を込められた蹴りが放たれる。

高音は瞬時に向き直り、両腕を交差させる事で防御するが。

「くぅっ!!」

高密度に集約された蹴りの一撃、重く鋭い攻撃に高音は苦悶の表情を溢す。

「まだまだ」

嵐の如く降り注げられるクウネルの乱撃。

クウネルは紅き翼の中では遠距離専門で体術は得意ではない。

だが、長きに渡る戦いの経験により接近戦における完成度は高い。

まだまだ魔法使いでも人としても未熟である高音では勝てる可能性は極めて低い。

そしてクウネル自身も、この乱撃で決めるつもりでいた。

体を屈させ、防御する事しか出来ない高音、次第に観客達から試合を止めるよう朝倉に言ってきた。

朝倉も一方的な試合にこれ以上無理だと止めに行こうとする。

しかし。

「これで、終わりです!」

朝倉の制止よりも速く、クウネルの拳が振り下ろされる。

マズイ。

あのまま振り下ろされれば確実に高音は無事では済まなくなる。

会場から短い悲鳴が聞こえてきた……その時。

「っ!?」

ふとクウネルは自らの体に異変を感じた。

(体が……動かない!?)

振り下ろされたクウネルの拳は高音に当たる事はなく、すんでの所で止められていた。

自らの意思とは違う、まるで何かによって体が掴まれている感覚。

(これは……まさか!?)

自分が羽織るフードに這う様に張り巡る黒いソレ。

影を使った捕縛陣、自身の全身隈無く張り巡らされた影の捕縛罠に捕まったクウネルは目を見開かせて驚愕していた。

(まさか、攻撃していた最中にこれを!?)

クウネルは油断していなかった。

相手がどんな力量でも全力で戦い、そして捩じ伏せようと決意していた。

柄にもなく熱くなり、本来の戦い方を忘れ近接戦闘で相手していた。

それが不味かった。

クウネルの戦い方はあくまで遠距離専門、相手を近寄らせず魔法で圧倒するべきだった。

近接戦闘は間合いに入り込まれた時だけの保険にするべきだったのだ。

小太郎に感化され、年甲斐なく熱くなり、らしくない戦闘を晒してしまった。

クウネルはしまったと顔を歪ませるが……既に遅かった。

防御に徹していた筈の高音はいつの間にか右拳に魔力を練った影を纏わせ、踞るように体を屈ませ。

そして、肉体強化と全身のバネを使い。

「ゼラァァァァッ!!」

雄叫びと共にクウネルの顎を跳ね上げた。

「ヌグッ!?」

この体は分身体、世界樹の魔力によってダメージは通らないが、それでも激しい衝撃は襲ってくる。

だが、彼女の攻撃はまだ終わりではない。

クウネルの体が浮き上がると同時に跳躍、それはもう会場を見渡せる位に高く跳び。

「はぁぁぁぁぁっ!!」

落下、それに合わせて回転を加えた踵落としをクウネルの脳天に叩き込む。

振り抜かれた右足は舞台に突き刺さり、拡散した衝撃が舞台に亀裂を刻む。

くの字に折り曲がるクウネルの体、そして彼の視界には――。

先程の様に屈み、両手を付けた高音がいた。

「まだ、まだぁぁぁぁっ!!」

両の掌で胸元を叩き、衝撃がクウネルの体を貫いていく。

そして。

「これでぇ……」

両手を腰だめに構え、拳に先程よりも影と魔力を込め。

「とどめぇぇぇぇぇっ!!」

突き出した二つの拳が、クウネルの腹部に突き刺さる。

再び衝撃が体を貫き、吹き飛んでいくクウネル。

朝倉の隣を通り、その後ろにあった塀に直撃。

ガラガラと音を立てて崩れていく瓦礫。

一方的に思われた試合からいきなりの逆転。

その突然の出来事に朝倉も観客達も呆然となっていた。

対する高音は肩で息をする自分を落ち着かせ、呼吸を整える。

そして。

「もしかして絶影だけが私の戦う術だとお思いで? 残念ながら見当違いも甚だしいですわよ、クウネルサンダースさん?」

口元の血を拭い、長い金髪を撫で上げる高音。

傷だらけになりながらも凛とした佇まいに、観客達からドッと歓声が沸き上がる。

「ヤバッ、ちょっと惚れそう」

目の前の強い女性に朝倉は自分の頬が熱くなるのを感じ。

「キャー!! お姉様ぁぁぁぁぁっ!!」

妹弟子である愛衣は黄色い歓声を声高にして叫んでいた。

そして、瓦礫の中では……。

「フフ、まさかこれ程迄に腕が上がっているとは……これも彼の影響ですかね?」

吹き飛ばされたにも関わらず、クウネルは心底楽しそうに……嬉しそうに笑っていた。














「超さん……」

誰もいない控え室、一人座しているネギは目の前に置いてある父の杖を眺め、一人生徒の名前を呟いていた。

突然告げられる超の計画、魔法を世界中にバラすという彼女の計画にネギはずっと考え込んでいた。

嘗て世界は常に不条理と矛盾で溢れていた。

貧困、紛争、内紛、戦争。

己の利益しか考えられず、争いを引き起こし、戦禍を広げる者。

その者達の身勝手な利益の為に巻き込まれ、愛する人を失う者。

憎しみが憎しみ呼び、悲しみと怒りと嘆きが世界中に蔓延していた。

自分はまだ子供で、まだ世界の全てを知っている訳ではない。

だが、過去にそう言った出来事を経験してきたネギは多少だがそれは理解できる。

だが、それはもう過去の話では無いのだろうか?

ターレスという襲撃者は麻帆良だけではなく、地球に植え付けた神精樹によって世界を破壊し。

皮肉にもその結果、世界は新たな一歩を踏み出そうとしている。

復興という名目のもとに世界の人々は争いを止め、互いに手を取り合って働いている。

ニュースでもここ最近の世界情勢では争いをしている国などからっきし聞いていない。

魔法という存在も皆世界を再建させるのに必死で後回しにしているだけ。

魔法使いとしては複雑だが、ネギは別にそれでも構わないと一時は思っていた。

しかし、超はそれを良しとしなかった。

まるでごり押しするように計画を促す彼女の行動が、ネギには理解できなかった。

このまま計画を成就させても、世界は余計混乱し、いらないイザコザを引き起こすのでは?

次の試合が終ればいよいよ自分の出番。

迫り来る時間に対し考えが纏まらない事にネギは焦りを見せ始めると。

「どうかしたのかな少年、そんなに慌てて」
「!」

突然聞こえてきた声に振り返ると。

「あ、貴方は」

上半身裸となった体に包帯が巻かれた仮面の侍。

「ミスター武士道さん」

ミスター武士道が佇んでいた。












〜きょうのば〜じる〜

「く、このっ!」
「フハハハハハッ!!」

夕暮れの空、紅く染まる大空に二つの影が交差する。

白い甲冑を身に纏う騎士、織斑千冬は戦慄する。

日本に放たれた2300のミサイル、それらは全て自分が落とす筈だった。

それによりこの甲冑、ISの性能を全世界に見せ付ける。

その筈だった。

亜音速で飛翔し、絶対防御と呼ばれるシステムによりその攻撃は何者も通さない。

この史上最強の兵器で世界を変える。

その筈だった!

全ての言語に着く“その筈”という言葉に、千冬は唇を噛み締める。

亜音速で飛翔する自分に簡単に追い付き、核をも通さない絶対防御を脆い硝子細工の様に砕いていく。

「はっはぁぁっ!!」
「くぅぅぅっ!?」

スレ違い様に今度は右のスラスターを抉られる。

弄ばれている、この小さな子供に。

その気になれば先程の閃光でいつでも此方を塵に変えられると言うのに……。

文字通り、この少年は年相応に自分という玩具で遊んでいるのだ。

逃げる事も出来ず、ただ良いように蹂躙されていく。

これまでかと、千冬は自らの生を諦め掛けた。

しかし。


グゥゥゥゥ……


「………は?」

突然なり響く怪音に千冬は呆気に取られると。

「……腹減ったな」

少年はそれだけ呟くと、一度千冬の方に視線を向け。

「……ま、いっか、次はもう少し楽しめるだろ」

それだけを告げると、少年はその場から姿を消した。

ハイパーセンサーにも捉えられない速さよりも、自分が助かった事に戸惑う千冬。

だが、この出来事は世界中に知れ渡る。

突如として現れる常軌を逸した兵器IS。

そしてそれを圧倒的に上回る怪物の存在。

世界は、激震する事となる。

そして、どこかで一部始終を見ていた“天災”は……。

「何なのよ……あの化け物は、反則じゃない!!」

この世界に現れた“厄災”に延々と頭を悩ませる事となるのだった。















〜あとがき〜
高音がTAKANEになる瞬間の巻でしたww

やり過ぎたかも……でも後悔はしてません!

次回のプチクロスはどうしようかな?




[25893] その頃の麻帆良〜未来の意味〜
Name: トッポ◆9bbc37c8 ID:6632f851
Date: 2011/07/17 23:23





「脅威的な強さを誇るクウネル選手にどこまでも食い下がる高音選手! 試合開始から10分が経過したが、遂にここまでかぁぁっ!?」

舞台の上で試合の実況を勤めている朝倉の声が響く。

舞台中央には両手を組んで佇むクウネル、そして彼の眼下には血を流し床に膝を着く高音。

全く息を乱さず、悠々と構えるクウネルに対し高音は肩を上下させ、息は絶え絶えとなっていた。

高音がクウネルを場外させてから幾分かの時間が過ぎ、試合はそれに伴って更に激しさを増していった。

互いに体術を駆使し、時にはクウネルは得意とする重力魔法を使って高音を押し潰そうとするが。

高音はクウネルの重力魔法が展開した瞬間、空間の歪みからの規模、範囲、その全てを瞬時に判断、そして見極めて悉く回避していった。

懐に潜り込んでは打撃を叩き込み、クウネルを圧倒していたが。

如何せん相手は世界樹の魔力の恩恵を受けて造り出した分身体。

碌にダメージも与えられず、結局じり貧のまま試合は進み。

遂には高音の体力は底を尽き、一気に攻勢にでたクウネルによって逆転される形となってしまった。

「いやはや素晴らしい、まさかここまで粘るとは……」
「ハァ、ハァ、ハァ……」

頷き、素直に相手を称賛するクウネル。

しかしどうにも人を小馬鹿にしたように見えるクウネルの態度に、高音は忌々しげに睨み付ける。

「物理的攻撃は一切通用せず、且つ無尽蔵な体力。出鱈目にも程がありますね」
「バージル=ラカンはそんな出鱈目相手に圧される処か圧勝しましたがね……ま、彼はあらゆる意味で規格外ですから比べるだけ酷でしょう」

バージル、クウネルから聞かされるその名前に高音は僅に眉を動かし反応する。

「さて、そろそろ試合も残り五分を切りましたが……どうします? まだ続けますか?」

高音に降参するか否かを問いただすクウネル。

地力の差から言って高音に最早勝機はないだろう。

魔力は殆ど肉体強化に使い込み、肉体にも疲労が溜まりに溜まっている。

足腰には力が入らず、魔法の矢の一本も練る事は出来ない。

観客の誰もが高音の敗北を予見した。

しかし。

「当たり……前で、しょう、がぁぁぁぁっ!!」

高音は立ち上がった。

力の入らない足に喝を入れ、歯を喰い縛って立ち上がってみせた。

体力と魔力、共に底を尽いて既に限界を迎えている筈なのに――。

理屈ではあり得ない光景に、クウネルは一瞬目を見開いた。

「……それだけ強い精神力があれば、貴方の切り札を使って逆転も出来たかもしれないのに――」

クウネルの言う切り札、それは間違いなく高音の絶影の事だろう。

高音の魔力波長に合わせ、自由自在に動きを変化させる絶影、二対一という状況に持ち込めば打開策はまだあると言うのに……。

呆れ口調のクウネル、それに対し高音はムッと僅な苛立ちを覚えた。

「おあいにく様、これはあくまでも一般的な試合ですので、そんな無粋な真似をしたら良い恥晒しです。それに……」
「?」
「もう勝った気でいるのですか?」

高音のその言葉にクウネルは再び驚愕で目を見開かせる。

高音の身体は既に満身創痍、立つことも無理で現に今も立ち続ける事があり得ないのに高音=D=グッドマンはまだ勝つ事を諦めてはいなかった。

「何ですかその目は? まさか体力と魔力が尽きた程度で私が参るとでも?」

呆然としているクウネルに今度は高音が呆れた様に肩を竦める。

「私はまだまだ強くならなければなりません。その為には限界を何度も越えなくてはなりません」

拳を握り締めてクウネルに突き出す高音、その彼女の瞳には強い決意の色が込められていた。

“限界という壁が邪魔するなら、それを壊して進めばいい”

それはどこまでも自分に素直な愚か者が見せた真っ直ぐな生き様。

自分が目指したモノの為に立ち止まる事を止めた高音は、一心不乱にクウネルに向かって駆け出した。

拳に力を込めて駆けてくる高音、そんな彼女の姿がクウネルにはとても……とても輝いて見えた。

自分にはもう二度と出来ないその生き方、がむしゃらでどこまでも直向きなその姿勢は嘗ての友の姿を思い出させる。

「……では、此方も貴女の想いに報いる為、全力で応えましょう」

向かってくる高音に対し、クウネルもまた拳を握り締め。

振り抜いた高音の拳に対し、クウネルもまた拳を振り抜いた。















「み、ミスター武士道さん」

背後に現れた仮面を付けた男性ことミスター武士道、全身に包帯が巻かれた事で更に威圧感が増している彼にネギは思わず後退る。

「やれやれ、やはり慣れんなその呼び名は……」
「へ?」
「本来なら本名で登録する筈だったのだがな、友の悪ふざけによって勝手にその名に変えられたのだ。全く、迷惑な事だよ」

呆れた口調で肩を竦めるミスター武士道、仮面越しからでも分かる彼の碎けた姿勢に自然とネギの緊張も弛む。

「それで、君はこれからどうするのかな?」
「え?」
「実はここに来る前、何やら話をしている君達がいたのでな、失礼と思いつつもそこで待たせて貰っていた」
「っ!?」
「あぁ安心してくれ、盗み聞き等と無粋な真似はしたくなかったのでな、待つ間音楽を聞いていた」

超との会話が聞かれていたのかと一瞬身を固めるネギだが、ポケットから取り出された音楽プレーヤーを見てその心配が杞憂だったと知り、内心安堵の溜め息を漏らす。

「して、君はこれからどうするつもりなのかな?」
「え?」
「今行われている試合が終われば次は君の試合だ。そしてその相手は、間違いなく彼女だろう? 戦えるのかな? 彼女の教師である君が……」

生徒と戦う、それは昨日から考えていた事だし、事実その事に関しては試合という形もあった為、高音や小太郎を相手にしていた組手の延長のものだと納得していた。

その相手が超という意外な人物だったので驚いてはいたが、別に試合をする事に変わりない為、それほど迷いも戸惑いもしていない。

問題は、彼女が明かしてきた試合の内容だ。

彼女が勝てば大会後に極秘に進められていた計画が動きだし、世界に向けて魔法の存在を強制的に認知させるというもの。

ある意味で世界の命運が自分に課せられた事実に、ネギは凄まじい重圧を覚えた。

顔を青ざめて震えるネギ、すると――。

「まぁ落ち着きたまえ、君が何故そんなに慌てているのかは知らないが、応えられる範疇であれば相談にのろう」

頭に乗せられた暖かい重みに顔を上げると、仮面越しからでも分かる優しい笑顔の武士道に、ネギはその言葉に甘えた。











「ふぅーむ、世界を変える様な出来事か」
「す、すみません。いきなりこんな事を話してしまって……」

その後控え室にてネギは魔法という言葉を極力使わないよう最新の注意を払いつつ、武士道に超との会話の内容を伝えた。

世界を変える程の何かを超は隠し持っていて、そしてその切り札を大会の後に使用するという途方もない話なのだが……。

一介の中学生にそんな事出来る筈がない、単なる妄想だとバカにされるかと思っていたネギだが。

「あぁいや、別に君の事を疑っている訳ではない。寧ろ納得している自分に戸惑っていただけだ」
「え?」

普通なら何をバカなと笑い飛ばすが、ミスター武士道はそれ処か納得したと言い出した。

茶々丸という超高性能ガイノイドの開発を手掛け、麻帆良学園の工学大の教授を唸らせる程の天才児。

麻帆良の頭脳と呼ばれ、その異常とも呼べる天才が世界を変えると言われれば何となく納得もするだろう。

自分の言葉を信じてくれた武士道に、ネギは嬉しく思う。

だが、途端に表情を曇らせて俯いてしまう。

一体どうしたのかと聞くと、ネギは重々しく口を開いた。

「だからこそ、分からないんです」
「……何がだい?」
「僕達の世界は一度は壊され、だけどそれでも建て直そうと必死に頑張っています。それこそ世界中の皆が一丸となって……」
「………」

ネギの言う通り、世界は劇的に変わった。

破壊された世界、絶望の淵に立たされようと人々は希望を見失わず、懸命に復興という戦いに身を投じている。

争いも無く、絶え間なく争っていた世界、しかし今の地球は空前の穏やかさに包まれていた。

故に、ネギは超のやろうとしている計画の意味が分からなかった。

今は復興という事柄に専念し、皆が助け合うべき時。

それを無理矢理魔法という超常の力を認識させれば、人は困惑してしまうのではないだろうか?

いや、下手をすればそれは新たな戦争の火種になりかねない代物。

今の世界にそんな劇薬は必要ない、それは超自身分かりきっている筈。

なのにらしくもない強行策に乗り出した超がネギにはどうしても納得できはしなかった。

「……世界を変える何か、それは即ち未来を変えるのと同義」
「……え?」
「もしかしたら彼女は、未来変える為にやってきた未来人なのやもしれんな」

フッと笑みを溢す武士道、無邪気に笑う彼の一言がネギを更に困惑させる。

「超さんが……未来からやってきた未来人?」

そんなバカなと何度も反芻しているネギにミスター武士道はしまったと苦笑い。

「いや、未来人というのは私の妄言だ。余り気にしないでくれ。……しかし」
「?」
「未来とは、今を生きる人間が生み出した可能性の結果だ。努力し、明日の為に生き抜いた人々の証を納得できないという理由だけで変えてしまってはその人達を……強いてはその今までを作ってきた人達に対して、些か失礼だと私は思うがね」
「武士道さん?」

天井を見上げて語る武士道、どこか遠い目をした彼にネギは呆然となる。

「話してくるといいネギ君、君にはその資格と義務がある。そして彼女もまた、君との対話を望んでいる」
「え?」
「未来は今を生きる人間が造るモノ、その意味を教えてやるといい。君は教師だ、なら後は……分かるな?」

真っ直ぐネギを捉え、不敵に笑うミスター武士道。

彼の笑みに吊られ、ネギもまた微笑み。

「はい! ミスター武士道さん、どうもありがとうございました!」
「なに、気にする事はない。私はただ君よりも人生の先輩故、少し語らせて貰っただけさ、それで君に僅かでも迷いを晴らせたら、僥幸といものだ」
「それでも、ありがとうございました!」

深々と頭を下げ、手を振りながら控え室を後にするネギを見送ると。

「生きろ少年、生きて未来を――切り開け」

その言葉と共に仮面を外し、仮面を近くにあった机に置くと。

「あ、あれ? 何で俺こんな所にいるんだ? それに……なんか身体中が痛い」

何故自分が此処にいるのか分からない、そんな風に辺りを見渡す辻部長。

兎に角外に出ようと、部屋を後にし誰もいなくなったその部屋で。

“生きろよ、少年”

誰もいない部屋に響く声、その声が軈て消えると。

机に置かれた仮面は、淡い光の粒子となって、消えていった。
















〜あとがき〜
さて、今回の主役は高音とミスター武士道でした!

武士道に関する登場は一先ずこれで、終了、彼がどのようにしてこの世界に現れたのかは読者の皆様の想像にお任せします!

そして次回は超VSネギ、未来を賭けて戦う果てに待つ勝者は!?

……因みに当事者の一人であるバージルは現在宿で爆睡中かもww

プチクロスは尺が余り次第書きたいと思います。



[25893] その頃の麻帆良〜その伍〜
Name: トッポ◆9bbc37c8 ID:c207c9dd
Date: 2011/07/26 14:34




「長かった準決勝第一試合、互いに死力を尽くした大激戦となりましたが、高音選手の敗北という形で遂に決着ぅぅっ!!」

舞台の上で膝を着き、満身創痍となった高音。

対するクウネルには傷処か服に切れ目すら付けられてはいない。

文字通り高音の完全敗北という形で、準決勝第一試合は幕を降ろした。

「お疲れ様です。中々良い戦いでしたよ」

沸き上がる大歓声の中で佇むクウネルは、踞る高音に近付いて手を差し伸べるが。

「結構です。一人で歩けます」

高音は差し出したクウネルの手を払い除け、毅然とした態度で舞台を降りていった。

「やれやれ、嫌われたものです」

ボロボロの体で立つ事すらままならないのに、気力のみで歩く彼女の後ろ姿に呆れ半分、驚き半分の気持ちで高音の姿を見送り、朝倉の勝利者インタビューを待たずに舞台から姿を消した。









「お姉様! だ、大丈夫何ですか!?」
「大丈夫と、さっきからそう言っているじゃないですか」

体を引き摺りながら医務室で待っていたのは、妹弟子である佐倉愛衣だった。

ボロボロの姿の姉弟子の側へ駆け寄ろうとしたが、最後まで毅然としていたいという高音の言葉に圧され、結局高音の後に医務室に入る事になった。

「それに、私達しかいないとは言え医務室なのです。静かにしなさい」
「は、はい」
「そう言う貴方だって、身体中の至る所に傷を付けて……そっちの右腕や左の脇腹、折れてるのでしょ?」
「お、折れっ!?」
「愛衣」
「……すみましぇん」

医務室にいる掛かり付けの主治医から聞かされる高音の容態。

右腕と左の脇腹の骨が折れていると知った時、愛衣は驚愕し、目を見開くが姉弟子の鋭い眼光によって黙らせられる。

やれやれと肩を竦めて一通りの治療を終えたのを確認すると、高音は席を立ち上がる。

「それでは先生、ありがとうございました」
「貴方がどうしても試合を生でみたいと言うから許可したけど、無理はしちゃ駄目よ。本当ならベッドの上で寝ていなきゃならないのだから」
「はい、分かりました」
「そっちの子も何かあったらすぐ私の方まで来なさいね」
「は、はいです!」

本来なら、高音の容態は簡単に出歩いて良い状態ではなく、病院で入院しなくてはならない程の重体。

だが高音は、残った試合を一番近い場所、選手が直前まで待機している舞台袖で観戦したかった。

彼女の強い要望で痛み止めを打ち、翌日に病院で検査する事を条件に観戦する事を許可された。

互いに肩を貸しながら医務室を後にする二人。

すると。

「こんちわーっす!」
「ち、ちょっとハルナ!」
「そんな勢い良く入っては!」

二人が向かおうとしていた襖が開かれ、三人の少女が姿を現した。

「あ、アンタは超人ウルスラの人!」
「……何ですか貴方は? ここは医務室ですよ? 私達以外いなくとも、少しは静かになさい。それにここは関係者以外立ち入り禁止の筈では?」
「ご、ごめんなさい!」
「すみませんです!」
「別にいいじゃないですか! 減るもんじゃないし」

後ろで何度も頭を下げ、必死に謝罪してくるのは図書館探検隊の隊員である宮崎のどかと、綾瀬夕映だった。

高音の鋭い眼光に堪えず、ヘラヘラと笑っているのは彼女達のリーダー的存在である早乙女ハルナだった。

ギンッと高音の睨みが一層深くなる事に気が付いた後ろの二人は、更に頭を上下するスピードを加速させる。

「……それでは先生、失礼しました」
「あ、し、失礼しました!」

後ろにいる主治医にペコリと頭を下げる高音に、愛衣も慌てて会釈する。

ハルナの横を通り、舞台へ戻る二人、その後ろをハルナ達が付いてくる。

「ちょ、ちょっと待って下さいよ先輩ー!」
「何ですか?」

追い掛けてくるハルナに高音は足を止めずに聞き返す。

感情の籠っていない冷たい声、明らかにさっさと何処かへ失せろとアリアリと感じる声色に二人は早く戻ろうとハルナの腕を引っ張るが。

「ねぇねぇ、先輩もやっぱりネギ君達みたいに魔法使い何ですか? てかそうですよね、エヴァちゃんの別荘の凄技バトル見てましたもの!」
「だったら何ですか?」

ハルナの魔法使いに否定せず、冷たい口調で言い放つ高音。

魔法の漏洩になるのではと、愛衣はオロオロと高音に視線を向けるが、本人は気にした様子はない。

「いや、こうも非日常的な“魔法”というものが必然的にあるのなら、是非私も習いたいなーと思いまして」
「魔法を……習う?」

ピタリと、歩いていた高音の足が止まる。

「魔法を習って、それで貴方はどうしたいのですか?」

冷たい。

先程よりも何度も下げた様な絶対零度の声。

明らかに敵意の混じった声と視線、ハルナの後ろの二人はこれ以上は不味いと判断し、無理矢理にでも彼女を連れてこの場を立ち去ろうとする。

が。

「魔法! あぁなんて陳腐で且つファンタジーな響き、非現実かと思われていた存在が実は実在していた! だったらこりゃもう覚えるしかないでしょ! 魔法を駆使して世界の頂点に君臨するのか!? はたまた勇者の仲間になって悪の大魔王を打ち倒すのか!? と、まぁ色々妄想が膨らみまして」
「で?」
「も〜、先輩ノリ悪いなぁ、だ・か・ら! そんな超常の力を得る為に協力して欲しいんですよ〜」

ブチリ、と何かが切れる音が聞こえた。

ハハハと笑うハルナから離れる夕映とのどか。

「ん? どうしたん二人共?」

自分から青い顔をして離れる二人にハルナが頭に疑問符が浮かぶ。

愛衣も隣でガタガタと震え、何の反応も示さない高音に怯えていた。

そして。

「………そうですか、なら貴方の好きにしなさい」
「「「………え?」」」

高音の口から出たのは、意外にも承諾の言葉だった。

想像していなかっただけに唖然と取られる面々。

「但し、私が貴方に魔法を教えるつもりは一切ありませんので……それでは失礼します」

それだけを告げると高音はハルナに背を向け、舞台袖に向かって歩き出す。

そんな彼女に愛衣は慌てて追い掛ける。

残されたハルナ達は……。

「いやったぁぁっ! 先輩から許可貰っちゃったー! 後で早速ネギに教えて貰おっと!」

ハルナは声高々にして叫ぶと、二人を置いて先に観客席側へと駆けていく。

「い、意外だったねー、まさか高音先輩が許してくれるなんて……」
「……違う」
「ふぇ?」
「のどか、貴方は何も感じませんでしたか?」
「な、何が?」

ルンルン気分で去っていくハルナに対し、真剣な面持ちで俯く夕映。

以前、シルヴィに言われた言葉を思い出す。

“その日常に、どれだけ渇望し、願っている人がいるか知っていますか?”

自分を侮蔑し、蔑んだ瞳で言われたあの一言。

あの一言で自分は目が覚めたが、友人であるハルナは高音の言葉の意味を理解してはいない。

魔法は人を癒す力を持つと同時に、人を傷付ける力も併せ持つ。

魔法は使えなくとも人を、命を容易く壊せるバージル。

そして彼が繰り広げれた死闘を間近で目撃した夕映は、魔法に関わる危険性も理解できた。

「のどか、急いで戻ってハルナともう一度話し合うですよ!」

このままではいけない。

この先、ハルナをあのままにしておけば取り返しのつかない事態が彼女を襲う。

それだけは阻止しなければならないと、夕映はのどかを連れてハルナの後を追った。










「あ、あの、お姉様?」
「……なんですか?」
「その……宜しかったんでしょうか? あの方に此方側の、魔法の扱いを許してしまって」

自分に肩を預けている高音に、愛衣は先程の一言に関する質問をぶつけた。

世界は変わり始めている。ゆっくり、確り、そう遠くない内に魔法の存在が明らかになる程に。

だが、先程の高音は些か早まった様に思える。

幾ら世界が変わっていくとしても、先程の彼女の原動は軽率。

普段の彼女なら魔法存在の漏洩を自らする事などあり得ない。

「……そうですね、確かに先程の私は冷静さを失っていました」

やってしまった、自分はバカな事をした。

後悔し、頭を抑える高音。

「魔法の存在は近い将来明らかになる。しかし、私のやった事は世界を混乱させる要因に成りかねない」
「…………」
「だけど、それでも! あれ以上彼女と言葉を交わしたくなかった!」
「……お姉様」
「あれ以上あそこにいたら、彼女を殴ってしまいそうで、そんな自分が嫌で……」

一般人を殴りたい。

そんな事を一瞬でも考えてしまった自分は、“立派な魔法使い”になれるのだろうか?

そうした疑問が彼女の蟠りとなり、貶め、苦しませる。

その質問に応えられない愛衣は、震える高音を抱き止める事しか出来なかった。











そして、遂に始まる。

「それでは、まほら武道会準決勝第二試合を始めます!」

世界の行く末を決める、誰にも知られない戦いが。

勝つのは

「まず紹介するのは、麻帆良の頭脳にして最強の天才児、超鈴音!」

自分の生きる未来が許せず、世界に変革を強いらせる少女か?

「次に相対するは、若干10歳にしての子供先生、ネギ=スプリングフィールド!」

未来を変える為に、今の世界を守ろうとする幼き少年か?

「それでは、まほら武道会準決勝第二試合−−」

どちらも正しくもあり、また間違ってもいるその試合は。

「始め!」

静かに、開始された。











〜きょうのば〜じる〜

「その チャリには 爆弾が仕掛けて やがります」

広々とした公道を、一台のセグウェイが並走する。

電子声のするそのセグウェイには9mm短機関銃が取り付けられ、獲物に狙いを定めている。

「チャリを 降りやがったり 減速させ やがると 爆発します」

唯でさえ恐ろしいのに、セグウェイから聞かされる文字通りの爆弾発言。

停止も助けを呼ぶ事も出来ない、絶体絶命な状況。

なのだが。

「あ、10円めっけ」

自転車を漕いでいた少年は停止させ、その上自転車から降りたのだ。

セグウェイの話しを全く聞いていない少年は、予告通り自転車を爆破され、爆炎の業火へ包まれる。

セグウェイも追い討ちとばかりに9mm短機関銃を乱射、少年の肉体は無惨なモノへ変わっただろう。

ビルの屋上で一部始終見ていた少女はそう確信した。

だが。

「む、よく見たらただのコインか、つまらんな」

炎の中から現れた無傷の少年に、少女は大きく目を見開いた。

何事も無かったように振る舞う少年、そんな彼を十数台のセグウェイが囲む。

その全てに9mm短機関銃が取り付けられ、少年に向けて有無を言わさず弾丸を放つ。

普通なら風穴処か蜂の巣へと変わるのに、少年は相変わらずの態度で佇んでいる。

すると。

「……うるせぇな」

一言、その言葉と共に一瞬ブレた右腕。

瞬間、細切れとなったセグウェイと短機関銃の群れはスクラップと化し、バチバチと火花を上げて四散する。

少年は手にしたコインを玩びながら、その場を後にした。

これらの出来事を全て目撃した少女、アリアは口にした。

「あれが……“武帝”」

ある日、地球上の全ての生命のランクが下にさがった。

権力、財力、武力、軍事力、全ての力を暴力で一掃した唯一人の“腕力家”

バージル=ラカン。

神崎=H=アリアはその力を目撃した。












〜あとがき〜
今回は若干アンチ気味、
合わなかったらすみません。

そして今回のプチクロスは緋弾のアリアでした!



[25893] その頃の麻帆良〜その陸〜
Name: トッポ◆9bbc37c8 ID:b1c059d1
Date: 2011/08/15 01:59






新世界、別名魔法世界。

旧世界と呼ばれる地球とは別に存在する世界、それは通称の通り魔法の栄えた世界である。

グラニクス、魔法世界でも比較的栄えている都から数キロ離れたオアシス。

人気のないその場所は幼少の頃バージルが過ごした地でもある。

遺跡に囲まれた湖、その中央にまで至る橋の上に男、ジャック=ラカンがいた。

手にした竿から釣糸を垂らし、獲物が掛かるのを待った。

一向に掛からない獲物に飽きてきたジャックは空を見上げる。

燦々とした青空、雲一つ見当たらない晴天をボーッと見つめていると。

ジャックは不意に後方の青空へ振り向いた。

そこには同様に青空が広がっており、ただそれだけなのだが……。

ジャックは口端を吊り上げ、不敵な笑みを作り出す。

「……そうか、そろそろか」

誰かに聞こえる事のない呟きは空へと溶けていく。

「待ってるぜ、バカ息子」

ニヤリとほくそ笑むジャックの視線の先、それは空を超えて旧世界の地球へ向けられていた。











「あぁーっと! ネギ選手超選手の奇妙な技に翻弄されて敢えなくダウーン!! 勝負は早くも決まってしまったかぁぁっ!?」

実況の朝倉の叫びが舞台上に響く。

悠然と佇む超、それに対して既に体はボロボロになり、所々から血を流すネギが対照的に膝を着く。

「いや朝倉ヨ、それは違うネ」
「へ?」
「ネギ坊主は呆気なくやられたのではない、寧ろ善戦してるヨ。本来ならこの試合は文字通り一瞬で終っていたのだから」

観客達に聞こえない様に小声で喋る超。

実際はそうだろう。超の強化外装に内蔵されているカシオペアは時を止める超常の産物。

世界の全てを止め、尚且つその静止した中で唯一動ける事が出来るのだ。

どこから攻撃がくるのかは勿論、何をされたかすら気付かないで終わる。

速さだけで言うのなら、バージルをも凌駕しているのかもしれない。

そんな出鱈目で規格外なアイテムを付けていて尚、ネギを仕留めるには至らない。

それは超の技量、或いはカシオペアを制御する装置が未だ完全ではないからか?

否。

「あの麻帆良襲撃の戦いを経て、ここまで成長したのカ」

嬉しさ半分、悔しさ半分で立ち上がるネギを見つめる超。

ターレスの襲撃、あの戦いを経験にネギ達は急激に成長を遂げた。

絶え間ない鍛練、ネギはそれを教師の仕事を続けながら自らを鍛え抜き、ここまで強くなった。

感服する。まだ10歳の小さな少年がここまで成長するとは。

そしてその成長がカシオペアという自分との間にある差を埋めているのだ。

「まだ、終ってはいません!!」

震える膝に力を込めて、ネギは立ち上がる。

その様子を見て、超は満足気に笑い。

「なら、すぐに終わらせるまでネ!!」

ネギに向けて駆け出した。

飛び出してくる超に構えるネギ、だが超にはカシオペアがある。

「無駄よネギ坊主!!」

内蔵されたカシオペアが世界樹の魔力により起動、同時に制御され、一時的に超以外全ての時間が停止する。

舞い上がる水飛沫、跳ね上がる欠けた舞台の木片、風の流れ、そして心臓の音、その全てが自分以外停止している。

止まった世界で唯一動けるのは、この超鈴音ただ一人。

時間が止まり、無防備となったネギの頬へ拳を叩き込む。

瞬間、カシオペアを停止させて時間停止を解除する。

魔法と超科学の融合アイテムカシオペア、その制御は極めて困難で任意で自由に動かすのはほぼ不可能とされている。

時間停止も良くて数秒、それ以上の時間への物理的介入は危険とされている。

空間の亀裂、崩壊する時間軸、下手をすれば過去と未来がグチャグチャに混ざり合い、混沌とした世界へ変わってしまう可能性だってある。

しかも昨日の襲撃事件の際に、カシオペアの一つは破壊され、超の身に纏う強化外装も即興で作られたもの。

カシオペアを扱うには不安要素が盛りだくさんの状態だ。

しかし、それでも時間停止というアドバンテージは大きい、特にコンマ一秒の油断が命取りとなる戦いに於て、カシオペアの能力は絶対な力となる。

「これで……終わりヨ! ネギ坊主!!」

超が自分の勝利を確信した……その時。

「っ!?」

突如として超の腹部に衝撃が貫いた。

強化外装越しでも伝わる衝撃、見るとそこにはネギの拳が超の腹部にめり込んでいた。

「……漸く、捉えました」
「ぐっ!?」

痛みを堪えきれず、今度は超が地面に膝を着ける。

先程とは打って変わって逆の構図、何が起こったのか理解出来ない観客達は呆然となって舞台上の二人を見つめていた。

「学園長から聞きました。先日の襲撃の際、貴方はその背中に埋め込まれた時計を使って奇妙な技を使っていたと、そして今までの戦いを見て確信しました。貴方はその時計の力で時を止めていましたね」
「……!」
「そして恐らくその時計が原動力となっているのは世界樹の魔力、貴方が姿を消す度にその時計から世界樹の魔力と同じ力を感じましたから間違いないでしょう」

驚いた。

目で直接見たのはこの試合のたった数回、予め学園長からの情報があったとは言え、此方の仕組みを完全に読み当てるとは……。

「時を止める。それは確かにどんなに警戒しても意味の無い絶対敵な力、だったら此方に出来るのは一つしかありません」
「成る程、だからカウンターカ」
「はい」

時を止められては如何に速くても超を捉える事は不可能、ならば手は一つ。

相手が仕掛けた瞬間、その刹那の時間にカウンターを当てる他ない。

言うのは簡単、だがその瞬間は恐ろしく短い。

何せ気が付いたら殴られているのだ。失敗すれば直撃、成功しても相討ち。

現にネギは超の力を見る為に一度は直撃を受け、次いで失敗、そして漸く相討ちで当てる様になったのだ。

ダメージは未だに一撃しか受けていない超が圧倒的優位に立っている。

しかし。

「次は、もっと速く打ち込みます」
「っ!」

拳を握り締め、不敵な笑みを浮かべるネギ。

単なる強がりか? 否、そうではない。

恐らく次は確実にネギは此方の動きに追い付くだろう。

そして先程よりも速く、重い一撃を放つ。

強化外装を身に纏って於て一撃で膝を着かされたのだ。

次の一撃で、もしかしたら此方が沈むのでは?

絶対に負けられない超にとって、その迷いが彼女の動きを封じていく。

立ち上がった超、だがその表情には余裕がなく、額から大粒の汗が滲んでいた。

そして。

「……来ないんですか? ならこっちから!」
「っ!?」

地面を蹴り、此方に向かって突き進むネギ。

何故? 超は一瞬思考が疑問で埋め尽くされた。

ネギ自身が言ったのだ、追い付かなければ待ち構えるしか無いと。

なのに今こうしてネギは此方に進んできている。

「っく!」

悩んでいる暇はない、超がカシオペアを起動させようとした時。

「っ!?」

此方に迫っていたネギは動きを止め、迎撃の構えをとった。

「しまっ!?」

ネギの誘いに掛かり、まんまとカシオペアを起動させてしまう。

時が止まった世界、超だけがその空間を支配する。

だがその圧倒的有利な状況にいるのに、本人はまるで勝てる気がしなかった。

だが、こうしている間にもカシオペアの時間停止にも限界が訪れる。

卑怯かもしれないが超はネギの背後に周り込み。

「はぁっ!!」

その拳撃を後頭部に向けて放った。

真っ直ぐネギの後頭部目掛けて伸びる超の拳、そして拳がネギの後頭部に触れた瞬間、世界は再び動き出す。

超の拳がネギの後頭部を捉えた瞬間。

ネギは体を捻って超の背後に周り込み、返しの肘打ちを背中に叩き込んだ。

「がっ!?」

短い悲鳴と共に吹き飛ぶ超、最中に体勢を整えネギと向き合うが。

「ぐ、カシオペアが……」

虎の子のカシオペアはネギのカウンターの一撃に潰され、使い物にならなくなっていた。

「これで、五分五分ですね」

痛む頭を抑えながら超に向き直るネギ。

超は心底感服した。

カシオペアは時を操る希少アイテム、襲撃事件の際にもその力は発揮された。

規格外の化け物達であるターレス一味にもカシオペアを使った超の動きを捉えきれず、世界樹の魔力が尽きるその時まで、互角の戦いが出来た。

だが、ネギは違う。一瞬とは言えカシオペアを使った自分を捉え、返しの一撃を当てて来たのだ。

つまり一瞬の一撃、その瞬間だけで言うならターレス一味を凌駕しているという事。

「ふ、フフフ、流石ネネギ坊主、まさかここまで力を着けているとは……感服したよ」
「師匠、それに修行に付き合ってくれた高音さんや小太郎君のお蔭です。僕一人ではここまで強くなる事なんて出来ませんから」
「そうカ、良い師と友に恵まれているネ」
「……超さん、教えてくれませんか? どうして貴方は魔法の存在を世界にバラすのです?」
「…………」
「先日の襲撃事件、アレを切っ掛けに世界は変わりました。争っていた国々は互いに助け合い、独裁国家も解体され、世界は変革の時期を迎えています!」
「………知ってるよ」
「そして……魔法の存在も近い将来世界に公表される事になります。あれだけの騒ぎを起こしたのだから、隠す事など不可能です。なのに……」

観客達と朝倉に聞こえない様にネギは超に問い掛ける。

世界は近い将来変わる、魔法という新たな存在と共に生まれ変わる。

今は世界が落ち着かせる為に公に発表されないが、復興も終わり、人々が落ち着いてから公表するのが妥当だろう。

変に刺激を与えては新たな争いの火種になりかねない。

だが、超はそれを実行しようとするのだ。

らしくない彼女の言動に、ネギは教師として問い掛ける。

すると。

「……それでは足りなイ」
「え?」
「それでは足りんのだよネギ坊主!!」
「っ!?」

ゴウッと超の全身から放たれる魔力の嵐、何故彼女が魔法を使えるのかと疑問に思うネギ。

すると超が身に纏っていた強化外装は彼女の魔力に呼応するかの様に変形し、変化していく。

背中に伸びる白い羽、両手足には鋭い爪が伸び、その有り様は正に獣。

「来るがいいネギ坊主! 世界を見渡せる空で決着を着けよう!!」

翼をはためかせ、空へと舞う超。

「く、杖よ!」

ネギも舞台の離れに置いてあった杖を呼び寄せ、超の後を追う。

大空へ消えていった二人、残された朝倉や観客達は。

「ちょ、ちょっとー、これカウント取るの?」

判断しかねない状況に困惑していた。

そして、地上を見渡せる程に上昇した二人。

「超さん! 一体どうして!?」
「その質問の答えは、私に勝ってからヨ!」

向かい合う二人、しかし超に何らかの変化が訪れる。

『システム解除、詠唱破棄システム発動致シマス』

強化外装から聞こえてきた電子音、同時に超の全身に奇妙な痣が浮かび上がる。

「ち、超さん。それは!?」
「カシオペアだけが私の切り札と思たカ、残念だがもう一つ用意していたヨ」

振りかぶる超、その右手には紅い焔が溢れ出し。

「“燃える天空”!!」

瞬間、深紅の光が麻帆良の上空を覆った。













〜あとがき〜
えー、ネギを何だか魔改造しちゃってますがご了承下さい。
因みにネギは以前よりエヴァにゃんから魔法媒体の指輪を受け取っています。

……ご都合ばかりですみません。

早くバージル編書きたい。

PS
バキを読む度にジャックVSバージルの妄想が膨らむ自分がいる。



[25893] その頃の麻帆良〜その七〜
Name: トッポ◆9bbc37c8 ID:a8e2e792
Date: 2011/08/15 01:57






轟音が上空に轟き、爆炎と共に紅が空を埋め尽くす。

「……うわぁ」

その光景を目の当たりにしてドン引きした私は悪くはない筈。

いやだって、クラスメイトの超がどこぞのゲームのラスボスみたいな格好になって空へ飛び、担任の子供先生が後を追い、そしたら途端に大爆発が起こったのだ。

急過ぎる展開に頭が追い付けず、呆然となるのも仕方のない事だと私は信じたい。

それを証拠に周りにいる他の観客達も私と同じ様な心境なのか、目を点にして上空を見上げている。

流石に能天気な学園の連中も、この急展開に付いていけないみたいだ。

だけど、似たような光景をあの日の麻帆良で目の当たりにした私は引きながら何処か落ち着いていた。

血の臭いがしないからか、それとも試合という形式だからか。

「……不味いな、私も大分染まって来やがったか」

頭を掻き、非常識に馴染んできた自分に悪態を突きながら私は激戦を繰り広げているだろう空に視線を向ける。

というか……。

「見えねぇ」

一体どんだけ高く飛んでるんだよあの二人、まさか大気圏までとか言わねぇよな?








「ほぅ? 超の奴、中々面白い事をしているじゃないか」
「あ、師匠、師匠もこちらに?」

観客側とは反対側にある選手専用の待機場所。

上空で激戦を繰り広げている二人を観戦している高音と愛衣の隣にいつの間にかエヴァンジェリンが佇んでいた。

「私の体も癒えたし、何よりこの試合の次はアルと坊やの番だからな、見たくもなる」
「師匠はネギ先生が勝つと?」
「坊やはこの私が直々に鍛えた男だぞ? それに先の戦いで殺し合いのなんたるかを経験している。未だに甘い所はあるが……ま、そう簡単にはやられないだろ」
「……そうですが」
「何か気になるのか?」

何か不安要素があるのか、空を見上げる高音の顔色は暗い。

「いえ、ただ超さん……彼女がかなり追い込まれているのが……」
「それってネギ先生が超さんの予想を越える強さに、て事では?」
「いえ、それとは違う別の何かが……私の気のせいでしょうか」

不安な面持ちで見上げる高音、つられて二人も空を仰ぎ見る。

(……というか、どうしてエヴァンジェリンさんとお姉様が親しげに会話を?)

事情を知らない愛衣は闇の魔王と恐れられるエヴァンジェリンと姉弟子の高音の関係に今更ながら疑問に思うのだった。












「どうしたネギ坊主! 反撃しないのかナ!」
「くっ!」

降り掛かる無数の火の矢、雨の如く降り注ぐ脅威を前にネギは杖を足場に紅の雨の間を駆け抜ける。

全ての矢をくぐり抜け、上空へ逃げるネギ。

しかし。

「逃がさんヨ!!」
「っ!?」

超が手を振ると同時に、避けた筈の矢が此方に向かって引き返してくる。

魔法の矢のコントロール。

初めて目にする技法に目を見開くネギだが、瞬時に向きを変え。

「く、雷の28矢!!」

掌から稲妻を纏う矢を放ち、向かい来る火の矢を迎え撃った。

ぶつかり合い誘爆の光が目の前の空間を埋め尽くす。

雷と炎が混じり、白い閃光となって破裂する。

その目映さに一瞬超の姿を見失い。

「隙だらけヨネギ坊主!!」
「ぐうっ!!」

獣となった超の蹴りが、ネギの脇腹を捉える。

ミシミシと軋む音からバキボキと砕ける音が、耳元で反芻する。

次いで衝撃が体を貫き……。

「げはぁっ!!」

奥底から沸き上がる赤い色の塊が、ネギの口から吐き出される。

バランスが崩され、足場となっていた杖から吹き飛ばされるネギ。

直ぐに呼び戻そうとネギは離れていく杖に手を伸ばすが――。

「させると思たカ!!」
「っ!?」

目の前に割り込んできた超に、ネギは再び驚愕に目を見開く。

「これでネギ坊主は逃げる足を無くしタ、も一発喰らうガイイ!!」

超の掌に収束される紅い奔流、その熱量にネギは避けられないと悟り、両手を交差させて防御の体勢へ移る。

「今度は耐えきれるカナ? ――“燃える天空”!!」

再び緋色の光が、麻帆良の上空を染め上げた。







「うわ、また光りやがった」

ポツポツと光っていた空が一瞬紅い光に染め上がるのを見て、思わず声が裏返ってしまった。

しっかし、あんな戦争みたいな大バトルを繰り広げているのに、更にバージルっつう化け物がいるんだから、世の中分からないもんだな。

ま、そんな世の中知りたくもないが――。

「あぁ、ネギ先生! あんなに血を流されて、くっ! 見ている事しか出来ない自分が恨めしい!!」
「あらあらダメよあやか、これは公平な試合なんだか」
「ってか、いいんちょ見えるの!?」
「私のネギ先生に対する愛は天元を突破していますわ!!」
「答えになっていないよ……」
「お前らも来ていたのか……」

騒がしいと思ったらいつの間にかクラスの連中が隣で試合を観戦していた。

「いやー、さっき漸く私達の出し物が終わってね、時間が余ったから来ちゃった」
「それよりもさ、なんかネギ君達凄くない!? 何この超絶バトル!?」
「まるで映画の中にいるみたーい!」

相変わらずお気楽な連中だなコイツ等。

それにしても……映画、か。

そんなモノで済めば、私もこんなに悩む必要はないんだがな。

……いや、いやいやいや、何故悩む必要がある? 私は唯のネット中毒な一般人だ。

悩む以前に私には何の関係もない筈。

「……映画、ですか?」
「あやか?」
「ど、どしたのいいんちょ? いきなりシリアスになっちゃって……」
「いえ、ただ感傷的になっただけですよ。いつまでそんな現実逃避ができるのかと……」

その委員長の呟きに、他のクラスメイト達は沈黙する。

私の胸の奥にも、委員長の言葉が重くのし掛かるのを感じた。

そう、あの日麻帆良学園が一度崩壊した時、同時に私達の日常も崩壊したのだ。

自分達がこれまで頼り、すがってきた日常や常識が何もかも一度は崩れたのだ。

関係ないという逃げは、もうこの先通用しない。

その事実が常に傍観を気取っていた私にはとても、とても重く感じた。









「ハァ、ハァ、ハァ、……ぐっ」

爆炎の中から落ちながら逃れるネギ、咄嗟に障壁を最大展開させ為、直撃を辛うじて防いだが。

“燃える天空”炎系最大の威力を誇る魔法至近距離で受けたのだ、無事で済む筈がない。

寧ろ良く持ったのだとネギは思った。

ズキリと、ネギは痛む脇腹を抑える。

骨は折れているが幸い内臓には刺さっていない。

まだ動けると悟ったネギは、今度こそ杖を呼び戻し、超の追撃に備えて構える。

だが、一向に超からの追撃は来る気配がなかった。

これまで超は此方の隙に余すことなく突いてきただけに、ネギは言い知れない悪寒を感じた。

すると。

「流石……ネギ坊主ネ、あれだけの猛攻にまさか……耐えるとは」
「っ!」

背後から聞こえてきた声、超は杖を回転させて向き直ると。

「なっ!?」

ネギは超の姿に驚愕する。

何故なら先程まで自分に猛威を振るっていた本人が、自分以上に体から血を流していたのだ。

超の全身から浮かび上がり、点滅する痣。

その痣が輝く度に超の表情は苦痛に歪み、咳き込みながら血を吐き出すのだ。

「ぐふっ、流石に最大級の魔法の連続使用は無理があったカ……」

自嘲の笑みを浮かべながら手に付いた血を見下ろす超。

彼女がここまで傷を負うのは間違いなくあの痣が原因だろう。

見たこともない術式で組まれた痣、それは魔法使いとして未熟なネギでも充分危険なものだと理解できた。

痣が疼く様に光る度、彼女の命が縮んでいくのが分かる。

あれは使用者に力を与える変わりに命を差し出す禁忌の類い。

しかも、超の纏う外装がソレに干渉し、歪に歪められている。

詠唱破棄システム。

その名称通り、魔法使いが魔法を公使する際に詠唱する呪文の一切を省くシステム。

どうして一般人である筈の超が魔力を持ち、魔法が使えるのかは分からないが、今はそれ処じゃない。

「超さん! もう止めて下さい! このままじゃ貴女の体が……!!」
「こうなる事は、とうの昔に出来ているヨ。今更止める事は出来はしない」
「そんな、どうしてそこまで!」
「全ては、この世界を変える為の必要な事だからダ!!」

翼を広げ、鋭い爪で切り裂こうと迫る超。

ネギはこれを戦いの歌による肉体強化を以て応戦する。

響く打撃音、高速で飛来する二人の軌跡が麻帆良の空を彩らせる。

「世界は既に変わり始めています。まだ破壊しようと言うのですか!?」
「無論だ! その為に私はこの時代に来たのだから!?」
「っ!? 超さん、貴女は一体!?」
「世界が変わる? それは違うぞネギ坊主、世界は変わらない、変わろうとする意志がない!」

激突する両者、椿切り合う二人。

バチバチと火花が散らす二人の間に僅かな会話が交わされる。

「そんな事は!」
「では何故世界を救ったとされる英雄の息子の君が、六年前の雪の日に悪魔の襲撃という悲惨な過去を体験したのだ!?」
「っ!?」
「世界を揺るがす大事件が起こっても、一部の力ある人間が変革を良しとしない! 己の立場、己の名誉、己の権利、己の財産、ただ自分の欲望を満たしたいだけに人は争いを産み続ける!!」
「そ、そんな事!」
「ないと言い切れるのか!? 私は見てきたヨ。現実を受け入れない人間がどんな非情な選択を我々に突きつけて来たのかを!! 君は滅ぶしか残されていない者達がどんな気持ちで生きているのか、想像した事はあるか!? 戦う事でしか自分の存在を主張できない人間の悲しみを、怒りを、悔しさを!!」

それは超鈴音の慟哭、命懸けの訴えだった。

普段の彼女からは想像出来ない激昂振りに、ネギは言葉を失う。

しかし。

「……僕は、超さんじゃないから貴女がどんな気分で此処にいるのか……分かりません。貴女の覚悟も、貴女の思いも……けど!」
「っ!」
「超さんのやり方でも、必ず幸せになる人はいないと思います!」

超の世界樹による人々の意識変革、聞こえは良いがそれは要するに力ずくで人々に洗脳するという意味を持つ。

以前ネギは、惚れ薬という違法犯す事でその怖さを体験した。

本人の意志を無視し、自分に従順になる教え子達の姿。

後日になって冷静になって考え、ネギは二度と惚れ薬は使わない事を誓った。

あれは人の意志をねじ曲げるモノ、そして超はソレを世界中に向けて行おうとしている。

彼女が間違っているのかは分からないし、否定も出来ない。

けど。

「貴女はきっと、今の自分に後悔します! それを黙って見過ごす訳にはいきません!」

自分は教師だ。超鈴音の担任なのだ。

自ら手を汚す彼女の覚悟、それは認める。

だからこそ、彼女を引き留めなければならない。

何故なら、時代を作るのは“未来人”ではなく。

今を生きる人間なのだから。












〜あとがき〜
な、何だかネギが某金ぴか大使様みたいに……。

お前が言うなと思われるでしょうが、そこは敢えて見逃して下さい。

どうしても上手い言葉が浮かばなかったので……。

因みに、今回の話、もし主人公がいたら……。

「どちらでもい、てかどうでもいい」

と、素で言いそうな気がするのは私だけ?ww

次回は超とのバトルラストになる予定です。




[25893] 番外編美少女と野獣
Name: トッポ◆9bbc37c8 ID:1d8790cc
Date: 2011/08/16 02:29







今から数百年前、当時既に吸血鬼で不老不死となった私は大陸中の至る処で命を狙われていた。

成長も、老いる事もない私は一ヶ所に留まる事など出来ず、転々と世界を渡り歩く事を余儀なくされる。

誰にも頼る事も出来ず、弱者だった私にはただ逃げ惑う事しかできなかった。

そんなある日、訪れたとある町に足を踏み入れると、突然十数人の男が私を囲み、町にある教会へ連れていかれた。

教会に待ち構えていたのは肥えた醜い神父、いきなり私の体を裸に剥くと舐め回す様に触り。

『こやつは魔女だ! 地下へ連れていけ!!』

魔女ではなく吸血鬼なんだがなぁ……。

地下へ連れ込まれ私を待ち構えていたのは夥しい血と鉄の臭い。

釘や鋸、様々な拷問器具による異端審問だった。

魔女狩り、つまらない嫉妬や下らない噂で広まった宗教による断罪。

ホクロや痣、親が死んでいる、猫を飼っている等々、それだけの判断基準で魔女狩りによって命を落とした者が大勢いる。

そして私もどこから聞いたのか、成長しないという金髪の幼い少女という情報を元に魔女だと判断され、ここ拷問部屋へと連れ込まれた。

拷問部屋にいるのは私を含め十数人の男女。

とって付けた適当な魔女狩りの判断基準は女だけではなく、男も魔女の使い魔とされて捕まった。

そしてその中にも私に似た少女も巻き込まれ、ここ拷問部屋へと引き込まれていたのだ。

そして行われる拷問の数々、爪は剥がされ、熱湯を浴びせ、五寸釘を身体中至る所に突き刺される。

どんなに傷を付けても直ぐ様再生してしまう私は、変態性癖を持つ拷問執行者や教会の神父という立場を武器に人々から給付金という名の強奪を繰り返す豚親父の格好の標的になった。

何度も何度も釘で体を貫き、刃で体を切り裂き、火で体を炙った。

どれだけの時が流れたのだろう、私を除き捕まった魔女と呼ばれた者達は全員痩せ衰え、痛みの声を出すことすら出来なくなっていた。

吸血鬼、それも真祖に変えられた私も空腹を感じ、更には体力も失われていたが他の連中よりもましな体だった。

当たり前だ、何せ私は吸血鬼という化け物、死にはしないし老いる事もない。

そんなある日、私達はあの豚親父に呼ばれ、外へと連れ出された。

町の住民の環視の下、私達は全裸で地面に這いつくばらせられた。

豚親父が高々と宣言するのを聞くと、どうやら私はコイツらと共に火炙りにされるようだ。

下らない、あぁ下らない。

不老不死である私にはどんなに傷付けられようと死ぬことはない。

巻き込まれた連中には悪いが、私はこれから起こる公開死刑に何の感情も湧かなかった。

あの雪の降る日、私の全ては奪われた。

化け物にされた私は人間とは相容れず、ただ一方的に恨まれ、憎まれる日々。

どんなに親しくなっても、私の正体を知れば皆掌を返し。

『この化け物!!』
『お前なんかが生きてても、災厄が降るだけだ!』
『穢らわしい、早く死なないかしら』

冷たい罵倒も今では何も感じない。

寧ろ開き直り、いっそのこと人間が恐れる悪とやらになってやろうかと意気込むが。

結果はご覧の有り様、情けなくて笑えてくる。

吸血鬼となって既に人間の倍以上生きている私は、この無限地獄を早く抜け出したいという思いしかない。

後ろで生気を無くした連中同様、私はただ頭を垂れるしかなかった。

と、その時だった。


バリボリバリボリ


何か、固いものを噛み砕く音が私の頭上から聞こえてきた。

何だこれは? 何かを食べる音か?

何かと思い、顔を上げてみると。

「モグモグモグモグ……ング」
「………へ?」

手に袋を持ったガキが、袋から取り出した食べ物らしきモノを頬張っていたのだ。

頬をリスの様に膨らませ、食べ物を詰め込むその姿に、私は思わず呆けた声を溢してしまった。

「な、何だ……お前は?」
「モグモグ、バージル=ラカン」

食いながら自己紹介するガキに、私は突っ込みを入れたかったが、そんな力などあるわけがなく、ただ項垂れるだけだった。

「……早く逃げろ、ここにいればお前も殺されるぞ」

異端審問で魔女とされた者と言葉を交わせば、その者も魔女とされる。

ここにいればこのガキも魔女という烙印を押されて殺される。

私はさっさと逃げろとガキに警告を促すが。

「食うか? 猪の肉を揚げただけだが……結構イケるぞ?」
「なっ!?」
「それともこっちの桃がよかったか? こっちも自信作だぞ」

どこから出したのか、ガキは見たこともない木の実を取り出し、私達に差し出してきたのだ。

「ついこの間漸く実ってな、余りにも多くできたものだから売り出しに来ていたんだ。金は後でいいから食ってみろ、美味いぞ」

ニッコニッコと場違い過ぎる笑みを浮かべながら私達に食い物を差し出すガキ。

だ、ダメだコイツ、人の話を聞きやしない。

「な、何だお前は!?」

今まで散々講釈を垂れていた豚親父も部下に促される事でガキの存在に漸く気付き、怒り心頭で近付いてくる。

「貴様も魔女の仲間か!?」

言わんこっちゃない、醜い顔を歪ませる豚親父に対し。

「ならそっちのお前も食うか? 桃がダメなら林檎ならイケるか?」
「い、いやその……」
「何だ。ここにいるのは少食な奴しかいないのか?」

違う、明らかに違う! 何だこのガキは! 自分が今どんな状況に置かれているのか分かっているのか!?

「貴様ぁ、私を侮辱しているのかぁ!?」

激昂した豚親父はガキに掴み掛かり、その拳を顔面に叩き付けた。

「私は神に使える聖職者だぞ! その私を侮辱する事は神に対する冒涜! その事を分からせてやる!」

豚親父はガキの上にのし掛かり、ひたすら暴力を振るった。

バキバキと人を殴る音が、辺りに響く。

町の住人達は目を背き、その無残な光景から逃げる。

バカなガキだ。私に構わずさっさと逃げれば良かったものを……。

私がやりきれない思いと共に視線を向けると。


バツンッ!


何か、引き千切った音が聞こえてきた。

すると。

「ひ、ひぎゃぁぁぁぁっ!? わ、私の手がぁぁぁぁぁっ!!」

仰け反り、もがく豚親父の両手は無くなり、溢れる血が地面を鮮血に染め上げる。

対照的に、ガキはゆっくりと立ち上がる。

あれだけ殴られたというのにガキには怪我一つなく、口をモゴモゴと動かしているだけ。

するとガキは何やら赤い塊を吐き出した。

何かと思い見ると、それは無くなっていた豚親父の両手の骨らしきモノだった。

「不味いな、油の味しかしねぇ……流石に脂肪の塊は喰えんな」

ガキはそれだけ呟くと豚親父に掌を向けると。

「汚物は消毒だ」
「ひ、……」

緑色の閃光が放たれ、豚親父は悲鳴を上げる隙もなく、光に呑み込まれていった。

気が付くと、豚親父の神父は姿はなく、後ろにあった教会も跡形もなく消え去っていた。

あるのは抉れた大地と今まで覆っていた雲を真っ二つに引き裂かれている絶景。

その光景に誰もが言葉を無くしていた、無論この私も。

何が起こったと、住人や神父の部下達は目の前の光景に混乱し続け、軈て一つの結論に至る。

大地を砕き、空を割ったのはこの幼い少年なのだと。

今まで神父の使いパシリだった男は思った。目の前の少年は本物の神の使い……いや、神そのものではないかと。

世界を創造したのなら、破壊するのもまた容易い。

今のこの少年の様に。

「う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

神が、我々を罰しに来た。

その叫びと共に逃げる男を始め、住人達も蜘蛛の子を散らす様に逃げ惑った。


残されたのはガクガク震える全裸の少女達。

光を放ち、瞬く間に大地と空を破壊した少年を前に彼女達は今まで感じた事のない恐怖を感じていた。

すると、少年は此方に振り向くと、持っていた袋を投げ渡し。

「くれてやる。好きに使え」

それだけを言い残し、少年はその場から立ち去っていく。

袋の中を覗き込むと、そこには見たこともない木の実と肉、更には薬など今の彼女達には絶対に手に入らない品物が詰め込まれていた。

拷問から解放された少女達は少年の背中に向けて口にする。

“救世主(メシア)”と












「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ……」

気が付けば私はあのガキの後を追っていた。

ガキ……バージルと名乗ったアイツは光を放ったと同時に大地を、そして空を切り裂いた。

奪われてしまった。アイツの黒い髪、黒い瞳、そして力に。

圧倒的な力、他者を寄せ付けない絶対無比の力。

アイツはその力を以て、私の中の闇を一瞬にして消し飛ばしたのだ。

知りたい、あの男の事を……。

拷問の時に受けた痛みは、既にもう感じない。

そしてとある森の中で漸く私は追い付いた。

「バージル=ラカン!!」
「んぁ?」

振り返った先にある奴の目に、一瞬息を呑む。

吸い込まれそうな黒い瞳、純朴に見えてその力は絶大。

「さっきの奴か、何のようだ?」

そうだ。私はコイツに用があった。

どうしてお前はそこまで強い? どうしてそこまで一人でいられる?

ついさっき会ったばかりのガキに、どうして私はこうも惹き付けられている?

分からない事ばかりだが、取り敢えず。

「私をお前の弟子にしろ!」

一先ず、お前のいるその場所まで昇る事から始めよう。











なんて考えていた時期も私にもあった。

コイツに弟子入りしてから早数百年、どういう訳かバージルも私と同じ不老不死らしい。

らしいと言うのは髪も伸びないし、背丈も180cm以降からは変わりないし容姿も変わりない事からもしかしたら不老不死何ではないかと推測を立てた。

と言うか数百年も老わずに生きている時点で、化け物なのだがな。

そして、今私が何をしているのかと言うと。

「なんだ、もう終いか?」
「う、五月蝿い、この体力馬鹿が」

バージルにこれでもかとボコボコにされていた。

うん、もう200年位前になるかな? 奴の地獄とも呼べる鍛練に付き合い、魔法も独自に研究し、オリジナル技法の闇の魔法を会得した時だった。

魔法も使わず、肉体強化だけを得意とするバージルを相手に初めて組手をしたのだ。

どんなに奴が強くとも、最強種の真相の吸血鬼となれば真っ正面からの力比べには屈する筈。

私は闇の魔法により力を増大させ、バージルに挑むのだが。

もうね、ポッキリと折れたよ色々と。

どんなに力を込めても奴の片手にも及ばないし、どんな魔法も平然と耐えている。

この間なんか全力全開の闇の吹雪を零距離で当てたのに。

「なんなんだ今のはぁ?」

それだけ言うと、今度は笑いながら襲って来るのだ。

あの時は恐かったなぁ、何せ白目で追い掛けてくるのだから、当時の出来事は今でもトラウマだ。

相棒のチャチャゼロも乾いた笑みを浮かべて倒れ伏している。

私もこれ以上動けないと、仰向けになって倒れる。

すると。

「さて、そろそろ行くか」
「え? きゃっ!?」

いきなり感じる浮遊感、気が付くと私はバージルに抱き抱えられていた。

って、か、顔、顔が近い!

「暴れるな、舌噛むぞ」
「へ?」

それだけ言うと、バージルはいきなり跳躍し、空を飛翔する。

「ど、どこに行くんだ?」
「この先、紅き翼とどこかの連中が喧嘩をしているみたいだ。そこに混ざる」

あぁ、またか。またコイツの気紛れで世界が騒ぎ立てるのか。

「嫌なら置いてくが?」

嫌な訳無いだろう、あの日私はお前のモノになると決めたのだからな。

「ついていくさ師匠(マスター)、どこまでも」

今はこうして並んでいるが、私の目指した背中は未だ遥か彼方。

そこに追い付くまで、どこまでもついていくさ。

愛しい私の主(マスター)よ











[25893] その頃の麻帆良〜その八〜
Name: トッポ◆9bbc37c8 ID:0641a1f6
Date: 2011/08/18 01:56






炎が弾ける、雷が轟く、二つの閃光が交差し麻歩良の空を彩っていく。

深紅の炎が爆発し、赤黒い煙が立ち上る。

翼を羽ばたかせ、煙の中へ睨む超。

すると杖に跨がったネギが煙の中から姿を現す。

「ゼェ、ゼェ、ゼェ……流石にしぶといヨ、ネギ坊主」
「はぁ、はぁ、はぁ、僕も負けたくないですから……」

互いに肉体は限界を越えていた。

ネギは次々と襲い来る猛攻を避けながら反撃、しかし受けたダメージは計り知れない。

超も魔法を使用する度に全身に刻まれた術式の痣が体を蝕み、激痛を伴っている。

もう、二人には体力が残されておらず、時間もまた無い。

定められた試合時間は残り二分を切り、今尚時は進む。

引き分けという選択は最初から二人の頭の中には入っておらず、互いに次の一撃で終わらせようとしていた。

次で終る。

世界樹を使い、人の意識を自ら変えると目論む超と、自分達の手で未来を造ると誓うネギ。

「……なぁネギ坊主」
「?」
「君は、今までの自分に後悔した事はあるカ?」

不意に問われる質問、その答えにネギは一瞬戸惑うが――。

「そう、ですね。正直僕は後悔してばかりです。父の行方を追う、そんな理由で明日菜さんやのどかさん達を巻き込んだり、生徒の皆を危険な目に合わせてしまったりして……何でもっと上手く出来ないんだって」
「………」
「結局僕は一人じゃ何も出来ない臆病者なんです。ただ悩んで悩んで……悩むだけの馬鹿野郎なんです」
「ふ、その台詞は今の君が口にするべき事じゃないヨ」
「え?」
「以前の君は確かに悩む癖がある、だが今は悩んでも自分だけの答えを出せる自分がいるじゃないカ、正しいかどうかは別として」
「超さん……」
「この世には絶対なんてものは存在しなイ、あるのは自分が信じた道のみネ」

だから、言葉を続ける前に超は最後の勝負の為に全身に力を込める。

「だから私も、自分で決めた道をただ突き進むだけネ」

翼を広げ、全身に刻まれた痣が光を放つ。

嗚呼そうか、この人も彼と同じなんだ。

どれだけ蔑まれようと、罵倒されようと流されず、自分の道を信じるだけ。

だから彼女も彼もあんなに輝いてみえるのか。

決意の籠った彼女の顔に自然とネギも構えて。

「……なら僕も、自分の我が儘の為に貴女を止めます」

この世界には善も悪も無い、ただ自分のやりたい事をやるかやらないかだけ、ただそれだけなのだ。

きっと今の自分は皆がいう立派な魔法使いには程遠い位置にいるだろう。

だが何故か、それでもいいかと思う自分がいる。

「……ふ、ネギ坊主ヨ、別にそんな難しく考える事はないネ」
「え?」
「今私達は祭りを盛り上げる為に戦っているだけ、少なくとも下の皆はそう思っているみたいヨ」

唐突に笑う超、真面目に考える自分をからかうその笑顔にネギも困った様に苦笑う。

「散々そっちが話をフって来たのに……今更じゃないですか」
「確かに今更だ。しかし互いに限界が近い以上、最早問答は意味を為さないと思うガ?」

ニヤリと笑う超にネギも呆れながら笑顔を浮かべ。

「はぁぁぁぁぁっ!!」
「でぁぁぁぁぁっ!!」

遂に二人共同時に最後の勝負に出た。

互いに持ちうる全ての魔力を引き出し、炎と雷、それぞれが渦を巻いて空を埋め尽くす。

超は右手に今まで以上の力を収束させ。

「燃える……天空!!」

炎の奔流をネギに向けて放った。

対するネギは逃げる様子も防御の姿勢を見せず、ただ両手を交差させ。

炎の奔流に向けて真正面に駆け出した。

「っ!?」

その無謀な光景に目を見開かせる超、しかし。

「風障壁!!」

一瞬だけなら2tのトラックの衝撃すら防げる障壁を展開し、炎の中を駆け抜ける。

そして風障壁の効果が消える一瞬の合間に、ネギは風によって炎の抜け道を作り。

最小限のダメージで炎の嵐を突き抜けた。

しかし、これで超の攻撃が終わった訳ではない。

既にネギの目の前には超の拳が迫っていた。

ネギが炎の渦を突き抜けた一瞬を狙っての切り返し、その決断の速さは流石と言いたい。

ネギの顔に向かって放たれる拳だが。

「っ!?」

フッとネギの姿は消え、超の拳は虚しく空を切る。

何処にいった?

ネギが消えた瞬間、超は左右を見渡すが。

「たぁぁぁぁぁっ!!」

頭上から聞こえた声にまさかと思い見上げると。

そこには太陽を背に、殴り掛かるネギの姿があった。

(虚空……瞬動か!?)

拳に力を込め、振り抜こうとするネギ。

対する超もカウンターを放とうと拳を握り締めるが。

「っ!?」

呪印の痣が激痛となり、超の動きに僅かな隙を与えた。

その合間に、ネギは拳を超の腹部に叩き込み。

「雷の……暴風!!」

自分が今無詠唱で且つ最大の威力を誇る魔法を、拳に乗せて打ち出した。

全身に走る衝撃、それは超の体を貫き、外装を砕き、そして……。

(嗚呼、やっぱり勝てないカ)

自分に施された呪印の痣が、粉々に吹き飛ばされた。

閃光に意識が呑まれる中、超は――。

(やはり、逃げてないで自分の時代で戦え、そういう事なのだナ)

悔しく、だけど満足そうに笑うのだった。











「……う、うん?」
「あ、気が付きましたか超さん」

気が付くと、超は医務室のベッドに寝かされていた。

側の椅子に座るのは葉加瀬と共に創ったとされるガイノイド茶々丸。

何となくその表情は安堵したものに見える。

「……茶々丸、試合は今どうなっていル?」
「もう間もなく決勝戦が始まる頃だと思います」
「そう、か……ネギ坊主には悪い事をしたヨ」

自嘲の笑みを浮かべ、医務室の天井を見上げる超。

既に彼女の心には計画の有無は残されていない、あるのは全力で自分の意志を貫いた満足感とこれからについてだった。

最早自分がこの時代にいる意味は無い。

否、自分が知る歴史とは大分異なっている時点で計画の必要性は無いのかも知れない。

だが、それでも不安だった。

破壊されるまで、世界は不条理と矛盾に溢れ、腐り、爛れ、一部の力持った人間の醜い欲望によって悲劇が何度も繰り返されてきたのだ。

そして、自分がいた時代もそんな矛盾に満ちたものだった。

半端な破壊では世界は変わらない、少なくとも人々の意識が変わらない限りは……。

だから超は世界樹による全世界に向けて意識の変革を促そうとした。

全ては世界の何処かで悲しむ名も知らない誰かの為に。

(……まぁ、今更考えても仕方のない事だが)

苦笑いを浮かべる超、自分が敗北した今ではそんな考えは意味はない。

そう思っていた。

「そんな事はありませんよ超」
「茶々丸?」
「私は葉加瀬と貴方に生み出された存在、そんな機械で造られた人形の私でも貴方の世界に対する想いは感じられました。きっと、それは観客席にいたクラスの皆さんも同じ思いをしているかと」

微笑みながら聞かされる茶々丸の言葉、慰めでも気休めでもない彼女の声色に超もまた笑みを浮かべ。

「……そうか、それを聞けただけでもこの大会を開いた甲斐はあったネ」

言葉は交わさなかったし、意志疎通もなかった。

だが、それでも自分が伝えたかった想いが僅かでも届いたのだから、超はそれだけで満足だった。

「なら、私にはもう思い残す事はないヨ」
「…………」

超は痛みが残る体に鞭を打って起き上がる。

その表情は穏やかで、それでいて強い意志が宿っており。

「この大会が終わったら、この時代から去る事にするヨ」

二人しかいない医務室に、超のその一言は茶々丸の胸悲しく響いた。











「さぁ、遂にこの時が迎えられました! 激闘に次ぐ激闘が繰り広げられ、その最高峰が今、始まろうとしているぅぅっ!!」

実況の朝倉の言葉に観客達はこれ以上ない程に盛り上がりを見せていた。

舞台中央に佇む二人、ネギ=スプリングフィールドとクウネル=サンダースことアルビレオ=イマ。

「さて、これから決勝戦が始まるのですが……ネギ君、大丈夫ですか?」
「はい、医務室で充分休憩を取りましたし、治癒魔法も施しました。全快とは言えませんがそれでも100%の力を出せると思います」
「それは結構、これで私も友との約束が果たせるというものです」

フッと笑みを溢すアルビレオ、しかしそれはすぐに真剣な顔に変わる。

「……正直な所、私は悩みました。変わり行く世界、人、意志、全てが緩やかに変わっていく中、今これを君に伝えるべきか否かを」
「…………」
「ですが、今の君を見て安心しました。今の君なら見せても大丈夫だと」

そう言ってアルビレオは懐から一冊の本を取り出す。

「さぁネギ君、準備は宜しいですか?」
「………はい!」

力強く応えるネギ、そんな彼の返事にアルビレオは満足気に微笑み。

本に挟まれた栞を、解き放った。







包まれる光、次いで羽ばたく鳥の群。

輝く光の中から現れたのは、六年間思い続けていた憧れの人。

「ぺっ、ぺっ、何だよこれ、アルの過剰演出か?」

そして、同時に彼の標的だった人物。

「お、お父……さん?」
「ん? もしかして……」

その者の名は――

「お前がネギか?」

ナギ=スプリングフィールド、その人だった。













〜きょうのば〜じる〜

「“黒衣の夜想曲”フルパワー!!」
「あッ、ぐっ、くぅぅぅゥッ!!」

雨の如く降り掛かる影の槍が、容赦なく私の体に突き刺さる。

痛い、痛い、痛い。

黄昏の巫女を祭壇へ送る為に、私の力は全てそちらに向けられている。

「諦めなさい! 世界一つを消してしまおうなどという悪逆非道!! しかし今なら命だけは助けてあげます!!」

命? そんなものとうの昔にあの方……あの人に捧げてある。

幼い頃の私を、恨みと称して家族を奪った奴等に狙われたあの日。

一族に恨みがあると言って、奴等は当時の力の無い私にも魔の手を伸ばしてきた。

その時だった、あの人が私を助けてくれたのは。

そして同時に誓った。私の命はこの人の為に尽くそうと。

だから。

だから!

「貴女達なんかに、負ける訳にはいかないんです!」

私は力の限り影の槍に抵抗し、立ち上がる。

全ては、あの人の役に立つ為に!

「させないアル!!」

ふと、私の前に先程の褐色少女がその手に棍を握り締め、振り下ろしてきた。

嗚呼、やっぱり私が頑張っても意味は無いんだ。

「フェイト様、皆、そして……」

―――様、申し訳ありませんでした。

静かに目を閉じ、私は棍が振り下ろされるのを待った。

その時。

“そこまでにしておけ”

その一言が、その場にいた全員の動きを止めた。

アリアドネーの騎士見習いも、学園の少女達も、いま激戦を繰り広げている英雄の息子とその相手も。

魂にまで響くその声に誰もが震え、大量の汗を流していた。

凄まじい迄の圧力、その出所に調はゆっくりと振り返ると――。

「来て……くれた」

深い蒼の服に身を包み、腰から伸びるマントを翻す。

漆黒の髪と目、幼い外見とは想像を絶する圧力を放つその人物。

「調、巫女を連れて離れていろ。フェイト、お前も邪魔だ」
「しかし……」
「二度も言わせるなよ」

フェイトに有無を言わせない暴君、しかしその実力は本物。

「バージル様……」
「何だ?」
「……ご飯を作ってお待ちしています」

場違い過ぎるその言葉だけを残し、二人は巫女を連れて離れていく。

「ま、待て!」

英雄の息子は雷を纏って後を追うが。

「っ!!」

それよりも速く、男が目の前に回り込んだ。

「さて、随分楽しんでいたみたいじゃないか? えぇ? 英雄の息子とその仲間よ」

男はらしくない怒りの色に顔を歪め。

「俺も混ぜてくれよ」

力の奔流を撒き散らした。










[25893] その頃の麻帆良〜その九〜
Name: トッポ◆9bbc37c8 ID:02bbade8
Date: 2011/09/01 12:59






憧れだった。

目標だった。

六年前のあの雪の日、まだ小さくて弱い自分の前に現れた……大きい背中。

死んだと思われた大戦の英雄、その人物が自分の危機に駆け付けて――。

そして今、あの時と同じ人物が自分の目の前に佇んでいた。

「お父……さん?」

ナギ=スプリングフィールド。

立派な魔法使いを目指す者なら誰もが知る人物、千の呪文の男、ネギが現在最も尊敬している男が目の前にいる。

会いたかった。会って話をしたかった。

どうして一緒にいられなかったのか、言いたい事や聞きたい事が沢山あったのに。

言葉が出ない。

ざわめいている観客達の声も、今は耳に入らない。

「ん? どした息子よ、父親との再会で感激してんのか〜?」

不意に、暖かい感触が頭に広がった。

顔を上げると、子供の様な笑顔で頭を撫でてくる父の姿。

そして――。

「ひぐ……お父さん」
「ちょっ!? 何泣いてんだよ! そ、そんなに俺と会うのが嫌だったか?」
「ち、ちが、そうじゃなくて……」

涙声のネギ、流れる涙を拭い懸命に自身を落ち着かせ、父のナギと向かい合う。

「ぼ、僕、ずっと父さんに会いたくて、でも何を話せばいいか分からなくて……」
「……そっか」

決壊したダムの様に泣きじゃくるネギ、自分との出会いにここまで喜び息子にナギは手を差し伸べ。

「男がピーピー泣いてんじゃねーよ」
「そげぶ!?」

息子の額にデコピンをぶちかました。

「な、ななな……」
「ったく、俺の息子って割には随分と大人しい奴だな。てっきりこの駄目親父とか言って殴り掛かってくるものだとばかり――」
「だ、だって、普通泣くじゃないですか!」
「それでも、だ。強くあろうとするんだったら簡単に涙を見せるんじゃねぇ、お前も男ならどんなに辛くても呑み込む気概を見せろや」
「う、うう……」

流石に言い過ぎたか、必死に涙を堪える息子に罪悪感を感じるナギ。

観客席にいる雪広あやかからは凄まじい殺気の籠った視線が感じる。

バツが悪そうな顔のナギは俯いて涙を堪えるネギの頭に手を乗せ。

「……まぁ、色々キツイ事を言っちまったが、俺自身戸惑っていてな、正直お前と何を話せばいいか分からねぇんだ。だから……」
「ふぇ?」
「今のお前の全力、俺に見せてくれねぇか? 折角のまほら武道会なんだし、な?」

パチリとウィンクして構える父、そんな姿の父にネギは涙を拭い。

「はい! 父さん!」

ネギもまた、父の想いに応える為に構える。

相対する両者、会話のない二人に朝倉は察し、手を掲げ。

「それでは、まほら武道会決勝戦……開始!」

振り下ろされる手と同時に、武道会最後の試合が始まった。












ウェールズの山奥の森、滝壺近くにある岩の上で精神を研ぎ澄ませるバージルがいた。

座禅を組み、極限にまで研ぎ澄ませ。

「すー……はー……」

深く息を吸い込み、ゆっくりと吐き出す。

変わった所など何一つないただの深呼吸、だがバージルのその一連の動作は彼が今行っている修行そのもの。

自身の中に流れる氣を息を吸い込む事で瞬間的に巨大化させ、吐き出しながら巨大化させた氣を強靭なモノへ昇華させる。

齡10歳にして既に仙人と呼ばれる業を身に付けているバージル。

木陰からその一部始終を見ていたメルディアナの学園長は、子供でありながら極限の領域にいるバージルに驚愕し、また恐ろしく思えた。

「おい、いつまでコソコソしているつもりだ?」
「っ!」
「まさか……それで隠れているつもりだったのか?」

自分のいる方に視線を向けている事から、確実にバレている。

メルディアナ学園長は観念し、苦笑いを浮かべながらバージルの背後の木影から現れる。

「まさか気付かれるとはの、気配は消していた筈じゃが……」
「笑わせるな、そんなに氣を張り詰めさせれば、バカでも気付く」
「やれやれ、本当に末恐ろしい童じゃの。それほどの力を一体何の為に奮うつもりじゃ?」
「何の為に……だと? 決まっている。奴を、ジャック=ラカンを倒す。それだけだ」

岩場から立ち上がり、空に向けて拳を掲げる。

その瞳はただ前を見据える愚か者、しかし同時に無限の可能性を秘めた原石。

世界を救い然れどその自覚は皆無、ただ強者との果てなき激闘を求めるだけの……流浪の超戦士。

だが。

「なら、その目的が達成した時、お主はどうする?」
「あ?」
「ジャック=ラカンは紅き翼の一人、それを打倒とするお主の目標は長く険しい道程じゃ、しかし仮にその目標が達成された時、お主はそれから一体何を目指し生きていくのじゃ?」

目を細め、幼き修羅を見つめる翁。

高々10歳にしてその強さは規格外、まだ子供でしかない彼の内に秘められる力はすでに想像の範疇を越えている。

血塗られた修羅道をただ一人で歩くその姿はまさに孤独の囚われ人。

しかし、それでも彼は子供なのだ。

どんなに力を付けようと高めようと、子供である事実に変わりはない。

「のうバージル君、今からでも遅くはない。父を倒すという野望は捨て……」

翁は目の前の少年を公正させたかった。

父を倒すという野望から手を引かせ、子供らしい夢を人らしい希望を持たせたかった。

しかし。

「ふざけるなよ?」
「っ!?」
「俺の野望? そんな言葉一つで片付けるなよ爺、ブチ殺すぞ」

黙らせられた。

魔法使いの中でも強者に分類される自分が、たった一人の子供に。

目の前の少年が晒した激情、それは怒鳴り散らすものではなく静かに語るソレ。

しかし、静かな口調と佇まいとは裏腹に、バージルから溢れ出る殺気に翁はそれ以上言葉を繋ぐ事は出来なかった。

「ジャック=ラカン、奴を倒す為に俺は自分を鍛え続けてきた。血ヘドを吐き、時には死にかけ、それを何度も繰り返し漸くここまで強くなれた」
「じゃ、じゃったら」
「足りないんだよこんなものじゃあ!!」
「ぬぉっ!?」
「足りない、足りない!! 奴を倒すにはもっと、もっと力が必要だ! 無敵? 最強? そんな言葉に何の意味がある!? そんなモノはただの飾り、糞の役にもたちはしない!!」

殺気と共に吹き荒れる氣の嵐、森の木々は激しく揺れ、滝は飛沫を上げて吹き飛んでいく。

凄まじい氣の突風を前に、翁は飛ばされないよう踏ん張る事で精一杯だった。

「奴を倒すには最強無敵、唯一無二、俺が求めるのはその遥か先にあるものだ! そしてそれは俺が生きる術でもある。お前が口を挟める話じゃないんだよ!!」
「わ、分かった。分かったから氣を抑えてくれ! こ、このままではこの地一帯が荒野と化してしまう!」

翁の悲痛な叫びにバージルは漸く氣を収める。

辺りの木々は薙ぎ倒され、後ろの滝は飛沫となって四散し、今や雀の涙程度の小さなモノへと変わっていた。

ただ氣を発しただけで起こる超常現象、しかもほんの一部を解放しただけでこの有り様。

翁は底知れないバージルの力に体の震えが止まらなかった。

「……つまらん話をしたな、俺はもう行く。そろそろ飯時だからな」

その言葉を残しバージルは村に向かって跳躍、残された翁は自分の甘さを痛感した。

バージルは一見孤独に見える、しかしそれは大きな間違い。

孤独は周囲から疎まれ、蔑まれ、本人の意思とは別に孤立する者。

バージルの場合、周囲など気にも止めず、ただ己が定めた道をひたすら突き進む者。

孤高、それはまさに彼の者の為にあるような言葉なのだろう。

理解など出来ない、出来はしない。

今回翁はバージルの触れてはいけない部分に触れてしまった。

一度目は見逃して貰えたが次はないだろう。

もしまた彼の逆鱗に触れてしまう事があれば――。

「恐らく、山ごと消されるだろうな」

彼とは関わってはいけない、その事を身を以て噛み締める翁だった。













「長かったまほら武道会も遂に終幕、優勝は様々な人物に変身するクウネル=サンダースに決まったぁぁぁぁぁっ!!」

朝倉の宣言と共に大きな歓声をあげる観客達。

舞台の中央には満身創痍でへばりながらも最後まで立っていたネギと、所々擦り傷が目立つナギ。

「いやぁ、驚いたわ。まさかお前がここまでやるたぁ。正直舐めてたわ」
「はぁ、はぁ、はぁ、……あ、ありがとうございます」
「虚空瞬動までモノにしていたのは驚いたが、浮遊術の方はまだお粗末みてぇだな、俺はお前の頃にはどっちも出来ていたが……ま、お前は俺じゃねぇ、自分のペースで頑張りな」

満身創痍のネギとは違い、未だ余裕を残すナギ。

とは言え、自分にここまで食い下がるネギの強さとその成長振りにナギは嬉しく思った。

「僕は……父さんじゃ、ない?」
「あぁ、この完全無欠で最強無敵なお父様を憧れるのは分かるがお前はお前だ。お前はお前の道を往け、ネギ」

ボロボロとなった息子の頭を優しく撫でるナギ。

父の暖かさにネギの涙腺が再び弛み始めた時。

「ハッ、最強無敵の言葉には意見したい所だが、まぁ今は良いだろう」
「お? お前は……」
「師匠!」

突然舞台に乱入してきたエヴァンジェリンに目を丸くさせる二人。

「あれ? 師匠ってまさか……」
「五月蝿い黙れ、そのにやついた顔で指差すな!」


師匠という言葉に驚いたナギは、ネギとエヴァンジェリンを交互に見やる。

ネギは照れ臭そうに、エヴァンジェリンは鬱陶しそうにそれぞれ反応を示すが。

「ってか、もしかしてお前……まだ封印されたまま?」
「あぁそうだ! ったく、何が光に生きてみろだ。思い切り約束破りおって……」
「わ、悪ぃ……本当に」
「ふん、まぁいいわ。……それよりも面白い話があるからな」
「面白い話?」
「ナギよ、お前は坊やに自分の道を往けと言ったな。安心しろ、坊やは既にお前以外の背中を目標にしつつある」
「へぇ?」
「師匠!?」

突然別の話を切り出すエヴァンジェリンにネギは慌てふためき、ナギは興味深そうに目を見開かせる。

「ソイツはお前とジャックを足して2乗した様な男でな、純粋な力ではお前より上だろうよ」
「うは、面白い奴がいたもんだぜ。実際会えないのが悔しいな」
「ふん、この戦闘狂め」
「闇の魔王に言われたかねーよ」

不敵に笑うエヴァンジェリンを軽く小突くナギ。

父のその姿を目に焼き付けようと、静かにただ見据えていると。

「おっと、そろそろ時間だ。楽しいお喋りはおしまいだな」
「そうか、……なぁナギ」
「嫌だ」
「まだ何も言ってないだろう!?」
「はは、冗談だって冗談……何だよ?」
「私の頭を撫でろ、優しく、心を込めてな」
「……あぁ、分かった」

エヴァンジェリンの要求に応え、ナギはそっと優しく撫でる。

ナギの暖かい掌に包まれ、エヴァンジェリンは静かに涙を流す。

すると、同時にナギの体が輝きを放ち、徐々にその姿が消えようとしていた。

「……ネギ」
「!」
「俺はお前に父親らしい事を何一つ出来なかった。寂しい思いもさせちまった。これはその罪滅ぼしって訳じゃねぇが……」

ネギは片方の手で此方へ来いと手招くナギに近付き。
「っ!」

優しく、力強く抱き締めた。

「お前の道はお前で往け、なーんて格好つけちまったが、実際俺以外の奴を目標にしていると聞いた時、正直悔しかったな」
「お父さん……」
「だが、それでいい。お前はお前の好きな様にこの世界で生きろ。それだけが俺の望みだ」

間近で見る父の笑顔、何処と無く寂しく、悲しい色の含んだその笑顔にネギは。

「はい! 僕、頑張ります!」

そんな父の憂いを吹き飛ばす様な満面な笑顔で応えた。

そんな息子に父は満足そうに微笑み。



“頑張れよ、ネギ”



その言葉と共にナギは光となって消えていった。

こうして、まほら武道会は終わりを告げるのだった。


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