厚労省が、内部被曝検査「不十分」と東電など15社に是正勧告を出し、今後の状況によっては司法処分もありえると、朝日新聞が伝えた。厳しい措置にも見えるけど、事故から5カ月が経っていることを考えると、今までお咎めなかったことのほうが不思議に感じる。
(朝日新聞:内部被曝検査「不十分」 東電などに是正勧告 厚労省)
http://www.asahi.com/special/10005/TKY201108310492.html
東京電力の福島第一原発は事故発生以来、炉規法、電離則等々に違反し続けている。例えば高濃度の放射能汚染水が敷地内にあるのは超法規的措置だし、放射能が漏れ続けているのは炉規法違反だし、作業員の被ばくが上限値を超えているのは電離則違反になる。
もちろん、事故処理だから仕方ない面があるとはいえ、3月から6月の間に事故処理にあたった作業員のうち88人の所在が確認できないなど、いくらなんでもというものも多い。3月に発電所内にいた作業員の中にも、まだ身元確認ができていない人がいる。これはもう見つからないかもしれないが、メディアに対しては、核物質防護を盾に敷地内の情報を限定的にしか出さないことと比べると、あまりにもアンバランスではないだろうか。
事故収束への道が見えたわけではないが、事故直後に比べると状況の進展速度が遅くなったいまは、被ばく管理くらいは明確にしていくべき時期かもしれない。緩い基準をダラダラ続けると、その他の面でもタガが緩んでくるのは間違いない。
8月30日夕方の会見では、作業員が汚染水を被ったということが、会見終了間際に発表された。事故発生は朝9時半過ぎで、発表が寄る8時。しかも発表時には被ばく量もわからないという連絡の悪さだった。
(毎日新聞:福島第1原発:作業員2人が汚染水かぶる…自覚症状なし)
http://mainichi.jp/select/weathernews/20110311/nuclear/news/20110901k0000m040116000c.html
どういった濃度の水をかぶったか、発表時には不明だったが、被ばく量は15分くらいで判明し、とりあえずはオオゴトにはならない程度ですんだようだった。もちろん、東電の発表どおりなら、だけども。ただひとついえるのは、ひとつ間違えれば命の危険もある超高濃度の汚染水に囲まれた作業が、今でも毎日のように続いていることだ。
しかも今回は、水の事故が続いた。29日の統合会見では、やはり終了間際に、アレバ製淡水化装置(逆浸透膜のもの)でRO膜のカートリッジを交換していた作業員が17.1mSvと23.4mSvのベータ線被ばくしたことが発表された。作業は前日、28日のことだった。
(朝日新聞 浄化処理施設で作業中の男性2人が被曝 福島第一原発)
http://www.asahi.com/national/update/0829/TKY201108290599.html?ref=recc
電離則(電離放射線障害奉仕規則)によれば、皮膚に受ける等価線量は年間500mSv、非常時には年間1000mSvとなっている。ベータ線はここに当てはまるので、東京電力の松本氏は、被ばくは問題だが年間上限に比べればそれほどでもないという認識を持っていた。けれども、非常時の年間上限の2.3%、通常時上限の4.6%にもなる放射線を、わずか1時間半の作業で受けたのである。これが少ないわけがない。
疑問はまだある。28日のベータ線被ばくは、危険が明らかな汚染水に手を付ける作業にもかからず、事前サーベイがなく、放射線管理員は同行せず、計画線量もないという、極めて杜撰といえる放射線管理のもとで発生した。RO膜のフィルターは、セシウム吸着塔や凝縮沈殿槽で取り切れなかった放射性物質が集中して付着する部分なので、常識的に考えれば汚染水の性状を事前に調べるのが手順ではないだろうか。そもそも発電所内では、平時でも水には注意するということが、「原発労働記」(堀江邦夫著)に書かれている。
ところが東電は、水に手を入れる作業があるというのに、汚染水処理装置の後段では、これまで一度もベータ核種分析をしてない。というか、ヨウ素131、セシウム134、セシウム137の主要3核種しか分析をしていないのである。この3つが放射線管理に重要なので、他はすぐに実施予定がないとしていた。RO膜交換作業時の被ばくについても聞いたことがあるが、ストロンチウムなどのベータ核種は分析なしでも問題ない、ストロンチウムはアレバの部分で相当に落ちているという認識を示していた。実際にどうなっているか確認はしてないが、設計上はそうなっている、ということだ。
分析していないのだから、水の性状はわからない。本来、作業の前には計画線量を決めて被ばく管理をするのだが、今回はベータ線の計画線量がなかった。ベータ線のアラームは付けているが、設定は初期値の15mSvのままで、しかも警報が鳴ったあともしばらく被ばくしているから、最高で23.4mSvになってしまった。
加えて、この状況が管理者に伝わったのは翌日になってからで、公表されたのはその夜、8時過ぎだ。それも、もう一本のRO膜カートリッジを交換するための作業手順をつくるために、前日の状況を聞いたら、ベータ線被ばくの件がわかったというのが、東電の説明だ。
つまり作業員本人達(東電社員)は、ベータ線被ばくも、計画線量を設定していなかったことも、それほど問題だとは感じていなかったということになる。このへんの意識の差が、どうも理解できない。どこかで放射能を軽く見ているようにしか思えず、なぜこれほど甘く見られるのかが、僕にはまったく理解できない。考えられるのは、発電所内では、こうした作業が常態化しているのかもしれないということだけだ。放射能に慣れているというのだろうか。
今までは、こうしたことのすべてが事故処理だからという理由で認められてきた。しかしこんなことを続けていると、いずれ基準が曖昧になって、作業時に重大な事故が起き、結局さいごは作業員が使い捨てられる方向になるんじゃないかという心配がある。そうならないためにも、一度締めるのは大事なことだと思えるし、外側から状況を確認し続ける必要がある。
東電側や保安院、安全委員会、文科省との放射能に対する意識のギャップは、実は会見に参加した当初から感じていた。そう感じてたのは僕だけじゃなくて、例えばニコニコ動画の七尾さんもそう感じてたらしい。先日、「これが原子力ムラなのかなあ」と言っていた。まったく同感だ。
ひとつ困ったことだと思っているのは、このギャップが埋まらないと、事故処理も被災地での事故対応も、誰にも理解されないだろうなあ、ということだ。彼らはそれでもいいと思ってるかもしれないが、被災者の人たちにしてみれば、精神的負担を早く取り去りたいだろうから、事故の加害者とはいえ、一定の信頼関係が必要なはずだ。でも今の東電の感覚では、信頼関係が生まれる余地がないように思えてしまう。
そんな原子力ムラの感覚で緩い基準を続けてしまうと、緩みはどんどん大きくなって、またおかしなトラブルは起きそうだし、被災地対応にとっても良いことはなにもないので、今回の厚労省通達は必要じゃないかなというお話しでした。
(朝日新聞:内部被曝検査「不十分」 東電などに是正勧告 厚労省)
http://www.asahi.com/special/10005/TKY201108310492.html
東京電力の福島第一原発は事故発生以来、炉規法、電離則等々に違反し続けている。例えば高濃度の放射能汚染水が敷地内にあるのは超法規的措置だし、放射能が漏れ続けているのは炉規法違反だし、作業員の被ばくが上限値を超えているのは電離則違反になる。
もちろん、事故処理だから仕方ない面があるとはいえ、3月から6月の間に事故処理にあたった作業員のうち88人の所在が確認できないなど、いくらなんでもというものも多い。3月に発電所内にいた作業員の中にも、まだ身元確認ができていない人がいる。これはもう見つからないかもしれないが、メディアに対しては、核物質防護を盾に敷地内の情報を限定的にしか出さないことと比べると、あまりにもアンバランスではないだろうか。
事故収束への道が見えたわけではないが、事故直後に比べると状況の進展速度が遅くなったいまは、被ばく管理くらいは明確にしていくべき時期かもしれない。緩い基準をダラダラ続けると、その他の面でもタガが緩んでくるのは間違いない。
8月30日夕方の会見では、作業員が汚染水を被ったということが、会見終了間際に発表された。事故発生は朝9時半過ぎで、発表が寄る8時。しかも発表時には被ばく量もわからないという連絡の悪さだった。
(毎日新聞:福島第1原発:作業員2人が汚染水かぶる…自覚症状なし)
http://mainichi.jp/select/weathernews/20110311/nuclear/news/20110901k0000m040116000c.html
どういった濃度の水をかぶったか、発表時には不明だったが、被ばく量は15分くらいで判明し、とりあえずはオオゴトにはならない程度ですんだようだった。もちろん、東電の発表どおりなら、だけども。ただひとついえるのは、ひとつ間違えれば命の危険もある超高濃度の汚染水に囲まれた作業が、今でも毎日のように続いていることだ。
しかも今回は、水の事故が続いた。29日の統合会見では、やはり終了間際に、アレバ製淡水化装置(逆浸透膜のもの)でRO膜のカートリッジを交換していた作業員が17.1mSvと23.4mSvのベータ線被ばくしたことが発表された。作業は前日、28日のことだった。
(朝日新聞 浄化処理施設で作業中の男性2人が被曝 福島第一原発)
http://www.asahi.com/national/update/0829/TKY201108290599.html?ref=recc
電離則(電離放射線障害奉仕規則)によれば、皮膚に受ける等価線量は年間500mSv、非常時には年間1000mSvとなっている。ベータ線はここに当てはまるので、東京電力の松本氏は、被ばくは問題だが年間上限に比べればそれほどでもないという認識を持っていた。けれども、非常時の年間上限の2.3%、通常時上限の4.6%にもなる放射線を、わずか1時間半の作業で受けたのである。これが少ないわけがない。
疑問はまだある。28日のベータ線被ばくは、危険が明らかな汚染水に手を付ける作業にもかからず、事前サーベイがなく、放射線管理員は同行せず、計画線量もないという、極めて杜撰といえる放射線管理のもとで発生した。RO膜のフィルターは、セシウム吸着塔や凝縮沈殿槽で取り切れなかった放射性物質が集中して付着する部分なので、常識的に考えれば汚染水の性状を事前に調べるのが手順ではないだろうか。そもそも発電所内では、平時でも水には注意するということが、「原発労働記」(堀江邦夫著)に書かれている。
ところが東電は、水に手を入れる作業があるというのに、汚染水処理装置の後段では、これまで一度もベータ核種分析をしてない。というか、ヨウ素131、セシウム134、セシウム137の主要3核種しか分析をしていないのである。この3つが放射線管理に重要なので、他はすぐに実施予定がないとしていた。RO膜交換作業時の被ばくについても聞いたことがあるが、ストロンチウムなどのベータ核種は分析なしでも問題ない、ストロンチウムはアレバの部分で相当に落ちているという認識を示していた。実際にどうなっているか確認はしてないが、設計上はそうなっている、ということだ。
分析していないのだから、水の性状はわからない。本来、作業の前には計画線量を決めて被ばく管理をするのだが、今回はベータ線の計画線量がなかった。ベータ線のアラームは付けているが、設定は初期値の15mSvのままで、しかも警報が鳴ったあともしばらく被ばくしているから、最高で23.4mSvになってしまった。
加えて、この状況が管理者に伝わったのは翌日になってからで、公表されたのはその夜、8時過ぎだ。それも、もう一本のRO膜カートリッジを交換するための作業手順をつくるために、前日の状況を聞いたら、ベータ線被ばくの件がわかったというのが、東電の説明だ。
つまり作業員本人達(東電社員)は、ベータ線被ばくも、計画線量を設定していなかったことも、それほど問題だとは感じていなかったということになる。このへんの意識の差が、どうも理解できない。どこかで放射能を軽く見ているようにしか思えず、なぜこれほど甘く見られるのかが、僕にはまったく理解できない。考えられるのは、発電所内では、こうした作業が常態化しているのかもしれないということだけだ。放射能に慣れているというのだろうか。
今までは、こうしたことのすべてが事故処理だからという理由で認められてきた。しかしこんなことを続けていると、いずれ基準が曖昧になって、作業時に重大な事故が起き、結局さいごは作業員が使い捨てられる方向になるんじゃないかという心配がある。そうならないためにも、一度締めるのは大事なことだと思えるし、外側から状況を確認し続ける必要がある。
東電側や保安院、安全委員会、文科省との放射能に対する意識のギャップは、実は会見に参加した当初から感じていた。そう感じてたのは僕だけじゃなくて、例えばニコニコ動画の七尾さんもそう感じてたらしい。先日、「これが原子力ムラなのかなあ」と言っていた。まったく同感だ。
ひとつ困ったことだと思っているのは、このギャップが埋まらないと、事故処理も被災地での事故対応も、誰にも理解されないだろうなあ、ということだ。彼らはそれでもいいと思ってるかもしれないが、被災者の人たちにしてみれば、精神的負担を早く取り去りたいだろうから、事故の加害者とはいえ、一定の信頼関係が必要なはずだ。でも今の東電の感覚では、信頼関係が生まれる余地がないように思えてしまう。
そんな原子力ムラの感覚で緩い基準を続けてしまうと、緩みはどんどん大きくなって、またおかしなトラブルは起きそうだし、被災地対応にとっても良いことはなにもないので、今回の厚労省通達は必要じゃないかなというお話しでした。
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