2011年7月2日 10時6分
容疑者との接見内容を検察官が容疑者から聞き取ったことは接見交通権の侵害にあたるとして、佐賀県弁護士会の富永洋一弁護士が国に慰謝料など180万円の支払いを求めた訴訟の控訴審で、福岡高裁(森野俊彦裁判長)は1日、請求を退けた1審の佐賀地裁判決を変更。国に55万円の支払いを命じた。
富永弁護士は06年、佐賀県唐津市で起きた小学生ひき逃げ・連れ去り事件で逮捕された男=懲役5年6月の実刑確定=の弁護を担当した。その際、佐賀地検の検事が容疑者から、弁護士とのやり取りを聞き取り、調書にして佐賀地裁に証拠請求した。
判決によると、検事は男が弁護士との接見で「被害者は死んだと思った」と話したことを報道で知り、男に「殺意を認めると罪が重くなることは弁護人から言われて分かったことか、もともと知っていたことか」などと質問した。
この点について、判決は「容疑者と弁護人との自由な意思疎通を萎縮させる恐れがあった」と指摘。男からの聴取内容を調書にして証拠請求したことについても「重大な過失があると言わざるを得ない」として、慰謝料の支払いを命じた。
接見交通権は、身柄拘束された容疑者や被告が立会人のいない状況で弁護人と面会できる権利で、刑事訴訟法で定められている。森野裁判長は「接見交通権は捜査権に絶対的に優先するとは言えないが、捜査機関は趣旨を尊重し、接見内容の聴取を控えるべきだ」と指摘した。
佐賀地裁は昨年12月、一連の行為の違法性を認めず、富永弁護士の請求を退けていた。佐賀地検の馬場浩一・次席検事は「関係機関と協議をして今後の対応を検討したい」とコメントした。【岸達也】