「復興の経営学  ここから始まる企業再創造」

CSRの呪縛から脱却し、「社会と共有できる価値」の創出を

マイケル・ポーター米ハーバード大学教授が提示する新たな枠組み

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2011年5月19日(木)

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 東日本大震災でサプライチェーンや物流網が寸断され、日本企業の多くは事業活動の停止を余儀なくされた。その反省から、新たに創造していくべき経営のモデルとは──。企業で経営再創造の最前線に立つ実務家の取り組みや識者の論考を通して模索していく。

 今回のテーマは、CSR(企業の社会的責任)。企業がこぞって多額の義援金を寄付し、社員をボランティアとして被災地に送る動きも出てきている。一方で、原発事故を起こした東京電力は、放射性物質の拡散や電力不足によって、社会に広く深刻な影響を及ぼしている。

 CSRとは何か。企業は社会といかにかかわり、どのように貢献していくべきなのか。これらの問いについて企業は再考する必要がある。企業の競争戦略論の大家として知られるマイケル・ポーター・米ハーバード大学経営大学院教授はここ数年、このテーマについて探究してきた。同氏へのインタビューから、企業と社会との新たな関係を考えるヒントをくみ取れるはずだ。

(取材構成は、中野目純一=日経ビジネスオンライン記者、広野彩子=日経ビジネス記者)

 ポーター教授は最新の論文で、「CSR(企業の社会的責任)」に取って代わる新たな概念として、「CSV(Creating Shared Value=共有価値の創出)」を提唱した。それはどのようなものなのか。2010年12月に行ったインタビューで、教授は次のように語った。

── 最近、CSRはやめて、CSVをすべきと主張されているそうですが、その真意は。

ポーター 確かにCSRからCSVへの移行について議論してきました。私は2006年、米ハーバードビジネスレビュー誌の同年12月号に『Strategy and Society』と題する共著の論文を発表しました(注1)。

(注1:邦訳版『競争優位のCSR戦略』は、DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー誌の2008年1月号に掲載)

 CSRからCSVへの移行という考え方の転換について初めて書いたのは、この論文です。その中で、寄付やフィランソロピー(社会貢献)を通して自社のイメージを向上させるという従来のCSR活動は、事業との相関関係がほとんどなく、正しいアプローチではないと指摘しました。

従来のCSR活動は社会に何の影響も及ぼさない

ポーター 実際、従来のCSR活動は必ずしも効果的なものだと言えなかった。社会に大きな影響を及ぼすには至らなかったからです。それも無理はありません。企業は、自社のイメージ向上だけに関心があり、社会にインパクトを与えて実際に社会を変えようとは真剣に考えていなかったのですから。

 この最初の論文では、共有価値の創出については簡潔に触れただけでした。米ハーバードビジネスレビュー誌の2011年1月・2月合併号に発表した共著の論文『Creating Shared Value』(注2)で、CSVのコンセプトについて詳述し、それが資本主義をどう変えていくのか、企業はどう対応していくべきなのかを考察しました。

(注2:邦訳版『共通価値の戦略』は、DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー誌の2011年6月号に掲載)

 ただし、CSVに対する基本的な考え方は2006年の最初の論文から変わっていません。最新の論文では、CSVとは何かについて掘り下げ、そのコンセプトを論理的に発展させました。CSRとCSVの違いについてまとめた図も掲載しています。


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著者プロフィール

中野目 純一(なかのめ・じゅんいち)

日経ビジネスオンライン記者。日経アーキテクチュア、日経コンストラクション、日経ビズテックの記者を経て、2005年12月日経ビジネス記者。2010年4月から現職。

広野 彩子(ひろの・あやこ)

日経ビジネス記者。


このコラムについて

復興の経営学  ここから始まる企業再創造

 2011年3月11日に起きた東日本大震災。巨大地震は大津波や原発の事故を誘発し、戦後最大の災害に発展した。その結果、東日本にとどまらず全国にわたって日本企業の事業活動はストップしてしまった。
 「選択と集中」の名の下で進められた取引先の選別。本社機能の東京一極集中──。失われた20年の間に追求してきた効率経営が完全に裏目に出た格好だ。その反省に基づいて、企業は自らのあり方を再考しなければならない。
 大震災を転機として新たに創造し直すべき経営のモデルとは。企業で経営再創造の最前線に立つ実務家の取り組みや識者の論考を通して模索していく。

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