今日は、遅れていた和田中夜間塾についてのお話をもう一回して終わりにします。 以下に、夜間塾の論争とは無関係のように見えますが、私の個人的な意見を述べてみたいと思います。 スポーツについて 子供たちはスポーツで遊ぶことが大好きです。誰の目にも明らかなように、かけっこの速い子供がいるし、ボール取りやサッカーボール蹴りが上手な子供もいます。 運動能力の高い子供はそれをさらに伸ばしてプロの選手になろうとします。ボストン・レッドソックスの松坂投手が60億円の契約金を交わして話題になりました。しかし、松坂投手の活躍を、「選ばれた選手と排除された選手の間に差別が生まれて人間関係を壊す」などとバカなことをいう人は一人もいません。 子供、一般的に人間には運動能力に個人差があります。能力とともに努力が必要なことはいうまでもありません。「スポーツの能力+向上心の能力」のない者がいかに努力しても、そこに限界があることも事実です。 芸術について スポーツと同じように、絵を描くこと、ピアノやバイオリンを弾くこと、小説を書くことなどには、「芸術の才能+向上心の才能」が必要だ、という意見にもほとんどの人が同調すると思います。 誰もがピカソになれるわけではありませんし、マーラーやトルストイになれるわけでもありません。 私たちは、人の芸術的能力に大きな較差があることに疑問を持ちませんし、 「選ばれた芸術家と排除された芸術家の間に差別が生まれて人間関係を壊す」などとバカなことをいう人もいません。 学術について 学術は普通アカデミックな活動を指します。ここでは、学んでそれを生かす能力という意味で、芸術に対比させて「学術」という言葉を使います。 スポーツや芸術と同じように「学術の能力+向上心の能力」にも、残念ながら個人差が厳然と存在します。アインシュタインやダーウィンのような科学者に簡単になることはできません。私は元科学者なので、その点は身をもって痛感しました。アインシュタインの論文を読んで、とても自分にはこの発想は生まれないと納得しました。 「選ばれた科学者と排除された科学者の間に差別が生まれて人間関係を壊す」のような議論はナンセンスです。 さらに経営や画期的な製品製造などにも同じことが言えます。ビル・ゲイツ、スティーブ・ジョブス、セルゲイ・ブリン、ラリィ・ペイジはその分野で才能に恵まれた人々なのです。 人生について ちょっとペシミスティック過ぎる意見かもしれませんが、私の人生観を書きます。 人間の人生とは、自分の夢をひとつひとつ捨てていくプロセスです。自分が持っていると思っていた能力が実はたいしたことはなかった、ということを順々に気づいていく作業が人生なのです。 自分の能力の程度またはその限界に早く気づくほうが幸せな人生のような気がします。 学校教育について 学校においても、子供の「学術の能力+向上心の能力」に個人差がある、という厳然たる事実の元に教育を行わなければなりません。 教育では、 1)子供たちに一般的な知識を授けて社会に出ても困らないようにする教育 2)能力のある子供には、社会でその能力を最大限発揮してもらうために、その才能を自由に伸ばす教育 の2点がどうしても必要です。3番目として敢えて言えば、 3)子供たちのいろいろな能力を発見してそれを子供に認識させる教育 が望ましいでしょう。 繰り返しますが、学校教育は知識を授けることが第一義の目標ですが、可能なら、子供たちの学術、芸術やスポーツの能力、その他の能力を的確に見つけてあげる努力をすべきです。しかし、それらは、まず、保護者の責任に帰すべきことかもしれません。 2年ほど前に、全国から中学2年生を集めて授業を行う「関本・有馬塾」に参加したことがあります。有馬先生にお聞きしたところ、大阪府の教育委員会は、子供の格差につながるということで、塾への生徒の推薦を断ったと聞きました。皆さんどう思いますか。 和田中学校のHPを訪問してください。夜間塾開講の前に全校の生徒たちの学力向上にも努力していることが伺えます。その上で能力のある子供たちを伸ばそうと努力しているようです。 無論、この試みは後日評価が必要です。今から5年後以降、第3者により、夜間塾を受けた子供たちが大人になって活躍しているかどうか、もし活躍しているのなら夜間塾はどの程度貢献したのか、を検証しなければなりません。国の委員会組織と違い、夜間塾を開始した責任者ははっきりしているのですから、その評価に従った褒章あるいは責任追及が可能です。 明日からPISA2006の最後の報告に入ります。 (「中学校教諭」の個人単位で見た残業時間・持ち帰り時間の状況(第Ⅲ期)、某県の調査の一部。クリックするとすごく大きくなります。) (「中学校教頭」の個人単位で見た残業時間・持ち帰り時間の状況(第Ⅲ期)、某県の調査の一部。クリックするとすごく大きくなります。) 昨日「和田中夜間塾の続き」を書こうと思いましたが、急遽それに関連する「先生方の忙しさ」のデータの一部を示しました。 どうも元科学者の癖が直りません。いたずらに根拠のない意見を言うことは科学者の最も嫌うことですので、皆さんにあまり興味のないデータを引っ張り出して話をしてしまいます。理屈っぽく、くどいことは重々承知しているのですが、もう年ですから態度を改めるには遅すぎます。 昨日、日教組の海外調査のデータをお見せし、欧米の先生方に比べて、日本の先生方は授業よりもほかの事に時間をとられていて、結局生徒たちの学力向上に最大限の貢献ができていないことを紹介しました。 今日は、先生方がどの程度残業をしているかのデータを紹介したいと思います。某県が昨年多数の先生方の協力を得て調査した残業時間データの分析結果です。専門家によると、全国調査とあまり違わないので、この結果は日本の先生方の残業時間の平均を表すと考えてよいとのことです。 上に2つの図を示しました。一つは中学校教諭、もう一つは中学校教頭の第Ⅲ期における、残業時間、持ち帰り時間の分析結果です。 教諭の先生に関するコメントとしては、 •勤務日残業時間は平均2時間半程度、 •持ち帰り時間は無視できる、 •休日残業時間は大きくばらつき、5時間以上休日出勤している(部活動のため)先生も多い。 教頭先生に関するコメントとしては、 •勤務日残業時間は平均3時間程度、4時間以上残業している教頭先生も多い、 •休日持ち帰り時間が3時間以上の先生もいる、 •休日残業時間は大きくばらつき、3時間程度休日出勤している教頭先生も多い。 先生方は、日常的に長時間の勤務を強いられています。私は知らなかったのですが、学校で最も長時間働いているのは教頭先生なのです。教育以外のあらゆる雑用を引き受け、聞くところによると、夜の最後の戸締りが教頭先生の仕事になっている学校も多いということです。 昨日報告したように、この長時間勤務の中で教科指導に割く時間が切りつけられているという由々しき事態があります。また、部活動等のために、休日に何時間も学校に出てくる先生も多いのです。 ただし、残業時間等の分布が大きくばらついているということで、残業をしない先生と、熱心に部活等で自分の時間を削っている先生の両方がいらっしゃいます。両者の先生で給与水準に差がないはずです。 私は、少なくとも、先生方の休日出勤をやめさせ、教科の事前勉強や指導方法の確認等、次週の授業のための準備に当てることと、生徒たちに対応するための英気を養ってほしいと思います。 また、私が長々と紹介しているPISA2006のような報告書の研究を是非してほしいと思います。大学教官は、教育・研究が一体としたものと考えています。自分の専門分野で世界トップクラスの研究成果を挙げ、それを講義に反映させようというわけです。初・中等教育の先生方も、教育とともに、ぜひ研究を行い、その成果を積極的に発表・還元すべきと思います。教科や教育方法の改善でもいいでしょう。諸外国との教育に関する比較も重要です。先生方が居られる地域の歴史や植物(これはぜひやっていただきたい)の「学術的」研究を地道に行うことも大変面白いことと思います。 先生方の勤務状況が改善されることと、研究が出来る環境が作られることを希望し、また微小ですがそのための貢献ができればいいなと思っております。 今、出先でブログの原稿を投稿しようとしたら、80GbのHDDを家に置いてきてしまいました。研究関係以外の情報はすべてこのディスクに入れてあります。ブログの原稿もその中なので、残念ながら今日予定した原稿は明日以降に投稿します。 手持ちの資料の中に、いずれお見せしようとしたデータがあります。それを今日はお見せしたいと思います。 上の表を見てください。日教組の調査だそうで、教科指導以外に先生方がどのような活動をしている(させられている)かを、日本、韓国、アメリカ、イギリス、フランス、ドイツ、フィンランドで比較したものです。18項目にわたった詳しい調査です。 いくつか目に付くことを書き出してみます。 •日本の先生は、キャリア教育、進路指導、放課後の補習の活動は、他の項目に比べて比較的少ないパーセンテージになっている。 •韓国の先生は、日本の先生と同じくらい教科指導以外の活動を行っている。 •欧米の先生は、18項目の中で、しつけ、集団生活で思いやりの心を育てる、保護者との電話連絡・保護者会などに時間を割いている。 •日本、韓国の先生は、欧米の先生と比較して授業以外に多くの時間をとられている。 それでは、日本の先生の教科指導は他国と比較してどうなのでしょうか。年間授業時間数を比較してみると、 •OECD平均 795時間、 •アメリカ 1139時間、 •フランス 900時間、 •ドイツ 782時間、 •日本 648時間 です。 つまり、日本の先生は、授業以外に時間をとられすぎて、肝心の授業時間が他の先進国と比べて少なくなっているのです! 伸びる子どもをもっと伸ばすために、和田中が試行した夜間塾ではなく、学校の先生方の補習授業に期待している方もいると思います。今の状況ではそれは不可能です。 そのためには、先生方の勤務時間の形態、または職務規定のしっかりした定義づけを行い、知識を授ける業務以外の活動を先進国並みに減らさなければなりません。先生方は、知識教育のプロフェッショナルにならなければいけません。 まず必要なのは、保護者の意識改革です。子どもの生活指導をすべて学校に任せ、まるで先生を小間使いのように扱っている態度を捨て去らなければなりません。そして、モンスターペアレントと呼ばれている低脳でひどい保護者を排除しなければなりません。 この件は、また日を改めて議論したいと思います。 (杉並区立和田中学校の「和田中と地域を結ぶページ」のトップページをコピー。URLは上のコピーの中に書いてあります。) 杉並区立和田中学校が「夜間塾」を始めたというニュースがNHKテレビや新聞で大きく報道されました。いろいろな意見があるようで、朝日新聞の3面を見ると、「『格差生む』根強い反対」ということで、記者は、自分の意見に近いインタビュアーを選んで、彼らに代弁させて夜間塾に反対の雰囲気を作り出そうと努力しています。コメンテーターの大学教授の意見も夜間塾にネガティブです。夜間塾に参加した生徒の意見は一切載せていません。 NHKニュースは、例によって諾否のコメントを慎重に出さずに報道していましたが、夜間塾に参加した生徒に多くインタビューし、肯定的な意見を多く載せているのが、朝日新聞とだいぶ違うところです。 朝日新聞3面のインタビュアーの意見は何かというと、 1)公教育が教育産業に屈服した歴史的出来事 2)撰ばれた子と排除された子の間に差別が生まれて人間関係を壊す。杉並区は学校選択性だから学校間格差も生みかねない。 3)塾の宣伝に利用されているのでは 4)地域本部がやることが何でも許されるのなら、区教委はいらないのではないか ということです。驚くべきことに、子供たちの学力増進をどうすべきかという視点がまったくありません。伸びる生徒を抑えてでも、という悪しき平等主義が見え隠れしています。 私の意見は、和田中の夜間塾の試みに大賛成です。藤原校長がまさに強調にしているように、「学術」能力のあるできる子をさらに伸ばす努力をなさっていることに敬意を表します。 私の意見は明日書きましょう。 (12006年12月14日撮影。クリックすると大きくなります。) (2006年11月1日撮影。クリックすると大きくなります。) 先週は教育の話が長くなりました。月曜日から再開します。 今日は昨日の続きでポピュラーな「アブチロン」の話です。 一番上の写真は1年程前に撮りました。ガラス戸越しですので写真の色がおかしくなっています。我が家のアブチロンは冬にも平気で咲いており、花の朱色を楽しんでいます。もうひとつの楽しみは小鳥のメジロです。メジロは常にツガイで我が家を訪れますが、お目当てはアブチロンです。 秋口には、メジロはまだうまく鳴くことができず「グルグル」というような鳴き声ですが、12月にはいると立派に「ピー」と鳴くことができるようになります。 メジロはカップルでアブチロンの小枝の間を飛びまわり、花に取り付いて何かをついばんでいます。最初は蜜かなと思ったのですが、メジロは蜜を吸わないだろうと思い直しました。上の2番目の写真を見てください。赤と黄のチロリアンランプの下を見ると、下の方に一連の花が咲いていて、その上に種子らしきものが数珠繋ぎにくっついているのがわかります。昨日お見せした、盛りを過ぎた花には、花や種子の部分が欠落しています。メジロはどうやらこの種子らしきものをついばんでいるようです。 今年は去年と比べるとメジロの訪問が少ないです。暖冬のため雑木林にまだ食料があるのでしょう。代わりにヒヨドリが2回アブチロンに飛来しました。ヒヨドリはメジロよりずっと大きいので、花のついた小枝にとまることができません。何度かトライするのですが、あの精悍なヒヨドリが、種子をついばむことに失敗してドタッと生垣の上に落っこちたときには、観察していた妻とともに大笑いしました。 ヒヨドリはあまり人を怖がりません。庭の机の上にミカンの輪切りを置き、私はじっと動かずに椅子に座ります。ミカンを見つけたヒヨドリは、最初警戒して生垣に隠れていますが、数分もするとそろそろ近づいてきて、最後には机の上に乗ってミカンの輪切りを突っつき始めます。そうなると一心不乱で、人のことを思わず忘れてしまうようです。 精悍なヒヨドリでもコケルことがあるのを見て、何かヒヨドリの欠点を知ってしまったような気がして、面白くもありました。 (12007年1月23日撮影。クリックすると大きくなります。) 今週と先週は教育の話が長くなりました。まだ続きますが週末はお休みし、月曜日から再開です。久しぶりに我が家の庭の花を紹介したいと思います。 今年の冬は暖冬らしいと書いたとたんに寒波襲来。先日1月23日だと思いますが、関東地方にも雪が降り地面が少し白くなりました。昔の仕事場の奥飛騨とは比較になりませんが、暖地に生まれたものですから、雪が降ると犬のように喜んでしまいます。 今日はポピュラーな「アブチロン」の紹介です。インターネットで検索すると、花期は6~10月となっていますが、我が家のアブチロンは年がら年中花をつけています。もう10年以上花をつけ続けていますが、だらしない木で、フジのように自分の幹で自分を支えることができません。仕方がないので園芸用の鉄パイプ3本で幹を支えています。地面近くでは直径3cmくらいに成長しました。 1.5m位の高さのところで、幹は突然10本近くに枝分かれします。それらを1.8mくらいの高さでパイプに無理やり縛り付けます。すると、縛られた枝からさらに派生した小枝がコウモリガサのように展開し、その枝の先にたくさんの花がつきます。 我が家のノアブチロンはチロリアンランプと呼ばれる妙な形の花をつけます。私は、この花の形は好みではありませんが、花の朱色は大変気に入っています。上の写真の花はもう落ちる寸前の情けない格好をしていますが、秋から冬にかけて色の濃くなった朱色は見事なものです。夏に咲くフクシヤの花の朱色とともに好きな色です。 上の写真では、左の葉の上に雪が少し残っています。この赤っぽい枝と葉はアブチロンではなく、生垣用に植えてあるカナメモチのシュートです。アブチロンの葉は花の上にある大きなやつです。まだ枯れていませんね。 (続く) 57カ国、15歳の生徒さんが40万人参加した調査結果を、報告書PISA2006を斜め読みしつつ、何回かに分けてご報告しています。私は、某県の学校教育に関する委員会の委員を引き受けているので、興味深く分析しているところです。 前回「授業以外、自分で科学を学んでいるか」というアンケート結果を紹介しました。日本の子どもたちが授業以外で科学を学んで得た、今日的な課題の知識は驚くほど少ないことがわかりました。57か国中最下位で、私は危機感を覚えました。 今日は、その続きの質問です。自分で科学を学ぶとき、どのような手段を取っているか、というものです。A)~F)の6種類の手段を示し、それらをよく使っている生徒のパーセンテージを分析しています。 それでは上の表を見てください。6項目の設問は、 A)科学のテレビ番組を見る。 B)科学雑誌や新聞の科学欄を読む。 C)科学のトッピックスに関係したインターネットにアクセスする。 D)科学のとっぴクスを説明した本を借りる。 E)科学の進歩についてのラジオ番組を聴く。 F)サイエンスクラブに顔を出す。 です。 上のA)~F)の手段によくアクセスする生徒のパーセンテージを、成熟した工業大国の、アメリカ、イギリス、ドイツ、フランス、イタリア、日本、ロシアで比較しました。 A)~F)のパーセンテージの和(表のSum)を使って57カ国の順位をつけてみました。1位は驚くなかれキルギス、続いてアゼルバイジャン、コロンビア、チュニジア、ヨルダン、タイ、メキシコと途上国の子どもたちが積極的に科学の知識を吸収していることがわかります。 7カ国の順位を見ると、ロシア15位、イタリア25位、ドイツ35位、フランス36位、アメリカ43位、イギリス55位、そして日本57位です。これも途上国傾向の順番を表しているのでしょうか。 前回の調査「授業以外、自分で科学を学んでいるか」と同じく、日本はダントツの最下位、それも57か国中の最下位です。 日本の生徒たちは、授業以外で科学の知識を得ていないのですから、いろいろな手段にアクセスする手段も少ないのは当然です。 しかし、テレビ、雑誌、インターネット、本にアクセスする子どものパーセンテージが、他の6カ国と比べて低いのが気になります。子どもたちは塾に行かねばならずこのようなアクセスをする時間がないのも一因でしょう。しかし、本当の問題は、テレビ、雑誌、インターネット、本に興味を引く科学的なコンテンツが不足していることが原因でしょう。社会の問題なのです。 大人が科学嫌いなのですから、社会がすぐ科学好きに変わるはずはありません。やはり、学校が、優れた面白いコンテンツを子どもたちに積極的に紹介し、宿題の一環としてそれらのコンテンツを見させることも必要だと思います。 (Figure 3.5, Chapter 3, PISA2006 reportを利用して作表。クリックすると大きくなります。) 57カ国、15歳の生徒さんが40万人参加した調査結果を、報告書PISA2006を斜め読みしつつ、何回かに分けてご報告します。私は、某県の学校教育に関する委員会の委員を引き受けているので、興味深く分析しているところです。 第6回目、第7回目に、PISA2006の第3章にある「各国の生徒が理科・科学をどう把握しているか」と「自分にとって科学とは何か」に関する分析結果を紹介しました。 もう一度前回申し上げた事を書きます。テストではなく、生徒が科学をどう捉えているか、という一般的な設問になると、日本の生徒の態度は若干弱気になっていることがわかります。逆にアメリカの生徒たちが科学に大いに積極的になっていることが対照的です。アメリカの科学・技術の強さの一端がここにあるとの思いを強くしました。 今日は、「授業以外、自分で科学を学んでいるか」というアンケート結果を紹介しましょう。 それでは上の表を見てください。8項目の設問は、 A)地震は他よりも頻繁に起きる地域があることを説明せよ。 B)健康関係の新聞報道の基礎となる科学的問題が理解できるか。 C)食品ラベルに書かれている科学情報を説明せよ。 D)環境変化が将来ある生物種にどのような影響があるか予想せよ。 E)家庭ごみの処理に関係した科学問題を同定せよ。 F)病気の治療に果たす抗生物質の役割を述べよ。 G)2つある酸性雨の説明でよいほうを選べ。 H)火星に生物のいる可能性について、新しい事実は君の考えを変えるかどうか述べよ。 です。今日的な、また授業では学べない事柄ですので、自分で興味を持って調べた効果がてきめんに現れる設問になっています。 上のA)~H)の設問に、簡単にまたはちょっとした努力で解答できる生徒のパーセンテージを、例によって成熟した工業大国の、アメリカ、イギリス、ドイツ、フランス、イタリア、日本、ロシアで比較しました。 A)~H)のパーセンテージの和(表のSum)を使って57カ国の順位をつけてみました。1位はタイ、続いてポーランド、ノルウェー、ポルトガル、アメリカ(!)、クロアチア、カナダ、台北、ヨルダン、スロバキア、イギリスと続きます。アメリカとイギリスが、小国や途上国に混じって初めて上位に顔を出してきました。 7カ国の順位を見ると、アメリカとイギリスがトップクラス、日本はダントツの最下位、それも57か国中の最下位なのです。 もし、この設問を大人にしたらどうでしょうか。日本はきっと最下位に来ることでしょう。 アメリカと日本のパーセンテージを見てください。日本の子供たちが科学への興味を失っていることに、愕然とする思いです。もう、懸念という状況ではなく、危機感を持ってしまうのは、私だけではありますまい。 21世紀は知の世紀といわれます。とりわけ、科学・技術の知識が、気候変動への取り組みも含めて、死活的に重要になります。もし、子供たちが科学・技術に興味を持たず背を向けるようになれば、今世紀中に日本は完全に沈没するでしょう。 この状況を改善するためにはどうすればよいのか。もう少しPISA2006の分析結果を見る必要があります。 57カ国、15歳の生徒さんが40万人参加した調査結果を、報告書PISA2006を斜め読みしつつ、何回かに分けてご報告します。私は、某県の学校教育に関する委員会の委員を引き受けているので、興味深く分析しているところです。 第6回目に、PISA2006の第3章にある「各国の生徒が理科・科学をどう把握しているか」に関する分析結果を紹介しました。テストに付随したアンケート形式で行われた設問の答えを分析しています。 テストではなく、生徒が科学をどう捉えているか、という一般的な設問になると、日本の生徒の態度は若干弱気になっていることがわかります。逆にアメリカの生徒たちが科学に大いに積極的になっていることが対照的です。前回に言いましたが、アメリカの科学・技術の強さの一端がここにあるとの思いを強くしました。 今日は、「自分にとって科学とは何か」というアンケート結果を紹介しましょう。 それでは上の表を見てください。5項目の設問は、 A)科学は私の身の回りのことを理解するのに役立つ。 B)大人になったらいろいろな仕方で科学を使う。 C)科学のある考えは私が他人とどう関係しているかを知るのに役立つ。 D)卒業してから科学を使う機会が多くなると思う。 E)科学は私にとって大いに関係がある。 です。 上のA)~E)に賛成か、大いに賛成する生徒のパーセンテージを、例によって成熟した工業大国の、アメリカ、イギリス、ドイツ、フランス、イタリア、日本、ロシアで比較したものです。 PISA2006では、アンケート結果に必ずしも順位をつけていません。ここでは、A)~E)のパーセンテージの和(表のSum)を使って57カ国の順位をつけてみました。1位はタイ、続いてコロンビア、メキシコ、ヨルダン、アゼルバイジャン、キルギス、インドネシアと続きます。学力ではトンと上位に顔を出さない途上国の生徒さんが、科学に強い意識を持っていることがわかります。 翻って7カ国の順位を見ると、アメリカが23位でトップ、日本、ドイツは53位、55位と最低ランクのグループに入ります。前回のアンケート結果と同じような順位です。ここでもアメリカの子供たちのはっきりした態度が印象的です。 アメリカと日本のパーセンテージを見てください。明らかに有意な違いが見えます。私は、ここにきて、初めて日本の子供たち(大人も)に懸念を持ちました。 日本の子供たちは、欧米の子供たちと比べてシャイでシニカルなところがあり、あえて自分の意見を低く評価する傾向があります。仕事上では欧米の研究者を怒鳴りつけてきた私でさえ、その態度が残っています。 しかし、自分の考えを素直に表すことが、グローバルな環境の中で生きていくためにますます重要になってきています。このような態度を家庭で訓練することは難しく、グループで活動する学校で訓練するのがもっとも効果的でしょう。学校教育におけるひとつの課題です。 (Figure 3.2, Chapter 3, PISA2006 reportを利用して作表。クリックすると大きくなります。) 57カ国、15歳の生徒さんが40万人参加した調査結果を、報告書PISA2006を斜め読みしつつ、何回かに分けてご報告します。 第5回目に理科の詳しい評価を示し、日本の生徒たちの弱点が見え始めたことを説明しました。今日から、PISA2006の第3章にある、各国の生徒が理科・科学をどう捉えているか、の調査結果を何回かに分けて示したいと思います。把握度の質問は、理科のテストに付随した質問形式で行われています。 それでは上の表を見てください。科学の価値に関する把握度を質問しています。5項目の設問から成り、 A)科学は自然理解に重要か。 B)科学技術で生活環境が改善されるか。 C)科学は社会にとって大切か。 D)科学・技術の進歩は経済を発展させるか。 E)科学技術の進歩は社会に利益となるか。 です。 科学・技術に拒否反応を持つ方は異論があるかもしれませんが、PISA2006では、これらの項目の意見は正しいものとして子供たちに質問しています。私もこれら5項目の意見に賛成です。 その結果を、例によって成熟した工業大国の、アメリカ、イギリス、ドイツ、フランス、イタリア、日本、ロシアで比較したものです。表の数値は、表の上欄にあるように、上の各項目に賛成か強く賛成する生徒のパーセンテージです。 7か国中常にトップか2番目につけてきた日本の生徒は、ここに来て5位になりました。表の一番左の列にあるRanksは、57か国中の順位を表しています。57か国中、日本は51位、フランス、ドイツがそれぞれ54位と56位で、これら3カ国は最低のランクですね。 アメリカ、ロシアの子供たちは、7か国中1位と2位で、科学・技術にすごく肯定的なことがわかります。57か国中の順位も30位、31位と、他のテストの順位と同じくらいです。 アメリカの子供たちの学力は決して高いものではありませんが、アメリカが世界で抜きんでた科学・技術国であることの理由は、アメリカ国民の科学・技術に対するオプティミズムが大きな効果を挙げてきたのかもしれません。 しかし、誤解のないようにお願いしたいのですが、表のSumを見ればわかるように、科学・技術へのオプティミズムは、7カ国の生徒とも決して低くはなく、むしろ驚くほど高い、と思ったほうがよいでしょう。この指標をもって日本の子供たちを叱ってはいけません。 < 前のページ次のページ >
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