平成20年度科学技術政府予算案の紹介―6、iPS細胞研究WG議事概要、その1

(我が家のナニワイバラとコデマリ。4月29日妻の撮影。)

 しばらく留守にしましたが、平成20年度科学技術政府予算案のお話をしたいと思います。ただしだいぶ脱線します。

 前回、iPS細胞研究への支援額および投入予定額を紹介しました。そのとき、福田首相の指示があり、総合科学技術会議にiPS細胞研究WGが作られ、鋭意議論が行われていることも紹介しました。

 3月19日の議事録が資料として載っていますが、それが実に面白い。
 私はこの分野の門外漢ですが、この議事録は大変参考になりました。

 関心のある方はぜひ読んでいただきたいと思います。ここに私なりに要約した議事録を紹介します。

 以下はiPS細胞の基礎研究を紹介する奈良先端科学技術大学院大学の
高橋教授のプレゼンに関する議事録です。

 残念ながらプレゼンに使ったスライド等が公開されていません。しかし、基礎研究の現状はおぼろげながら垣間見ることができます。

 それでははじめましょう。

•山中先生がお使いになったSox2、Oct3/4、Klf4というのは、これはなぜか分からないのですがレトロバラスでないとなかなかうまくいかないというお話。これは私たち専門家がいろいろ考えてもまだ??です。

•仕組みを知るための研究、なぜ、How、どのように。例えば重複になりますが多分化能とは何なのか。分子レベルでは一体何が起こっているのか。

•発生生物学の長い歴史からその知恵を借りる、あるいは借りなければいけない。

•分子生物学。大人の皮膚、あるいは大人の組織からSox2とかOct3/4とかいろいろなものを入れる。入れて何が起こっているのか。何か起こることによってiPSの多能性が生まれるのか。これは大きな?です。そのために何かを解かなければいけないのか。

•多分化能の実態とは。これも分子生物学の分野で非常に多くの研究分野がありますが、・・・、やはり遺伝子の働きです。遺伝子がどこで働き、どこで眠り、こういうのを発現といいます。発現調整を私たちは知る必要があります。

•1つひとつの遺伝子の研究ももちろん基礎研究の立場としては重要ですが、もう1つ統括的な方法論として、これを染色体レベルで考える。

•Sox2等々は全部遺伝子の転写を調整するような、そういうタンパク質です。転写調節因子です。これが何をしているのか。これは染色体レベルで見てやろう。キーワードとしては転写、これは遺伝子発現と転写という転写です。それとエピジェネティックスとあります。
microRNAという、非常にチビなRNAが、実は染色体のいろいろなところを調節しているらしいという、これはここ1、2年の研究ですが、新しい知見も出てまいりました。このようなものを統合させる必要があります。

•次に細胞生物学との融合、細胞というのは社会を作っておりますので、その細胞の社会をいかに、それこそ人工的に作ってやるか。そういうような研究は絶対に欠かすわけにはいきません。

•発生生物学と統合生物学の中からこそ、また次の第2、第3のiPS研究というものの新しいブレークスルーが生まれる可能性がここにあると私は信じております。

(本庶座長)一言、高橋先生のメカニズムは非常に重要なんですが、ワクチンというのはご承知のように原理は全然分からなかったんだけれども効きまして、人類に大きな貢献をしたので、そういうこともあると。

 基礎研究関係の議事録はここまでで、この後のディスカッションは臨床応用分野に入ります。こちらは後日。

 感想はいかがですか。

 「iPS細胞は何にもわかっていない、どう理解していいのかもわからない」
 「何からはじめていいのか」
 「どう体系化すべきなのか」

 このような悲鳴が聞こえます。

 要は、iPS細胞研究はメクラメッポウ作業で、科学に入る前段階である、と理解できます。

 誤解しないでいただきたいですが、これから行うべき作業を考えると、私でさえ血沸き肉踊ります。私の研究分野の手法が使えるかな、などと思考実験で遊ぶ楽しみが増えました。

 最後の本庶座長のコメントも面白い。エジソンが発電機やセメント製造機械を発明した発想ですね。

 わが国は、基盤研究をしっかり行わず、実機を作る実力があるかどうかをプロトタイプで評価もせずに、GXロケット、自由電子レーザー、京速計算機を作り始めています。

 ヒトの臓器をこのような戦略で作ってよいのでしょうか。

by fewmoremonths | 2008-05-01 15:58 | 科学政策


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