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[29542] 奥さまは最大主教なのよん♪(とある魔術の禁書目録・上条×ローラ)
Name: カイバーマン◆7917c7e5 ID:56da04f8
Date: 2011/08/31 20:37
こんにちは、知っている人は知っていると思われるカイバーマンという者です。

まず最初に、皆さんはとある禁書SSの中でどれほどのカップリングを見て来ましたか? 

上条×美琴、上条×禁書はもちろん、上条×神裂や上条×黒子、はたまた上条×吹寄や上条×姫神も存在します。(極一部には上条×一方、上条×土御門、上条×ステイルなど……)
ですがそんな中で、上条×ローラというのはネット中を探してもあんまりと言えるぐらい見つからない希少種なのです。あるにはあるのですがホント数えれる程度にしか……。
勿体ない……彼女は実にいい素材を持っているというのに……。

ですから私は決めました、「無いなら書けばいい」という極単純な理由で。

今回は「とある魔術の禁書目録」に出てくる、上条当麻とローラ=スチュアートを中心としたドタバタホームコメディです。

かなりご都合的展開、無茶苦茶な内容、微妙にキャラ崩壊が入っている物語ですが、この希少価値の高いカップリングを見て楽しんでくれたら幸いです。

Q聖職者なのに結婚できるの? 

Aそこん所は聞かないでください。

P・S
作者が書いた別作品です。
3年A組 銀八先生!(ネギま!×銀魂) 【完結】
遊戯王バレンタインデーズ(遊戯王5d's)【読み切り】
禁魂 (銀魂×とある魔術の禁書目録)【完結】
僕がいちばんセクシー(魔法少女まどか☆マギカ)【完結】
オイラがいちばんワイルド(魔法少女かずみ☆マギカ)【連載中】




[29542] 一つ目 わたくしと夫婦になる事
Name: カイバーマン◆7917c7e5 ID:56da04f8
Date: 2011/08/31 15:30
イギリス・ロンドン

聖ジョージ大聖堂はロンドンの中心街にある教会の一つであり、元々『必要悪の教会』の本拠地だ。

大きさは他の教会に比べればそれ程大きくは無いが今ではイギリス清教の頭脳部として使われている。

そろそろ夜明けが近づく中、ここで赤髪の神父と金髪の修道女がある密談を交わしていた。

その内容はまさにイギリス清教に大きな衝撃を与えかねない事であった。

「……あなたは本当にそうなさるおつもりですか?」
「何度言わせれば済むのかしら、これこそが今イギリス清教に最も利益の働く行いでありけるのよ」

神父の男はまるで結婚式で取り決めを行う牧師のような立ち位置で教壇に立ち、向かいに立っている彼女に顔を渋らせた。

「あの男をこちら側に引き入れるのは反対です、奴はあなたが考えているよりずっと使い勝手が悪い」
「個人的意見は聞かなくてよ。“アレ”をこちらに連れ込めれば、こちら側には大変有能な兵器になる事はわかっているでしょう?」
「……こちらも破壊しかねない大変危険な兵器ですがね」
「あら? わたくしに操れないモノがあると思うのかしら?」
「言ったでしょう。アイツはあなたが考えてるよりずっと性質が悪い男です」

教会内で普通にタバコを口に咥えている男は彼女の顔に向かってフゥと煙を吐いた。

「仮にこちら側に迎えたとしても、アイツが我々の言う事を素直に聞くなど絶対に無いと断言します」
「ゲホゲホ! 問題無い! そなた達の言う事を聞かずともわたくしの言う事だけを聞かせれば済む事なのだわ! 教える方法はいくらでもありうるのよ!」

タバコの煙に苦しそうにむせながらも女性は声を大きくして反論する。だが男の方はそれを聞いても納得のいかない表情だ。

「そもそもあの男は我々の様な巣を持っていません、あちこち自由に飛び回って居場所を作る渡り鳥みたいな男です。そんな奴を捕まえていくら頑丈な巣箱にぶち込んでもすぐに逃げ出すのが目に見えてるでしょう」
「ゲホ……。随分とアレの事をわかっているようね……」
「アイツとは腐れ縁で何度も顔を合わせているので……嫌でもわかるんですよアイツの習性が」
「ほほう。「嫌よ嫌よも好きの内」という言葉が日本にあるのを知っているかしら?」
「……」
「無言で煙を吐くのは止めなし! ゲホゲホ!」

ニヤニヤ笑いながら自分の覚えてる日本の格言を用いてみた女性に男は再びタバコの煙を吐いた。彼女はまた煙で涙目になりながらむせ始める。

「わたくしにこのような毒性の煙を吐くとは! ただじゃおかないのよ!」
「失礼、あまりにも腹の立つツラだったのでつい」
「この男、一度上司として熱い鉄槌を食らわせてやろうかしら……」

ジト目で腕を組みブツブツと呟きながら彼女は男を睨みつけた後、また顔に煙を吐かれないようプイッと彼に背を向けてそのまま話を続けた。

「『幻想殺し』を我々イギリス清教の傘下に取り入れる。そなたがなにを言ってもわたくしはその考えを改める気は無いわ」
「なんでアイツにそこまでこだわるんですか」
「今までアレがやってきた事、その行いをすべて含めて評価すると一つの結論が出されたるのよ」

男に背を向けながら女性は一つの考察を述べる。

「浄化作用を持つあの右手はこちらにとって大変利用価値のある代物になる、イギリス清教の保有する『聖人』や『禁書目録』と匹敵するほど」
「……」
「そして何より、アレが科学サイドの方へ傾いてしまう前になんとしても正式にこちら側に引きずり込まなければならない。アレは我々魔術サイドのモノにするのよ。敵となれば脅威という他ならない」

そう言って女性はチラリと男の方に振り返った。
男は何も言わずにただ黙って咥えていたタバコを持っていた携帯灰皿に捨てる。

「馬鹿馬鹿しい、どうしてあんな男をイギリス清教に……」
「わたくしが決めた事なのよん」
「それにどうやってあの男をこちらに引きずり込むおつもりですか?」
「フフン」

男の尋ねに彼女は目を光らせて意地悪く笑った。

「全知全能なわたくしにいいアイディアがあるのよ」
「……悪い予感しかしませんが一応聞いておきましょう」
「ちこう寄れ、耳を貸してわたくしの話を聞きなんし」
「……」

無邪気に笑いながらちょいちょいと手で招いて来る女性に対して眉間にしわを寄せると、男はめんどくさそうに彼女の方へ近づいて耳を傾けた。
女性は内緒話でもするかのように声を潜ませて彼の耳元に囁き始める。

「わたくしが幻想殺しと……」

聞いてみれば数条秒程度の短い話だった。
だが彼女の話を聞き終えると男の顔色がみるみる変わっていく。
男は真っ青な表情で彼女からゆっくりと離れて後ずさりした。

「なにを考えてるんですかあなたは……冗談にも程々にして下さい」
「我ながら素晴らしき策だと思うておるわ」
「……まさか本気ではないですよね、そんなあまりにも話が馬鹿げてて現実性が無い……」
「あら? さっきの話にわたくしはなんの偽りの言葉も入れては無いわ。神に誓って」
「!」

ニッコリとした顔でハッキリと言い切った女性に男はカッと目を見開く。

「あなたはそこまで馬鹿だったのですか!!」
「な! わたくしが馬鹿と!? それは聞き捨てならないのよ!」

いきなり部下に馬鹿呼ばわりされてはさすがに彼女も顔を赤くして怒り始める。
この時の為に考えていた「一世一代の完璧なる策」を「馬鹿」と言う言葉一つで片付けられた事が疳癪に障ったようだ。

「なにが不満があると言うの! わたくしの崇高なる作戦に穴でもあると思うておるのかしら!?」
「穴だらけだろ! なにもかもが無茶苦茶過ぎる! 確かにアイツはあなたと同じぐらい馬鹿ですがそう簡単に上手く行く訳が無い! それに万が一にもそんな事になったらあの子が……!」

男はそこで言葉を切って顔を歪ませ、気を落ち着かせる為に再び懐からタバコを取り出して口に咥えてすぐに火を付ける。

「……あなたのそのバカげた行いは、またあの子を傷付けるかもしれない……」
「ふむふむ、確かにその可能性もありうるわね」
「……」
「だが、よもやこのわたくしがその件の解決方法も考えて無いと思うておるのかしら?」
「……なに?」

彼女の言葉に男は我が耳を疑う。まさか全て丸く収まる方法があるというのか?
タバコを咥えながら彼が女性の方に振り返ると、彼女はこちらに不敵な笑みを浮かべて立っていた。

「わたくしに良き考えがあるのよ、誰も不幸にならない最高のハッピーエンドを迎える結末を」
「なんだと……?」

朝の日差しが窓から入り、暗闇だった教会に光が照らされた。
















一つ目 わたくしと夫婦になる事


















数日後
場所は変わって日本地区にある学園都市

そこでは今日もまた、上条当麻はいつもと変わらない1日を迎える筈だった。

「やべぇ、結構寝ちまった……しっかし風呂場で寝る事に随分慣れちまったな俺」

学校に行く必要のない日曜だったという事でうっかり昼過ぎに起きてしまった彼は寝ぼけ眼を擦りながら寝床である風呂場から出て、同居人がいるであろうリビングにユラユラと体を動かしながら入って行った。

「お~い、インデックス、今何時だ~」

大きな欠伸を掻きながら上条はリビングにやってくるが、返事は何故か返って来ない。
まだ寝ぼけてる状態の彼は後頭部をポリポリと掻き毟りながら半目で部屋を見渡す。

そこには同居人はおろか、その同居人の飼い猫も見当たらなかった。

一人ポツンと取り残されていた事に気付いた上条は不思議そうな顔で首を傾げる。

「スフィンクスと一緒にどっか遊びに行ったのか? いや待てよ……」

ようやく意識が定まって来た上条は怪訝な表情を浮かべて眉をひそめた。

「あの大食らいのシスターが朝飯どころか昼飯も食わずに遊びに行くなんて青髪に彼女が出来るぐらいありえない……」

同居人の性格、行動パターンを熟知していた上条は彼女がいない事に段々と疑問と不安を感じていく。もしや自分が寝ている隙に彼女と飼い猫になにか遭ったのでは……。

「一応アイツに渡してる携帯に電話してみるか……」

彼はなにかと同居人に関しては過保護な面がある。いつもいる筈の彼女がいないとなるとその面は大きく表に出るのだ。
食卓用に使っているテーブルの上の携帯を手に取って上条はすぐに彼女に渡した携帯と連絡を繋ごうとする。

だがその時……

ドンドンドン!!と玄関のドアを乱暴に叩く音が彼の耳に届いた。
その音に反応して上条は同居人への連絡を中断してクルリとそちらに振り返る。

「インデックス……じゃないよな」

彼女の場合ならドアを叩かずとも普通に開けて入ってくる筈だ。
上条は「一体こんな時に誰だよ……」とブツブツ呟きながら玄関へと向かってドアの覗き穴から誰が来たのかと確認して見る。

「……は?」

覗き穴を数秒間見た後、疑問に感じながら上条は右手でドアノブを握ってゆっくりとドアを開けてその隙間から目を覗かせた。

14歳の身でありながら自分よりもずっと背が高く大人びて、偉そうにタバコを咥えた修道服姿の赤髪の男が立っている。

ステイル=マグヌス、上条とは腐れ縁で何か遭った時は度々顔を合わせている仲の一人だ。

「……遊びに来たのか?」
「なんで僕が君なんかの所に遊びに行くと思うんだ。いいからここを開けろ」
「カラオケぐらいなら別に付き合ってもいいぞ」
「……さっさと開けとないとドアごと燃やし尽くすぞ」

相変わらずふてぶてしい態度で威圧的にガンつけてくる。
だが上条は開ける様子を見せずにドアの隙間からジト目を覗かせた

「なんだよ、また俺になんかやれって奴か? 言っておくけど上条さんはコレ以上学校休んじまうと進級出来ない事態に陥るんですが?」
「……“今回”は別にどこかに行けという用事じゃない」
「今回はねぇ……けどやっぱり面倒事なんだろ?」
「……そうだな、とてもとても厄介で面倒な事だ」
「ハァ~……」

結局またなにかやらされるのか……。
せっかくの休日を台無しにされた上条は顔をしかめてため息を突いた。

「わかったよ、まず俺は何をすればいいんだ」
「そうだな、まず君が今やるべき事は、“この御方”を部屋に招き入れる事じゃないかな」
「この御方?」
「ここを開けろと何度言えばわかるんだ、今ここに立っているのは君と僕だけじゃない」

イライラしながらステイルはタバコの煙を吐き散らす。
どうやら彼以外にも客人が来ているらしい。
上条はようやくゆっくりとドアを開けてみると……

















「ハロー、幻想殺し。公に顔を合わせるのは初めてかしらん?」
「……」

ドアを開いてみるとステイルの隣に一人の女性が立っていた。
こちらに頬笑みを浮かべて意気揚々と挨拶してきた彼女に上条は一瞬思考が停止する。
ベージュ色の修道服に身を包んだ18歳ぐらいの女性。
光り輝く様な白い肌、透き通った青い瞳、宝石店にでも売り出せそうな黄金に輝く髪。
上条はドアを開けて硬直したまま目をぱちくりさせた。

「……なんかどっかで見たような気がする顔なのは気のせいか……?」
「おお~それは日本で使われる「ナンパの手口」という奴ね」
「はい?」
「フフ、甘いぞ幻想殺し、わたくしはちゃんと日本文化を予習したりけり、高き地位につく者として常識にはべり」
「えらいマイナーな日本知識をお持ちですね、てかなんですかその日本語……」

ムフンと自慢げに胸を張る女性に唖然としながらも上条は彼女を指さしてステイルの方へ顔を向ける。

「おいステイル……」
「……前にイギリスで第二王女のクーデターが遭った時に直接的ではないが顔を合わせる機会があっただろ?」
「会った様な気がするような……」

さほど昔ではない事を思い出して上条は彼女の事を思い出そうとするが、その前にステイルが説明して上げた。

「この御方がイギリス清教第零聖堂区『必要悪の教会≪ネセサリウス≫』最大主教≪アークビショップ≫だ」
「へ?」
「つまり……僕や神裂、あの子が所属しているイギリス清教のトップだよ」
「へ~……はぁ!?」

彼の説明を聞いてすっとんきょんな声を上げる上条。
驚く彼を尻目に彼の目の前に立っているそのイギリス清教のトップはニコッと笑いかけた。

「ローラ=スチュアートよ、以後よしなに」
「アンタが……」
「それでは失礼しましてよ」
「へ? うわぁ! 靴脱いでから部屋上がれ!」

軽い挨拶を終えると彼女はお供役のステイルを後ろに連れて上条の自宅へと入って来た。
しかし日頃から英国での生活に順応しているせいか、彼女は修道服の端を両手で掴んだままお構いなしに土足で入ってこようとする。
慌てて上条は彼女の両肩を掴んで我が家への侵入を阻止した。

「靴を脱げ靴を!」
「? わたくしは英国の地にして生まれ育った身、そのような習慣に従う筈がなかろう」
「イギリス生まれだろうが火星生まれだろうがこの国に来たならこの国の文化に従え!」
「……」

上条に両肩を掴まれたままローラは目を細めて不機嫌そうな顔を浮かべる。

「ほう……このわたくしに命令するというの?」
「は?」
「悲しき事、全く持って礼儀知らず、今後は色々と教えてあげなければいけない事がたくさんあるわね」
「いや礼儀知らずはお前じゃん……」
「む?」

初対面ながら上から目線で喋り始めるローラに上条は顔を逸らしてボソッと反論。
地獄耳なのか、彼女はその言葉を耳に入れてムスッとした表情になった。

「なんぞや? もう一度言ってみるのよ。今わたくしの事を「お前」と」
「最大主教」
「なにかしらステイル」
「上条当麻との口論は後にして、まずは部屋に上がったらどうですか?」
「……それもそうね」

背後から彼女が部屋に上がるのを待っていたステイルがだるそうにそう言うと、ローラはまだ納得いかない様子を見せながらも彼の言葉に従った。

「ならば今回はそなたの言う日本文化の習慣に従ってやるまでよ、ありがたき思いなし」
「いやなんで上から目線?」

文句を垂れながら渋々高そうな靴を脱いで部屋に上がって来たローラを上条がジト目で見つめていると、部屋に上がって来て早々彼女はズカズカと部屋の中へと進んでいく。
勝手にリビングへの方へ行ってしまった彼女を放っておいて上条は同じく玄関から上がって来たステイルの方に振り向いた。

ふと見ると旅行時に使うような重そうなトランクを二つも玄関に置いている。

「なんだそれ?」
「……直にわかる筈さ、今は気にしなくていい」
「?」

意味深なセリフを吐きながらステイルは二つのトランクを玄関に置いたまま靴を脱いで部屋に上がってきた。

「僕は一体何をやっているんだ……」
「なあ……なんなんだあの人?」
「言っただろ、あの子に“枷”を付けた張本人であり様々な謀略を行って「必要悪の教会」をイギリス清教の頭脳部にしたて上げた女狐だ」

新しいタバコに火を付けて口に咥えるとステイルは彼を見下ろす視線で話を続ける。

「だから彼女に対して口の利き方に注意しろよ上条当麻。彼女は僕等の組織のトップだ、少しでも粗相を犯したら自分の首が飛ぶと思って接しろ」
「……なあステイル」
「ん?」

機嫌を損なわせたら死ぬと思え、そう忠告するステイルだが、上条は怪訝な表情で彼を見つめる。
上条が今現在迷惑に思っているのは、彼が口に咥えてプカプカと煙を放つタバコ。

「部屋にタバコの匂いが染みつくからそれ吸うの止めろ」
「悪いが僕が何処で吸おうが自由だ」

キリッと振り返って全く聞く耳持たないステイル。このニコチン中毒は自分がタバコを吸えれば周りの人間の都合など知ったこっちゃないのだ。
だが上条は彼の事はそれも十分把握していた。そこで彼に対してとっておきの切り札を出す。

「ここにはインデックスも住んでんだけどなぁ」
「……」
「困ったな、お前がこんな所でスパスパ吸って匂残していったら、アイツはさぞかし迷惑すると思うんだけど」
「く……ベランダなら吸ってもいいだろ」
「窓はちゃんと閉めろよな。煙を部屋に入れるんじゃねぇぞ」

苦々しい表情でステイルはタバコを咥えたまま奥のベランダへそそくさと向かう。
この家で共に住んでいる同居人の名前を出せばあの男を操るのもたやすい。

「チョロい、チョロすぎるぞステイル」

意地悪く微笑を浮かべると上条はキョロキョロと周りを眺めているローラのいるリビングへと入っていった。

「ところでこのまっこと狭き部屋、気になってたのだけどここは物置かなのかかしら?」
「物置? いやここは俺の家だよ、知らなかったのか?」

辺りを見渡しながらいきなり失礼な事を口走るローラに後ろから説明して上げる上条。
それを聞いてローラは「なんと!」と叫んで彼の方に振り返って目を見開く。

ここが家だと……? 改めて見渡すと確かに生活用品の家具や家電があちらこちらに置かれているではないか。

「冗談でしょ!? こんな狭き場所がそなたの家だと言うの!? こんな馬小屋と変わらない場所で!?」
「失敬な、ここは上条さんの立派な城ですよ」
「うむむ……まさかこんな小さき馬小屋が家だったとは……。せめて庭付き一戸建ては欲しかったわ……」
「……なにブツブツ言ってるんだコイツ……? 他人の家なんてどうでもいいだろ」

苦虫を噛みしめたような表情で文句を言っているローラを傍から観察しながら、上条はテーブルの前にあぐらを掻いて座った。

「ていうかさ、イギリス清教のトップがこんな所に来ていて大丈夫か?」
「それには心配及ばなきけり、今のイギリス清教本部にはわたくしの代役として“オルソラ”を配備しいているのよ」
「いやそれはダメだろどうみても」

あの万年お花畑の天然お姉様に本部の指揮を任せるとはなに考えているんだ?
呆れる上条を尻目にローラはテーブルを囲んで彼の向かいへと座った。

「さて、まずはなにから話せば良いのかしら?」
「トップのアンタ自らがこっちに来たんだから結構重要な用事なんだろ」
「ええ、この用事はわたくし自身が動かないと成立せん事であるのよ。フフフ」
「……」

急に友好的な笑顔を浮かべて来た彼女に上条はテーブルに肘を突いたまま警戒する視線で返す。
こんな見た目とはいえ、ステイルの言う通り数々の謀略を行ってきたしたたかな女狐だ。
いくら人の良い上条とはいえそう簡単に信用出来る筈がない。

(コイツがインデックスをねぇ……)
「あら? そんな恐い顔してどうかしたかしら?」
「別に、ただ俺はアンタの事を好きになれないと思っただけだ」
「……そう、それはまこと残念な事、出来れば友好的な間柄でありたかったのだけれど」
「インデックスを道具扱いしてよく言えるなホント」

変わらず頬笑みを浮かべながらこちらを見つめて来るローラ。
この女狐が一体何を企んでいるのか上条にはさっぱりだった。
だからこそ常に警戒しておかなければならない、細心の注意を払って彼女の動きを見る必要があるのだ。
でなければいつの間にか彼女の手の上で踊らされるハメになるやもしれない。

二人がしばらく無言で見つめ合っていると、程なくしてタバコを吸い終えたステイルがベランダの窓を開けて戻ってきた。

「喫煙者が住み辛い世の中になったものだ……」
「……吸い殻はどこに捨てたんだ? ベランダから捨てたんじゃねぇだろうな?」
「携帯灰皿を持参してるから問題ない」

疑いの視線を向けて来た上条に不機嫌そうにそう言うと、ステイルは上条側とローラ側の間の席に腰掛ける。

「……コイツにあの話はもう言ったんですか、最大主教?」
「今から始める所よ。さあ幻想殺し」

ステイルの尋ねにローラは嬉しそうに返事すると、修道服の裾からスッと一枚の羊皮紙を人差し指と中指で挟んで取り出して上条にピッと差し出した。

「まず初めに、これにそなたの名を書いて欲しいのよ」
「は? なんだよそれ?」

わけがわからずとも上条はとりあえずそれを彼女から受け取った。
見てみるとそこにはズラリと英語で書かれた文字が記されている。
だがテストで常に赤点を取っている彼にはそこに何が書かれているのかさっぱり分からない。

「……読めねぇんだけど、なんて書いてあるんだコレ?」
「書かれてる内容は気にしなくて結構なのだわ。ただ“名前を書けばよいのよ”」
「……」

羊皮紙を両手に掴んだまま顔を上げてきた上条に対しローラは急かす様に早く書けと促す。
どうみてもおかしい……
ニコニコ笑っている彼女を見て上条は眉間にしわを寄せた。

「なんかすげぇ怪しいんだけど……」
「フフフ、書かなければ後悔する事になるのよ」
「……なに?」

表情を変わらぬままそんな事を言うローラに上条は怪訝な表情を浮かべると、彼女は目を開いて突然ある事を彼に尋ねる。

「ところで禁書目録はどこ行ったのかしらねぇ?」
「!」
「心配と思わなんし?」
「まさか……!」

妙に甘ったるい口調でそんな事を聞いて来たローラを見て上条は表情をハッとさせた。
もしや彼女がここにいないのはこの女が関係して……。

「お前もしかしてインデックスを……!」
「またお前とな……急かす用で悪いがさっさと名を書いて欲しいのだわ。いかにわたくしと言えどもそこまで気は長くないのよ?」
「く……!」

上条にお前呼ばわりされる事にイラっとしながらローラはテーブルに頬杖を突く、その姿はまさにこちらにもう選択肢が無い事を把握している余裕の構えだ。
上条はチラリとステイルの方へ目を向ける。

「ステイル……」
「……名前を書くだけでいいんだ、そうすれば全てが救われる……」
「……」

こちらに顔を逸らしたままボソッと呟いた。素っ気ない様子だが彼もまた一刻も早くまたこの状況を打破したいのだろう。
上条は無言で英語で書かれた羊皮紙を見つめる、下の部分にある空白欄、ここに名前を書けばいいのか?

「わかった、名前ぐらい書いてやる」

彼の決断は早かった。こうなってしまってはもうここに書かれている事がどんな内容であれ従うしかない。
手のひらで踊らされるぬよう警戒していたが、既に彼は彼女の手中だったのだ。
上条はなにか書くものが無いかと辺りを見渡すと、向かいに座っているローラがすっと高そうな万年筆を差し出す。

「理解の早い殿方は嫌いじゃないのよ?」
「……」

笑いかけてくるローラの手から無言で乱暴に万年筆を取り上げて、上条は羊皮紙の名前欄に手早く自分の名前を書く、もちろん英語でだ。

「ほら書いてやったぞ、これで文句はねぇよな」

上条が名前を書いたと羊皮紙をローラに見せつけると、彼女はスッと彼の手からそれを受け取る。

「Kamijo-Touma……ステイル、この者の名はこれで合うているの?」
「バッチリです」
「フフフフフ……これで遂に……」
「おい、これでもうインデックスは返してくれるんだろうな」

今までと違いいかにも謀略家と言った企み笑いを浮かべるローラに上条は険しい目つきで尋ねる。

するとローラは急に表情をケロッとさせて上条の方へ顔を上げた。

「ええ、アレなら今頃神裂と一緒に昼食を食べてる頃だから、直に戻ってくるんじゃなくて?」
「……へ?」
「でしょうステイル?」
「ええ、神裂が朝から彼女を連れて外で時間を潰してる筈です。二人がここにいては面倒な事態になりますからね……」

あっさりとそう言った会話をする彼女とステイルに、上条はしばし思考が停止する。
まさか……。

「……さっきお前、インデックスがどうのとか言ってたよな……」
「ん~言ったかしら? 思い出さねなし。そなたの聞き間違いじゃないかしら?」
「おい!」 
「名前はちゃんと書かれているわね、これでわたくしの計画も次に進めるのだわ」

とぼけた様子で首をかしげてみせるローラに上条は予想が確信に変わった。

「……もしかして上条さんは騙されたのですか?」
「騙すとは人聞きの悪い、別にわたくしは「禁書目録を拉致した」、「誘拐した」など一言も言うてないわよ? ただ「どこ行ったのかしらね~」とぬしに尋ねただけなのだわ」
「やられた……」

上条の名前が書かれた羊皮紙を持って上機嫌の様子でおられるローラとは対照的に、ガックリと肩を落としてテーブルにつっ伏す上条。
初対面から警戒しておいたのにこうも上手く騙されるとは……。

「ステイル、お前知ってただろ……」
「……じゃあ僕はまたタバコ吸ってくる」
「おい待てニコチン野郎!」

話を誤魔化すかのようにすっと立ち上がって逃げる様にベランダの方へ行ってしまったステイル。
残された上条は恨みがましい目つきで彼の背中を睨む。

「あの野郎~……!」
「幻想殺し、そなたは先程この羊皮紙に名前を書いたわね?」
「それがどうしたんだよ! アンタは用が済んだんならさっさと帰れ!」
「あら?」

ヒラヒラと羊皮紙を見せてくるローラに上条は噛みつくように叫ぶ。
こうも上手く騙されてしまってはもうやけくそに怒るしかないだろう。
だがローラはそんな彼の反応に顔をしかめ。

「“妻”に対してその口の利き方はどうかしら?」
「あのなぁ! 最大主教だろうが妻だろうが俺には関係……え?」

怒鳴ってやろうかと思った矢先、上条は彼女に向かってきょとんとした表情を浮かべる。
今彼女は自分の事を……。

「……妻?」
「わたくしの“夫”であるならばもっと紳士的に生きて欲しきかしら」
「夫!? なに言ってんだお前!?」

言っている事がさっぱり理解できなかった。
ため息を突くローラに上条は混乱した様子で身を乗り上げる。
だが彼女はそんな彼に対して羊皮紙を持ったまま微笑を浮かべた。

「幻想殺し、ここに何が書かれていると思う?」
「……読めないって言っただろ」
「これは“誓約書”なのよ」
「……誓約書?」

「?」とわけがわからず首を傾げる上条に。
ローラは「ええ」と言ってニコッと笑いかけた。














「「私はイギリス清教・最大主教、ローラ=スチュアートと夫婦となり、妻の願いならなんでも叶え、どんな事でもし。妻の為なら馬車馬のようにイギリス清教の下で働いて、死ぬまで彼女を裏切らない夫として生きる事を誓います」と書いてあるのよん♪」





















上条当麻の思考が真っ白になった。
虫も殺せぬような笑顔で何を言っているのだこの女は……。

「……ホワイ?」
「そなたをイギリス清教の傘下に入れるだけならば簡単なのだわ、禁書目録さえこちらにあれば、後はアレを餌にしてそなたをこちら側に引きずり込めばいい」

完全に頭がショートしている上条にローラは淡々とした口調で話を続ける。

「けどそれだけでは駄目、わたくしとしては“体”だけではなく“心”もこちら側に染めなければ意味がない。それに禁書目録がいつまでもわたくし達の手元にある保障は無いのよ、アレはいつ壊れてもおかしくない物だから」
「……」
「だから全知全能であるわたくしはとっておきのアイディアを閃いたのよ」

そう言ってローラはフッと上条に笑いかけた。

「夫婦になりえればいい、っと」
「……いやなんでそうなる……」
「他人同士ではなく妻と夫の関係になるのならば、その関係は何よりも大切な絆になると本で読んだわ」
「本で覚えた知識ですか……?」
「幻想殺しは絶対にわたくし達イギリス清教の物にしなければならない、だからわたくしはこの一点の穢れも無き美しい体を保っていたこの身を挺して、そなたが決してわたくし達、否、わたくしから離れないようにこの様な誓約書を書かせたわけ」

片手で持ったままその誓約書を見せびらかしてくるローラ。
上条はジト目でその誓約書を右手を伸ばして奪おうとするが彼女はサッと後ろにのけ反ってそれを避ける。

「ここにそなたの名前が書かれている、つまりこれで晴れてわたくしとそなたは夫婦となったのよ、喜びなんし幻想殺し。こんなピチピチでセクシーな美人妻をめとれるなどそなたには一生縁のない事であったのよ?」
「……そんな紙キレ一枚に書いた所で結婚出来る訳ないだろ……。俺はまだ結婚出来る年じゃないし」
「そう、この紙には別に魔術の一つもかけられてないただの紙キレ。けれどその紙キレに書かれている事は紛れもない真実」

誓約書をどうやって奪おうかと考えながら上条が追求すると、誓約書をしっかりと握りながらローラは余裕の笑みを浮かべた。

「そしてわたくしは不可能を強引に捻じ曲げて可能にする力と権力を持っているのよ」
「おい待て、お前まさか本気で俺の奥さんになる気なのか……?」
「わたくしの目的は幻想殺しを科学サイドから離し、魔術サイド側に引き入れる事、そして……」

まだ信じ切れてずに戸惑っている様子の彼に、ローラはフフンと笑いかける。

「一度結婚生活というのを堪能してみたかったのよ」
「……はい?」
「フフフフ、今からが楽しみよのう幻想殺し……。これからはわたくしの夫として恥じぬ生き方をするよう心がけるのよ、そうね、まずは最初に妻の為に昼食を作りけり、あと長旅で疲れているから体のマッサージを所望するわ」
「……」

嬉しそうに早速命令してくるローラを前にして、上条は頭を手で押さえてため息を突く

(俺がコイツと夫婦に……?)

手の下からチラリとローラを見るとすぐに顔を逸らして

「不幸だ……」
「な! 不幸とはどういう事なのかしら!?」

これから起こる未来を想像した瞬間、思わずいつもの口癖が出てしまう上条であった。

底が見えないほどお人好しの高校生と全知全能なる最大主教

二人が交差する時、波乱の物語が幕を開ける。








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