佐々木閑先生の「犀の角たち」を読み返す、その2、脳科学は科学に突破口を開くか

(「犀の角たち」の表紙。)

 今日は脳科学についてです。

 「科学の人間化が、視点を神のレベルから我々人間に固有のレベルにまで下げるものなら、その人間固有の視点というものを具体的に形成する中心器官が脳である以上、その脳が注目されるのは当然である。直覚も、そしてそれと相矛盾する論理思考も、どちらも脳が形成する世界である。その直覚と論理思考の両者を土台として科学が生まれ、そして発展してきたのならば、脳の解明こそは科学の解明であり、そこが新たな科学理論の出発点ともなるはずである。」(158ページ)

 「外界からの情報は確実な実在であり、それをもとに、脳が人間独自の解釈法で作り上げるのが科学理論なのである。」(158ページ)

 「脳作用の解明により、科学全体が大きく変容していく時代が到来しているのである。」(163ページ)

 佐々木先生はこの点について具体的な論証をしていないので、私にはよく理解できません。私はちょっと違った考えを持っています。

 人間が、人間とは似ても似つかない高度文明を持った宇宙人と遭遇したとします。どのように会話の糸口をつけたらいいのでしょうか。これはSFでよく書かれていることですし、学術書でも議論になっています。

・数、1,2,3・・・から始める。
・1+1=2などの数論公理の説明。
・高等数学を紹介する。
・物理学、特に宇宙であまねく観測できる重力や光のスペクトルなどの紹介からはじめる。
・酸素や炭素などの化学。
・進化に基づいた生物の紹介。

 私は、このような順序を通して、つまり科学という道具立てを使って、人間が宇宙人と交信できると確信します。

 何億光年も離れた銀河から届く光を分析すると、いろいろな元素から発する光のスペクトルを観測できます。このスペクトルは、地上で観測できるものに赤方偏移を加味したもので説明できます。

 つまり、宇宙全体で同じ法則が作用していることがわかっているのです。宇宙人はわれわれと同じ法則を観測しているわけで、だから、高等文明を持つ生物がこの宇宙に住んでいるなら、科学を使って必ず交信できるはずです。

 確かに科学は、人間の脳によってなされた自然界の抽象化にほかなりません。しかし、得られた科学は、決して人間固有な特殊化されたものではなく普遍的なもので、人間ではない他の星に住む生物にとっても理解可能な論理なのです。

 こんなことはありえないでしょうが、多数の宇宙(Multiverse)が存在して、人間が別の宇宙の生物と交信できるとします。このとき、上の交信方法が使えるかどうか自信がありません。他の宇宙というのは、その宇宙内の法則を支配する基本定数(光速、重力定数、プランク定数、電気力の強さ=微細構造定数など)が、われわれの宇宙とはまったく違う値を持っている世界です。

 まず、元素や原子、だから分子もまったく違った構造をしているでしょう。もちろん、その宇宙で観察できる現象は、われわれが見る世界とはまったく違っているでしょう。周囲の観測事実がまったく違うので、伝えられたことを自分の世界に当てはめようとしても、それが出来ないのです。また、宇宙を理解するための言語である数学もまったく理解不能な構造をしているでしょう。向こうの生き物は、われわれが送った信号をノイズとしか感じないかもしれません。

by FewMoreMonths | 2008-02-13 09:14 | 人生


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