57カ国、15歳の生徒さんが40万人参加した調査結果を、報告書PISA2006を斜め読みしつつ、何回かに分けてご報告します。 第3回目に理科の総合調査結果を示しました。理科については、かなり詳細に分け入った分析がなされています。今日は、理科を7項目に分けて、それぞれの項目に対する各国別の平均得点と、それら全体を考えた総合得点を示します。 理科の7項目は上の図に説明してあります。ご覧ください。ちょっとわかりにくいのは、2番目の「Explaining phenomena scientifically」と3番目の「Using scientific evidence」との違いです。報告を斜め読みした限りでは、前者は、定性的に物事を科学的に評価できるか、後者はもっと進んで、数字を使って定量的に物事を説明できるか、というくらいの違いかな、と思います。 元科学者の立場から言うと、1番目の「Identify scientific issues、問題点を科学的に指摘できるか」が最も重要な点でしょう。次に2番目の「現象を科学で理解できるか」、数字を使わなくても、論理的だが直感も使って物事を理解できれば、それはすばらしいことです。 4,5,6,7番目は、理科の分野ごとの理解度を見ようとするものです。 それでは上の図を見てください。成熟した工業大国のアメリカ、イギリス、ドイツ、フランス、イタリア、日本、ロシアの7カ国を比較したものです。縦軸は、各項目の国別平均得点を、横軸は、一番左が総合理科を、それから7つの項目を表しています。各国は色分けされた折れ線で表されています。(ちなみに、前回示した57か国中の順位は、上の各国でそれぞれ、29,14,13,25,36,6,35位でした。これは落ちこぼれの少ない順をあらわしています。) 日本の成績は、すべての項目にわたって7カ国中最高得点です。特徴を挙げるとすれば、「Using scientific evidence」の項目が他の項目と比べて比較的高いことです。 図の下枠にPISA2006のコメントを載せました。 「日本の当局者によると、『Using scientific evidence』の得点が高いのは、カリキュラムの中で観察や実験を重視しているため、とのことである。第1,2項目で日本の得点が伸び悩んでいるのは、生徒の自主的な科学活動が少ないためと思われる。」 日本の理科の授業で観察や実験が充実しているとは思えません。中学2年の教科書を見ると、理科を数学の応用問題と捉えて、生徒に計算をさせていることが目に付きます。数学の教科書を見ても同じ傾向があり、理科があたかも数学の計算問題と誤解している感があります。このため、理科の本質である「自然を素直に見る(有馬先生の言葉)」がおろそかになっているためではないか、と考えています。 NISA2006の指摘「生徒の自主的な科学活動が少ない」は、まさに日本の弱点をついたコメントで、今後紹介する分析結果でもその点が明瞭になります。 ついでに悪口を言います。某新聞は熱心に地球温暖化の記事を載せています。これはこれで大変結構なことです。しかし、記事の内容がムード的・政治的で、日本の生徒の弱点である第1項目「Identify scientific issues」が、記者の弱点でもあることが明瞭に読み取れます。 地球温暖化防止のために、いくら日本の上空をきれいにしても、空気は動くので、すぐに中国の汚い空気が入ってきます。温暖化ガスの削減という問題は、全世界的に考えなければならない、ということです。この点を踏まえた上で、次に重要な点は何かというと、最大の温暖化ガス排出源である石炭燃焼を減らすか、減らすことができないのなら排出される炭酸ガスを空気中に出さない技術を開発しなければならない、という点です。 大人の記者がこのあたりの問題点を的確に(科学的に)捕らえる能力がないのは、まさに日本の教育の弱点を示しているのです。 横道にそれました。環境問題はいずれ議論しますので、当分はPISA2006に集中します。 by FewMoreMonths | 2008-01-21 10:27 | 教育
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