オキザリスは、光の影響によって、筒状のつぼみを巻いたり巻き戻したりして、花をとじたり開いたりしていました。 植物も結構このような運動をしています。マメ科のネムノキは有名ですね。夜は葉を閉じて眠りに入り、朝になるとおきて葉を開きます。この運動を「就眠運動」といいます。下に図鑑からとってきた写真を紹介しましょう。引用先は図の中に書いてあります(クリックすると大きくなります)。ネムノキの花は大変きれいですが、写真を見ると、花は就眠運動をしませんね。 昔奥飛騨で生活していたとき、ネムノキは至る所にあって、花の美しさに見とれていたものですが、就眠運動の観察はしませんでしたし、ネムノキはあまりにポピュラーなので写真も撮りませんでした。 ちょっと解像度が悪いのですが、起きている葉と寝ている葉の違いがわかると思います。 就眠運動を細胞中の化学物質に目をつけて大変面白い研究しているのが、東北大学の上田実教授です。彼のHPから1枚イラストを失敬してきました(クリックすると大きくなります)。 (イラストは、http://www.org1.sakura.ne.jp/research/theme.htmlより転載。) このイラストではメドハギという草の研究結果が紹介されていますが、就眠物質と覚醒物質の分子が違うだけで、ネムノキでもメカニズムは同じようです。 生物に備わっている生物時計が、ある時間が来ると酵素を作り出します。その酵素が覚醒物質の元にくっついてその分子を活性化し覚醒物質になります。覚醒物質が運動をつかさどる細胞に働いて、葉を起こすわけです。植物の細胞は細胞膜という頑丈な構造物で囲まれているので、細胞内部の圧力を調整することでジャッキのように葉を動かします。動物の細胞はヤワですからジャッキのようにはいかず、筋肉を発達させました。 私はまだ完全に理解していない点が何点かあります。 ①イラスト中に「活性酵素は夕方にのみ観測」とあるが、葉が起きるのは朝だから、夕方に酵素が働くのはちょっと変だな。 ②イラストの右上に「昼間は覚醒物質が活性化され、夜は覚醒物質から酵素が離れる」という意味の矢印があるが、酵素が覚醒物質からどのようにして離れるのかの説明がない。 ③酵素はすべての細胞で発現するのか、それとも運動細胞のみで発現するのか。もし、運動細胞のみで発現するのなら、その特異性を支配しているメカニズムは何か(開花に作用するフロリゲンと同様か)。 ④覚醒・就眠物質はマメ科植物の種類(属)によって違うという。これらの植物は、進化によって分化してきたのであるから、就眠運動のメカニズムも、多分、まず祖先の植物がそのメカニズムを獲得し、分化の過程で種々の植物に広がったと思われる。このことを考えると、マメ科の種々の植物は類似の覚醒・就眠物質を持っていることが期待される。覚醒・就眠物質の違いは進化による分化と整合性が取れているのだろうか。 もちろん、上田教授はそれらの点もすでに解明されていると思います。 植物学者は、上田教授の研究をまだ評価していないようです。化学の手法と生物学の手法が大きく違うので、お互いのカルチャーギャップがまだ広くあって、相互に理解することが難しいようです。このような学際的な研究には、もっと化学と生物学の連携をしっかりとってほしいと思います。蛸壺の研究ではいけません。このような連携不足は今後大いに問題になると思いますので、研究者は心してかからないといけませんし、ファンディングの立場からある程度の指導が必要かもしれません。(ちょっと説教臭くなりました。) 就眠運動の話が長くなりました。オキザリスの開花は、ネムノキの就眠運動と同じメカニズムが働いていると思って調べたのです。 ネムノキは生物時計を使っていますから、日がささない悪い天気でも、葉はちゃんと起きるはずです。オキザリスは日の光が直接当たらないと開花しません。生物時計でなく、光感受性が関係しているはずです。時間と光という大きな違いがここにあります。 ところで、ネムノキで生物時計が本当に働いている証拠はあるのかな? もう一言。植物の運動を系統的、網羅的に調べた研究はまだないようです。物理学者は、何かわからない現象があると、同じ現象が世の中にあるかどうかを網羅的に調べて、その中に規則性があるかどうかの検討をまず行います。ここにも学問内での手法の違いが垣間見えます。 by FewMoreMonths | 2008-01-06 09:35 | 我が家の庭に咲く花
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