今年も終わりに近づきました。今日の記事を最後にして、12月29日から1月3日までブログは官庁並みに休止にしたいと思います。
過去を振り返るとき、まず自分のことを振り返ります。2007年は、健康状態を考えると、人生最悪の年でした。抗がん剤の日常的な副作用と、同じく抗がん剤の重篤な副作用が関係した3回の入院と、さんざんでした。しかし、2007年の年の初めには、1年を乗り越えられない確率が高いと予想していましたから、その予想に反して年を越せたのは望外の喜びでした。 最悪というのはあくまで相対的なものです。60有年の中で今年が一番悪かったというだけです。年を越せたという事業をやり遂げたと考えれば、人生で最もやりがいのある年だったかもしれません。 実験物理科学分野の研究者というのは、若いときにはペシミストでもやっていけます。しかし、グループを率いるリーダーになると、あらゆる場面でオプティミストの面を表面に出さなければなりません。この癖が身についてしまい、かなり悲惨な状況でもよい面を敢えて見ようとしていると思います。 しかし、身内、特に妻には無意識のうちにしょっちゅう愚痴をこぼしていたらしく、彼女はだいぶ長い間軽い胃潰瘍に悩まされていました。身内のために、意識的にオプティミストである努力をしなかったと反省しています。来年は態度を改めなければ。 いずれにせよ、主治医の先生の的確な治療、身内、友人の励ましに感謝しているところです。 世相に関しては、政治がメディア報道に振り回されることが多い年だったかな、と感じます。メディアというのは、極論すれば、スキャンダル、責任追及、国民の不安をあおる誇大な事故報道によって、購読数を増やしています。したがって、たとえば新聞紙面を見ると、スキャンダルとその責任追及に明け暮れ、問題をいかに迅速に解決すべきか、という報道は皆無でした。具体的な例を挙げる必要はないと思います。 また、その報道の性癖をうまく利用して、自分たちの主張を通すため、裁判所の言うことより、メディアを利用して政治家を恫喝する例も見受けました。そこで名を売った皆さんは、メディアの後押しのもと、きっと2008年の衆議院選挙に立候補することでしょう。 もちろん、メディアに助けていただくことは大変有用で重要なことです。「がん対策基本法」の成立などは成功例と考えることができるでしょう。患者さんが自分の苦境を超え、患者全体のために行動したのには、本当に頭が下がりました。彼らの多くはすでに他界しています。 わが国の経済は今年もぱっとしませんでした。アメリカ・アカデミーの報告などを見ても、アメリカの危機感は中国・インドなどの新興国の脅威に対抗することにあり、そのための経済、教育・科学・技術戦略をいかに打ち立てるかに勢力を注いでいます。そこには日本という文字はほとんどまったく出てきません。確か「Japan is irrelevant.」(日本なんて眼中にない)と、アメリカの某氏が発言したことを記憶しています。この風潮がますます顕著になった年でもあります。 唐突ですが、アメリカのアカデミ-と比べたとき、日本の学術会議は何をやっているんですかね? 最後ですが、いよいよ気候変動が顕著に見え始めた年でもありました。南方に暮らす蝶やセミの北上、果物の収穫異常など、多くの話題がありました。バングラデシュなど低地での大規模な洪水、アフリカでの異常気象などがあり、途上国の人々は悲惨な状況に置かれました。2年前のハリケーン・カトリーナは気候変動のさきがけだったのでしょう。 気候変動の研究、気候変動の軽減措置(mitigation)、気候変動が起きるとしての適応措置(adaptation)など、行うべきことは山ほどあります。しかし、日本の大学の先生たちに危機感がないのは、私は特に残念に思います。今週のNewsweekにも、適応措置の重要性を指摘し、その研究を早急に始めるべき、との記事がありましたが、まったくそのとおりです。 メディアの報道は、政府間条約のことばかり熱心で、アメリカ・日本・カナダの悪口を言っています。問題は、条約の空文ではなく、問題を的確に把握して、その対策を実行に移しているかどうかなのです。この面で言うと、アメリカは、日本とは比較にならないほどの経費をかけて気候変動対策(実際はエネルギー安全保障対策)を推進しています。今年は、アメリカにおけるバイオエタノールの急激な生産増加によって、はるか離れた日本で食糧の値上がりを経験しました。また、風力・太陽・原子力発電にかけるアメリカの政府開発投資は大変な額に上っています。 アメリカに比較して、日本は対策の実行に大きく遅れをとっていることを忘れてはいけません。 思い出してみると、同じ報道の偏向は、アメリカの狂牛病(牛海綿状脳症)騒ぎのときもありました。メディアのヒステリックな報道の効果もあってか、アメリカ牛の輸入が直ちに禁止になりました。牛1000頭あたりで数えたとき、狂牛病にかかった牛の数は、日本のほうがアメリカよりずっと多いことをご存知ですか。人間が狂牛病に感染すると、変異型クロイツフェルト・ヤコブ病(vCJD)を発症することがあります。狂牛病はどうでもよく、われわれにとって、このvCJDが怖いのです。国民1人あたりのvCJD患者の数を比べると、日本のほうがアメリカより多い、という事実をご存知でしょうか。日本の牛のほうが、実は高い危険度を持っていたのです。 気候変動に関して、他国を非難する前に、ぜひ自国の状況を率直に把握しておきたいものです。 というわけで、今年はあまりよい年ではなかったような気がします。しかし、人間、オプティミストでなければなりません。よい兆候を見つけそれを積極的に伸ばす2008年であれ、と期待しています。 私の新年の目標は、2007年の経験を元に、2009年の新年を何とかして経験するぞ、です。 by FewMoreMonths | 2007-12-28 10:44 | その他
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