11月から、ヒトの皮膚からあらゆる人体組織に分化する可能性のある万能細胞(iPS細胞、induced pluripotent stem cell)が作られた、というニュースが大きく報道されました。私は科学者といっても専門違いですが、山中教授のご活躍を大変うれしく思います。山中教授は45歳とまだまだ若いので、今後の発展が楽しみです。
iPS細胞関係は、山中研究室のHPやウィキペディアの記事が参考になります。 メディアも大変な熱の入れようでしたが、だいぶ熱が下がり、山中先生も少し落ち着かれたのではないでしょうか。彼の研究は昔からよく知られていて、昨年には、若手に贈る賞では最も権威のある「日本学術振興会賞」を受賞しています。 また、今年は、彼の研究を柱とする研究拠点「物質―細胞統合システム拠点」(中辻憲夫拠点長)が認められ、10月から発足しています。 読売新聞の2月14日付報道によると、 「同拠点は、再生医学研究などの分野で世界最高水準の研究機関を目指し、今後10年間で約250億円の資金を投入する。 iPS細胞の研究拠点は、山中教授をリーダーとし、全国の再生医学研究の第一人者が、それぞれの所属のまま利用できる共同利用施設にする。新たな施設、設備を確保し、iPS細胞を目的の細胞に変化させる技術や安全性確認検査など関連分野の研究を重点的に行い、iPS細胞研究の先行性を生かす。」 とのことです。 10年間で250億円という額にびっくりされた方も多いと思いますが、これは文科省のいつもやるトリックです。今年認めた研究拠点は、10年間で150億円を、主に若手や外国研究者への旅費・滞在費・給与・研究資金として支出することが決まっています。また京都大学はマッチングファンドとして同額以上の支援をする義務がありますので、新研究拠点はすでに総額300億円以上の経費(人件費が主で、その他一切合財を含んだもの)を持っていることになります。新規の真水として250億円を支出することでは決してありませんので、誤解しないほうがよいでしょう。 しかし、大いに意気込みが感じられることは確かです。 また、総合科学技術会議は、福田首相の指示により、「iPS細胞研究ワーキング・グループ」を立ち上げるべく、準備をしているようです。総合科学技術会議は国の科学技術政策の本締めですから、細かい議論ではなく、研究体制整備、臨床研究、知財関係の指針等の策定を早急に行うようです。 ぜひよい提言を出し、文科省や厚労省が積極的な活動をするよう期待したいと思います。 テレビのインタビューなどで、山中教授は自分のご研究を「技術」といっているのが印象的でした。専門外の私が言うので誤りがあるかもしれませんが、iPS細胞を作るに当たっては、基本的な理論があるわけではなく、試行錯誤を繰り返しつつ、技術のベストな方向を見つけ、新しい製品を作り出すという、まさに職人技的技術革新なのだろうと思います。 この技術のインパクトは何かというと、人体の組織や臓器を取り替えなければならないような重い病気の治療にのiPS細胞が応用できるという点です。もちろん、技術開発は始まったばかりで、本当に臨床応用が可能になるのはだいぶ先のことでしょう。 しかし、その可能性がある限り、その実現に向かって邁進すべきなのは言うまでもありません。そのためには、基本特許をすぐさま取るなどの知財関係の業務、産業界や国立研究所の研究施設を十分に利用して実用化を図るなど、山中教授個人の仕事量の範囲を優に超えた業務を行う必要があります。その辺の整理を行い、効率よく成果を挙げるようにするのが、総合技術会議や産業界、国研の仕事になります。その際、山中教授の研究進行を遅らせるようなことがあってはならず、彼には引き続き研究に専念させる体制作りが重要です。 応用面での技術開発を考えるとき、アメリカとの競争をどのように行うか、大変難しい問題があります。政府が支出する生命科学の研究開発経費を比較すると、アメリカは日本の10倍です。当然研究者の層も厚く、また外国からアメリカに研究に来ている研究者の数も日本とは比較になりません。 日本は、アメリカやEUとすべてのテーマで競争するのではなく、アメリカやEUがやらないテーマで重要なものをいかに見つけ出すかが、勝敗を分ける鍵になります。 紙数が足りなくなりました。次回に続きを書きます。 by FewMoreMonths | 2007-12-18 10:37 | 科学政策
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