「アメリカはフラットワールドから転げ落ちつつあるのか」をダウンロード、アメリカの危機感
 今日メールをのぞいたら、「American Institute of Physics Bulletin of Science Policy News」のニュースが入っていました。AIP(American Institute of Physics)のサイトhttp://www.aip.org/fyi/は広く科学・技術・教育に関するアメリカ政府、議会、ナショナルアカデミーその他多くの組織で行われている議論や報告をかいつまんで紹介し、また該当する事項へのリンクを張っています。

 アメリカが自国の発展のために、科学や技術それに教育全般を重要視して、現在でもぬきんでた存在をさらに推し進めて行こうとしているかがよくわかります。

 今日入ったニュースは、ナショナルアカデミーが新しい報告書を出したが、これは“must read”である、というものです。報告書は、“Rising Above the Gathering Storm Committee”委員会の議長、ノーマン・オーガスティン氏の名前を冠した、いわゆる“オーガスティン・レポート”の最新のものらしいです。報告書のタイトルが、表題にした「Is America falling off the flat earth?」、訳すと、「アメリカはフラットな地球から転げ落ちようとしているのか?」です。

 ノーマン・オーガスティンは元ロッキード・マーチン社の会長で、産業界の巨人です。今年、フランクリン協会の「ボアー・ビジネスリー・ダーシップ」賞を受賞しました。受賞理由は、ロッキード・マーチン会長としてのリーダーシップ、科学・技術に関するアメリカのリーダーシップを維持発展させるために行ってきた貢献、また研究開発、イノベーション、および理数教育の改革がアメリカ経済の競争力に持つ意義を周知させている貢献、でした。

 2005年、オーガスティン氏を議長とする委員会は、「Rising Above the Gathering Storm」(集まりくる嵐を乗り越えて)という500ページの報告書を出し、アメリカの国際競争力、特に中国やインドなどの新興国に負けないためにアメリカは何をなすべきか、を具体的に提言しました。小・中・高教育の一貫性(K-12)を維持し、移民に頼ることを少なくするため、アメリカの子供たちの理数教育を抜本的に改善する。そのために教員の質の向上を図る具体的な施策を提言しています。もうひとつの柱として、経済の柱である物理科学、特にイノベーションの源となる基礎科学の推進を行うべく、これも具体的な提言を行っています。報告書の最後に載っている詩が面白いです(英語ですが興味のある方は翻訳してください)。

Every morning in Africa a gazelle wakes up.
It knows it must outrun the fastest lion or it
will be killed.
Every morning in Africa a lion wakes up.
It knows it must outrun the slowest gazelle
or it will starve.
It doesn’t matter whether you’re a lion or a
gazelle – when the sun comes up, you’d
better be running.

わかりますか?

 ブッシュ大統領は、この報告書に大いに影響を受けて、2006年の一般教書で、「ACI, American Competitiveness Initiative、アメリカ競争力強化活動」の名の元に、教育・科学・技術予算の大幅な増額を約束し、実行に移してきました。

 議会もこの報告書に感銘を受けたらしく、ブッシュ政権の予算提案を生ぬるいと批判し、教育・科学・技術予算をさらに増やせと予算案の変更を行い、ブッシュ大統領が財源がないとして拒否権を発動する騒ぎにもなりました。

 この報告書のおかげで、アメリカの科学財団やエネルギー省の予算が新興国並みに増えていることは、このブログで何回も紹介したところです(このブログの科学政策の記事を参照願います)。

 今回の報告書はその続編です。まだ93ページの報告書はこれから読むので内容を詳しく紹介できないのですが、

現在の世界はデジタル革命によって距離が死んだ世界である、
そのため世界に産業・科学等での高低差がなくなり、フラットな地球になっている、
以下の方程式でアメリカは中国、インドなどの新興国の脅威を受けている、
     競争力方程式:労働コスト、
     競争力方程式:労働力の質
     競争力方程式:科学・技術者の投入
     競争力方程式:研究機関
     競争力方程式:エコ・イノベーション
エコシステムに関するサマリーとして詩が載っています。

So in the Libyan fable it is told
That once an eagle, stricken with a dart,
Said, when he saw the fashion of the shaft,
“With our own feathers, not by others’ hands,
Are we now smitten.”


わかりますか?

日本などもう目じゃない、という報告書の雰囲気に、とても悲しくなります。 

by FewMoreMonths | 2007-12-15 11:26 | 科学政策


<< 山中教授の研究成果「ヒトiPS... 静岡へ出かける、わが故郷の発展... >>