佐々木閑先生の「若い人よ、海外に出よ」(朝日新聞11月8日夕刊)を読む
 11月8日の朝日新聞夕刊に、佐々木先生のエッセイ「若い人よ、海外に出よ」が出ていました。楽しく読ませていただきました。昨今、若者に覇気がなくなったという意見をよく耳にしますが、佐々木先生のエッセイも若者に「喝」を入れる文章です。

 極端にいえば、現在最も元気なのは70,80歳代、その次が60歳代、あとは疲れているのか相対的に元気がないような気がします。今までしてきた苦労の程度が違うのですから仕方ないのかもしれません。

 私の恩師は、戦後第1回のフルブライト留学生として船でアメリカに渡った方です。映画を見て英語を覚え、某大学で大学院を最速で終えて博士号を取得。その後約10年間研究に没頭し、最後は大型研究の代表者として活躍しました。海軍からも研究費が出ていたということで、准将待遇で副官がついたというからすごいものです。航空母艦の甲板を使って研究をしている写真を何度も見ました。

 私には想像もできない苦労だったと思います。その間にアメリカの長所、短所を知り尽くしたはずと思い、徹底的に先生の国際研究のやり方を学び模倣したものでした。

 そして私も先生に続けとばかり、身命を賭すほどではありませんが、単身ドイツの研究所に赴き、6年半ほど研究に没頭しました。何物にも代えがたい貴重な人生経験でした。

 ちょっと横道にそれました。

 佐々木先生のエッセイを紹介しましょう。

・国の勢いがなくなったせいだろうか、世界の一流を目指して海外に飛び出す人が減ったように思う。

・仮に「自分の専門分野では、日本が最先端だ」と思っていても、もう一歩上を目指して外に飛び出す。そういう心意気がなければ一流は無理だ。

・海外留学はいつだって日本の命綱なのである。

・昔の僧侶は、よく旅をした。「どこそこによい先生がいる」「なになにというお寺に立派な学僧が集まっている」と聞けば、即座に旅に出る。「西遊記」の三蔵法師など、経典を求めてインドに渡り、帰ったのは17年後だ。

・それでも彼らが歩み続けたのは、「自分をもっと高めたい」という、求道の気概があったからである。

・世の心理を探求するという点で、仏教と科学は同じ次元にある。

・真理探究のため、身命を賭して突き進む科学者たちの姿が、私には、釈迦の姿と重なって見える。どちらも私にはあこがれなのだ。

・「科学の国、日本」と言われたい。そのためには、とにかく外へ出ることだ。三蔵法師の志が、日本の若き科学者たちの心に宿ることを祈願している。

 釈迦の姿と重なって見えるといわれては、若者も発奮せざるを得ないでしょう。ぜひ若者がこの文章に感激し、身命を賭して留学や研鑽のために世界に雄飛していただきたいと思います。

 日本は、私の恩師の若い時や私自身の若い時と比べて、想像を超える発展をしました。日本の若者が世界に出ることが必要なように、世界の若者が日本に留学・研鑽に来ることも大切です。

 幸い、国の努力によって、日本から海外に出る研究者(学生ではない)も海外から日本に来る研究者も増えています。下にその年次変化を示しました(日本学術振興会支援分。クリックすると大きくなります)。

 しかし、研究者だけでなく、高校生、学部生、大学院生が国境を越えて行き来することがぜひ必要です。現在のところ、このような若者を支援する政府のプログラムが充実していません。ぜひその拡大を図りたいと思います。

 佐々木先生のような方のご支援が必要になると思います。

by FewMoreMonths | 2007-11-16 18:55 | 人生


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