科学入門シリーズ2の続の6乗:まとめ、アインシュタインの「E=mc2」、種々のエネルギー発生効率について
 科学入門シリーズ2では、化学反応、原子核反応、物質・反物質反応、重量エネルギー解放という、いろいろなエネルギー発生を見てきました。そのどれも、実は化学反応でも、エネルギーは発生物体の質量を食って作っているのです。

 エネルギー発生の効率を考えてみましょう。その値は、
    エネルギーに転用された質量÷元の質量
という比で表わすことができます。それでは典型的な反応のエネルギー発生効率を計算してみましょう。

 まず化学反応としてエチルアルコールの燃焼を取り上げます。10月26日のブログ「科学入門シリーズ1:アインシュタインの『神はサイコロを振らない』」にちょっと紹介しましたが、エチルアルコール1分子が燃えるときに出すエネルギーは14電子ボルトでした。エチルアルコールはC2H5OHですから、その質量は水素質量の12x2+5+16+1=105倍(中性子の質量の違いや束縛エネルギーは無視します)。質量(水素)xc2は11月1日のブログの中に紹介されています。その値は938x100万電子ボルト。
 結局、エチルアルコールを燃やした時のエネルギー発生効率は、
 14 ÷ (105x938x10の6乗) = 100億分の1.4 (1.4x10のー10乗)
という大変小さな値になります。
 
次に核反応の典型的な例として、ラザフォードが研究したラジウム226のアルファ崩壊を取りましょう(10月26日ブログ参照)。放出エネルギーは487万電子ボルト。ラジウム226の質量は水素質量の226倍。
 したがって、ラジウムのアルファ崩壊のエネルギー発生効率は
 4、870、000 ÷ (226x938x10の6乗) = 2.2x10のー5乗
です。

 核反応のもう一つの例として太陽のエネルギー発生効率を考えましょう。11月7日のブログ「科学入門シリーズ2の続の4乗:アインシュタインの「E=mc2」、超新星爆発」に既に与えられています。その値は、
  0.0069.

 素粒子反応の例として、10月30日に紹介したパイ中間子の崩壊、「パイ中間子 → ミューオン + ニュートリノ」を考えると、反応エネルギーは(100万電子ボルト単位で)33.91、親のパイ中間子の質量は139.57ですから、エネルギー発生効率は、
 33.91 ÷ 139.57 = 0.24
という大きな値になります。

 重力エネルギーの開放として、超新星爆発の例を取ると、11月7日のブログを見ると、その値は、
 0.2
です。

 最後に、物質・反物質の混合だと、すべての質量はエネルギーになりますから、エネルギー発生効率は
 1.0
です。

 最後に地熱利用のお話をしておきます。地下の熱いところで水を水蒸気に換え、それでタービンを回して発電することができます。例として、地熱から300度Cの水蒸気を作り、タービンを回した後、水蒸気は100度Cの水になったとします。このとき水分子が得るエネルギーは、
 8.617x10のー5乗x(300度C―100度C) = 0.017電子ボルト
となります。
(最初の8.617x10のー5乗という値は、ボルツマン定数といわれる値で、それに絶対温度(摂氏温度+273)をかけると、熱によって分子が得るエネルギーになります。今の場合、ボルツマン定数の単位は、電子ボルト/絶対温度、です。)
水分子はH2Oですから、質量は水素の18倍です。エネルギー発生効率は、
0.017 ÷ (4x938x10の6乗) = 4.5x10のー12乗
となります。エチルアルコールが燃えるのと比べても30分の1の効率しかありません。

 以上の結果を表にしてみましょう(クリックすると大きくなります)。

 この表を見てすぐ気がつくことは、地熱や化学反応はあまりにも効率が悪すぎる、という事実です。グリーン・エネルギー源として期待されている光合成や太陽光発電はすべて化学反応をもとにしています。

 人々は、20世紀最大の発見の一つ「E=mc2」を有効に使うエネルギー発生をなぜ考えないのか、物理科学の研究者だった身として不思議に思います。
 
 原子力発電のエネルギー発生効率は上の表にあるラジウム226のアルファ崩壊と同じくらいですから、10のー5乗くらいの小さな値です。しかし何回も言うように、化学反応と比べると10万倍以上効率が良いのです。

 原子力にはいくつかの問題があります。

・核物質がテロリストの手に渡ること、
・核廃棄物の処理に明確な方法が示されていないこと、

が主な点だと思います。不思議なことに、物理学者がこの二つの問題に関与していません。彼らの柔軟な頭を使うことにより、

・濃縮核燃料を使わない、かつ連鎖反応を使わない新方式の原子炉、
・核廃棄物由来の放射線の短寿命化とその消滅を図りつつ、そのために使う電力以上の発電をついでに行う、

の2方式の検討を行わせるべきと思います。原理的にこれらの方式は可能です。

 次に必要なのは、さらに10倍ほどエネルギー発生効率の高い核融合、つまり「地上に太陽を作る」ことを推進すべきです。燃料は水素の同位体ですから、地球上に無尽蔵にあります。

 宇宙にある重量エネルギーの解放反応や、反物質利用は、残念ながら当面人類への実用化は考えられません。

 アメリカ・エネルギー省サミュエル・ボドマン長官が、9月に行われた「グローバル核エネルギーパートナーシップ(GNEP)」会議での発言の一部を引用すると、

 「風力、太陽、地熱、バイオ燃料等の再生可能エネルギーはエネルギー危機を解決する手段の一つである。しかし、アメリカ合衆国では、これら再生可能エネルギーがエネルギー需要を十分に満たすことができないことを既に学んでいる。今後の世界の電力需要を賄い、かつ温室効果ガスを発生させない技術としては、核エネルギーが唯一のものであることをしっかりと認識しなければならない。」

by FewMoreMonths | 2007-11-08 10:57 | 科学入門


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