アメリカ科学財団(NSF)・材料研究課の担当者と会談
 今日は10月30日の出来事をちょっと報告します。ちょっと難しい話ですが。

 アメリカ科学財団(National Science Foundation、略してNSF)は、アメリカの基礎科学・技術のための研究費を配分する機関です。科学・技術の発展と、それと一体となっている教育の振興を図るという立場をしっかりと守っており、政府の省庁から独立を保っています。

 NSFは、いくつかの部局からなっています。部としては、生物科学部、計算機・情報科学・技術部、工学研究部、地球科学部、数学・物理科学部、社会・行動・経済科学部からなり、また、サイバーインフラ、北・南極プログラム、情報科学・技術、総合研究活動、などの局(Office)を持っています。

 2007会計年度の予算は、研究開発部・局だけで、47億6600万ドル(5480億円)です(前年度からの伸びは7.1%!)。

 部局別だと、

・生物科学部6億800万ドル(前年度からの伸び4.6%)、
・計算機・情報科学技術部5億2700万ドル(前年度からの伸び6.1%)、
・工学研究部6億2900万ドル(前年度からの伸び7.4%)、
・地球科学部7億4500万ドル(前年度からの伸び5.8%)、
・数学・物理科学部11億5000万ドル(前年度からの伸び5.9%)、
・社会・行動・経済科学部2億1400万ドル(前年度からの伸び6.2%)

という膨大な予算を抱えています。

 ご存じのように、アメリカは「アメリカ競争力強化イニシアティブ、American Competitiveness Initiative、略してACI」を推進していて、物理科学の推進を重点的に掲げ、今後10年間でNSF、DOE-OS、NISTの予算を倍増しようとしています(9月13日ブログ参照)。

 このイニシアティブに沿って、NSFで最大の規模を持つ数・物科学部は鼻息が荒く、2008会計年度には8.9%増の概算要求をしています。議会の鼻息はさらに荒く、NSFの予算をもっと増やそうと大統領府の予算案を変更し議会独自の提案をしています。これに対してブッシュ大統領は、とてもお金がないと、議会の科学予算提案に拒否権を発動しようという騒ぎになっています。

 我が国の科学・技術予算に関する政治家の関心の低さを考えた時、日本の科学・技術の将来を大変憂いているのは私だけではないと思います。

 当日は、NSF数・物科学部の材料研究課の課長さんと材料科学・技術センターの担当官がお見えになりました。両者共に女性で、かつ博士号を持つ科学経験者です。ここが日本の役所の担当官と違うところです。

 普通こういう会談は、役所の担当官と行うのですが、やはり科学を知っている人物と話さないといけない、ということで担当官との話をする傍ら当方にお鉢が回ってきた、というのが実情のようです。私は材料科学が専門ではありませんので、数人の材料科学の専門家に同席を願いました。

 彼女たちは、ACIの勢いに乗って、まるで開発途上国のビジネスマンのような元気さで、いささか圧倒されました。日本に来る前に中国にいたということで、毎年、研究・開発予算が20%以上伸びていることに驚嘆していました。

 我が国の競争的資金の伸びは情けないことに年1%弱です(9月13日ブログ「高等教育と科学・技術に日米の政府はどのくらい投資しているか、その2」をご覧ください)。中国は無論のこと、アメリカとの格差がますます開いていくばかりです。

 NSFの材料研究課は、科学の国際化、グローバル化に力を入れようとしています。

 私は、数・物系の中でも原子核・素粒子・宇宙という分野に属しています。この分野では、外国人との共同研究は当たり前で、まともな研究で日本人だけのグループなど存在しません。私は1972年にプロの研究家になって以来、すべての実験が国際共同実験でした。

 だから、日本が誇る材料科学で、日本を含むアジアとアフリカが国際共同研究で後れを取っていることに大変驚きました。アメリカは、ヨーロッパや南アメリカとは既に密接な共同研究を行っています。

 推察してみるに、材料科学や生物学のような、2,3人で行っているスモールサイエンスは自己完結していて、国際的な共同研究という考え自体が希薄なのかな、とこの頃感じています。8月16日のブログ「研究データ捏造、研究結果間違い」を参考にしていただけたら幸いです。

 国際化といってもいろいろありますが、彼女たちの考えを報告します。

 「現在までアメリカの材料研究者は世界トップの地位に甘んじていた。彼らは、外国から研究者を受け入れるのは大変熱心だった。しかし、外国機関との共同研究、ネットワークを組むようなことに熱心ではなかった。
 また、彼らが、外国に研究に出かけるという熱意は薄かった。
 しかし、中国やインドが台頭してきたとき、彼らの研究動向を知ることは大変重要であるし、また直接アメリカの研究者が中国やインドに出向いて共同研究を行うことにより、中国やインドの研究者の研究方法や性格を知ることができる。グローバル化の中で、アメリカの研究者もその一員であることを認識する時期に来たのである。」

 我が国はどうしたらよいのでしょうか。

 一案として、国際共同研究をさらに推し進めるために、科学研究費補助金などの競争的資金のすべての審査基準の中に、「国際化を推進しているか」の項目を新たに加えることはどうだろうかと考えているところです。

 我が国の国際化は、研究者の受け入れも研究者の派遣もアメリカと比べてまだまだ劣っています。研究者の受け入れ・派遣を、共同研究という形態で自然に競争的資金の中で積極的に行うよう指導すべきではないか、ということです。

 今後機会があれば、CNRFやDFGの皆さんと話しができればと思っています。来年はカナダのNSERCとコンタクトが取れそうです。8月29,30,31日にESF(ヨーロッパ科学財団)の理事長(知り合い)にあったのですが、別件で来日していたので満足な話はできませんでした。

by FewMoreMonths | 2007-11-04 16:47 | 科学政策


<< 科学入門シリーズ2の続続続続:... ブログを始めて3か月経ちました >>