前回のブログ「科学における論文数と引用数1及び2」で、引用数がトップクラスにある論文の生産能力は一国の科学レベルの高さを表すことを書きました。また、その国ではその論文の情報が得やすいことから、関連する後続の研究が発展し研究レベルでも研究層の厚さでも急速に世界のトップに躍り出ることができます。
文部科学時報2007年9月号に、論文数及び引用数に関係した記事がありましたので紹介します。タイトルは「科学技術の成果に見るアジアの諸国と地域、学術論文の動向」です。根拠となるデータは、トムソン社のデータベースから取っています(下の表の注参照)。 論文数(全分野)のシェア(ある国の論文数÷全世界の論文数)に関しては、世界の順位を見ると、アメリカ、日本、イギリス、ドイツ、フランス、中国の順になっています。論文数では、中国が急速に台頭しています。アジアでは、インド、韓国、台湾がそれぞれ13,14,18位につけています。 次に下の表を見て下さい(クリックすると大きくなります)。 まず、1行目は国名と当該国の論文数が世界で占めるシェア(%)がかっこ内の数字で示されています。中国は人口が多いだけあってシェアが急速に伸びています。しかし、当面日本の優位は続くでしょう。 次に左の列の順位は、表の中に出てくるいろいろな分野を論文シェアの高い順に並べたものです。例えば、日本では、論文シェアの高い順に材料科学、物理学、薬理学、、、のように並ぶという意味です。 日本の9位と10位の間を通って二重線が引かれていますが、例えば日本ではこの線の上にある工学、微生物学、農学、、、などが、日本の全分野の論文数シェアより高いことを示しています。神経行動科学、免疫学、、、などはあまり論文数が多くない分野という意味です。 前の2回のブログで強調したように、論文数とともに、いやそれ以上に重要なのは論文の引用数です。この表では相対被引用度という指標が使われています。これは、 (ある国・ある分野の1論文あたり平均引用数÷全世界・同じ分野の1論文あたりの平均引用数) として計算します。相対被引用度が1より高ければ高い分野ほど、「平均として」世界で重要な論文を生産していることになります。表の中の赤い楕円で囲った分野は、相対被引用度が1より高い分野を示しています。 日本では材料科学、物理学、免疫学、植物動物科学、宇宙科学がそれに該当します。 中国には相対被引用度が1を超える分野はまだないようです。 韓国では材料科学が1を超えています。 アジアの諸国では、得意な分野がかなり似通っていることがわかります。 本文にも言及されていますが、数学、コンピュータ科学の2分野を見ると、日本以外の各国は相当力を入れているな、という印象を持ちます。 学術というのは、第一に研究者の自由な発想で始めるのが肝要です。数学、コンピュータ科学の研究者は、まず研究成果を(さらに)あげることが必要です。高い研究成果が若者を引きつけ分野が発展していくことになります。また、研究者は自分の働いている分野に愛着と誇りを持ち、積極的に若者を勧誘することも大切でしょう。 私は研究上のトップダウン手法をあまり評価しないので、政策的に例えば数学の振興を誘導するなどということはいかがなことかと思っています。 by FewMoreMonths | 2007-10-25 16:08 | 科学政策
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