映画「グッド・シェパード」を鑑賞して
 今日は秋晴れのすばらしい天気でした。体調もよく散歩に絶好の日でしたが、妻との約束で映画「グッド・シェパード、The Good Shepherd」を観に行きました。

 実は先週10数年ぶり映画に行きました。新しい映画館は昔と全く違い、約10種類の映画を同時放映できる小劇場群からなり、劇場内の座席は快適で、ドリンクを置くトレーまでついていました。トイレも全く快適で昔の薄汚い映画館の印象をぬぐい去るカルチャーショックを経験しました。
 そして、何年も時代物のテレビで洋画劇場の映画を観ていましたので、大きな画面と大音響に圧倒されました。

 先週の映画は「大統領の死、The Death of a President」という、ブッシュ大統領がシカゴのシェラトンホテルの前で暗殺されるストーリーでしたが、今ひとつの感がありました。しかし、久しぶりの娯楽映画なので楽しみました。

 今日の映画のストーリーを詳しく説明するわけにはいかないのでしょうが、ちょっとご紹介します。

 時は第二次世界大戦が始まる前の1930年代後半のアメリカ。イェール大学の優等生エドワード・ウィルソンはイェール大学のエリート秘密結社「スカル&ボーンズ、Skull & Bones」に入会後、退役将軍ビル・サリバンの誘いで、当時アメリカにいなかった本格的な諜報活動員になり、イギリスで諜報活動の訓練を受けます。第2次大戦後、ドイツで優秀な科学者がソ連に連行されるのを阻止する活動を行い、そこでソ連KGB諜報員との接触を経験します。

 時はさらに進んで1961年、新組織CIAのシニア諜報部員となったエドは、カストロ政権の転覆を図るべく、反カストロ軍のピグス湾上陸作戦を指揮する指導者になっています。しかし、ピグス湾作戦はものの見事に失敗。敗戦の理由は、極秘情報の「ピグス湾」なる語がソ連KGBに漏洩したのでした。

 物語は秘密漏洩の解明とソ連二重スパイの活動、昔のKGB将校との邂逅と進み、最後に秘密漏洩を暴いて情け容赦のない制裁を加えます。

 最後にエドは換骨奪胎されたCIAの諜報本部の責任者になったところでストーリーは終わります。

 この物語のもう一つの重要な要素は、諜報活動と家庭との両立でした。エドはアメリカ国家へ忠誠を誓う愛国者であり、家庭を一切顧みることなく作戦に没頭し、その過程で家族の愛との葛藤に苦しんでいます(8月8日のブログ「ガンジー、家庭か国家か」でも似たような物語を紹介しました)。

 もうストーリーの説明をやめますが、3つとても印象に残ったことをコメントして終わりたいと思います。

・ビル・サリバン将軍は重篤な糖尿病を煩い余命1年の宣告を受けながら、国家のため諜報組織設立とそのための有能な若者のリクルートに大きな努力を払います。スケールは全然違いますが、余命の少なくなった我が身を振り返ったとき、祖国日本にほとんど貢献できなかったことがなんだかすごく恥ずかしく感じました。
・10月12日のブログでハーバード大学の状況を紹介しましたが、そのとき、エリック・シーガルの小説「クラス」を紹介し、名門大学の強固な同窓会組織のことに言及しました。今日の映画に出てくる「スカル&ボーンズ」も大変強固な同窓会組織で、エドは定期的に結社の会合に参加しています。ここで必要な人脈が形作られていくわけです。
・映画の主役エドワードや小説「クラス」のアンドリューなど名門大学出身者は、俗界からほとんど隔絶したエリートです。一般大衆との接点はなく、少数のエリートとの接触と、国家への忠誠心に基づいて人生を切り開いていきます。実は、アメリカやフランス、イギリスなどはこのような超エリート集団によって下層国民が統治される形態を取っていると考えていいと思います。正しい比喩でないかもしれませんが、プラトンの「国家」にでてくる「哲人統治者」のイメージがここにあります。

 前々から考えていたことではありますが、アメリカなどに存在する厳しい規律と強烈な愛国心を持った超エリート集団に対して、日本の官僚・政治家そして末席ではありますが科学者はいかに対抗すべきなのか、気がかりなことです。

 娯楽映画とはいえ、ちょっと参考になる映画でした。

 しかし、手に汗を握る緊張感には大分疲れました。

by FewMoreMonths | 2007-10-21 18:39 | 人生


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