10月10日の下院外交委員会が「オットマン・トルコによる1915年のアルメニア人の殺害は虐殺(genocide)である」との決議第106を27:21で採択した、という情報を、日本のメディアではほとんど流さなかったと思います。 CNN.comではこのトルコ関連決議のニュースがここ数日大きく取り上げられています。私がモニターした範囲だけでも、10月10日、11日2編、14日、15日に関連記事が載っていました。
オットマントルコ帝国は、1915-1923年、約200万人のアルメニア人を追放し、その際約150万人のアルメニア人が殺害されたといわれます。約90年前の事件です。 ご存じのように、トルコは1923年、第一次世界大戦に破れた後、ケマル・アタチュルクのもと、近代的な国家として生まれ変わっています。日本の明治維新以上の変動があったようです。 さて、アメリカ下院外交委員会委員長のトム・ラントス氏(民主党)の委員会冒頭のスピーチを翻訳して紹介したいと思います。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー 本日、我々は、オットマントルコの軍隊によって20世紀初頭、アルメニアの人民が迫害され、非常に多くの人々が殺されたかどうか、その事実を議論するのではありません。この大量殺戮があったことは疑問の余地のないことです。 問題は、現時点において、アメリカ合衆国が、この人類の大変な汚点に対して「虐殺、genocide」という語を使うかどうかです。 国連におけるgenocideの定義を申し上げますと、「国民、民族、人種、宗教グループの一部または全部を意図的に破壊する行為をおかすこと。」この行為とは、殺害、身体的精神的攻撃であり、意図的かつ計算して人々のグループを物理的に破壊することです。 当時オットマン帝国のアメリカ大使だったヘンリ・モーゲンソーは、「人類の歴史の中でこれほどの恐るべき事件はなかった。1915年のアルメニア人の受けた被害に比べたら過去の殺戮や圧迫は取るに足らない。」といっています。 アメリカ合衆国のリーダーたちはこの大量殺戮を非難してきましたが、「genocide」という語を使うことに関しては意見が分かれていました。 ロナルド・レーガン大統領は一度だけ「アルメニア人の虐殺」と発言したことがあります。しかし、その後の、ジョージ.H.W.ブッシュ、ビル・クリントン、ジョージW.ブッシュ氏はトルコ人民の心情を斟酌してこの語を使っておりません。 大日本帝国陸軍の性奴隷となった何万人の「従軍慰安婦」の、もう一つ歴史に残る不正義に関しては今年初めの委員会で議論しましたが、下院の何人かは、アルメニア人の問題はこの従軍慰安婦問題と共通のテーマだと考えています。(下線筆者) 今の日本政府は、この問題に関する議論を阻止しようと大きな努力を払ってきました。また、この決議は、日米関係に大きな禍根を残すだろうと言われました。しかし、この深刻な禍根は結局なにも起こりませんでした。(下線筆者) 「従軍慰安婦」問題と今回の問題が大きく違う点は、アメリカ軍がイラクとアフガニスタンで作戦を行っている点です。(下線筆者)トルコの空軍基地は、前線へのアクセスに必須ですし、クリティカルな兵站基地でもあります。多くの下院議員はイラク内線に荷担するのに反対していますが、この重要な補給線が脅威を受け突然切り離されることを望んでいません。 8人の前国務長官、オルブライト、ベイカー、クリストファー、イーグルバーガー、ヘイグ、キッシンガー、パウエル、シュルツ氏は、「この決議は、イラク、アフガニスタンにおける我が国の軍隊を危険にさらし、アルメニアとトルコの和解にも益にならない」と言っています。 3人の前国防長官、カールッチ、コーエン、ペリー氏も、「イラクおよびアフガニスタンにいる我が軍の作戦行動および安全に直接かつ有害な影響が出る」と言及しています。 制服を着た青年男女諸君に危険が迫るにもかかわらず、本委員会はアルメニアン人民と連帯してこの語「虐殺、genocide」を決議するかどうかが問われているのです。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 以上です。 結局、10月10日の外交委員会の採決で、決議第106は27:21で採択されました。 その後、下院議長のPeloshi女史は、今年末までにこの決議を下院で採決すると言っています。その際、トルコ情勢やアメリカ・トルコ関係への言及は全くありませんでした。 トルコ国内では、この決議に対して国民、政府、軍が猛反発し、在ワシントン・トルコ大使を召還していますし、トルコ政府は強攻策に出て、トルコ国内の兵站基地でアメリカ軍が活動するのを許可しない可能性があります。 私は、誇り高い歴史を持つトルコ国民の怒りがよく理解できます。 さしずめ、日本の江戸時代に起きた事件を蒸し返して、突然顔に泥を塗られたようなものです。まして、トルコは、NATOの中でも最も重要なアメリカの同盟国なのですから。 私は、この決議の裏に民主党の陰謀が見え隠れするような気がします。民主党は、イラクがどういうことになろうと知ったことではなく、アメリカ軍をとにかく撤退させようとしています。もしトルコが軍需物資の輸送を拒否すれば、アメリカ軍撤収によって必ず起きるイラク国内の大混乱はトルコのせいだと、その責任をトルコになすりつけてしまおう、ということではないか。民主党の論理を通すためには、同盟国の顔に泥を塗り、同盟関係など平気で損なうこともいとわない、という冷徹な政治力学が垣間見えてくるのです。 そこで、上のラントス委員長の発言の中で私が下線を引いた部分をお読みください。「従軍慰安婦」問題で下院の決議が出たことは記憶に新しいところです。 発言にもあるように、従軍慰安婦問題はアルメニア人殺戮と、規模の違いはあれ類似の案件だととらえられています。両事件共に両国の民主化以前の、すでに歴史に入った事件です。従軍慰安婦問題も60年前の話で、大日本帝国時代の話です。 トルコの1923年同様、日本は1945年に民主化し、平和国家となりました。 また、日本はアジアにおけるアメリカの最も重要な同盟国です。しかし、従軍慰安婦の決議では、トルコの決議同様、そのようなことは一顧だにされませんでした。 アルメニア問題と同じように、私は、この決議の裏に民主党の陰謀が見え隠れします。日本の大問題である「北朝鮮による日本人拉致」の道徳的立場を相対的に弱め、それによって日本の対北朝鮮に対する強硬姿勢をそぐためではないか。 従軍慰安婦決議に対する日本国民、政府、メディアの対応は、誇り高いトルコ国民のそれとは全く違っていました。 私の購読している朝日新聞は、同盟国日本の顔に平気で泥を塗る決議をむしろ喜んでいるような論調がありました。日本政府の抗議もおざなりなものでした。野党の対応なども同様でした。 上の下線の一部「この深刻な禍根は結局なにも起こりませんでした。(Those dire consequences never materialized.)」に、アメリカ下院議員の軽蔑の響きを感じるのは私だけでしょうか。 日本人の「誇り高さ」はどこにいったのでしょうか。 私なら、この決議に反撃(retaliate)するため、インド洋補給活動を一時停止することや、沖縄基地の縮小を考え、それをアメリカのメディアにリークしますね。 野党や一部メディアのように、自分の道徳価値をアメリカの決議で否定され、それをむしろ喜んでいる状況では、道議を元にブッシュ政権のイラク戦争を非難することに誰も耳を貸さないでしょう。 by FewMoreMonths | 2007-10-19 12:58 | その他
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