今日はこの手のシリーズの最後のブログです。「まとめ、その2」として、国立大学の経営について愚見を述べたいと思います。
国立大学法人法(平成15年7月16日法律第112号)によれば、国立大学は、「大学の教育研究に対する国民の要請にこたえるとともに、我が国の高等教育及び学術研究の水準の向上と均衡ある発展を図るため」とあります。 法律の最大の特徴は、国立大学を文科省の直轄から法人組織に変更して大学の自由度を大幅に高めたことです。法人はこの法律の定めるところに従って設置されますから、国が設置するものであって、法人の長(理事長)を兼ねる「学長」は、文部科学大臣が任命します。 一番の違いは、国立大学の教職員はもはや国家公務員ではないことです。教員や事務職員の任命権は学長にありますから、学長は、できの悪い教員や言うことを聞かない事務官などをクビにすることができます。また、学部・学科の新設・廃止も学長の裁量権の範囲内にあります。 国立大学は、国の定める(実質的に各国立大学が決めて承認を得る)6年間の中期目標に従って中期計画を立てて実行に移します。また各年度には中期計画に基づいた年度計画を立ててそれを実行します。 国立大学は、法人法で謳われた目的を達成するために、国から運営費交付金を受けます。交付金は学長の裁量でかなり融通を持って使うことができます。 第二の違いは、このお金のことです。法人になる前は、国立大学に関係するお金は「国立大学特別会計(通称、国立特会)」によって賄われていました。国立特会はなかなか融通の利くお金で、そのため旧文部省は大きな裁量権を持っていたのです。 今だからいえますが、ある大学や研究所が何か大型の設備を更新したいと思ったときは、つてを頼って文部省担当官と交渉し、覚えがめでたければ、何とか国立特会の中で融通してつけてくれたわけです。だから、国立大学は文部省に一切頭が上がらなく、なるべく優秀な文部省役人に、大学の部長職などに頭を下げてきてもらったわけです。 法人になった時点で、この融通の利く国立特会が廃止になりました。国立大学に行く交付金は、財務省から文科省を素通りして大学に行くわけですから、文科省の裁量権の大部分は、実は国立大学に移ったのです。 もちろん、国からお金が出るわけですから、中期計画や年度計画の達成度は厳しく評価されます。部局の長や機関の長になると、毎年の実績報告書の作成や評価委員会での報告・質疑応答が頭痛の種です。 国立大学では、自分が非公務員だということ、交付金の裁量は国立大学にあること、この2点を理解している教官が少ないようです。依然として、すべての悪は文科省にあるような言い分を耳にしますが、まず自分と、自分の大学執行部の能力を疑うべきなのです(断っておきますが、私は文科省の回し者でもOBでもありません。) それでは、文科省は今何をやっているんだ、という問いがでると思います。私の理解している範囲でちょっと説明してみましょう。 高等教育や科学・技術の基本方針は内閣府(総合科学技術会議など)が決めてしまいます(もちろん、内閣府の原案を作るにあたって実質的に文科省の意見が採り入れられます)から、その基本方針に従って、主に競争的資金の範疇に入る種々のメニューを発明して、財務省に概算要求します。 平成20年度文科省概算要求の主要事項を列挙してみると、 (旧文部省関係) 1.国立大学法人運営費交付金 2.私立大学経常費補助等 3.大学・大学共同利用機関における独創的・先端的基礎研究の推進 4.第2次国立大学等施設緊急整備5か年計画の推進 5.科学研究費補助金 6.21世紀COEプログラム 7.グローバルCOEプログラム 8.大学院教育改革支援プログラム 9.世界トップレベル研究拠点プログラム 10.人文・社会科学の振興 11.特別研究員事業 (旧科技庁関係) 12.戦略的創造研究推進事業 13.科学技術振興調整費 14.特定先端大型研究施設の整備・共用の推進 15.先端計測分析技術・機器開発プロジェクト 16.国家基幹技術などの着実な推進:研究独法の事業 (以下省略、要求額も省略) ちょっと長くなりましたが、国立大学に関係するもので、運営費交付金や施設整備関係以外では、科研費から特別研究員事業、それから「第3期科学技術基本計画の重点事項」を推進するための戦略的創造研究推進事業、科学技術振興調整費が目につきます。 これらは、大学の機関自体、研究科や専攻単位、研究グループや研究者個人が応募して審査を受け、採択されればお金が配分される、いわゆる競争的資金です。このようなメニューを作ることしか現在の文科省に裁量はないのです。 2点注意しておきたいと思います。 ・このような競争的資金の応募には、国公私立の区別はなく、イコールフッティングで応募ができること。 ・大型の競争的資金プロジェクトは必ず評価を受ける。そのときに、内閣府の決めた基本方針に従っているかどうかが審査される。例えば、大学院生の支援を十分行っているか、留学生10万人計画に沿っているか、ポスドク1万人計画に沿っているか、等々です。ここに、国の指導・監督がさりげなく(implicit)に入ってくるのです。 長くなりすぎましたので、日を改めて続きを書きます。 (続く) by FewMoreMonths | 2007-10-15 10:39 | 教育
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