「ある愛の詩」という小説と映画が日本でも大変評判になりました。確か、大金持ちのハーバード大卒の青年と貧乏な女性との恋愛もので、女性の病死という悲劇で終わったと思います。作者はハーバード大学の先生でエリック・シーガルでした。
昔、彼の小説「クラス」を読んで大変感激したことがありました。本はとうの昔に散逸してしまいましたが、どうしても読みたくなってAmazon.comで探したところ、古本の文庫本で上下各1円(!)で売っていました(送料が680円もかかりましたが)。大喜びで買って、あっという間に読んでしまいました。T.S.エリオットを出した名門エリオット家のアンドリュー青年が主人公です。様々な環境で育った5人の若者がハーバード大学で学び、そして社会で栄光、成功、挫折、そして死もある人生をドラマチックに描写しています。彼らが1958年に卒業する時代設定になっていて、卒業25年後の1983年に盛大な同窓会が開かれ、生き残った者たちが再開を果たす、という筋書きです。 時代は現代のIT社会とは全く異なりますが、若者たちのすさまじい野望と努力には圧倒されます。 私は1960年の安保の年に大学に入学したので、この物語は私と数年違いのアメリカ青年の物語でした。当時を振り返ると、物語の主人公のような野望などこれっぽちもなく大学生活を送っていたな、アメリカに日本がかなわないのも無理がないな、と改めて思いました。 もう一つ印象的なのは、同窓会組織(Alumni)の強さです。日本の大学卒業生に愛校心があるでしょうか。私の卒業した大学にそもそも同窓会組織があるのかどうかも知りませんでした。国立大学が法人化してあわてて同窓会の強化を図っている、というのがほとんどの国立大学じゃないでしょうか。 (個人的なことですが、私は体育会系に所属していましたので大学名を縫いつけた衣類を着て試合に臨み応援部の応援も受けたことがありますので、他の学生と比べて愛校心たるものが何であるかは十分知っていました。しかし、卒業後は給料をもらっただけで、大学に何の貢献もしなかったことは大いに遺憾なことでした。) ハーバード大学は世界で最も優れた大学として知られています。10月4日のブログにちょっと紹介しましたが、大変な基金を持っていて、その運用益を主要な財源の一つとして大学経営を行っています。 8月21日、8月24日、9月1日、10月3日、10月4日、10月5日に、インターネットからの情報を元に、東京大学、山形大学、茨城大学、早稲田大学、慶応大学、同志社大学の現状を紹介しました。今日はインターネットで調べたハーバード大学の情報を紹介したいと思います。 下の表に財務状況と学生数等を示します。財務状況は2005年のものですが、学生数等は最新の数値です。日本の私立大学の雄早稲田大学との比較(対早大費、%でなく割った数そのまま)も示してあります(クリックすると大きくなります)。 大きく違う点が多々ありますが、とにかく気がついた点を列挙してみます(私は財務畑の専門家ではないので誤解が入るかもしれません。詳しくはウェブサイト参照)。。 ・学部学生数は6700人で早大の7分の1。 ・大学院生数は20000人で逆に早大の2.5倍。 ・教官数(非常勤含む)は早大の2.3倍。 ・事務職員数は見つからなかった。 ・教官の中で医学系(Medical School)が85%を占める。教育・研究が生命系に大きくシフトしている。 ・主要収入や支出の規模は約3000億円で、早大の4倍、東大の約2倍である。 ・収入では、授業料等、資産運用、国庫補助(競争的資金間接経費を含む)が主要収入のそれぞれ21%、31%、17%を占める。早大の対応する比は、67%、3%、13%である。 ・ただし、国庫補助の中に教官が直接申請して取得するグラントが入っていないように思われる。その金額は多分表の額と同等かそれ以上だろう。(我が国の大学の財務資料でも科学研究費補助金は別になっている。) ・管理経費が異常に多いが、このほとんどは本来教育研究費のカテゴリーに入るもののようだ。日本の管理経費にあたるものは1億1000万ドル(130億円)程度か。詳しくはウェブサイト参照。 ・支出では、人件費、教育研究費、管理経費がそれぞれ49%、22%、29%を占める。早大の対応する比は、52%、43%、5%である。 ・運用資産は349億ドル(4兆円)。 さらにいくつかコメントしたいと思います。 ハーバード大学は世界に冠たる研究大学院大学(Research University)で、社会の枢要な地位に就く大学院生の教育を主とし、大学院教育に必要な世界最高クラスの研究を行っています(教育・研究の一体化)。大学院生と学部学生の数を見れば一目瞭然です。 教育研究のうち、自然科学系では医学・生命系に力を入れています。アメリカ政府の科学予算は生命系に大きくバイアスがかかった構造をしています。ハーバード大学は生命系の豊富な研究資金を獲得するために医学・生命系を重視していると推測します。 政府資金には、間接経費として大学に落ちるお金が含まれており、またその一部は教官の給与として使われるので、大学はその経営のために必死になって政府資金の獲得に努力します。アメリカの大学は教官に9ヶ月分の給与しか払わないのが普通です。残りは政府資金を自分で取って自活せよ、ということです。 また、産業界との共同研究や受託研究も大学の経営に重要で大変力を入れています。 政府や産業界から研究を受注するには、優秀な教官が必須です。そのため、高額の給与を支払ってでも世界的に業績のある教官を引き抜いてきます。また、同窓会を通した優秀な卒業生とのコンタクトも研究の受注に大きな役割を果たしているに違いありません。 10月4日のブログでハーバード大学の運用資産を早・慶大と比較しました。ハーバード大のそれは桁違いですが、上に説明した強固な同窓会組織、それに社会の枢要な地位に就いている卒業生からの積極的な寄付(愛校心に基づいた?)によると思われます。 以上で各大学を紹介するシリーズは終了します。あと4回ほどかけて、私立大学のあり方、国立大学の必要性などのまとめを行い、ついでに愚見を述べたいと思います。ぜひお付き合いください。 by FewMoreMonths | 2007-10-12 12:04 | 教育
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