高等教育と科学・技術に日米の政府はどのくらい投資しているか、その4
 昨日9月14日にアメリカ政府の2007、2008会計年度の研究開発予算(日本の科学・技術予算に相当)の伸びを紹介しました。

 今回は高等教育の支援に関して、気になることを書いてみます。
 日本(中央+地方)政府による高等教育のサポートはアメリカに比べてひどく貧弱なことは既に述べました。アメリカ政府の高等教育投資の内訳はまだ調べていません。我が国の内訳の一部はわかります。
 ちょっと専門的になりますが、下の表に必要な情報の数値を示しました。物理系の研究者は数値ばかり持ち出す癖があります。我慢して下さい(クリックすると大きくなります)。

 政府による科学・技術経費と高等教育経費は既に示したものを日本円で表しています。高等教育への政府支出は、2兆7000億円、科学・技術予算は3兆6000億円です。国が大学等に支出している経費の内訳は、国立大学運営費交付金が1兆2000億円、私学助成が3500億円、大学共同利用機関経費が1200億円です。あと、競争的資金の大部分は大学等が使っていますのでこの額も考慮しなければなりません。
 アメリカと比較すると、日本では競争的資金の科学技術経費に占める割合が半分以下です(金額ベースだとこの割合が約10分の1であることは既に強調しました)。大学の研究者の研究の質をさらに高めるためには、競争的資金の科学・技術経費に占める割合を増やさなくてはなりません。しかし、日本の厳しい財政事情を考えると、なかなか名案が浮かびません。
 
 あえて私見を述べてみたいと思います。まず、競争的資金の倍増を図ります。4700億円から9400億円にするのです。これが大前提です。
 次が問題です。第一案は、財政事情を勘案して、保守的に科学・技術経費や高等教育経費を据え置くとします。つまり、科学・技術経費の中から4700億円を減額するのです。
 科学・技術経費の内訳がどうなっているかは、下の図を見て下さい。2005年度のデータで、2005年2月23日総合科学技術会議の資料からとりました(クリックすると大きくなります)。

 研究型独立行政法人が大学と同じくらいの科学・技術経費を使っていることに注意して下さい。

 さて、一案として、増額する4700億円の半分にあたる2350億円を運営費交付金+私学助成から差し引き、さらに独立行政法人から2350億円を差し引くことが考えられます。この比率はいろいろ変えることができますが。

 近頃とみに顕著になっているところですが、研究型独立行政法人は、大学や大学共同利用機関が活発に行ってきた研究分野へ、ノウハウもなしに侵略している感があります。つまり、独法が行ってきた従来の研究で成果が出なくなってきたのに加えて研究の継続が難しくなってきたため、独立行政法人の組織(つまり人員の雇用及び天下り先の確保[下記独立行政法人の役員の出身を見て下さい])を存続させるために、なりふり構わず他分野、特に基礎研究分野へ進出しているのです。
 具体的には、理化学研究所の多くの部分、物質・材料研究機構、産業技術総合研究所、日本原子力研究開発機構の一部、宇宙航空研究開発機構の一部などが行っている仕事は、大学のほうががもっともっと効率よく行うことができると思います。また、アメリカのエネルギー省が行っている仕事に似ていますが、放射光のスプリング8、中性子源のJ-PARCなどは、40年の伝統を持つ大学共同利用機関のノウハウによってずっと研究成果をあげることが可能です。
 私が所轄大臣なら、このあたりの独法をつぶして大学・大学共同利用機関へ分散吸収させるところです。

 余分なことをいいましたが、科学・技術経費や高等教育経費を据え置くとしたときの案を元に改定した表を下に示します(コメント欄の運営費交付金等の値は変更していません)(クリックすると大きくなります)。

 競争的資金の割合はアメリカに近づきます(金額ベースではまだ5倍の開きがありますが)。
 運営費交付金・私学助成を2350億円減らすためには、当然大学経営の合理化が必要です。私はブログで3つの国立大学の財政事情をお見せしました。そのデータを見ながら考える必要があります。多くの地方大学の統合・縮小は避けられないでしょう。
 私立大学の検討は今後行います。

 二案として、4700億円をそっくり純増します。無論この案がベターです。第3期科学技術基本計画を文字通り実行すればこの程度の増額は可能なはずです。しかし、一気にこの案を達成することは難しく、プライマリーバランスが回復した2011年度以降、できれば2012年度からこの案を実行することができるかもしれません(コメント欄にある運営費交付金等の金額は変更してありません)(クリックすると大きくなります)。

 競争的資金の比率はアメリカに比べてまだ劣ります。従って、4700億円の純増とともに、研究型独立行政法人の解体、国立大学・大学共同利用機関への吸収を並行して進めていく必要があります。

by FewMoreMonths | 2007-09-15 11:23 | 科学政策


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