昨日9月13日にアメリカ政府の2007会計年度の研究開発予算(日本の科学・技術予算に相当)の伸びを紹介しました。その続きを書きます。
国家標準技術局(NIST)の予算も2007年度に10%近い伸びを示しています。私はNISTがどんな仕事をしているのかよく知りませんが、物理科学の科学・技術研究であることは確かです。アメリカ政府のキーワードは、DOE office of science、NIST、NSFの10年以内予算倍増です。 日本でもよく知られているNASAの予算は3%と伸び悩んでいます。加えて、この予算はほとんど有人宇宙旅行の事業に取られてしまいます。NASAの科学予算は今後減ることはあっても増えることはあまり期待できません。 NASAが打ち上げたWMAP衛星は宇宙に関する画期的な成果をあげました。宇宙は137億年前に誕生したことがはっきりし、宇宙の中にあるエネルギーを考えると、原子など物質の寄与はたったの4%,しかもそのほとんどはガスやブラックホールや中性子星です。原子などではなくまだ知られていない素粒子(暗黒物質)の寄与が23%あります。そして腰を抜かすほどびっくりするのは、残りの73%の寄与は素粒子などの物質でなく全く未知の暗黒エネルギーでできているのです!暗黒エネルギーは万有引力による重力よりも、反重力と呼んでもいいかもしれませんが、物質やエネルギーをお互いに引き離す斥力が働きます。このため、宇宙の膨張は現在ますます加速しているのです。 この暗黒エネルギーをさらに研究すべく大型の衛星を打ち上げる計画があるのですが、NASAにその余裕があるかどうか大いに疑問です。日本の科学者がこの全く新しい自然の法則の重要性に気づいて、アメリカと共同研究を早く実施してほしいと切に願っています。 日本の若者たちがプリンストン大学などアメリカの研究機関の若者たちと共同して研究を行い、暗黒エネルギーに関してすばらしい成果を上げて欲しいと思います。日本からも資金を持ち寄ってNASAを動かして欲しいと思います。 ちょっと興奮してしまいました。NASAの話はこのくらいにします。 NIHは国家保険局で、年間予算280億ドル(3.4兆円)を使う巨大な組織です。この中には国立ガン研究所(NCI)があり、私は抗ガン剤などの情報を見にホームページに時々アクセスします。ホームページの情報量は我が国の国立がんセンターの比ではありません。 NIHの予算の80%(220億ドル)は前回出てきた競争的資金に使われます。前々回のブログの表を見ると、アメリカの競争的資金の総額は372億ドルでしたから、競争的資金の中でライフサイエンスは59%を占めています。 さて、NIHの2007年度予算の伸びは2%程度です。ライフサイエンス予算は峠を越えた感があります。聞くところによると、21世紀の国家にとって重要な、エネルギー、環境、テロ対策(安全保障)、インド・中国との競争にNIHはあまり貢献できないだろうとの判断があるようです。 アメリカ・ナショナル・アカデミーの報告書「Rising above the Gathering Storm」を作成したコミッティーの委員長は、もとロッキード・マーチン会長のノーマン・オーガスティン氏でしたので、そういううわさが流れたのかもしれません。いずれにせよ、21世紀は生命科学の時代だ、というだけでは国家は成り立っていけない、ということです。(元物理系落ちこぼれ科学者が余計なことを言いました。) アメリカもイラク戦争で国家財政は逼迫していますから、研究開発投資もゼロサムに近いようです。このため、上にあげた以外の研究開発予算は軒並み減額されています。 それでは、2008会計年度の予算を紹介しましょう。下の図は前回の2007会計年度の図と同じフォーマットですので、わからないときは前回のブログを参考にして下さい。この予算は議会で最終的な承認は得ていませんが多分それほど大きな違いはないと思います。図は2008年度予算が2007年度予算と比べてどの程度増減しているかを示しています。図の説明にあるように、研究開発経費の総額は対前年度比―2%です(クリックすると大きくなります)。 DOE scienceとNSFの伸びが顕著です(それぞれ16%と8.3%)。NASAの伸びは有人宇宙飛行のためです。DOD weaponsとNISTも5%の伸びです。ライフサイエンスのNIHは1%の「減額」です。ただし、議会がどういうかわかりません。 いずれにせよ、物理科学へのシフトがはっきりしています。 (続く) by FewMoreMonths | 2007-09-14 13:31 | 科学政策
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