人間など脊椎動物の受精前の卵子が、受精を待つ過程で細胞分裂を「一時停止」する仕組みを、九州大学理学研究院の佐方功幸教授(分子生物学)のグループが、アフリカツメガエルの卵を使い、分子レベルで解明した。「一時停止」は細胞の異常分裂を防ぐ上で重要な現象。この成果について佐方教授は「人間の不妊の診断、治療法の開発にもつながる可能性がある」としている。
佐方教授によると、受精卵は細胞分裂を繰り返し生物の個体となるが、未受精卵も一度だけ分裂し、受精を待つ。ところが、何らかの理由で受精なしで細胞分裂が進むことがある。マウスの場合、受精せずに細胞分裂が続くと、卵巣奇形腫などの異常が多く発生するという。
過去の研究で、未受精卵の分裂を促すタンパク質「APC/C」(分裂後期促進因子)と、分裂を止めるタンパク質「Emi2」が結合し、受精の前段階となる「一時停止」を引き起こすことが分かっていたが、詳しいメカニズムは謎だった。今回はアフリカツメガエルを使い、結合・非結合の原因となる酵素を突きとめた。
実験では、特定の酵素によってEmi2がリン酸化されると結合が阻害された。逆に、別の酵素でEmi2がリン酸化されなければ正常に結合した。この結果、未受精卵の「一時停止」には、脱リン酸化酵素(リン酸化させない酵素)の働きが重要になることが分かった。
佐方教授は「人間の不妊の原因の一つとして、脱リン酸化酵素に問題があったり、Emi2自体の異常が考えられる。今後も研究を進め、不妊治療に役立てたい」と話している。
研究成果は、米国の科学雑誌「ディベロップメンタル セル」の電子版に25日付で掲載。9月12日には本誌にも掲載されるという。
=2011/08/31付 西日本新聞夕刊=