新浄化装置「サリー」稼動でもこれだけある不安
週刊朝日 8月31日(水)15時39分配信
"退陣3条件"に掲げられた法案のすべてが8月26日までに成立し、ついに菅直人首相は「退場」となった。
悪夢の大震災に見舞われ、さらに史上最悪の原発事故の危機が続くなか、もうすぐ半年になろうというのに政府はロクに機能せず、ただ時間だけが浪費されてきた。この状況にヤキモキ、いや、もはや途方に暮れるしかないといった向きも多いだろうが、首相が代わったからといって、目を見張るような"改善"があるとは到底思えないのが、悲しいところだ。
そう、福島第一原発は、この国のトップがどうなろうと関係なく、日々、厳しい現実に直面しているのである。
現場での新しい変化は、高濃度の放射能汚染水を浄化する新たな装置「サリー」が、8月18日に本格運転を始めたことだろう。東芝製のこの装置の導入により、汚染水浄化の最大処理能力は上がった。が、処理後の放射性セシウムの濃度は、当初想定の10万〜100万分の1程度には至らず、5万分の1程度にとどまっている。さらに、東京電力は23日、この「サリー」の配管で毎時3シーベルトもの高放射線量が計測されたと発表した。原因は、放射性物質の塊が配管に漏れたためとのことだ。
これまで本誌に告白を続けてきた福島第一原発「最高幹部」は、こうした現状をどう見ているのだろうか。
■8月から新しく設置された「サリー」は、確かに万事順調とはいえないまでも、まずまずの稼働状況です。7月に完成した「循環注水冷却システム」は、東芝と日立製作所の装置に、米キュリオン社製と仏アレバ社製の装置を一緒につないだ、いわば"連合軍"ですが、そのコントロールに比べれば、「サリー」の運転は本当にラク。天国と地獄ほど違いますよ。
もっとも、今回のこうしたシステムのアイデアは、実は、当初から出ていました。チェルノブイリ原発事故(1986年)の際、その事故処理に日本の技術が活躍したことは以前(7月29日号)にもお話ししましたが、とりわけ国土交通省はこうしたノウハウをたくさん持っています。いまのセシウム吸着装置で汚染水を浄化し、その後、「逆浸透膜」で淡水化するというシステムも、早い段階から官邸サイドにも提案されていた。しかし、国交省と経済産業省との縄張り争いもあってか、先に"連合軍"方式が進められたのです。
最初から「オール国産」でやっておけば、もっと早く事故の収束に近づいていたことは明らかです。聞いた話ですが、菅総理が経産省の話ばかりに気がいってしまい、国交省の話はほとんど頭に入っていなかったそうです。総理の決断があれば、もっと早くできた。現場としても、当初から日本製の装置だけで十分やれると考えていましたからね。その意味で、「サリー」も稼働したいま、原発自体がかなり落ち着いた状況にあるのは事実です。
先日、ようやく1号機と2号機の「休憩所」を稼働させました。文字どおり、作業員たちが休憩する場所です。そこには冷房があり、水などの飲料水も常備している。つまり、それほど安定した状況にあるということです。しかし、3号機、4号機については、まだそこまでの状況ではない。不安定さが残っています■
現場で問題は山積している。いうまでもなく、最も危機的なのは、いまだに敷地内で"致死量"の高濃度放射線量が測定されていることだ。
東京電力が、1、2号機の原子炉建屋付近で「毎時10シーベルト」以上の放射線が測定されたと発表したのが8月1日のこと。しかも、前回(8月19日号)の記事で指摘したように、「そんな場所はいくらでもある」というのだ。それだけに、日々の作業には細心の注意が払われているのだが、新たな問題も持ち上がっているという。
■いま直面している重大な問題は、汚染水処理の過程で大量に発生する高濃度の放射性物質です。これまでメディアで報じられてきたように、これのために装置のフィルターがおかしくなってしまい、何度もトラブルに見舞われました。キュリオン社のセシウム吸着装置では、「吸着塔」の表面線量が、内部部品の交換基準とされる毎時4ミリシーベルトを超えたためシステムを停止したこともあります。
これが単純に汚染水だけならば、こんなことにはなりません。しかし、津波の影響もあって、水に汚泥やゴミが含まれていますからね。当然、小さな瓦礫(がれき)などもあるだろうし。
いずれにしても、表面でこれだけ高い数値が出ていれば、部品交換も遠隔操作でやるしかありません。周囲を鉛や鉄で遮断し、天井からのクレーンを遠隔操作する。そこまでしなければいけないほど、高濃度なんです。この作業は、とにかく時間がかかる。ちょっとした復旧に半日近くかかることもあります。
さらに、部品の交換はいいけれど、今度はそれをどう処分するのかという問題が出てくる。現状では、専用容器に入れて保存していますが、ずっとそのままというわけにはいきません。実際、復旧作業拠点の免震棟近くにゴミ集荷場があるんですが、いまや作業員たちが使った防護服などのゴミで満杯です。放射性物質を含んでいるものばかりで、簡単に動かすことができず、どうすればいいのか。
作業員たちの前線基地となっている「Jヴィレッジ」でも、サッカーグラウンドだった場所に、作業員の防護服や手袋などが袋に入れられて一面に広がっている状況です。とにかく持っていく場所がない。置き場所を確保するため、Jヴィレッジの駐車場スペースのレイアウトを変えたほどです。そのうち埋め尽くされてしまうんじゃないか──と本気で悩んでいます■
現場では、着実に歩を進めながらも、一つ解決すれば、また一つ問題が出てくるという"いたちごっこ"が続いているのが現状だ。そして、現地をいや応なしに襲う巨大余震。現場で起きる"事件"の一つひとつが、作業員たちの「命」を削っていく──。
端から見れば、もっと悪い事態が起きているのではないか、という疑念が頭をもたげるが、それでも「最高幹部」は、冷静にこう説明するのだった。
■先日(19日)、福島県沖を震源とする震度5弱の地震がありました。3・11の大震災と同じ時間帯(午後2時36分ごろ)だったので、現場はエラい騒ぎ。原子炉建屋の近くで仕事をしていた作業員たちが悲鳴を上げるほどでした。
4号機周辺ではコンクリート片が上から落ちてきて、作業員たちは、
「生きた心地がしなかった」
「被曝覚悟で(防護服の中の)携帯電話を探した。最後に家族の声を聞こうと思って……」
などと言っていました。
爆発で崩れた4号機建屋の補強工事は進んでいますが、耐震性にはまだまだ問題があります。なにしろ、地震・津波・爆発・余震と、四つの被害にあっていますから。本社の発表は表向き、耐震性に問題がないということになっています。しかし、現場で見て感じていると、正直、疑問です。近くにいた作業員は「倒壊しないか」と真剣に感じたそうです。いま原子炉の状況が落ち着いているといっても、余震でいつどうなるかわかりませんよ。
あと、あまり大きく報じられませんでしたが、実は先だって(4日)も、間違って地下の電線を傷つけてしまい、原発内が停電する"事件"があった。汚染水の地下漏洩を防ぐ遮水壁の設置に向けた掘削調査だったのですが、地下の配線・配管の位置を示す図面に従って掘ったところ、図面が不正確だった。なんせ稼働40年の原発ですから、けっこう誤差があるのです。
これで免震棟も停電しました。免震棟では空気を濾過(ろか)して循環させ、きれいな状態を保っていますが、停電になると清浄装置が使えなくなり、たちまち全員が防毒マスクですよ。先の「休憩所」内の温度も35度を超え、作業員はみんなフラフラ。そんなときに事故が起き、被曝することが怖いんです。作業員たちが被曝すれば作業はストップし、世論から厳しく批判されるでしょう。
最近、インターネットでこんな情報が話題になっているそうです。
〈8月上旬、福島第一原発の作業員から「敷地内にある地割れから水蒸気が噴出して、まわりが真っ白になり、作業員が一時、退避した。地下で反応しているようだ」という趣旨のメールが地元関係者に届いた〉
つまり、原発敷地内の地割れから蒸気が噴出し、そのなかに放射性物質が含まれているのではないか、ということ。敷地内にそんな場所はないし、ましてや「放射性物質が噴出」していることなんてない。確かに敷地内では、放射性物質を仮置きしたり、汚染水タンクを設置するために地中を何メートルも掘っている場所があります。しかし、蒸気が出ているなんて聞いたことがありません。
先日も東電の同僚から電話があって、「ネットで、また爆発したと出ているけど本当か?」と言っていた。本当にデマが多いので、気にしないようにしています。
最後に、菅総理がやっと辞めますが、仲間とは祝杯で盛り上がりました。震災翌日の3月12日早朝に菅総理がフクイチに来て、いきなり怒鳴りつけていったことは誰も忘れてはいません。退陣記者会見で「やるべきことはやった」と言っていましたが、フクイチに関してはやっていない。次の総理には、原発事故収束のために何をすべきなのか、現場の声も聞く、指導力のある人物を希望します■
本誌取材班
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最終更新:8月31日(水)15時39分
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