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震災の世紀に:その日への備え/下 貞観地震前後と酷似

 ◇高まる連発リスク

 「地震保険制度の最大の問題は、大地震が連続的に発生した場合に極めて脆弱(ぜいじゃく)ということ。1回なら損保会社の経営に大きな影響はないが、2回目、3回目となると、経営の根幹に関わる問題にならざるを得ない」

 東日本大震災発生直前の3月8日、東京・霞が関の財務省。地震保険のあり方を検討する作業部会で、専門家は巨大地震が連続発生した場合のリスクを指摘した。

 実際、東日本大震災後に支払われた保険金は既に1兆円を超えたが、震災発生時点で国や損保会社が積み立てていた支払いの準備金は約2兆3000億円。短期間に巨大地震が連続して起きた場合、準備金が不足し、損保会社の重荷となる恐れが浮かんだ。

 こうした巨大地震の連続発生を懸念する声が今、地震の専門家から上がっている。

 「地震は“かため打ち”することがある。東日本大震災に誘発された震災が続く可能性が十分に考えられる」。島崎邦彦・東京大名誉教授(地震学)は終戦前後に東南海地震(1944年)や南海地震(46年)など犠牲者が1000人を超す大地震が五つ続いたことを例に「連発震災」を案じる。

 産業技術総合研究所の寒川(さんがわ)旭・招聘(しょうへい)研究員(地震考古学)は「現代の地震活動は9世紀と非常に似ている」と指摘する。古文書などから推定した9世紀の11の大地震の発生地域を地図に落とすと、驚くほど近年(64年の新潟地震以降)の状況と一致した。

 9世紀は、東日本大震災との類似性が指摘される貞観地震(869年)の後、首都直下地震に相当する関東諸国の地震(878年)、静岡沖から高知沖に延びる「南海トラフ」で起きる東海、東南海、南海地震の3連動型とみられる仁和地震(887年)が続いた「震災の世紀」だった。9世紀にあって近年起きていないのは、首都圏と南海トラフだ。

 寒川さんは「(東日本大震災が起きた)日本海溝と、南海トラフの地震は直接連動しない。しかし、過去の地震をみると、南海トラフと関東南部は影響を及ぼしあうように思える。関東から九州で震災が続く懸念は絵空事ではない」と話す。

 東日本大震災の直接的な経済被害は約17兆円とされる。国は首都直下地震の経済被害を直接・間接合わせて112兆円、東海、東南海、南海の3連動地震で81兆円と想定しており、全て合計すると、被害は国の一般会計予算2年分以上に相当する額に膨れ上がる。

 日本経済への影響について、佐藤主光(もとひろ)・一橋大教授(財政学)は「インフラ復旧が速やかに行われ、復興需要で経済回復が進めば、おそらく壊滅的な打撃にはならない。だが、早期の復興を実現するための資金調達と、それを支える国の財政の健全さが前提だ。これまで景気対策や経済成長戦略で地震のリスクは語られなかったが、今後は必要となるだろう」と指摘した。

 東日本大震災の復興途上にあるこの国は、「震災の世紀」への対応も迫られている。(この連載は飯田和樹、八田浩輔、比嘉洋が担当しました)

毎日新聞 2011年8月31日 東京朝刊

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