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2011年8月31日(水)付

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野田新体制―真の「挙党」をめざせ

野田佳彦新首相は、党幹事長に輿石東参院議員会長を、政調会長に前原誠司前外相を起用する人事を決めた。とりわけ意を用いたのは、輿石氏の起用に違いない。小沢一郎元代表に近い輿[記事全文]

あす防災の日―3・11大都市の教訓は

3月11日の巨大地震は、首都圏でも広い範囲を襲った。東京23区ほぼ全域で震度5強と5弱を記録。津波と液状化が加わり、1都3県で1万棟近い建物が全半壊。200万軒以上が停[記事全文]

野田新体制―真の「挙党」をめざせ

 野田佳彦新首相は、党幹事長に輿石東参院議員会長を、政調会長に前原誠司前外相を起用する人事を決めた。

 とりわけ意を用いたのは、輿石氏の起用に違いない。小沢一郎元代表に近い輿石氏を党の要に据えることで、党内融和に踏み出した。

 この人事の評価基準は二つある。ひとつは、輿石氏が公言してきた、小沢氏の党員資格停止処分の解除問題だ。私たちは、いま解除する根拠はないと考えるが、どうするのか。

 二つめは政策面の対立解消につなげられるか、どうかだ。

 マニフェスト見直しの3党合意を守り、消費増税にも取り組む野田氏と、マニフェスト固守を唱え、増税を嫌う小沢氏とは距離がある。野田氏の政策遂行を支え、小沢氏らに同調を促すのが輿石氏の役割のはずだ。

 幹事長職が焦点になるのは、党の資金と選挙の公認権を握るからだ。それを小沢氏側がとるかどうかが「挙党態勢」の試金石のように言われる対応を、いつまで続けるのか。民主党は、その原因が時代遅れの党の体制にあることに気づくべきだ。

 党内対立の原因をたどれば、小沢代表時代までさかのぼる。小沢氏は、20億円を超す党資金をみずからに近い党役員に「組織対策費」として渡していた。使途が明らかにされないため、配分が不公平だといった不満や疑念が党内に噴き出した。

 こんな資金配分ができるのならば、幹事長職の奪い合いになるのは当然だろう。

 だから「挙党態勢」に必要なのは、第一に資金面を含めた公正な党運営だ。要するに時のリーダーに左右される「人治」の政党を、規則に基づく「法治」の党に近代化することだ。

 岡田克也幹事長は、300万円以上の組織対策費を個人に出す場合、外部監査の対象にすると決めた。このルールを明文化し、輿石氏も継承すべきだ。

 第二には、すべての所属議員が何らかの形で政策形成にかかわれるような仕組みにすることだ。民主党は内閣に政策決定を一元化してきたが、政府外の議員は採決要員のように扱われているとの不満を募らせた。

 衆参ねじれの現場では、政府の法案がそのまま成立するとは限らない。もっと与党議員が副大臣や政務官と連携し、野党との修正協議に臨んだ方が合意も得やすいだろう。

 政調会長になる前原氏は、そんな改善策を実現すべきだ。

 私たちは、グループごとのポスト配分争いより、もっと高い次元の「挙党」を望む。

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あす防災の日―3・11大都市の教訓は

 3月11日の巨大地震は、首都圏でも広い範囲を襲った。

 東京23区ほぼ全域で震度5強と5弱を記録。津波と液状化が加わり、1都3県で1万棟近い建物が全半壊。200万軒以上が停電、鉄道は長時間まひし、道路は大渋滞した。

 郊外に向かう道は、歩き続ける人であふれた。三菱総合研究所の推計では、遠距離を歩いて帰宅した人600万人、あきらめて会社や店や知人宅で過ごした人260万人。日本の大都会が初めて経験したことだ。

 直下型地震も、いつどこで起きるかわからない。耐震化や防火策に加え、帰宅困難者の対策は大きな課題とされてきた。

 備えは、できていたか。

 東京都は、あらかじめ都立の高校などを災害時の帰宅支援拠点に指定していた。震災当日はほかに、本来は地域の避難所である小中学校や区役所などが、次々開放された。公共施設で夜を明かしたのは10万人近く。都の想定を大きく超えた。

 いくつかのターミナル駅ではご近所の自治会や商店街が組織をつくり、帰宅困難者の誘導や受け入れをする計画があった。だが現実は訓練とは違う。みな目の前のことに追われ、担当者間で連絡がつかなかった。

 地震後、子どもたちを一斉下校させた小中学校が、少なくなかった。ところが保護者から苦情が相次ぐ。親が帰宅困難になって家にだれもいない事態を、考えていなかったのだ。

 いくつもの穴があった。

 全体として混乱が少なかったのは、東京が「あの程度の揺れで済んだ」からだ。

 首都直下地震では震度6強も予想される。数十万棟が壊れ、火の手が同時多発的に上がる。行政は救助や消火にかかりきりだ。都心でけがを免れた人が一斉に帰宅を始めたら、今回と比べものにならない事態に陥る。道路をふさぐ車に火が飛べば大惨事になりかねない。

 当座の安全を確保できた後は「むやみに帰宅を始めない」のが原則だと、改めて肝に銘じたい。状況に応じ、翌日以降に帰宅するのが望ましい。

 企業で学校で家庭で、心構えや計画の再点検を急ぐ。安否の連絡手段、食料の備え。たまたま外出中だった人が一時身を寄せる施設を、行政は事前にもっと考えておく。民間の協力を得るには、協定や条例といった枠組みを検討してもいい。

 人々が過度に集中する大都市のもろさを、震災はさらけ出した。弱みはほかにもいくつもある。起きたことに学ぶと同時に想像力をめぐらせたい。

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