きょうの社説 2011年8月31日

◎野田新首相 「財務相」の発想抜け出して
 野田佳彦新首相が真っ先に取り組まねばならないのは、菅政権で遅れが目立った東日本 大震災からの復旧、復興である。本格復興へ向けた2011年度第3次補正予算の編成はその大きな一歩となる。新首相にまず望みたいのは、これまでの「財務相」の発想から抜け出し、国のリーダーにふさわしい大局的な観点に立ち、被災地復興や経済運営のかじ取りを担うことである。

 野田新首相は、30日の閣議後会見で、復興増税について「(財源の調達方法などを定 めた)復興の基本方針と復興基本法を踏まえて対応するのが原則」と述べ、増税などの協議を急ぐ考えを示した。だが、新首相は代表選では、税収を増やすための成長戦略やデフレ脱却策については踏み込んで語っていない。成長戦略の具体案も示さないままでは、増税に前のめりの姿勢しか見えてこない。

 代表選では、野田氏以外の候補はそろって復興増税に否定的な見解を示し、党としての 方向性がまったく定まっていない印象を与えた。復興財源については、馬淵澄夫氏ら3人は、建設国債の60年償還ルールのなかで複数世代が負担すべきと主張している。

 復興財源の問題は新首相が党内をまとめる試金石となる。拙速に増税に踏み切れば、同 じく財務相から首相に就き、消費税10%を唐突に主張して出足でつまずいた菅直人首相の二の舞になるのは避けられないだろう。

 超円高や米欧の経済減速などで景気の先行きに不透明感が漂うなか、復興需要が拡大す る来年にかけては、日本経済を軌道に乗せる極めて重要な時期であり、デフレ脱却の好機となる。そんなときに増税すればタイミングとして最悪と言わざるを得ない。

 野田新首相は代表選で従来の増税路線を修正し、景気回復と行政改革の手順を踏む必要 性も強調した。国会議員の削減、公務員の人件費削減にも意欲を示したが、これらは手つかずのままである。

 行政刷新担当相を専任閣僚にするのは新政権の方向性として理解できる。であれば、歳 出構造の徹底的な見直しを一からやり始めてはどうか。それが民主党政権誕生の原点に返ることでもある。

◎幹事長に輿石氏 党内融和の象徴になるか
 輿石東参院議員会長の幹事長就任は、ちょっとしたサプライズ(驚き)だった。輿石氏 は小沢一郎元代表に近く、小沢氏側が推した海江田万里経済産業相が代表選に勝利した場合、幹事長の最有力候補と見られていた。その輿石氏をよりによって野田佳彦新首相が起用したのだから、思い切った人事といえる。新首相は「ノーサイド」の呼び掛けを口先だけにとどめず、挙党一致を内外に示そうとしたのだろう。

 いつまでも「脱小沢」か「親小沢」かで反目していては、国民に愛想を尽かされ、次期 衆院選で大敗しかねない。震災復興や景気対策に一致団結して臨むために、野田新首相はあえて敵に塩を送る心境で輿石氏に白羽の矢を立てたのか。それとも輿石氏はあくまで党内融和の象徴に過ぎず、小沢氏との距離は遠いままなのか。新首相の胸の内は判然としないが、輿石氏の起用は、野田政権にとって諸刃の剣になる可能性もある。

 野田新首相は、党代表就任あいさつで、「怨念(おんねん)を超えた政治」を訴えた。 挙党態勢の構築を目指すなか、党役員・閣僚人事で小沢氏に近い議員を重要ポストで処遇するかが焦点だった。輿石氏を三顧の礼で、人事とカネを握る幹事長ポストに迎えるのは、新首相が党内融和にかける本気度を示す意味合いが込められている。

 輿石氏は参院の仕切り役で、小沢氏の信頼が厚い。小沢氏、鳩山由紀夫前首相とともに 「新トロイカ」の一人と呼ぶ声もある。それだけに、輿石氏を通じて小沢氏の意向が政権中枢に及び、政策決定に関与してくるのは間違いない。幹事長は小沢氏が得意としたポストであり、力の源泉だった。小沢氏が間接的とはいえ、「豪腕」を発揮する舞台を得たことで、再び「小沢支配」が強まる懸念もある。

 根深い対立を抱え込んだ状態では、党一丸となった政権運営は難しい。さりとて党内融 和を大切にすれば、野党との協力関係が危うくなる。小沢色が強まれば強まるほど、政権運営は綱渡りを強いられる。その微妙なバランスをしのぎ切る足腰の強さ、読みの鋭さが野田新首相にあるだろうか。