きょうのコラム「時鐘」 2011年8月31日

 山口県へ旅行した際に湯飲み茶碗を買ってきた。伊藤博文に始まり菅直人首相まで歴代首相61人の似顔絵がずらりと描かれている観光みやげだ

お世辞にも美的と言えない代物だが、見ていると面白い。安倍晋三元首相まで8人の首相を出した長州、山口らしい一品で、日本政治史を学べる。例えば「薩長」と呼ばれた鹿児島が石川と同じ3人の首相しか出していない。東北の岩手からは4人もいる

まだ一人の首相も出していないのは富山など20道県あり、千葉は62人目の野田佳彦新首相の誕生で空白県から抜けた。グローバル社会に首相の出身地などさしたる意味はないのかもしれないが「おらが総理」への関心は意外に高い

どの首相の顔にも権力争奪の暗闘がにじんでいるので「一寸先は闇の茶碗」と名付けてみた。最近は毎年のように新顔を追加しないと売り物にならないから政治に翻弄される「無常の茶碗」といってもいい。風流の極みだ

野田さんの丸い顔を追加する茶碗作りが始まっているに違いない。在庫品が増えないようにと、新首相の長寿と政治の安定を願う、みやげ物店の声が聞こえる。