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野田佳彦の勝利の意味 - 票差、演説、政策、被災地
野田佳彦の「ノーサイドにしましょう、もう」の言葉は、決して一般の者が受け取る意味ではない。政治の言葉らしいダブル・ミーニングスがある。この「ノーサイド」は、「敗北を認めて無条件降伏しろ」という意味だ。敵味方なく互いに尊重して和睦という意味ではない。「もう」の一言にも意味がある。昨年の代表選に続いて二度目だぞというリマインダの含意がある。つまり、小沢派に対して、主流派に対する政策上の対立軸を放棄しろと迫っているのであり、白旗を掲げる時機だと告げているのだ。1年前に菅直人が言った「ノーサイド」と同じであり、「もう」は菅直人に続いて二度目という意味に他ならない。小沢派に対してマニフェストへの執着は断念しろと言い、増税路線を受け入れろと詰めている。政策を転換して全員が転向するか、小沢派を解散するか、党を出て行くか、三つに一つを選択しろというポツダム宣言である。おそらく、年末の税調と閣議で、来年4月からの消費税5%引き上げが決定されるだろう。「税と社会保障の一体改革」の方ではなく、「復興財源」の方の増税案目として、基幹税に消費税が選ばれる展開になると予想される。それを2012年から2115年まで4年間続け、2016年から社会保障財源に名目を切り替える魂胆だ。三党合意の延長で、秋の間に議論を固め、年末の税調で決めてくるに違いない。TPPの方も、野田佳彦の訪米時に日米合意のペーパーに入れると思われる。


マスコミは、今度の代表選の報道について、「小沢vs反小沢」の戦いだと構図化し、悪と正義の政治戦として従来と同様に説明した。確かに「小沢vs反小沢」の戦いではあったが、これはマスコミが言うような政策不在の権力抗争ではない。菅政権が積み残した消費税とTPPをやるかどうかという対立軸があり、関連して大連立の争点があった。特に増税と大連立において、最も右寄りに位置し、他候補に抜きん出て積極的だったのは野田佳彦である。振り返ってみて、税と社会保障の一体改革の問題にせよ、復興財源の議論にせよ、党内で最も左寄りに立ち、頑強に抵抗して一線を死守していたのは小沢派の面々である。野田佳彦を除き、馬淵澄夫も鹿野道彦も、前原誠司ですらも公約で増税に消極的だったのは、この党内論議での激しい抵抗と攻防の経緯があり、それが代表選の情勢の与件となっていたからだ。増税反対が多数だった。懸念されるのは、小沢派の3連続の完敗という事態を受けて、党内および派内の空気が変わり、小沢派が増税反対の姿勢を貫徹できるかどうかという問題だ。繰り返す抗争と小沢派の敗北で、一戦一敗ごとに民主党の政策は右寄りに変わり、「国民の生活が第一」の抵抗力は萎え、マニフェストから離れて自民党とコンパチブルになって行く。2年前の政権交代の選挙は、まさに増税が争点として問われた選挙で、財源を特別会計の中から掘り出すと公約して民主党は民意を得たのだった。

第1回目の投票で、野田佳彦は102票を取り、その時点で誰の目から見ても勝負は決まった。40人しかいない野田Gが102票を稼げた理由は、足し算として四つの要素があって、一つは菅Gの奔走であり、もう一つは旧民社Gであり、三つめに岡田克也の支援があり、最後の一つはマスコミの工作の中間派への影響である。菅Gというのは、今度の代表選報道では存在と数字が出ないが、決して無視できるほど小さな勢力ではない。2006年の代表選の当時は、50名ほどの派閥を率いていた。現在でも20名や30名は一致して動く集団態勢にあるだろう。野田佳彦が票を積み上げたのは、菅直人と菅G が機動軸になって左から強力に側面支援した効果が大きい。江田五月が陣頭に立ち、元左派系のベテラン議員を動かしている。この点は、野田佳彦の102票を分析する上で見落とせない背景だ。もう一つ、マスコミ報道の方だが、なるほどと思わせる情景がテレビに映っていた。8/28夜のフジの番組だったが、田中美絵子がインタビューを受け、「地元の皆さんと相談して決めます」と答えていた場面である。2年前の選挙で当選した1年生議員、いわゆる小沢チルドレンたちは、選挙での地盤が弱く、後援会や支援者の意見に従わざるを得ない。だからこそ、マスコミの凶悪な工作員は海江田万里に公開リンチを仕掛けるのであり、なりふり構わず、新人議員の地元を切り崩しているのだ。「態度を決めていない中間派」とは、そういう面々だったのだろう。

海江田万里の敗因は他にもある。最も大きいのは、この男の演説が期待に反して粗悪で拙劣だったことだ。馬淵澄夫と野田佳彦は、それなりに原稿を準備して聞かせる中身を工夫していた。昨年の小沢一郎と菅直人の対戦や、同じく2006年の小沢一郎と菅直人の激突のときと較べると、馬淵澄夫も野田佳彦も話が幼く、政治家としてのスケールの小ささが印象的な演説だったが、それでも、2人にとっては一世一代の真剣勝負の舞台であり、期すものを表出させた演説だったと言える。それに較べて、海江田万里の演説は悲惨で、聞きながら眠気を催す退屈さであり、本気で代表の座を射止めようとする者のプレゼンテーションではなかった。鹿野道彦と海江田万里の2人の演説は、聞くに耐えない空疎さで、民主党代表選で披露する品質と水準に達しない代物だった。これまで、小沢一郎や菅直人や前原誠司や鳩山由紀夫が華々しく彩ってきた、「民主党代表選の演説」という歴史と伝統に泥を塗るもので、日本の政治の劣化を象徴する一事である。特に、言霊さわめく絶唱を聴衆に響かせ、中間派の心を動かして劣勢を挽回しなければならない海江田万里の失態は、私にはひどく落胆させられるものだった。これほど演説の下手な男だったとは。政治家の胆力はこの一瞬で証明するものなのに、海江田万里の原稿には何のドラマも練り込まれてなかった。要するに、訴えたい言葉がなく、人に聞かせたい物語がないのだ。夢と理想がなく、野心と情熱を内側に滾らせていないのである。

態度未定の中間派が、当日の会場で2人の話を聞き、野田佳彦に流れ込むのは無理もない現象だった。海江田万里が、政治指導者としてかくも不適格な男だったとは、私も初めて思い知らされたが、テレビを見ていた小沢一郎は、候補者の選定の失敗に臍を噛んでいただろう。同じく、鳩山由紀夫も、これなら原口一博を立てた方がよかったと後悔したに違いない。マスコミ報道は、前原誠司の「国民的人気」を捏造して喧伝したのと同じように、野田佳彦の「演説上手」の神話を流し、虚像を作り、人気のないこの男を持ち上げて支持率のタネを撒いている。しかし、私自身の認識は全く逆で、野田佳彦の演説はスケールが小さく、大型の政治家の度量や資質を感じさせる要素は全く欠落していた。むしろ、小物ぶりが露呈され、そこで親しみやさすさが演出されていたように思われる。野田佳彦は、演説の冒頭、自分の政治理念と政治信条の一端を紹介すると言ったが、理念や信条を語る言葉はなく、見えてくるのは、千葉の駅前でハンドマイクを持って票を稼ぐ小物議員の姿だった。野田佳彦は、国民が次のリーダーに求めている国家のビジョンを語らない。野田佳彦が語るのは、目先の増税の話であり、目先の連立の話である。自分がどのような国家を作りたいのか、これまでの政治の何が悪かったのか、自分の理想は何なのかを言わない。そして、「中産階級の重視」の話は、これまでの野田佳彦の政治姿勢からすれば、陳腐で笑止なレトリックである。

そもそも、逆進性の高い消費税増税の政策が、格差を拡大する方向に社会を導くことは、中学生でも常識の範疇だろう。野田佳彦の過去と現在の政治行動から、「中産階級を守る」という思想を引き出すのは困難で、現実は言葉と全く矛盾している。それを真に受けて頷くのは、自己欺瞞でなければ単なる気休めであろう。経歴を見ても、野田佳彦は早大を出てそのまま松下政経塾に入り、ずっと職業政治家を続ける身であり、一度もサラリーマンの人生を経験したことがない。額に汗して給料を稼ぐ必要のない境遇だったことを意味する。また、零細企業を一軒一軒回ってカネを集めたという苦労話とは対照的に、暴力団フロント企業からのパーティ券購入など黒い資金疑惑の噂が多くある。一般に、政治家が派閥を養うためには、途方もないカネが必要だと言われるが、無能と愚鈍が定評の野田佳彦が、どうやって「花斉会」を長い間率いることができたのだろうと、私はいつも疑問に思ってきた。また、野田佳彦の政策思想やカリスマ性の問題に戻るが、もし、この男が本当に能弁で政策能力があるなら、もっと早くから注目されてもよく、この機会にマスコミが無理にそれを強調するのは、私には捏造と宣伝工作としか思えない。野田佳彦は、自分の国家構想を語らず、菅政権の積み残しを片づけることを政策主張の第一に掲げた。野田佳彦のパースペクティブはこの程度であり、代表生命もその終点で終わりだと予感させられる。本人も、自分で選挙をやる意思がない。官僚の計画に沿って増税とTPPをやるだけだ。

テレビのニュースを見ていると、避難所で暮らす被災地の人々が、この代表選に醒めて厳しい目で見ていて、被災地を放り出して政争を繰り広げていることに半ば苛立っていた。マスコミは、それを小沢一郎の責任にして国民に教示する報道にしているが、どうやら被災地の人々の表情はそうした感覚とは少し違う。小沢vs反小沢の抗争に嫌気がさしているというのは、都会に住み、マスコミに頭を漬け混まれた低俗な一般人の反応であって、被災地の人々はそうじゃない。彼らは、われわれよりもっと注意して政治を見て知っているのだ。野田佳彦はこの間の財務大臣だった。海江田万里は経産大臣だった。普通に暮らしていた人々が、津波で家と家族と財産を奪われ、避難所に暮らす生活者となったとき、その政府の中枢にいたのは野田佳彦である。いわゆる復旧復興がここまで遅れた原因は、政府(財務省)がカネを出そうとしなかったからだ。震災復興にまでペイアズユーゴーの論理を持ち出し、財政出動せず、復興政策の議論を増税論にスリ替え、マニフェスト(4K)の見直しの政治にしたからである。野田佳彦は堂々と言っていた。子ども手当を削減した理由は、復興財源に回したからだと。政策の優先順位をつけたのだと。つまり、公務員の人件費削減や特別会計の見直しより、財源論として子ども手当の削減の方が正当化されるのだ。ここに野田佳彦の政策の本質があり、官僚とマスコミの論理がある。そして、民主党の中でも立場的少数である過激な財政至上主義がある。被災地の人々にとって、野田佳彦や海江田万里は自分の生活の現状に直結した人物だ。

自分たちを見捨てて苦しませた張本人たちが、どうして代表選になど出ているのだろうと、そういう苦々しい思いで見ていたはずだ。われわれは、本来、恥じなくてはいけないのだ。被災地の人々を絶望に追いやった責任者の2人に、こうして代表選を戦わせ、次の総理大臣にしようとしていることを。


 
by thessalonike5 | 2011-08-30 23:30 | その他 | Trackback | Comments(0)
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